第十一話 切れない縁




恭也は息切れし、二刀を握りしめながら深く構え、道場の中央で悠然と立つ師の姿をじっと眺めていた。
新学年となり、そして高町家に帰ってきてから初めての土曜日という休日。それは久しぶりの戦闘訓練に当てられた。
二時間ほど戦い続け、すでに恭也は『五回』殺されている。

他流派との試合をこの一年何度もこなし、恭也は間違いなく強くなった。恭吾以外の人物と戦うことで、己の弱点を知り、観察力を磨いた。試合だけでなく、色々な事件に巻き込まれたり、首を突っ込んだりしたため、それこそ本当の戦いを幾度も経験した。
それらが恭也を一回り以上成長させたのは間違いない。
だが、やはり恭吾には敵わない。彼の本気すら恭也には未だわからなかった。
やはり差は歴然としているか、と恭也は悔しいと思うが、今は戦いに集中しなければならないと気を引き締めた。
そんな恭也を眺めながら、恭吾は構えていた小太刀一刀を鞘に戻す。

「恭也」

そして戦闘が始まってから初めて口を開いた。
恭也はそれに声は出さず、視線だけで何だと聞き返す。

「集中して見ていろ」

恭吾は無表情に言い放ち、右手を先ほど鞘に戻した小太刀の柄に添えて構え、右足を一歩前に出しながら腰を落とす。そのまま上半身が床と平行になるように屈めた。
その構えは、恭也の父であり師であった士郎が何度か見せたことがあるものだった。だが決して恭也に向かって放つことはなかった技。

「見ているだけでなく防ぐなり、躱すなり……抵抗しても構わん」

前に薙旋を使ったときは死にたくなければ抵抗するなと言ったが、今回は違った。
つまりそれほど危険がないということなのかと恭也は思ったが、恭吾は口の端を僅かにつり上げる。
それは絶対の自信を張り付けた笑み。

「できるのならな」

その瞬間、音もなく恭吾が一瞬で加速した。
恭吾は腰を落としたまま、低い体勢でありながら、空気を切り裂くようにして突き進む。身体が霞んで見えるような超高速。
恭吾は神速も使わず、刹那で一足刀以上あった間合いを無にした。

(速い! ……でも!)

だが、それでも恭也には見えていた。恭吾と初めて会ったころの恭也であるならば、それこそ見えもしない速度であっただろうが、成長した彼は確かに恭吾の姿を捉えている。
だが、見えるとはいえこの速度。躱すのは不可能だ。

(だったら……!)

ならば防ぐ。
そのぐらいの成長をしていなければならないのだ。自分は成長しているのだと師である恭吾に恭也は教えたかった。この一年の成長を見せたかった。
だからこそ恭也も防ぐために動き出そうする。
それと同時に、恭吾は屈めていた上半身をさらに折り曲げる。同時に先ほどまで切り裂いていた空気を今度は巻き込むようにして、彼の腰がさらに捻り込まれた。

(なっ!?)

それを見て、恭也は絶句する。
攻撃のタイミングを読もうとしていた恭也の目の前から、そのタイミングを読むために必要な恭吾の腕と抜刀するはずの小太刀が鞘ごと消える。
抜刀術というのは、刀が鞘に収められているため、元より攻撃のタイミングや軌道、間合いを読むのが難しい。だからこそ腕とその柄を観察して防ぐしかない。
しかしこの技は極限にまで腰が捻られたことで、鞘も柄も、そして握る手も屈められた上半身の背中側に隠れ、それらそのものが見えない。
それに加え、疾風が如き速度。
これではいつどこから来るのかというタイミングすら予測できない。
これから恭吾が放つであろう技は超高速、超射程の抜刀術。
恭也は神速を使っていない。そうであるのに恭吾の身体がゆっくりと動いているように感じた。
実際にはそんなことはないのだが、確かに恭吾の動きが多少ブレながらも見えるのだ。
それでもまるでタイミングが掴めない。見えていても、身体が動かない。脳が追いついても、身体が追いつかない。

極限にまで捻り込められた恭吾の腰が、引き込んだ空気を弾き飛ばすようにして一気に解放される。
右足がさらに一歩踏み込まれる。
次の刹那、恭吾の右肩が動いた。
きっとさらなる次の刹那で抜刀される。

それはわかった。
だが……速すぎた。

恭吾は『おそらく』抜刀した。だが、刀身が見えない。
恭吾の速度に感覚だけは追いついた恭也であったが、剣速には感覚も追いつけない。
小太刀を振るっているであろう腕すら見えない。
左に差した小太刀を抜刀する以上、斬撃は必ず右から来る。しかしわからない。

上、下、横、それとも右斜め上、右斜め下、どこからくる!?

わからない。
だが、恭也は首筋がチリチリと何か軽く火傷したかのように疼くのを感じた。
それは恐怖から来るものだと恭也は考えたが、違う。
それは本能の警告だ。
気付いた瞬間、恭也は両手を上げた。両手に持っていた小太刀を眼前にまで上げる。本能に従い、そこを守るため、小太刀を握る手に力を込めた。
そして……

次の瞬間に、

「終わりだ」

恭吾の声と同時に、何かが床に落ちる音が響いた。
恭也の首の横……首の『左』には、恭吾の小太刀が添えられている。それを呆然と恭也は眺め、すぐに下……音が聞こえた床へと視線を向けた。
そこには半ばから断ち切られた小太刀の刀身が二つ転がっている。
次いで視線を再び上げ、恭也は自分が右手に持っていた小太刀……防ぐために振り上げたそれに目を向けると、やはり半ばから刀身がなくなっていた。左の小太刀もまた同じ。
そこで初めて恭也は自分の小太刀が二刀とも断ち切られたことに気付いた。

「あ……」

そして、その自分の小太刀を断ち切った恭吾の小太刀が、自らの首に添えられていることにも今更気付く。
それは完全な敗北という形だった。
武器を壊され、首を飛ばされたという完全無欠な敗北。
恭吾の攻撃がまるで見えず、本能だけで防ごうとした小太刀は斬られた。
その完全な敗北に、恭也は悔しさを覚える前に、恭吾への畏怖が浮かぶ。それと同時に自分の兄は、師は、こんなにも凄い人なのだという歓喜が浮かんだ。
そんな恭也の心情には気付かず、恭吾は恭也の首に添えていた小太刀をそこから離し、距離をとった。

「知っているだろうが、これが奥義之一、虎切だ」

恭吾は再び小太刀を鞘へと戻し、淡々とした声を恭也に向けた。
恭也も虎切は知っていたし、士郎が得意としていたため、使っていたところを何度か見たことがある。しかし、他の奥義同様にそれを直接受けたのは初めてのことだった。
まるで剣閃を追えなかった。

「高速、超射程の抜刀術だ」
「とんでもない切れ味だったが」

高速、超射程というのも脅威だったが、恭也にはその切れ味の方が脅威に思えた。恭也の練習用の小太刀を二本とも断ち切ってしまったのだから、当然の言葉だった。
そんな言葉に恭吾は肩をすくめる。

「斬を使っているからな。お前はまだできないかもしれないが、斬は練度次第では斬鉄も可能だ」
「奥義の特性ではない……?」
「違う。まあ、まったく関係ないとは言わないがな。それでも斬の練度が低ければ同じ事はできない」

それを聞き、恭也は軽く息を吐き出した。元より恭吾は基礎の中でも斬を最も得意としているのは恭也も知っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。

「どうして左に?」

恭吾が右手で左腰に差した小太刀を抜刀した以上、形としては恭也の首の右側に向かうのが正しかったはず。軌道を大きくすることで右側に向かわせることは可能だが、その分腕の振りなども大きくなり、読みやすく無駄でしかない。それでは抜刀術の意味がなくなる。
だが確かに恭吾の小太刀は首の左側に添えられていた。

「お前の小太刀を断ち切ったあとに切り返しただけだ。あの技は派生もしやすい。抜刀術でもあるし、二撃目も視野にいれるのは当然のことだ」

つまり恭吾は二撃放っていたわけだ。その二撃目すら恭也は追えなかった。おそらくそこには貫が使われていたのだろう。
それに気付いて、恭也は悔しげに軽く息を吐き出した。
そんな恭也を見ながら、恭吾も同じく力を抜くように息を吐き出す。

「二つ目の奥義だ。ものにしてみせろ」

その言葉に恭也は深く頷いた。

「とりあえず、終わりだ」
「む? できればもう少し虎切の型を教えてほしいのだが」
「もうすぐ昼だ。昼食を作らねばならん」
「あ」

もうそんな時間だったのかと、恭也は軽く舌打ちした。さすがになのはと美由希の昼食を遅らせるわけにはいかない。

「お前は先に汗を流せ」
「了解。片づけは?」

折れた小太刀を見つめて恭也は聞く。

「俺がやっておく」

師にそんなことをさせるのは気が進まないのだが、恭也はそれを言葉にすることなく頷いた。
そして折れた練習刀を恭吾に渡し、その場の片づけを任せて道場を後にした。
庭に出ると恭也は深々と再び息を吐く。
成長を見せると意気込んだものの、結局そんなもの見せることはできなかった。
それを情けなく思うも、目指す先が大きいことに喜びも覚える。

「……まあ、ゆっくりと行こう」

自分に言い聞かせるように恭也は呟き、シャワーを浴びるために家の中へと入っていった。





「まったく……」

恭吾は真二つに断ち切れた小太刀の一つを見つめ、先端を掴んで取り上げると呟いた。
確かにできるのならば防げとも、躱せとも言った。
そして恭也は防ごうとして失敗し、その剣を真二つに切られた。それは即ち武器を失ったということ。剣士としては最早死んだと言ってもいい。もっとも小太刀を失っても御神の剣士はそれだけでは死にはしないが。
何にしろ、恭也は失敗したわけだ。
殺し合いの場であったなら、恭也は剣士としてではなく、本当に死んでいた。それだけのこと。
だが、今回は殺し合いではなかったのだ。

「かわいげのない」

そんな言葉とは裏腹に、恭吾のその声には歓喜が込められている。そして、同時にその中には、ほんの僅かな畏怖も込められていた。

確かに恭也は虎切を防げなかった。
しかし、

「反応したか」

剣閃を追えていたのかはわからない。だが、確かに恭也は反応した。反応できなければ防ぐなどという動作を行えるわけがない。それが本能的であったにしろ、予測であったにしろ、剣閃を追っていたにしろ、恭也は確かに反応した。
未来の美由希ですら、初めてあの奥義を受けたときは剣閃を追えずに、反応どころか何をされたのかさえわからず、棒立ちになっていることしかできなかった技を恭也は確かに防ごうとしたのだ。
だからこそ恭吾は一撃目で終わらせるはずの攻撃をわざわざ武器破壊に変え、貫を使いつつ切り返して二撃目を放った。

「……たった二年少々でここまで成長するか。本当に末恐ろしいな」

あれが本当に自らの過去であったとしても、恭吾はあの『自分自身』に畏怖を覚えてしまう。
恭吾があの歳であった時に、同じことができたかと問われれば、即座に首を振る。
そもそも恭吾が今の恭也の歳であったころは、無謀な鍛錬を独りで繰り返し、膝を初めて壊した頃であったし、貫すら満足に扱えていなかった。
もちろんそれは師が……というよりも貫を体得するのに必要な戦う相手がいなかったからに他ならないし、そのぶん斬や徹の練度で言えば、当時の恭吾の方が上だった。
しかしどちらが強いかと言えば、間違いなく今の恭也だろう。
もし士郎が生きていて、その教えを受けていたとしても、あの恭也と同じことができただろうか?

「無理だな」

恭吾は浮かび上がった自問にやはり声に出して即答した。
その答えには根拠も何もない。
士郎が生きていたらなんていうのはあくまで『もし』の話。もちろん今恭吾が生きるこの世界とて、大きな意味では『もし』の世界だ。しかし、士郎が生きていたらなどという未来は簡単には想像できない。
だがそれでも、恭吾は無理だと断言する。
それは己を過小評価しているわけではない。恭吾と恭也は己を過小評価する傾向にあるが、戦闘に関してだけは、その範疇には入らない。己のことも客観的に評価する。
よく恭吾は自分はまだまだと言うが、それはあくまで恭吾の理想としてまだまだということでしかない。言ってしまえば口癖に近く、どれだけ強くなったとしても、おそらく恭吾は同じことを言い続けるだろう。
だが単純に他の誰かと比較するならば、きっちりと優劣をつける。それを言葉に出すか、出さないかということでしかない。出したとしても正確に伝えないこともある。そのため戦闘に関することも、過小評価しているように感じ取れるのだ。
しかし戦闘をするためには、相手の能力と自分の能力を比較するのは当然のことだ。そのためそう言った彼我戦力の比較は恭吾の得意とすることでもあり、今までそう間違がってもこなかった。
そんな比較ができるからこそ、根拠はなくとも自分にはできないというのは正しいと恭吾は思っている。
むしろあの恭也が異常なのだ。その異常は自分自身が師となったが故なのかは、恭吾にもわからない。だが、あの恭也は間違いなくさらに強くなる。

「くっ、はは……」

恭吾は、本当に久しぶりに声を出して笑った。
あのかつての自分がどこまで行くのか予想がつかない。まだまだ負けてやるつもりはないが、そう遠くないうちに自分を越えていくだろう。
それに……自らの可能性である自分自身にわずかな嫉妬も覚えるが、それ以上に恭吾は嬉しかった。
完成した御神の剣士になった『高町恭也』を弟が見せてくれる。絶対に叶わないはずだった夢が見られるかもしれない。そして、そんな完成した自分自身と戦えるかもしれないのだ。それを嬉しく感じられないはずがない。

「くく、これは、もっと俺も強くなければならないか」

まだ負けてやるわけにはいかない。
それは師として、剣士としてのプライドではなく、恭也を少しでも強くするために。恭吾はまだまだ越えられない壁であり続けなければならないのだ。
相手が美由希ではなく、自分自身であるからこそ、決して負けてはいけない。
そのためには恭吾自身がさらに強くならなくてはならなかった。
恭也を完成した御神の剣士にするために。
何より……遠いいつか、その完成した己と対等に戦うために。



◇◇◇



恭吾は昼食に使った食器を洗い、後かたづけを終わらすと濡れた手を拭い、エプロンを外して居間に向かう。
そこでは美由希が何やら本を読んでおり、恭也がなのはをあやしていた。
休みの日は昼食の準備、さらにその後かたづけは大半が恭吾の仕事だ。恭也も手伝うとは言うのだが、師としてはそれよりも休む時間の方を取らせたいため、たまにしか手伝わせない。美由希の場合は、食事を作っているときはキッチンにさえ入れない。
まあ、美由希は今のうちから矯正しておいた方がいいのかもしれないが、それもそのあとに倒れてもいいぐらいの時間がなければできそうにない。少なくとも今日は無理だ。

「恭也、美由希、なのはを頼むぞ」
「はへ? 恭兄さん、どこか行くの?」
「店を手伝ってくる」
「俺も行こうか?」
「なのはを頼むと言っただろう」

それに恭也は頷くと、少し考えてから窓から見える庭を眺めた。

「盆栽もやっておかないとな」

一年間ほったらかしにしたため、確かに恭吾としてももっと手入れがしたい。

「俺のには触るなよ」
「わかってる。この機に兄さんよりも凄いものにしてやる」

そんな恭也の言葉に恭吾は口元に自信の笑みを浮かべた。

「十年早い」

盆栽のキャリアに関しても、それこそ十年以上違うのだ。そう簡単に負けてなどやるつもりはない。
それに仏頂面を浮かべる恭也を無視し、彼の腕の中にいたなのはの頭を撫でて、行ってくると告げてから居間を出た。




恭吾は桃子に注文された品を告げ、少しだけ客の引けた翠屋の店内を眺める。
今日は休日ということもあり、客の年齢層はまちまちだ。それこそ小学生ぐらいの少女から、社会人だろうという女性まで差がある。まあ、店が店だけに女性の方が多いのはいつものことだ。
おそらく休日にも活動している思われる部活帰りの学生たちの姿もあり、その中には風芽丘のバリエーション豊かな制服を着た少女たちも多く見えた。
そんな少女たちを見て、たまに恭吾は視線を動かしてしまっていた。
もしかしたらその中に瞳や薫がいないか、と考えてしまったのだ。その場合、すぐにでも裏方に回らせてもらおうと思いながら。

「きょ〜ご〜」

しかし、そんな恭吾に桃子が目をつけた。
その猫撫で声を聞いて、恭吾はため息を吐いた。
そんな恭吾に気付いているのかいないのか、桃子は満面の笑顔で話しかける。

「さっきから風校の子たちを見てるみたいだけど……もしかして気になる子でもいた? もしくは気になる子を探してるのかしら?」
「バカを言っている暇があったら、注文されたものをとっとと作ってください、店長」

恭吾はわざと皮肉げに言うが、桃子は気にもしない。

「もうできてるし、持っていった後よ」
「ならさぼってないで次のにいってくれ」
「一段落ついてるもの」

桃子は補充が必要なものは、もうすでに作り終えていた。というよりも、先ほどの答えを聞きたくて、いつも以上に仕事を早く終えたのだ。
そんなウキウキとした表情で見つめてくる翠屋店長にして母親である女性を見つめ、恭吾はもう一度息を吐く。

「別に誰かを探していたわけではない。ただ部活帰りという感じの人が多いと思っただけだ。やはり年度始めの交流のためか、と思ってな」
「去年はここまでじゃなかったけどね」
「そうなのか?」
「……あなたも恭也も、少しは自覚しなさい」
「何をだ?」

真顔で問い返す恭吾に、今度は桃子がため息を吐いた。
四月の始め頃から、恭吾と恭也が翠屋の手伝いを再開し、その二人の働く姿を見たさに来る客が再び現れ始めたのだ。
二人が旅に出て、桃子が二人のことを聞かれた回数は両手の指では足りないほどである。
実際に恭吾が視線を向けると、慌てたように彼を見つめていた少女たちが顔を反らす場面が何度も確認できる。
小学生や中学生になったばかりくらいの、お小遣いで何とかここに来ているという幼い少女たちの何人かは、落胆した様子を見せている。彼女らの半分ぐらいはデザートと同時に恭也目当てなのだろう。

「旅に出て余計にひどくなったんじゃないの?」
「だから何がだ?」
「もういいわ」

自らの鈍さを理解しない恭吾に、今度は桃子の方が呆れてため息を吐いた。

「本当に知り合いを探してるわけじゃないの?」
「まだ復学して一週間と経っていないんだ、知り合いと呼べる人物もできてはいない」
「一年間通っても友達一人連れてこなかったじゃない」
「……恭也に技を教えている時間の方が貴重なんだ」
「本当に学生らしくないわね」

そのどこか嘆くような桃子の言葉に、恭吾は肩をすくめてほっといてくれと呟く。
精神年齢的には、もはや四捨五入で三十歳である恭吾としては、学生気分でなどいられない。もっとも、本当に学生の年代であったときも学生らしくはなかったが。
そこで新しい客の来店を告げるカウベルの音が響いた。
それを聞くと、恭吾は桃子に仕事に戻れと告げ、接客のために店の入り口に向かった。

「いらっしゃいませ」

軽く頭を下げて来客の挨拶をし、それを上げる。

「「え?」」

そしてその新しい客と同時に恭吾は驚きの声を上げた。

「不破……恭吾さん?」
「知佳……さん?」

そこにいたのは一年以上前に再会した……いや、出会った仁村知佳であった。
一年も経っているのによく自分の名前を覚えていたな、などと場違いなことを考えながらも、予想外の人物の来店によって恭吾は固まってしまっていた。
そしてそれは知佳も同様だ。驚いたと言うように口に手をつけ、目を大きく開いて恭吾を見つめている。

「え、あ、えと……あ、あのときはありがとうございました!」

混乱していた様子を見せていた知佳が唐突に頭を下げた。
そんな知佳の一連の動作や表情を見て、恭吾は冷静さを取り戻す。

「いえ、別に感謝されるようなことはしてませんし」

返事をして、恭吾はどうしようかと迷う。

「えっと、とりあえず店内で食べていきますか? それともお持ち帰りでしょうか?」

とりあえず店員に戻ることにした。

「えっと、お持ち帰り……だったんですけど、食べていってもいいでしょうか?」
「いえ、それは私に確認をとることでは」
「あ、すみません! 食べていきます!」

慌てたように返事をする知佳を見て、恭吾は思わず苦笑した。
恭吾が知る知佳はどちらか言えば大人っぽく、しっかりとしているという印象だった。もちろん年上であったのだからそれは当然と言えば当然だが。しかし今目の前にいる知佳は、それよりも随分と……こう言っては何だが、子供っぽいという印象だ。
そのギャップが何とも微笑ましかった。
そして、やはり今は自分の方が年上なのだというのを感じ、複雑な気分になってきたがそれを恭吾は押さえ込めた。

「テーブル席とカウンター、どちらにいたしますか?」
「カウンターで」
「では、こちらに」

恭吾は知佳を先導してカウンターに案内した。

「注文、しちゃってもいいですか?」

メニューを見ることなく、知佳は席に座ると同時に言う。

「どうぞ」
「それじゃあスペシュルシュー一つ」
「承りました」

注文を聞き、恭吾はすぐさま後ろを振り返る。そして、嘆息しながら言う。

「聞いていたな、店長」
「注文ありがとうございます♪」

いつのまにか恭吾の後ろにいた桃子に、恭吾はどこか疲れた表情を浮かべたが、彼女は気にした様子もなくにこやかに言った。
おそらく今までのやり取りも聞いていたに違いない。

「恭吾、あなたは休憩よ」
「店長、俺はまだ一時間ほどしか働いていないのだが」

桃子の思考を読み切った恭吾はすぐさま返すのだが、桃子は気にしない。

「休憩よ」
「だから……」
「休憩よ」
「わかった」

こうなったら自分が何を言おうと聞きはしないと悟った恭吾は、疲れたようにまたも大きく息を吐き出した。

「えっと……」

二人を見て、話についていけていなかった知佳は困ったような表情を浮かべていた。
そんな知佳に桃子はにこやかに言う。

「この子と相席してもらえますか?」

カウンターで相席もくそもあるかと恭吾は内心で毒づくが、そんなことを口にしても桃子はやはり気にしないだろう。

「恭吾の知り合いがお店に来てくれるなんて、桃子さんはもう嬉しくて嬉しくて。しかもこんなに可愛い子が」

この人はいったいどこから聞いていたのだろうか。

「そ、その、私は構いませんけど……」

チラチラと恭吾を眺めて言う知佳に、恭吾は心の中で謝罪する。
まだ知り合いとも言えないような間柄だが、こんなことを……それもあんな嬉しそうに言われては断れないはずだ。しかしそう桃子に言ったところで彼女はやはり気にしないだろう。これを機に親しくなれと言うだけだ。

「すみません」

だからこそ、恭吾は色々な意味で知佳に謝罪しておいた。
そして恭吾は翠屋のエプロンを外すために裏へと戻り、再び店内に入る際に、同じく戻っていた桃子に知佳の注文と、自分用コーヒーを受け取った。

「かーさん、強引すぎるぞ」

その際に文句を言うのも忘れない。
恭吾に睨まれても桃子は気にした様子は見せずに言い返す。

「何言ってるのよ。女の子と仲良くなるには強引さも必要なの」
「かーさんが強引にしてどうする。だいたい彼女とは知り合いと呼べるほどでもない」
「だったらこれを機に仲良くなりなさい」

やはり想像通りの答えが返ってきた。
それにできるだけやってみると気の乗らない返事をして、僅かに肩を落としながらも恭吾は店内に戻った。
どこか落ち着かなそうにしている知佳の隣に立ち、恭吾は彼女が注文したシュークリームを置いた。

「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「となり、失礼します」
「あ、はい」

恭吾は知佳の隣に座り、コーヒーをブラックのままゆっくりと飲む。
それを知佳は横目で眺めながらもシュークリームを小さな口で頬張った。
すると知佳は幸せそうに微笑んだ。

「やっぱり翠屋のシュークリームは美味しいな」
「そう言っていただけると、俺も嬉しいですね」

やはり母のお菓子を誉めてもらえるのは、恭吾としても嬉しいことだった。
その返事に押されたのか、知佳は恭吾に言葉をかけた。

「このお店の店員さん、だったんですね」
「店員というか、手伝いですかね」
「手伝い?」
「さっきの店長が母なので」
「え!?」

すぐさま驚いた表情を浮かべる知佳に、恭吾は曖昧に笑った。
その反応は予想の範囲内であったのだ。
桃子の見た目からして、どうやっても二人は親子には見えない。元々そうであったが、今の恭吾は、前よりも桃子との歳が近くなっている。精神年齢に関して言えばほとんど変わらないと言っていい。

「まあ、名字は違いますが」

名字の違いがばれてしまう前に、恭吾は先んじて伝えておく。

「あ、すいません」

何か複雑な関係なのだろうと悟った知佳がすぐに頭を下げたが、恭吾は首を振った。

「俺から言ったんですから、知……仁村さんが謝ることではありませんよ」
「あ、私のことは知佳でいいです」
「わかりました」

そちらの方が呼びやすくはあるので、恭吾はすぐさま頷く。
すると知佳は嬉しそうに微笑んだ。

「私の名字と名前、覚えていてくれたんですね」

恭吾の場合はそれこそ忘れようにも忘れられない。
むしろ知佳が一年以上前に出会った自分の名前を覚えていたことの方が恭吾としては驚きだった。

「知佳さんこそ、よく俺の名前を覚えてましたね」

そのため聞き返すと、知佳はなぜか頬を染める。

「こ、今度会ったらもう一度お礼を言いたいと思っていたので」
「お礼を言われるようなことはしてませんが」

一年前も含めればもう何度も礼を言われたし、そう気にすることはないと恭吾は僅かに苦笑した。
それから二人は会話を楽しんだ。
恭吾は知っていることだったが、知佳が女子寮にいて、聖祥に通っていることを聞くと、恭吾は自分が風芽丘に通っていることを話した。

「風芽丘、だったんですか?」

むしろ学生だったんですか、と聞きたそうな知佳。
別段恭吾が老けているというわけではない。容姿は学生だと言われても、確かにそのぐらいかと納得できる。しかし雰囲気が妙に老成、達観したものを感じさせ、学校をすでに卒業していると言われてもやはり納得できるものがあるのだ。
恭吾の場合、見た目の年齢よりも、雰囲気から感じ取れる年齢の方が印象深い。そのため昔から……それこそ、未来で風芽丘に通っていたときも、学生だと思われることは少なかった。

「ええ、今年で二年になります」
「二年……薫さんと同じ学年かあ」
「…………」

恭吾もこういう繋がりを忘れていたわけではないが、言葉に出されるとどうしたものかと思ってしまう。
ここで薫とは同じクラスだと言っていいものか。
あれから別に薫や瞳とは親しく話したわけではない。瞳ともとりあえずは隣の席というだけの関係でしかないし、薫とは話すらしていない。ただまあ、二人そろって何度も興味深そうな視線を向けられていたが。

「あ、神咲薫さんって知ってますか?」

どうするかを悩んでいたところ、知佳から聞かれてしまう。
知らないと言っても良いが、それはそれで薫に悪いような気がした。

「同じクラスです」
「ホントですか?」
「ええ、まあ」
「薫さん、私と同じ寮に住んでるんですよ」
「……世間は狭いですね」

恭吾は本当にしみじみと呟いた。
身にしみて世間は狭いというのを恭吾は体感していた。時代を超えてまで、彼女らと関わったというよりも、関わる時が早くなったことに対して。今ここで知佳ととなり合って座っているのもそうだ。
それとも縁と言うべきなのか。

「まあ、彼女とは話をしたことはありませんが」
「いい人ですよ」

笑顔で言ってくる知佳に、恭吾はそうですかと笑みを浮かべた。
だが、それは恭吾も知っていた。彼女がいい人であり、様々な意味で強い女性であることは。
そしてそれは薫だけでなく、隣にいる知佳もそうだし、学校で隣の席になった瞳もそうだということを知っている。
もちろんそれを言うことはできないが。
やはり自分は知っているが、相手は知らないという感覚は慣れないし、同時に寂しさを恭吾は感じていた。
当然そんな恭吾の思いなど伝わるわけもなく、知佳は笑みを浮かべたまま言う。

「あ、今度家に来ませんか?」
「え?」
「家……さざなみ寮です。私から不破さんのこと薫さんに紹介できますし、あのときお姉ちゃんに不破さんに助けられたことを話したら、連れてきなさいって言われてたんですよ」

それを聞いて、一瞬恭吾は顔を引きつらせた。本当に一瞬であったので、知佳は気付いていない。
さざなみ女子寮……別名、海鳴の人外魔境。
何より恐ろしいのは知佳の姉であり、そこの大ボスである仁村真雪だ。
彼女は知佳に近づく男に容赦がない。
未来では那美経由で出会ったため、知佳のことについてそれほど何かを言われたことはない。というよりも、一度だけ試合をし、それに勝利したため、まあお前ならいいかと言われていた。
だが、今回知佳の紹介で真雪と出会えば、それこそいきなり真剣で斬りかかってこられかねない。というよりも、知佳がどんなふうにあのときのことを真雪に話したのかはわからないが、連れて来いというのは絶対に妹を助けてくれた礼とかではないだろう。

「い、いえ、女子寮だというなら、男の俺がおいそれと近づくわけには……」

恭吾も未来では頻繁に行っていた場所だが、色々な意味で今はあまり近づきたくない。

「大丈夫だと思いますよ。耕介お兄ちゃん……あ、少し前に家の管理人さんになってくれた人なんですけど、その人も男の人ですし、オーナーの愛お姉ちゃんも良いって言ってくれると思いますし」

また懐かしい名前が出てきた。
だが、そのおかげですでに耕介がさざなみ寮にいることはわかった。

(ということは、リスティさんが現れるのは……来年辺りか)

未来のリスティに、彼女がさざなみ寮に来たのは耕介が管理人になって一年ぐらいの頃だと恭吾は聞いたような気がした。もちろん他愛ない日常会話の中で聞いたことであったため、自分の記憶が正しいのかはわからないが。
リスティのことを思い出し、恭吾はどうするかと悩む。
知佳同様にいずれは会わなければならないと思っていたのがリスティだ。それは元に時代、元の世界に戻る方法を探すため。もちろんリスティに聞いたら戻れるという保証はないが、少なくともリスティの力も借りなければ戻れないのは確実だろう。
恭吾は恭也が己を越えるまではこの時代にいたいと考えているが、元の世界に戻りたいとも思っているのも事実だ。そこにとて大切な家族がいて、そしてこことは違い、そこに『高町恭也』は一人しかいないからこそ。
戻れるかはわからない。だが、戻れるなら戻れる、戻れないなら戻れないという確固とした答えを欲していた。
戻れるというのならば、それだけで一応の安心材料にはなる。
そしてリスティたち戻れないと言うのなら、諦めもつく。三人が助けてくれなければ元より死んでいたかもしれなかった命だ。戻れないというのならこの世界で生きるという本当の覚悟もできあがる。
何にしろリスティが近くに現れる前に、さざなみ寮の人たち面識を作っておけば、そのへんのことを聞くのが楽になるかもしれない。
そんなふうに考えて、恭吾は知佳にばれないように自嘲の笑みを浮かべた。

(本当に自分勝手なものだな)

己の精神の安定。そのためだけに、未来でお世話になっていた人たちと面識を作っておいた方がいいかもしれないなどと考える自分が恭吾は嫌になる。
この時代に来て、完成した御神の剣士になった己を見たいという自分勝手な願いのために恭也を利用し、桃子を利用し、美由希やなのはとて利用してきた。
そして今度はさざなみ寮の人たちだ。
そう考えつつも、恭吾は心の中で首を振った。
利用だけじゃない。ただ自分が一人になりたくないだけだ。この世界で繋がりがほしい。
まだ剣を握って理由が欲しい。
それを恭吾は否定しない。誰かとの繋がりがほしいと思うのは、人間として間違った思いではないはずだ。
だからこそ、

「では、今度お邪魔させていただいてもよろしいですか?」

僅かに笑い、前言を撤回して恭吾は知佳へと聞いた。

「いいんですか?」
「こちらから頼みたいぐらいです。神咲さんには興味があったので」
「か、薫さんに興味……」

恭吾の言葉に、知佳は驚いたような響きを込めた声を出した。
それを聞き、恭吾は少し首を傾げたが、なぜ知佳が驚くのかわからない。本人は自分の言葉がどういうふうに取られているか、どれだけ紛らわしい言葉を言ったか気付いていないのだ。

「ええ、まあ。かなりの腕と聞いているので」
「腕?」

知佳は恭吾の言葉で自分の想像と違う興味だとわかるも、やはり意味のわからない単語に首を傾げた。

「剣道ですよ。だから少し興味が」

恭吾は本来聞いているわけではなく、身を以て知っていることだが、この時代の彼女がどの程度の腕なのかは気になる。まあ動き方などからある程度の予想はつくが、やはり戦ってみなければ本当のところはわからない。
未来では剣腕は、だいたい同じぐらいだった。今の時代ならばどの程度なのか気になるし、できれば恭也と試合ってもらいたい所だ。

「不破さんも剣道をやってるんですか?」
「剣道ではないですが、剣は握ります」
「それで薫さんに興味を……」

知佳はなぜか頷きながらも、微かに安堵した様子を見せている。
それに気付かず恭吾も頷き返した。

「ええ、できれば弟と試合をしてもらいたいんですよ」
「弟さん?」
「恭也と言うんですが、俺の剣の弟子です。俺以外の人と多く戦わせたいので」

薫と試合をさせたいというのもそうだが、それ以上に恭也にさざなみ寮の人たちと面識をもたせておきたいのも理由だ。
弟子という発言に驚いた表情を浮かべる知佳だったが、それならばその弟さんも連れてきてください、とにこやかに告げる。もちろん薫が試合をしてくれるかはわからないが、頼んでおくと言ってくれた。
それからトントン拍子に話は進み、知佳は今日のうちに聞いておくから、早ければ明日はどうかと言うので、恭吾も別にそれには否はなく頷いた。
そして、一応恭吾は自宅の電話番号を教えておいた。

「じゃあ、今日の晩にでもお電話しますね」

電話番号の書かれたメモ用紙を大事そうにしまい、どこか嬉しそうに知佳は告げた。
それに恭吾は静かに頷いて返したのだった。
それから知佳はシュークリームを食べ終えると、今日はこのへんで帰ると告げ、寮の人たちへのおみやげということで、シュークリームの詰め合わせを買った。
それに桃子が恭吾の友人ということで、などという理由でクッキーをおまけにつけていた。
それに礼を言い、店から出ていった知佳を見送ると、恭吾は桃子にもしかしたら明日は彼女が住む寮にお邪魔するかもしれないことを告げた。
すると、

「つまり明日が本番ね、頑張るのよ、恭吾!」

そんな何の激励だかわからない言葉をかけられ、恭吾はやはり深々とため息を吐いた。



◇◇◇



その日の手伝いを終え、少し恭也と美由希の鍛錬を見た後、夕食を摂り終えた頃に知佳から電話がかかってきた。
それは耕介や愛が連れてきて構わないと言われ、薫も試合をしてみたいと言われたという返答だった。
ちなみにその後ろから『バ神咲、ギタギタにしてれやれ!』だの、『いや、私がブッタ切ってやる』だの不穏当な声が聞こえてきた。声……以前に、内容からして間違いなく真雪だろう。
それに気付かないようにして、恭吾は了解の意を伝えると電話を切った。

「恭也、木刀の準備をしておけ、明日は試合をすることになるかもしれない」

それから居間でなのはの相手をしていた恭也に告げた。

「試合?」
「ああ。相当な手練れのはずだ。下手するとそのうちの一人は問答無用で襲いかかってくるかもしれん」
「問答無用って……」
「直にわかるさ」

恭吾が嘆息しながら言うと、恭也は首を傾げながら頷いた。
そんな恭也を見ながら、真雪には恭也を差し出そうと決める恭吾であった。
とにかく明日、未来で関わった人たちと『初めて』出会うことになる。
それを思うと複雑な心境になりつつも、やはり嬉しいと自分が感じていることに恭吾は気付いた。
それが僅かに自らを興奮させていることにも気付くと恭吾は苦笑する。

「恭也、このあとの鍛錬、覚悟しておけ」
「どういうこと?」
「加減ができんかもしれん」

恭吾はどこか悪戯をする子供のような笑みを浮かべると、そのまま深夜の鍛錬の準備をするために居間を出ていった。
それを見送った恭也は固まっていた。

「か、加減ができないかもしれないって……それは俺を半殺しにするという宣言か?」

頬を引きつらせ、俺は何かしただろうかと恭也は呟く。

「か〜?」

そんな恭也を不思議そうに見つめ、なのはは彼の頬をペタペタと叩くのであった。
その後、恭也は本当の地獄を体験することになる。
恭吾はまだ本気ではなかったが、それでもなぜか笑みを浮かべながら攻撃してくる様は、それこそ恭也から見て、凶悪に笑う悪魔とすら言えるものであった。
そしてこの日より、恭也は『剣を握っている時に兄が笑うと怖い』というトラウマを植え付けられることなるのだが、まあ、それはまた別の話だ。






あとがき1

補足というか、説明と注意。
今回の話に限らず、私の作品に出てくる抜刀術(その他の技もですが)は演出を派手にするため、かなり誇張表現と脚色がされております。
実戦で抜刀術というのは最初の一撃ぐらいにしか使えないもので、さらには二撃目の繋ぎにするものです。ついでに本来は剣速が上がるようなものでもありません(私の作品でたまに出てくる鞘走り云々はあくまで脚色)。
予備動作(刀を振り下げる前に腕を振り上げる等)と剣の軌道を短縮することで、ある程度『攻撃』速度……剣速ではありません……は上がるかもしれませんが。
まあ現実では戦闘中に一々剣を鞘にしまってまで出すほどの技ではありません。あくまで納刀されている最初の状態で使うもの。二刀流である御神流はその範疇に入らないかもしれませんし、暗器なども使いますから、使い道は多そうですが。
とりあえず私が書く虎切や薙旋などの抜刀術(他の技もですが)が、本当の抜刀術というわけではないので、間違えないでください。

あと恭也たちは小太刀を吊しているわけではなく、ベルトなんかに差してるっぽいんで、差すで統一しています。
他の人の武器も太刀と言いながら、差す、としてしまっていますが、これは本来なら誤りです。太刀の場合は吊し、佩くと表現するのが正しく、差すだと刀と表現するのが正しいかと。
そこまで物語の中でやると面白くなさそうなんでやってませんが。
という感じです。




あとがき二

はいというわけで、十一話目でした。
エリス「恭也が強くなってるみたいだね、自覚なしに」
はい、自覚なしに。
エリス「恭吾よりも成長が早いのかぁ」
技の修得スピードは士郎さえも超えてます。まあ、それは恭吾もあんまり変わらないと思いますが。
エリス「えっと、確かとらハ3本編で士郎は徹をなのはの歳ぐらい、七、八歳で、貫を晶の歳、十二、三歳で実戦レベル、って言ってたっけ?」
だね。この話では小学生の恭也がすでに神速に達している。
エリス「早すぎ」
まあ確かに。でもリリちゃをやるとなのはが生まれる前に徹を使ってるし、士郎が亡くなる前に、その士郎が第三段階に入ってもいい……つまり貫を覚えてもいい頃と言っていたから。
エリス「えーと、この話だとなのはがちょっと早く生まれてるから別として、本編の話だと、恭也は十歳ぐらい?」
うん。どうやっても希代の御神の剣士であった士郎と同レベル。あくまで技の修得速度はだけど。まあ、この話だとキミが言うようになのはが早く生まれてるというのもあって、それをさらに早くしてる部分もあるけど。
エリス「でも恭吾の場合は士郎がいなくなったから、そこから成長が遅くなった、と」
そんな感じ。まあ、そこから恭吾は一人で体得していったわけだから、それはそれで異常。そんなことできる人間はまず彼しかいないと私は思うけど。
エリス「恭也は虎切に反応したけど、小太刀真二つ」
八景じゃないけどね。
エリス「八景だったらまずいでしょ」
恭也だと士郎から受け継いだ剣が折られたで呆然自失、恭吾だったら武器が折れただけだで終わる。恭吾はすでに色々と守ってきたので、前に瑠璃に語ったように、御神流にとって武器は武器でしかなく、他の剣士や侍と違い、そこには誇りも魂もないという段階にいるんで、八景が折れても同じ、そんなもの無視して守る。戦いが終わったあとに何かしら思うでしょうけど。
エリス「で、今回は知佳と再会。これからどうなるのか」
まあ、それもおいおい。
エリス「というわけで今回はここまでです。読んでいただきありがとうございました」
ありがとうございましたー。



恭也の育成も順調すぎるぐらいに順調に進んでいるみたいだな。
美姫 「そうね。恭也がどこかまで高みに行けるのかも楽しみの一つだものね」
うんうん。で、今回は知佳と再会。
美姫 「これを切欠にして、さざなみの人たちとも交流が」
ああ、次回がとっても気になる!
美姫 「次回も待ってますね〜」
待ってます。



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