――はじめに――

 

この作品は「とらいあんぐるハート さざなみ女子寮」を基に執筆したものです。特に

アクション描写などは加えておりませんので、その辺ご了承の上お読み下さると幸いです。

では、つたない作品にしばし、お付き合い下さいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜さざなみ寮の朝、昼、晩〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝」

 

 

 

 

 

さざなみ女子寮の朝食は、その日によって平穏にもなるし、騒々しくもなる。

女三人寄れば何とやら、などという言葉があるが、寮の管理を一手に引き受けている槙

原耕介の身に立てば、そんな事を思いつつ悠長に構えているヒマはない。

今朝も早くから起き出して、お弁当や朝食の支度に余念がなかった。もちろん、朝風呂

など使う住人もいるから、そちらの方を先に済ませた上での事である。朝食に使う材料の

下ごしらえを前夜の内にやっておくのが、もう当たり前の日課になって久しい。

「さぁて、ご飯もいい具合だね」

キッチンの中で、のっぽな身体をぶんぶん動かし、耕介は手際良く料理を仕上げていく。

「ああ、ええ匂いやぁ」

「おう、ゆうひ、おはようさん」

「おはよ、耕介くん」

「おはようございます、耕介さん」

「おはようございます、愛さん」

朝の挨拶を交わしている内にも、耕介の動きは止まらない。

「わぁ、いい匂い♪」

「おはよう、みなみちゃん。もう少しで出来るから」

「はい〜」

耕介は当然洋風の朝食メニューも頭に入れているのだが、前の管理人――耕介をこの寮

に引っ張り込んだ張本人――にして親戚の、一ノ瀬神奈の薫陶かどうか、和の朝食の方が

住人の受けは良いらしい。

「ん? 遅いな、知佳は」

「あ、そういえば……真雪さんの手伝いで……」

「そりゃあ……まずいなぁ、っと。ほい、出来上がり」

「あ、うち手伝います」

「お、薫、頼むよ」

今日の朝食は、玉子豆腐、山芋をすり下ろしたとろろ、鮭の切り身、切り干し大根と油

揚げの煮物、秋茄子の香の物、じゃがいもと人参、たまねぎが入った具沢山の味噌汁にご

飯。

朝食はしっかり食べないといけない。これはさざなみ女子寮が産声を上げた当初から、

暗黙のルールとして根付いている。好き嫌いが割と激しい陣内美緒も、

「う〜、早くおとなになって好きなものだけ食べたいのだ」

などとごねつつ、それでも今では朝食をしっかり食べている。

「いつもそうだけど、やっぱり耕介の作るご飯は、あったかいね」

リスティの賛辞が、耕介にとっては冥利に尽きる。

「おかわり〜♪」

「ほいほい」

さざなみ女子寮の食費上昇に一役買っている、と言えば失礼だが、岡本みなみの食欲は

ハンパでない。その小柄な身体からは想像し難いかもしれないが、放っておけばちょっと

のおかずでも、ご飯を四杯、五杯と平らげてしまう。

そうこうしている内に、皆あらかた食事を終えて、それぞれ通う学校へと向かうのだが、

耕介は後片付けをする前に、小ぶりのおにぎりを三個握っておいた。中身は定番の鮭に梅

干し、そしておかか。付け合せの沢庵はお約束。と、

「きゃあ、寝過ごしちゃったぁ!」

どたばたと階段を駆け下りて来たのは、耕介の〔妹〕こと仁村知佳。いつもは寝坊など

しないのだが、時には夜遅くまで姉の仕事を手伝ったりもする。昨夜はどうやらその時に

当たったのだろう。

「急げ急げ〜」

身だしなみのチェックの時も惜しんで、最低限の用意だけすると、

「みなみちゃん、ごめぇん」

「ううん、いいから早く。まだ間に合うから」

開いている玄関から見える、自転車スタンバイ中のみなみの元へ駆け出そうと――

「おいおい、ちょっとだけ待った。昼はともかく朝はこれ、な」

耕介が持たせたのは、弁当に先程握ったおにぎり、そしてパックのお茶。

「あ、ありがとう、お兄ちゃん」

「どういたしまして。さ、そろそろ時間だろ? 行って来い」

「うん! 行って来ま〜す!」

慌しく知佳が玄関から出ると、次は少し遅れて大学組の槙原愛と椎名ゆうひが出かける。

知佳の姉、仁村真雪はまだ部屋から出てこない。大学生兼漫画家は、どうやら締め切り

ぎりぎりまで原稿と首っ引きのようだ。

(やれやれ……漫画家というのも大変だなぁ)

後で、真雪の分も作っておかねばならないが、さてさざなみ一の偏食家でもある彼女に、

何をこしらえようか。耕介は考えながら後片付けにいそしむのだった。

 

 

 

 

 

「昼」

 

 

 

 

 

何とか原稿を落とさずに済んで、安堵の溜め息を吐いた――何かと締め切りに左右され

る作家であれば、充分に共感出来るものであろう――真雪に、鶏肉とじゃがいもを具にし

た煮込みうどんを振る舞った耕介は、昼食も兼ねて少し休憩を取る事にした。

さざなみ女子寮において、基本的に部屋の管理は入居している住人それぞれが、責任を

持つ事になっている。各自手の届かない部分があれば、初めて管理人が手伝う格好だ。お

かげで耕介の負担はそれなりに軽減されているが、それでも普段やるべき事は多い。

(さて、お次は何をしようか……)

熱いうどんをずるずるすすりながら考える。

(ま、適当にやりますか)

それでも仕事に手を抜かないところが、耕介の耕介たる所以だろう。そうでなければ、

住人に受け容れられようはずもない。

食べ終わって後片付けを済ませると、

(少し仮眠でもするか……そうだな、三十分くらい)

リビングのソファに身体を横たえるのは、誰か客が来た時でも対応出来るようにする為

だ。

(おやすみ〜)

すぐに、耕介は寝息を立て始める――

 

――三十分もしない内に、耕介の身体に何かが乗っかった。

「ん?」

目を覚ますと、

「にゃあん」

「おう、ことらかぁ……そういや、昼飯まだだったな」

「にゃあ」

さざなみの住人、もとい住猫の小虎が、耕介の腹の上に乗って前足を踏み踏みしていた

のだ。小虎が降りるのを待って、耕介が身体を起こす。

ここに来て間もない頃、今でこそ信頼関係が成立しているが、住人の中で特に耕介に対

する敵意を隠さなかったのは美緒だった。もちろん事情があるのだが、それについて話す

と長くなってしまうので、ここでくどくどと触れる事はするまい。

当時、美緒が抱いていた敵意を文字通り、

(氷解させる……)

きっかけとなったのが、実はこの小虎だったのだ。もっとも耕介の中では、既に笑い話

のひとつではある。

キッチンに移動して、専用の皿に特製の〔ねこまんま〕を盛ってやると、小虎ははぐは

ぐと食べ始める。その様子を耕介は微笑ましげに見ていた――

 

――小虎が再び外に出て行くと、耕介はまた仕事に精を出す。一階廊下の蛍光灯が一本

切れていたので交換したり、風呂の掃除をしたり、午前中洗濯して乾かしていたものを取

り込んだり。それにしてもまったく、秋晴れ燦々、いい天気だ。

仕事をしている内に、住人が三々五々帰って来る頃合いになる。いつも一番早いのは、

小学生の美緒なのだが、今日は違った。

「そう言えば、望ちゃんとこに寄るって言ってたっけ」

藤田望。商店街にあるドラッグストアの娘さんで、美緒曰く、

「まぶだちなのだ」

そうな。人見知りが強く、内気な人となりで、美緒とはまるきり正反対だが、

(だからこそ、続いているのかもな)

性格が似ていると、時として近親憎悪になってしまう場合がある事を考えれば、ある意

味最良の友達関係のケースかもしれない。

そんなよしなし事を思っている内、唐突に今日の夕食のメニューは固まった。

「カレーライスにしようかな……どうせ明日にゃいくつか買い出しせんとならんし、ちょ

うどいいか」

カレーライスほど、不思議な料理と言うべきものはない――誰かが口にしたものだが、

さざなみ女子寮においても人気のひと品として、不動の地位を保っている。

ただ、美緒や真雪の二人は、好き嫌いがそれほどない住人の中においては例外的存在で

――生粋の関西人うたうたい、椎名ゆうひは納豆だけ苦手だが――とにかくあれが嫌い、

これは食べたくないと注文を付けがちだ。

しかも、真雪は基本的に辛党だが、美緒は当然甘党。他は大体中辛好みという風に、カ

レーひとつ取っても好みはてんでバラバラ。

「まぁ、それはそれで、やりようがあるからねぇ」

早速、今宵の夕食の準備に取り掛かる事に決めた。どでかいずん胴鍋を引っ張り出すと、

耕介はエプロンと言う名の装備を身に付けて、いよいよ〔格闘戦〕に突入する。

「うっし、そんじゃあやるか!」

 

 

 

 

 

「晩」

 

 

 

 

 

夕食は、カレーライスとコールスロー。もちろん全員に好評だった。

みなみは調子に乗って六杯ほどお腹に収めてしまったが、鍋の中が空になってもまだ食

べ足りない様子で、知佳を苦笑させていた。

「さざなみ女子寮の偏食凸凹コンビ」

こと真雪と美緒も、

「うん、美味い美味い」

「おかわりなのだ」

残さず食べてしまっている。

耕介の作るカレーは、住人の大半の好みを反映して基本的に、

(おふくろのカレー)

である。もちろん洋食屋の息子だけあって、当然スパイスに気を使ったりしているし、

ニンジンなどは煮込んだものを漉したりして、偏食家が見てもそれとは分からないように

工夫した。ただし、じゃがいもと玉ねぎ、豚肉は大きめに切って形が残るようにしている。

耕介曰く、

「後は、企業秘密だよ」

との事。

「しっかし……こんだけ作っても、ずん胴が見事空っぽになってしまうんだからなぁ……

恐るべし」

いや、恐るべきはひとえに、みなみの〔底なしの胃の腑〕に違いない。

(はぁ、やれやれ……俺の分、あらかじめ取っといて良かった。放っといたらプチラマダ

ンだったわ)

大きな溜め息を吐く耕介だった。

夕食が終わると、皆それぞれの時間を過ごすのだが、時には騒動が起こる場合もある。

明日の朝食の下ごしらえをしていた正にその時、事件は起こった。

(ん? 何やらごたごたしてるな……風呂か)

最初、耕介はその程度で特に気にも留めていなかったのだが――

「にゃ〜ははははは」

「こら、待たんね陣内」

「や〜だよ、んべ」

「陣内!」

(あ〜あ……薫と美緒か……)

耕介が苦笑している合間も、騒ぎは収まる気配を見せない。それどころか、どうも廊下

に波及したようだ。

「ちゃんと身体拭かんと、風邪引いてからじゃ遅かぞ」

「ふかなくてもいいよ〜だ」

一瞬の間を置いて、

「ぶわっ!?

(美緒の尻尾、かな? そろそろ止め時かねぇ)

そこに、

「耕介様に迷惑がかかりますよ、二人とも?」

薫の持つ霊剣の魂、十六夜の声がした。どうやら、騒ぎを聞きつけたらしい。

「陣内! 十六夜ば後ろぉ隠れるな! 十六夜、どかんね」

「あら、あらあら」

「べぇ〜だ、妖怪説教おばば、鹿児島にぃ、帰れ〜」

「ん、んなぁ!!

流石にこれ以上は止めねばまずい。手を止めて耕介が動く。

「いい加減にしないと、耕介様が出てきますよ?」

十六夜が言ったのと、

「二人とも、その辺にしないと……」

キッチンから耕介が顔を廊下に覗かせたのは、同時だった。そして――

「……」

「……」

「うぁ……」

一糸まとわぬあられもない姿の薫と、耕介はまともにご対面。まともな声の体を成さな

い叫びを上げると、薫は瞬時に全身を真っ赤に変えて、どたばたと風呂場に駆け戻る。今

度は、派手にすっ転んでしまうという事はなかったようだ。

呆気に取られていた耕介の傍らに、美緒がぺたぺたと歩いてきてひと言。

「ん〜、だちょ〜のごとく、なのだ」

脱力した耕介もひと言。

「美緒、それを言うなら〔脱兎の如く〕だろ……」

「あらあら、まあまあ」

――そして、さざなみ女子寮の一日は終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜さざなみ女子寮の朝、昼、晩〜 了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


後記

 

いかがでしたでしょうか。

この作品のタイトルですが、19世紀ヨーロッパの作曲家、フランツ・フォン・スッペ

の喜歌劇「ウィーンの朝、昼、晩」をまんまもじっています(笑)。

もちろん、自分は元ネタの全容を知っているわけではないので、拝借したのはタイトル

だけですけど。

それはさて置き、この作品は読めばすぐに分かると思いますが、キャラクターの細かな

設定ではなく、アクションやバトルに全く頼らない、

「さざなみ女子寮の一日」

という〔日常のものがたり〕について、その重点を置いたつもりです。

目を奪うようなアクションなど、第三者の目から見れば〔非日常〕として捉えられる出

来事は、物語を構成するには格好の題材となりますが、しかし普段の生活という〔日常〕

においては、よほどの偶然でも作用しない限り、事故にも事件にも合う事はありません。

であればいっそ、その日常自体を、二次創作を書く時の材料のひとつにすればいい――

自分としてはそうすれば、各キャラクターの設定に囚われてしまう事なく、自由度が高い

状態で書けるのではないかな、と。

 

とまぁ、好き放題書いたところで筆を擱こうと思います。

ではでは。





日常〜。
美姫 「ほのぼので良いわね〜」
うんうん。和むよ。
美姫 「第二弾は、さざなみの日常風景」
こういうのも良いよね〜。
美姫 「本当に」
ほのぼのと和んだまま、ではでは。



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