高町恭也がその事を聞いた時、最初は、

(性質の悪い冗談か?)

 半ば本気でそう思ったが、生憎とそれは、冗談でもドッキリでも何でもなかった。彼は

この時、実体のない糸に絡めとられたのかもしれない。

 人は時に、それを〔運命の力〕と表現する事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜リリアン女学園高等部学園祭までの挿話〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は、い?」

「もう一度言うわ。今度、うちの同好会がリリアン女学園の学園祭に、招待される事にな

ったの。演目の希望は、この前の『蘭陵王(らんりょうおう)』。だから、高町君には申し訳ないけど、もう

一度うちに加わって欲しいのよ」

「……」

 海鳴大の学園祭が終わってしばし過ぎた頃、高町恭也は久我講師に呼び出された。雅楽

同好会の顧問である彼女から、学園祭の演目を催す為の手助けを依頼され、それを受けた

経緯が恭也にはある。

 学園祭後、同好会から入会の勧誘があったが、久我との間で無理矢理な勧誘はしない、

と取り決めていた事もあってすぐに収まり、ようやく落ち着いてきたところだった。

 ところが。

「一体……」

 思い当たる節があった。リリアンの〔三薔薇さま〕――水野蓉子、鳥居江利子、佐藤聖

の三人――は学園祭の時教師と一緒に来ていた。そして、あの後久我とリリアンの教師、

そしてかーさんが何やら話していた――はずだ。

 と、言う事は――

(やれやれ……参ったな)

 目の前に出されている番茶は、まだ暖かな湯気を上げていた。表情には出さぬものの、

気を落ち着かせる為にひと口啜る。

 教員棟の一角にある、面談室の簡素なソファに座った状態で、恭也はとりあえず状況の

整理を試みた。と言っても、記憶巣を刺激した直感に従えば、大して整理を要するもので

もない。そして、明らかに自分の選択肢は限られていると見てよかった。

 窓越しに、表を見る。既に今日の講義は大体終わっていて、帰途に着く学生の姿が目立

つ。もちろん部活動やサークルに参加する面々もいるから、往来は賑やかだった。

(すんなり帰してもらえそうも、ないかな……これは)

 外の光景から視線を戻すと、久我が番茶を啜っている。恭也が雅楽同好会に所属してい

れば、本来こうした手間はかからずに済むのだが、そうではない為に、結局はこうして話

が来る状態になっていた。だからと言ってどちらが悪い、と言うわけでもないのだが。

 いずれ久我にとって厄介なのは、大学の学園祭で演奏した『蘭陵王』を、先方が演目と

して希望している、という事にあった。

 管絃による演奏だけ、という事であれば、四年生を含めた会員の選抜編成で問題ない。

それで解決する。しかし、『蘭陵王』は何と言っても〔舞楽(ぶがく)〕と呼ばれる曲であり、舞人(まいにん)

――つまり舞を舞う人がいないと形が決まらないのだ。

 そして、差し当たり『蘭陵王』の舞人を、

(最高の形で)

 こなせるのは、同好会にしてみれば海鳴大の中では現状たった一人。そういう事なので

ある。

 腕を組み、仏頂面で思案にふける恭也の姿は、正に愛想も何もなく、感情の機微にも鈍

感そうな、頑固で文字通りの朴念仁に見える。普段、感情を表に出す事を慎んでいる分、

かなり損をしているとは、親友の赤星勇吾の言であったが。

「ひとつ、お聞きしたい事があります」

「何かしら?」

「確か、リリアン女学園は女子校のはずです。そこに、男子が行くというのは問題がある

と思うのですが」

「その事ね。リリアンの隣に男子校があるのは、知ってるかしら?」

「……聞き及んでいるので、一応は」

 久我は、恭也の疑問に対して、少し脱線するような事を切り出す。恭也は首を傾げるば

かり。

「なら、早いわね。その花寺学院だけど、そことリリアンでは、学園祭の時にそれぞれの

生徒会から、互いに助っ人を出し合ったりしているそうよ」

 恭也は、いささか呆気に取られたような表情になると、天井を一瞬仰いだ。

(それが答え、という事か)

 仰いだ天井は、無機的な白さでただそこにある。

 恭也が、再び舞人となる事を承諾したのは、それから五分三十一秒後の事だった。

 

 

 

 

 

 花壇の近くを、ムクドリが数羽、せわしなく立ち動いている。

 それを横目に見ながら、久我講師との話を終えた恭也は、大学を後にした。

 普段は歩く事を専らとする恭也なのだが、海鳴大の場所が家から少しばかり遠いので、

親友の赤星勇吾から譲り受け、やはり親友と言っていい月村忍の整備によって生まれ変わ

った――その容姿からは想像し難いかもしれないが、彼女は機械関連の知識が無闇に豊富

なのだ――自転車を、通学時は常用している。

 慣れた道を徒然に商店街の方へ。空を仰ぐと、晴れているのかいないのか、薄曇りのは

っきりしない天気だった。

(そうだ。今日は、井関さんの店に寄らないとな)

 恭也は御神流という剣術を修めているが、その鍛錬で使用する木刀の購入、所有する小

太刀の手入れなどで何かと世話になっているのが、刀剣専門店を営む井関氏である。

 良くしたもので、井関氏の方でも恭也と妹(実は従妹)の美由希を気に入っているらし

く――今は亡き父が健在だった頃からの付き合いだ――店に寄ると刀剣の資料を見せてく

れたり、茶菓子をふるまってくれたりする。

 賑わう商店街の一角に、こぢんまりとした古めかしい建屋がある。軒に小さく、

〔刀剣 井関〕

 簡素な看板がぶら下がっているだけで、それがなければ、いい感じに黒ずんだ昔の家屋

としか映らないだろう。

 そこの、見かけに比べ存外滑りの良い引き戸を開け、

「ごめんください」

 一歩入った。決して広くもない店の中には、竹刀、木刀から模造刀、刃引きの練習刀と

いったものが整然と置かれ、あるいは立てかけられている。真剣、つまり本物の刀剣は奥

の方に厳重に保管されており、然るべき者でないと買う事も、ましてや見る事も触る事も

出来ない。

「おお、高町の……ちょうどいいとこに来たのぉ」

 相好を崩して、奥から井関氏が姿を現した。既に六十を越えた好々爺にしか見えないが、

その実刀剣の事に関しての造詣は深く、研ぎの技術となると有数の職人でもある。

「この前注文受けた木刀な、ついさっき入ったよ」

「ありがとうございます」

「なぁに、うちとしても商売だからの。お互い様よ、ふふ……今取って来るでな。まぁ、

そこらに座って待っていなさい」

「はい」

 それほど待つまでもなく、井関氏は数本の木刀を束ねた包みを持って来た。

「支払いは、いつもの通りじゃな」

「はい」

 売り買いの話は、まったく簡単に終わるのが常だ。

「ところで、神咲の嬢ちゃんから聞いたが。大学の学園祭で、中々の舞を舞ったそうじゃ

ないかね」

 井関氏の言う〔神咲の嬢ちゃん〕とは、親交も篤く、また美由希の親友でもある神咲那

美の事だ。那美の家は〔退魔〕と呼ばれる特殊な仕事に携わっていて、その時に使う刀剣

の手入れなどで、本人も井関氏とは付き合いがある。

「はぁ……まぁ、成り行きみたいなものでしたが」

「なぁに、若い内はな、何でもやってみるもんじゃよ。わしも、見に行きたかったのぉ」

「いえ、お目汚しになったかと思いますので……」

「ふふふ。まぁ、その謙虚なところはいかにもお前さんらしいの。ところで、その後変わ

りはないかね?」

「はい。ただ、近日中に東京へ行く事になりそうですが」

「ほぉ? 大学の何かかね?」

「ええ、まぁ……」

 そこで苦笑を漏らした恭也を見て、井関氏は何か思ったようだが、

「ふぅむ……とりあえず、茶でも飲んでいきなさい。うちの古女房がちょっと出かけてる

でな、大したもんは出せんが」

 恭也が遠慮する暇すら与えず、手近に置いてある茶道具を出すと、芳しい緑茶を淹れて

くれた。馥郁たる香りが、店の中をたゆたう。

 結局、恭也は井関氏を相手にとりとめもない話で時を過ごし、家に帰った頃には、薄曇

りの空が、日没で色を濃くしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 夕食は、いつも夜の七時を回ってからだ。桃子がひとまず〔翠屋〕の仕事を切り上げて

帰って来る頃を見計らい、和食、あるいは中華の料理長――城島晶か鳳蓮飛(レ(フォウ・レンフェイ)ン)が腕

を振るう。

 外食産業が苦虫を噛み潰すような、充実した夕食を終えて後のリビング。妹のなのはが

レンや晶、美由希と一緒に、キッチンで後片付けに精を出しているのを、恭也は微笑まし

げに見やると、

「かーさん、ちょっといいか?」

「いいわよ。どうしたの?」

 テレビを前にしたソファにゆったりとくつろいだ桃子が、快く応じる。その横のソファ

に腰掛けてから、おもむろに口を開いた。

「近日中に、東京に行く事になった」

「そう、また急ねぇ。何かあったの?」

「ああ……実は、この前助っ人した雅楽同好会に、もう一度付いて行く事になってな」

 一度言葉を切ると、今度は溜め息を押し出すように、

「今度は、リリアン女学園高等部の学園祭……だそうだ」

 恭也はじっ、と桃子の目を見る。

「やっぱり」

「……かーさん、あの後落ち合う前に、二人と何を話してた?」

「あら、桃子さんは先生ふたりの話を、ただ聞いていただけよ」

 聞くと、恭也が学生会館で見た〔その光景〕は、久我とリリアンの山村先生が話してい

るその傍に、たまたま桃子がいただけの事だった。もちろん、すぐ傍にいたのでふたりの

話を全部聞く事が出来た、という事らしい。

 それを聞いて恭也は、短く、小さな唸り声を上げただけだった。きっと、かーさんは面

白がって聞いていたに違いない、そんな事を思いつつ。

「恭也の事だから、今更文句なり何なり、言うつもりじゃないんでしょ? 引き受けたん

だし」

「ああ……それはない」

「ふふっ、たまには武者修行じゃなく、海鳴の外に出るのもいい事だと思うわよ? それ

に今度は女子校だから、時々鈍感になる恭也には、いい刺激になるんじゃないかしら」

「……母よ」

「なぁに? 恭也」

「俺は、そんなに鈍く見えるのか?」

 吹き出しそうになるのを、ちょっとした努力で押さえ込みながら、

「そうねぇ……うちのバイトの娘達が、日頃どんな目で見てるかくらい、そろそろ分かっ

てもいいと思うなぁ、ってくらいにはね」

 優しげな口調で言葉を紡ぐ。恭也は、ちょっと困ったような表情を、わずかに覗かせた

だけだった。

 こういう点、〔壁〕のようなものを、恭也は無意識の内に作ってしまっているように見

える。恭也に対して、やるせない気持ちを桃子が抱くのは、大抵こうした時だ。

 夫、父親であった高町士郎がまだ生きていたとして、この子は今頃、もう少しくらいは

――そう、ほんのわずかでも――壁を作らずに済んだろうか? それは分からない。確か

なのは、今のところ誰も、当の恭也自身も未だにその壁を崩しきれていない、という事だ

った。

 うちの息子は、もっと無邪気になっていい。ちょっとくらい、女ったらしと思われても

いいくらいだ。桃子はそう思っている。

 一方で恭也は、最終的にこうすると決めたら全く迷う事がない。不器用に、それでもひ

たすら前に進む。矛盾と言えば矛盾かもしれないが、不器用で優しく、弱い部分を持ちな

がら、いざという時には、その弱さと優しさによって培われた、とてつもない〔強さ〕を

解き放つ。

 恭也は本当に、いい子に育ってくれたと思う。でも、それはこの子の中の何かを、ある

意味犠牲にしたところで、成り立っているのではないだろうか?

(もし、そうだとしたら哀しい事だわ……)

 今の桃子は、リリアンに恭也が出向く事で、恭也の中の犠牲になった何かが息を吹き返

す事に、望みを持っている。目を細めるだけでなく、営業スマイルでもなく、微笑だけで

なく、心からの満面の笑顔を自慢の息子が自然に出せるように、と。

 学園祭の時、実はリリアンの山村先生に、恭也の事をある程度話していたのだが、桃子

はそれを隠しておく事に決めていた。それがいつ、どのような形で恭也に影響を及ぼす事

になるのか、定かではないにしろ。

 

 

 

 

 

 翌日は、昼過ぎに雨が降った。

 ガラス窓に付いたいくつかの小さな雨粒が、雨が降った名残りとして、柔らかい陽射し

を受け、ちかちかと瞬いている。構内の路面も黒く濡れていて、所々に水溜りが出来てい

た。

 しばらく、何となしに外に目をやっていた恭也が、視線を室内に戻す。

 今、恭也がいる場所は海鳴大文学部の一室で、雅楽同好会が練習の為に借りている、比

較的大きな部屋だ。元々は書庫のひとつとして使われる予定だったのが、諸事情によって

空き部屋となり、現在では同好会の部室代わりになっていた。すぐ隣にも小部屋がひとつ

あって、そこは書庫に所蔵された書籍などの管理に使うはずだった部屋である。そこが今

では、雅楽同好会の更衣室代わりだ。

 学園祭の前に、ここで曲の稽古が行われ、恭也もまた、色々と舞についての教えを受け

たのである。

 それはさておき。

「みんな、いいかしら?」

 顧問の久我が、全員に注意を促す。引退した四年生に加え、学園祭の後、新たに加わっ

た五人を含む十四人――本当なら十七人になるが、この内四年生の男子三人はこの場にい

ない――プラス恭也が、それぞれ注目する。

「今日、四年生にも集まってもらったのは、先日ある所から、うちに来た依頼の事につい

て話したかったの」

 一旦言葉を切ると、久我は続けた。

「簡単に言ってしまうと、演奏しに来て欲しい、って事よね」

 全員の雰囲気がにわかに変わるのを、恭也はその鋭敏な感覚で感じている。

(どうやら、まだ皆には話していなかったみたいだな)

「俺達に来て欲しいって、どこなんですか? それと、この場に男子の先輩達がいない理

由、高町君がいる理由も、教えてもらえるといいんですが」

 質問の声が上がる。確か、同好会の新しい会長になった三年の田丸さんだったな、恭也

はぼんやり確認する。

 人懐っこい表情が印象的な田丸は、実は四年生が抜けると同好会唯一の男子会員――二、

三年の会員と、新入の一年生五人が全員女性だった為だ――になってしまうという、羨ま

しいやらかわいそうやら、まことに難しい立場を約束された人物でもあった。

「そうね。まず、会員じゃない高町君がいる理由から、説明しましょう」

 久我は、恭也をちらりと見た後で、おもむろに話し始めた。

「学園祭でのうちの演奏を、依頼元の人がたまたま見てたのよ。それで、これほどの出し

物だったら、是非一度来て欲しいって話が来たの。学園祭でやった同じ曲を、ってリクエ

スト付きでね」

「同じ曲……『蘭陵王』ですね。そういう事かぁ……そうなると、こりゃ高町君しかいな

いよなぁ」

 田丸の呟きは、同好会の全員に共通する認識でもある。皆がうんうん、と首を縦に振る

のを見て、恭也はひそかに肩をすくめた。

「じゃあ話を進めるわよ。実は、ここからが問題なの。敢えて四年の男子を呼ばなかった

理由にもなってるけど、依頼元がちょっと特殊な場所なのよね」

 恭也を除く全員が、一体どこなのか、という表情になるのを確認すると、久我はいっそ

事務的と言ってもいい口調で、

「依頼元は、東京のリリアン女学園高等部……近々学園祭をやるけれど、そこで演奏して

欲しいそうよ」

 言ってのけた。同好会の皆が、呆然となる。

「……あの……」

 前の会長であった牧野が――その知的な容貌は、はっきりと困惑を現している――控え

めな声を上げた。

「何かしら、牧野さん?」

「あ、はい……その、リリアンって……あの?」

「そう、あなたのイメージ通りで間違いないわ。明治創立のお嬢様学校……性質(たち)の悪い冗

談だった方が、よほど納得するのにって顔してるわね?」

 ますます困惑した牧野に、優しく笑みを向けると、

「そういうわけで、せっかく行くんだからこっちもそれなりに選ばないといけないの。四

年の男子を呼ばなかったのは、そういう事よ」

 

 

 

 

 

 人選だが、一人については否も応もなかった。舞を舞う恭也である。先方のリクエスト

に応えるには、恭也がいないと非常に困るからだ。

 一方で、三人いた四年の男子会員がこの事を知ったら、この場に呼ばれなかった事も含

めて、さぞ気を悪くするのでは、という懸念もあった。だが、久我は早くも対策を打って

いたようだ。

「高町君以外でリリアンに行くのは、田丸君だけよ。会長だからね。ついでに言うと、正

式な依頼が来てから、男子を別個に呼んで話をしたの。ちょっとばかりすねられたけど、

最後には聞き分けてくれたわ」

 まるで冗談みたいに手回しのいい事だ、恭也はふとそんな感慨を抱いたが、同好会の面

々は、その説明で一応納得しているように見える。

 後は組み合わせという事になるが、話し合いそのものは、それほど時間を必要としなか

った。決まった順に随時、久我がメモを取っていく。

龍笛(りゅうてき)は、牧野さんと(こん)さんね」

 前会長と、二年生。

篳篥(ひちりき)が吉田さんと花井さん」

 共に三年生。

「笙が(しょう)町田さん、鈴木さん」

 四年生と三年生。

鉦鼓(しょうこ)が中谷さん」

 二年生。

鞨鼓(かっこ)は、田丸君」

 何故、会長の田丸が鞨鼓の担当なのかと言うと、鞨鼓が曲の速さ、リズムを往々にして

決めてしまうが故だった。田丸の得意技と言うべきが、そのリズムを適切に保てる打ち方

であったのだ。

大太鼓(だだいこ)が村野さん」

 三年生。

 これに、舞人の恭也が加わって総勢十人。編成としては小さいが、学園祭でも人数とし

ては同じだったし、質的にも現状望めるぎりぎりの構成だった。一年生は入って間もない

から、まずは譜面を〔解読〕するところから始めないと――雅楽における譜面は、一見す

るとまるで、難解なお経か暗号文に見え、最初は何が何だか分からないのだ――ならなか

ったし、二年生以上の経験者でも、その技量には微妙にばらつきがあって、一筋縄ではい

かない。

 もちろん、舞の譜面や作法も色々とややこしいのだが、限られた時間でよくもまぁ、あ

れだけ圧倒的な舞に持っていけたものだと、同好会では恭也に一目置いている。

 人選のメモに、真剣に見入っていた久我が、ややあって顔を上げた。

「みんな、これで異存はないのね?」

 首を縦に振る者、異議なしと言葉に表す者それぞれだが、反対の意見を出す者は誰もい

ない。

「……質問」

 と、ここで恭也が片手を小さく上げた。

「何かしら?」

「リリアンに行くのはいつなのか、日程としては何日くらいになるのか、その点について

説明頂けると、幸いですが」

 久我は、我が意を得たりというように頷き、

「肝心のリリアンの学園祭なんだけど、今からほぼ二週間後になるわね。向こうも行事が

結構立て込んでるみたい。みんなが学園に入るのは、本番二日前を予定してます。大太鼓

を始めとする道具類は、本番三日前に先発で、高町君と田丸君に運んでもらうわ。宿泊先

は近くのビジネスホテルになると思うけど、いいわね? それと、向こうの都合にも合わ

せたりするから、気は抜けないわよ?」

 更に恭也に向かって、

「高町君も、明日から稽古に付き合ってもらえると嬉しいわ。演奏と舞の呼吸が合わない

と、折角の曲も台無しになってしまうもの」

 真剣な表情で言った。準備期間は多く取れれば、それに越した事はない。

「承りました」

 恭也は首を縦に振る。

 こうして、恭也は再び、雅楽同好会と行動を共にする事となった。この時恭也自身、近

い未来の事を全く予測していない。




恭也は再び舞をする事になってしまったか。
美姫 「まあ、ある意味仕方ないわね」
まあな。その為に薔薇様たちもあちこち手を打ってたわけだし。
美姫 「この章は学園祭までのお話みたいだけれど。
リリアンにはどのぐらいで行く事になるのかな。
美姫 「行けば行ったで問題が起こりそうな気もするしね」
だな。いよいよマリみての原作と重なるのか。
美姫 「本当に楽しみね」
ああ。
美姫 「それじゃあ、また後で〜」



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