注)このSSは独自の設定に基づいて構成されています。原作とはまったく違う設定で書かれておりますので、そういったものが嫌いなお方はプラウザの『戻る』を押して下さい。それでも読んで下さる奇特な方は、どうぞ下へとお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は時に、眠りの中で悪夢を見る。

その内容は多種多様で、過去の悲劇の再録だったり、未来に起こりうる悲劇の先見だったり、はたまた荒唐無稽で何の脈絡もない、悲劇の妄想であったりもする。

……ならば、彼の場合はどうなのだろうか?

彼の者は毎夜、悪夢にうなされていた。

七年前のとある日から。

七年前の、自分達が『龍』と戦い、その戦争を終わらせたあの日から。

彼……槙原耕介の悪夢は、始まったのだ……。

 

 

 

 

 

(体が……引き千切れる!)

 

……もう、これで何度目になるだろうか。この、死ぬほどの痛みを味わうのは。

槙原耕介が毎夜、眠るたび見る悪夢。

それは一見すれば、悪夢とは到底思えぬものだった。

むしろ、普通の人間が見られるのならば、あまりの神々しさに打ち震え、数瞬のうちに昇天してしまいかねない。

それほどまでに、優しく、温かな光。

耕介の周りを取り囲む光は、まるで母親の慈愛を象徴しているかのように穏かで温かく、優しい。

しかし、その反面、文字通り光速で飛び交う光の虹は、全て耕介の体を貫き、蝕んでいく。

その両極端に対照的な力のぶつかり合いに、耕介は追い詰められていた。

 

「ぐぅッ」

 

朝になれば悪夢は覚める。

しかし、それまではこの悪夢と付き合わねばならない。

あまりの痛みに、何度発狂しそうになったことか。

しかし、その痛みは所詮夢の中で感じた痛み。幻想でしかなく、朝になるといつものように平凡な生活を送れるまでに回復している。

そしてまた、あの悪夢に耐えねばならないのだ。

 

「がぁあッ!」

 

圧倒的な光の奔流に意識まで呑み込まれてしまいそうな錯覚に陥ってしまう。

――と、そこで耕介はある存在に気が付いた。

背の丈40メートルはある、何者かの石像。

いつしか、光の渦は消えていた。

そこにあるのは、耕介の意識と巨人の石像のみ。

 

「また……お前か……」

 

複雑な思いだった。

物言わぬ巨人に苛立ちを感じるも、その姿を見ると何も言えなくなってしまうのだ。

人類ならば誰もが知っている、その巨人の姿を見てしまっては……。

 

「一体、お前は俺に何をさせたいんだ?」

 

 泣き笑いの表情で耕介は訊ねた。その声には、巨人の石像に対して隠し切れない畏敬の念が見え隠れしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルトラマン!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Heroes of Heart

〜ハートの英雄達〜

第壱話「復活」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――海鳴市、さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

国守山。決して大都会とは言えぬ海鳴市でも僻地と言える所に建てられた、一軒の建物。

『さざなみ女子寮』と銘打たれたそこのキッチンで、長身の男性が、ひとり黙々と調理を続けている。

このさざなみ女子寮の管理人である、槙原耕介だ。

 

「あとはこいつを入れて……っと」

 

手慣れた手つきで、フライパンの上の芸術に適量の調味料を入れていく。

女子“寮”……と言うからには、その食事は全て耕介が作らねばならない。

現在、さざなみ寮で暮らしている人の数は彼自身も含めて9人。

昨今の少子化の煽りもあって、最盛期の頃に比べれば少ない陣容ではあるが、それでも、それだけの人数分の量を公平に、かつ迅速に用意するというのは難しい。若い娘が多いだけに、栄養管理にも人一倍の苦労が必要だ。にも拘わらず、彼には料理を楽しむという余裕すら見えるため、脱帽モノである。

 

「あ、耕介さん。おはようございます」

「おはようございます〜」

 

寮生である二人の少女が揃って入ってくる。

最初に挨拶をした方は神咲那美。

さざなみ寮最盛期に在籍していた神咲薫の義妹で、高校生をしているかたわら、巫女兼退魔師という副業も持ち合わせている、少し変わった少女だ。

後から挨拶してきた方は我那覇舞。

低血圧なのか、寝惚け眼のまま椅子に座って、テーブルに突伏する。

 

「ああ、ほら舞ちゃん、寝ちゃダメだよ」

 

ゆさゆさと那美が舞を揺する。

しかし、力が弱すぎるのか、それはむしろ逆効果となって、舞の睡眠欲を掻き立て、トランス状態へと誘う。

そんなやり取りを苦笑しながら見ていると、今度はリビングの方から、ひとりの女性が、2人の子供を連れてキッチンに顔を出した。

 

「耕介さん、庭掃除、一通りやっておきました」

「ボクも手伝ったよっ」

「パパ、わたしも、わたしも」

 

女性の名は槙原愛。耕介の最愛の妻であり、さざなみ寮のオーナーでもある女性だ。

傍らに連れている2人の子供は、耕介と愛の子供……槙原勇也と槙原愛歌。

二卵性双生児で、今年で4歳になる。

 

「お、ママの手伝いをしてたのか〜。2人とも、偉いぞ」

 

ガシガシと、ヤスデを思わせる大きな手で、2人の頭を優しく撫でる。

――と、不意に背後から妙な気配を感じて、彼は振り向いた。

突如、何もないところから銀髪の少女が現われる。

 

「ふぁ〜あ。ああ耕介、ただいま」

 

銀髪の少女が、耕介を見るなり欠伸を噛み殺しつつ言う。

耕介と愛の、もう1人の娘……リスティ。

現さざなみ寮メンバーの中でも古株にあたり、6年ほど前に、耕介と愛が引き取った養子である。

HGSという奇病を抱えている彼女は、その副作用から、一般的に超能力と呼ばれる特殊な力を有しており、警察関係の仕事に従事している彼女は、泊まり込みの仕事などがあると、今のようにテレポーテーションを使って帰宅することが多かった。

 

「お帰りリスティ……って、靴!」

 

無論、今の今迄警察署にいたため、フローリングのリビングを踏むリスティは完全土足だ。

 

「ああ、ごめん」

 

言いつつ、土足のまま玄関に向かうリスティ。

睡魔との戦いで頭が回っていないのか、リスティはその行為がもたらす被害に気付かない。

げんなりとした顔で、耕介が肩を落とす。

 

「パパ、あんまり気にしないで」

「勇也……」

「そうだよパパ! リスティお姉ちゃんだってわるぎがあったわけじゃないんだし」

「愛歌……」

 

悪気があったのなら余計性質が悪いとは言えない。

しかし、小さな幼子に肩を抱かれて慰められる体格のよい長身の男。

この構図を、端から見るとどう思うか?

 

「……何やってんだ? お前」

 

眼鏡を掛けた女性が、ぴしゃりと言い放った。

 

「…………」

「…………」

「……いえ、何も」

 

しばしの沈黙のあと、気を取り直して調理を再開する耕介。

あとは盛り付けて運ぶだけなので、「おっ手伝い〜」と、勇也と愛歌も一緒だ。

 

「そういえば、今日は早起きですね」

 

皿に朝食の焼き魚を盛りつけながら、耕介が先程の眼鏡の女性に聞く。

眼鏡の女性……仁村真雪は、やや不機嫌そうに、

 

「〆切は終わったけどこれからまだヤマがあんだよ。だから、無理矢理にも体力をつけないとならないと、な」

 

と、答えた。

真雪の職業は漫画家で、『草薙まゆこ』というペンネームで、いくつかの雑誌の連載を抱えている。

今のは、連載の1本は仕上げたが、本命の作品はまだ残っているということだろう。

 

「センターカラーで2枚仕上げなきゃならないんだ。あと、今月号の表紙もでかいの描かないといけない。…あ、そうだ耕介。あんた今日からしばらくあたしのアシになれ」

「つつしんで遠慮させていただきます」

 

即答だった。そのスピードは、某ジャム作りを趣味としている主婦並みに速さである。

さざなみ寮の管理人になってはや7年、経験上耕介は、ここで「はい」と答えようものなら翌朝までこき使われることを知っていた。

 

「あ、美緒ちゃん呼んできますね」

「ああ、頼む」

 

そう言って、愛は2階へと登る。

しばらくして、ドタドタと騒がしい音が聞こえたかと思うと、

 

「こーすけ! ご飯できた?」

 

バタンッ! と、扉を開き、1人の少女がやってくる。

リスティ、真雪らと同じく、さざなみ寮の古株……陣内美緒。

およそ生まれた時からこのさざなみ寮で引き取られ、先々代の管理人……陣内啓吾の娘として、今日までここで暮らしている。

耕介は「ああ」と簡潔に答えると、まるで子供のような美緒の行動に笑いながら、席に座らせた。

しばらくして、リスティを連れて愛も入ってくる。

 

「……珍しく、朝から全員揃いましたね」

 

 耕介が何日ぶりかな……と、指折り数えながら真雪を見た。

 

「おい、その視線はどーいう意味だ?」

「さぁ?」

「それじゃ、みなさん頂きましょう」

 

愛の言葉に、全員が手を合わせる。しぶしぶながら、眠気と格闘するリスティもそれに続く。

そして声を揃えて、

 

『いただきます』

 

と、言った。

さざなみ寮は、今日もおおむね平和であった。

 

 

 

 

 

マシン帝国バラノイアの侵攻を退けて、以来、地球にはしばし平穏が続いていた。

六十年代後半には、週に一度のペースで地球に飛来してきた侵略者達の数が、激減したからである。

全宇宙の征服を企でいた大船団ゴズマ、999の星を滅ぼした銀帝国ゾーン、最強のマシン軍団バラノイアと、過去、多種多様の侵略者と戦い、それらを自力で退けた地球は、いつしか宇宙でもかなりの戦力を持つ星となっていたのである。

 

『地球には手を出すな』

 

いつしか、人類の知らぬところで、そんな言葉が飛び交うようになっていた。

そのせいか、バラノイア侵攻以降、六年に渡って、地球が宇宙からの外敵による侵略に遭うことは、めっきり少なくなっていた。

そう、宇宙からの侵略には……。

 

 

 

 

 

――海鳴市、オフィス街――

 

 

 

 

 

それは突然の出来事だった。

昼下がりのオフィス街で、突如爆発が起きたのである。

最初は火事か何かだと思われていたが、違った。

火事にしては、火災の範囲が広すぎるのである。

明らかに人為的な爆発。

ガソリンの引火や、ガス爆発とも違った、火薬の臭い。

 

 

 

 

 

……そして、それは現われた。

 

 

 

 

 

「な、なんだありゃ……?」

 

現場に到着した警官の1人が、その場にいる全員の気持ちを代弁するかのように言った。

当然であろう。なぜなら、それはおおよそ人の姿をしていなかったからだ。

かと言って、獣というわけでもない。

たしかに人間の手足はあるが、その四肢からは鋭い爪が伸びており、それは現存するどの動物のものよりも、長い。

全身はまるで剣山のような毛並みに覆われており、その顎は大きく開いている。

青い、龍を模したベルトのバックルが、鈍い光を放った。

例えるならば、そう。

――人間の四肢を備えた、ヤマアラシ。

 

「――そうですか、分かりました」

 

ロングコートを羽織った私服警官が、無線から聞こえてくる上司の声に頷く。

 

「上からの発砲許可は下りた。全員、構えろ!」

 

言われて、警官達は懐から5連発のリボルバー拳銃……ニュー南部M60を取り出し、構える

無数の銃口に囲まれてなお、標的であるヤマアラシの歩みは止まらない。

 

「撃て――――――――っ!!」

 

私服警官の声に、リボルバーの銃口が一斉に火を吹いた。

連続して轟く銃声と、ハンマーを起こす音。

過去の悲惨な前例から、未確認生命体の出現時には、上司の指令さえ降りれば、現場の判断で発砲が許可されている。

捕獲などという生温いことはしない。

容赦のない、完全に射殺を目的とした射撃。

その、あまりの勢いに敗れ、ヤマアラシは20メートルほど後方に弾き飛ばされた。

やがて、5発全ての弾丸を撃ち尽くして、彼らの集中砲火の手が弱まっていく。

現場の警官の人数、約20名。百数発の弾丸を撃ち込んでなお、油断は出来ない。

今まで地球を狙ってきた侵略者の中には、たとえ大砲の弾を百発叩き込んでも無事であるケースもしばしばある。

次の射撃に備えて、彼らは弾丸の装填を急いだ。

 

“ザァァァァァアアア”

 

たち込める硝煙と砂塵。

私服警官が、目を凝らして噴煙を凝視する。

 

“シャンッ”

 

――一瞬の閃光。

それが、彼の見た最後の光景となった。

 

“ズシャァァァァァアアア!!”

 

それは血の吹き上がる音か、肉の引き千切れる音か。

どちらにせよ、彼の警官は心臓を貫かれ、絶命した。

 

「う、うわぁあっ!?」

 

警官の1人が驚愕の声を上げる。

煙が立ち退き、その中から、奴は出てきた。

…………そして、殺戮が始まる。

 

 

 

 

 

――海鳴市、さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

さざなみ女子寮の地下に、耕介と愛はみなを集めた。

様々な機械と、巨大なモニターの設置されたその部屋に、リスティ、美緒、真雪、那美、舞が円卓状の机を囲んでいる。

 

「槙原長官。三心戦隊デルタハーツ、集合しました」

 

リスティがいつもとは違った、真剣な表情で言う。

 

「ご苦労。……何が起きたのか、もうみんな分かっているな?」

 

耕介の、やはりいつもとは違う口調に、デルタハーツと呼ばれた彼女達は沈黙する。

誰も、自ら答える役を負いたいとは思わなかった。

 

「……出来れば、こんな事態は起きてほしくなかった。みんなには、ここで普通の生活をしてもらいたかった」

 

悲痛な面持ちの耕介に、愛がそっと手を重ねる。

上で寝かしつけてきた子供達のことを考えているのだろう。

励まそうとする愛の表情もまた、憂いの満ちたものだった。

 

「みんなにこんな事は言いたくない。けど――」

 

耕介の心情を悟ったのか、誰も何も言わない。

 

「――みんな、頼んだぞ」

 

静かに、しかし力強い声で、

 

「三心戦隊デルタハーツ出動っ!」

 

過去の雑念を振り切るように、彼は言い放った。

 

 

 

 

 

「……動き出したか」

 

林道からさざなみ寮を見下ろすひとつの影。

全身黒尽くめの青年は、寮から出て行く少女達を見て、どこか昔を懐かしむような、穏やかな表情を浮かべる

しかし、すぐに表情を引き締めて、傍らに停めた愛車の、黒いホンダXR250に跨る。

 

「いくぞ、『レッドスター』……」

 

その名を口にした途端、彼の跨るXR250に変化が起きた。

漆黒のボディがぐらりと揺れ、フレームから何十本もの細いワイヤーが飛び出す。

ワイヤーはバイクの各部位に巻き付くと、一瞬のうちに薄い膜を放出して漆黒のボディを、憤怒の赤色に染め上げる。

その一連の駆動はコンマ数秒にも満たず、常人の動体視力ではまさに一瞬のうちの出来事であっただろう。

青年はバイクの変形を確認すると、ハンドルを握って、エンジンをキックした。

 

 

 

 

 

――海鳴市、オフィス街――

 

 

 

 

 

現場に到着した那美達が見たのは惨劇だった。

長く、鋭い針のような物で貫かれたいくつもの死体。

よほど混乱していたのだろう。中には、流れ弾に当たって事切れた死体すらあった。

あまりの光景に、職業柄死体には慣れているリスティすら口を覆う。

 

「いったい何が……」

「また、新たな贄が出てきたか」

「!」

 

不意に、背後から聞えてきたその声に、少女達は身構える。

振り返った彼女達の視線の先には、倒壊した歩道橋の上に立つ異形のシルエットがあった。

それは人の形をしたヤマアラシだった。

龍を模したベルトのバックルが、青く鈍い光を放っている。

眼下に広がる惨劇を引き起こしたのが、現れた異形であると直感した那美は、自分達を見下ろす異形に言葉を投げかける。

 

「あなたがこれをやったんですか?」

「そうだ。我らが再生のための礎となってもらった。神の供物となったのだ。こやつらも本望であったろう」

「神……だと?」

「そうだ。貴様らとて日本人ならば、知っていよう」

 

クククッと、ヤマアラシは異形の口を歪めて冷笑を浮かべる。

一方の那美達は、ヤマアラシの言葉が何を意味しているのか分からずに困惑していた。

やがて真雪が、

 

「お前は過激派の使いっ走りかい? お前の言っている神様は、日本の天皇のことか?」

「女ァ、それは本気で言っているのか?」

 

途端、ヤマアラシの瞳に激昂の色が浮かんだ。

 

「日ノ本の民はたかだか数百年で、偉大なる我らの神の名を忘れたというのか!?」

 

ベルトのバックルが青から闇色へと染まる。

色の変化に伴って、深々とベルトに浮き出る龍を象った彫刻。

それに気付いて、真雪、リスティ、美緒が驚愕の表情を浮かべた。

 

“ガァァァァァァァァァァアアアアアアッッ!!”

 

ヤマアラシの咆哮。

その瞬間、那美達の周囲から無数の殺気が放たれる。

見ると、那美達の周囲を20体あまりの、これまた異形の者達が囲んでいた。

それらの姿を見て、真雪、リスティ、美緒の表情がさらに強張る。

たまらず、那美が声を上げた。

 

「あなた達は何者なんですか!?」

「よかろう。冥土の土産に教えてやるっ。我らは――」

 

全員がゴクリと唾を飲む。

ヤマアラシは一拍おいて、

 

「我らは『龍』! 龍の民なり!!」

 

西洋では、世界の破滅をもたらす者の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

――海鳴市、さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

『我らは龍! 龍の民なり!!』

「嘘、だろ……!?」

 

モニターに映し出されたヤマアラシの言葉に、耕介が驚愕の声を上げる。

それは愛も同じで、普段は優しい眼差しを放つ双眸は、驚きに大きく見開かれている。

 

「そうですよ。だって、あの人達は……」

「そうだ。あいつらは確かに……」

 

 

 

 

 

――海鳴市、オフィス街――

 

 

 

 

 

「お前達は、六年前に倒したはずだ!」

 

リスティの言葉に、当時さざなみにいなかった那美と舞が絶句する。

 

「六年前? ……ああ、『泊龍』達のことか。では、お前達が」

「隠す必要はないね。そうだよ。あたし達が……」

「六年前、お前達のお仲間を倒したモンだよ」

 

美緒と真雪の言葉に、ふっと冷笑を浮かべるヤマアラシ。

 

「今日は良い日だ。よもや復活して最初にお前達のような者と戦えようとは……」

「目的は仲間の仇討ちかい?」

「……勘違いしているようだから教えてやろう」

 

言って、ヤマアラシは跳躍する。

己の毛の一本を、一振りの槍へと変えて。

 

「『泊龍』は……貴様らが倒したという者達は……」

 

 

 

 

 

「我らの中でも、もっとも下位の者達なのだよ」

 

その言葉が合図だった。

那美達を取り囲んでいた異形達が一斉に襲いかかる。

しかし、彼女達はそれに動じることなく、右手を掲げてたった一言……。

 

『三心覚醒!』

 

瞬間、彼女達の姿が光に呑み込まれる!

光の消えた時、そこに那美達の姿はない。

あったのは――――

 

「デルタレッド……ナミ!」

 

「デルタブルー……マイ!」

 

「デルタイエロー……マユキ!」

 

「デルタホワイト……リスティ!」

 

「デルタブラック……ミオ!」

 

 

 

 

 

人を慈しむ優しき想い。

 

 

 

 

 

何の変哲もない日常をともに暮らしたいという願い。

 

 

 

 

 

そして、何かを守りたいという、強い意志。

 

 

 

 

 

「三心戦隊デルタハーツ!」

 

三つの想いを背負って戦う、5人の戦士達が誕生した!

 

「レッドダガー!」

「ブルーアロー!」

「イエローブレード!」

「ホワイトブーメラン!」

「ブラッククロー!」

 

各々の武器を取り出し、猛然と戦う戦士達。

 

「たぁっ!」

 

デルタレッドのレッドダガーが敵を薙ぎ倒し。

 

「てぃっ!」

 

デルタブルーのデルタアローが光矢を放ち、敵を貫く。

 

「オラァッ!」

 

デルタイエローのイエローブレードが敵を切り裂き。

 

「はぁっ!」

 

デルタホワイトのホワイトブーメランが敵の不意を突く。

 

「うりゃぁっ!」

 

そして、デルタブラックのデルタクローに翻弄される敵達。

見事な5人の連携に、徐々に数を減らしていく異形の者達。

やがて数分もすると、20体もいたはずの異形の者達は、ヤマアラシ1体となった。

 

「……正直、ここまでやるとは思わなかったな」

「諦めて降参する?」

「いや……」

 

身を屈め、槍を構えるヤマアラシ。

 

「むしろ、その逆だ。此度の戦、存分に楽しませてもらうぞ!」

 

瞬間、ヤマアラシの体は黒き弾丸となった!

 

「なっ!?」

 

ブラックは持ち前の身軽な動きで、間一髪。その攻撃を躱す。

 

“ガァァァァァアアアンッ!”

 

ブラックの背後にあったコンクリートを貫いて、ヤマアラシは一言。

 

「参考までに言っておくが、私の脚力は時速にして200キロを超える」

 

ヤマアラシが再び弾丸と化した!

 

「真雪さんっ」

「!」

 

標的である真雪――デルタイエローの体が、弾き飛ばされる。

 

「ああっ!」

 

たまらず、苦悶の声を洩らすイエロー。

一瞬早く反応したおかげで、貫通はしていないものの、脇腹をやられて動けない。

 

(まともに食らったら、あたし達のスーツじゃ防ぎきれない!)

 

「次は、心臓だ」

 

呟き、三度弾丸と化すヤマアラシ。

容赦なきその一撃に、しかし、立ち向かう者がいた。

――デルタレッドだ!

 

「させないっ!」

 

退魔師である那美は、レッドダガーに霊力を流すことによってエネルギーを遠くまで飛ばすことが出来る。

 

「神咲一灯流、真威・桜月刃ッ!」

 

エネルギーの奔流を真横から当てられたヤマアラシは、そのまま吹き飛ばされた。

不格好な姿勢で、地面に叩き付けられる。

レッドには確信があった。

桜月刃はレッドが単独で使える最強の技だ。

本来は愛刀である『雪月』で放つのだが、レッドダガーは『雪月』のデータを基に開発されたレッド専用の武器。霊力伝達率は、雪月の比ではない。

そんな強力なエネルギーをまともに受けたのである。

立ち上がれるはずが――――

 

「……この程度か」

「!」

 

突然響き渡ったその一言に、全員が戦慄する。

平然と立ち上がるヤマアラシ。

そして――――

 

「1人ずつ殺していこうと思ったが……やはり面倒だな」

 

“ジャキッ”

 

ヤマアラシの全身の毛が一斉に逆立ち、針となる。

 

「躱してみろ」

 

無数の針が空中に放たれ、まるで雨のように降り注いだ!

身をもってその威力を知っているイエローが叫ぶ。

 

「みんな逃げろっ!!」

 

万有の法則に従って落ちてくる針。

1本や2本ならば、手負のイエローでも充分躱せる速度だ。

だが、それが十本、百本ともなれば話が変わってくる。

みなが腰に携えた共通のブレードを取り出し、針を捌いていく。

――が、間に合わない!

 

「ああああああああああああああああああああ!」

 

降り注ぐ針の雨。

特に、戦闘経験の低いブルーでは、全てを躱し、捌けるほど甘いものではない。

 

「舞っ!」

 

ブラックがブルーの援護に回ろうと走り出す――が。

 

「邪魔だ」

「なっ!」

 

何一つ抗議の声を上げること出来ず、鳩尾に拳を叩き込まれ、吹き飛ばされるブラック。

 

「くっ! サンダー!」

 

HGSであるリスティ――ホワイトの、雷撃による攻撃。

 

「無駄だ」

 

ヤマアラシが毛の1本を針に変え、避雷針にしてしまう。

 

「ムンッ」

 

すかさず接近し、ホワイトの肩を爪先で切り裂くように蹴る。

否、実際にホワイトのスーツは切り裂かれていた。

距離を取ろうとテレポーテーションで逃げようとするホワイト。

だが、ヤマアラシはそれを許さない。

 

「遅いっ!」

 

二度、三度の、相手に掠るだけの追撃。

しかし、体重の軽いホワイトを吹き飛ばし、動けなくさせるにはそれだけで充分だった。

 

「このっ!」

 

イエローが背後から斬りかかる。

 

“ギンッ”

 

「なっ!?」

 

だが所詮、手負いの身が放った攻撃だ。

体重の乗っていない一撃は簡単に弾き返され、吹き飛ばされる。

 

「う……あっ……」

 

……圧倒的だった。

ブルーとホワイトは満身創痍。

イエローとブラックは行動不能。

唯一戦闘可能なレッドも、針の雨によって、足を動かせない状況。

 

「……これで、終わりだ」

 

ヤマアラシが槍を作り、レッドの喉元に突き立てる。

 

「あ、ああ……」

 

――恐怖。

生まれながらにして生物の本能に叩き込まれた、原始的な、それゆえに強力な感情。

圧倒的な実力差を前にして、レッド――那美の足は竦みあがっていた。

指一本、動かすことも出来ない。

 

「死ね……」

 

ヤマアラシが槍を振り上げる!

 

「恭也さんっ!」

 

死の直前、那美は自身の想い人の名を叫んだ。

 

 

 

 

 

……その時、一陣の赤い風が流れた。

 

 

 

 

 

「グアァッ!」

 

苦悶の声を上げるヤマアラシ。

 

“グシャアッ”

 

誰もが、信じられぬ思いだった。

助けられた那美すらもが、その音を絵空事のように聞いている。

 

 

 

 

 

そこに立っていたのは1人の青年だった。

赤い、紅蓮の如きカラーのバイクに跨る、全身黒尽くめの青年。

ヤマアラシの手首を握り潰し、怒りの形相を露わにしている。

サングラスに隠されたその顔に、那美は見覚えがあった。

 

「恭也……さん?」

 

そんなはずはない。

目の前の青年は、たしかに彼に似ているが、纏う雰囲気がまるで違う。

 

「な、何者だ!貴様ァッ!?」

 

ヤマアラシの問いに、青年は答えない。

そして一言、殺意と憎悪を篭めて、

 

「『龍』……貴様らだけは……許さん!」

 

ヤマアラシの胸を殴り飛ばした!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

蘇えった龍達に、彼女達は困惑した。

現われた青年に、彼女達はとある青年の面影を重ねた。

変貌する青年の姿に、彼女達は驚愕した。

 

「……変身!」

 

次回

Heroes of Heart

第二話「漆黒」

 

 

 

 

 

 

 

設定説明

 

 

“バラノイア戦争”

 

1999年〜2001年にかけて、地球人類と最強のマシン帝国『バラノイア』との間で勃発した惑星間戦争。

絶対的な軍事力を背景にしたマシン帝国の侵攻は激しく、一時は地球制圧という最悪の事態まで招いたが、2年にわたる戦闘の末、人類はこれに勝利した。

この戦争以降、地球に対する宇宙からの侵略はめっきり減少した。

 

 

 “特殊機関さざなみ”

 

バラノイア侵攻の際、それまで地下に潜伏していた数多の組織が活動を開始。

それらに対抗、及び鎮圧するために、国際空軍によって設立された組織で、初代長官は“陣内啓吾”。

本部は海鳴市のさざなみ女子寮という所に偽装されており、その地下には国守山全体を利用した基地がある。

 

 

“三心戦隊デルタハーツ”

 

特殊機関さざなみの誇る最強部隊。

国際空軍の精鋭“超力戦隊”の装備を基に開発されたデルタスーツを着用して戦う。

“超力戦隊”をモデルにはしているものの、テトラヒドロンエネルギーを動力としていない。

現在のメンバーは、

 

デルタレッド→神咲那美

 

デルタブルー→我那覇舞

 

デルタイエロー→仁村真雪

 

デルタホワイト→リスティ・槙原

 

デルタブラック→陣内美緒

 

全盛期には10人以上ものメンバーがいたが、最近は外宇宙からの侵略が沈静化し始めたため、規模の縮小が目立つ。

ちなみに各スーツの特徴としては、

 

デルタレッド……指揮官仕様。他のスーツと比較して通信機能が大幅に強化されている。また那美の体質に合わせて退魔戦闘にも特化している。

 

デルタブルー……遠距離戦闘特化仕様。射撃戦闘を補助するための高精度センサー等が装備されている。

 

デルタイエロー……近接戦闘特化仕様。特に腕力の強化が著しい。

 

デルタホワイト……HGS能力者特別仕様。リスティの体質に合わせた特別仕様。

 

デルタブラック……高速戦闘特化仕様。極小マイクロチップサイズのサーボモーターが各部に搭載されている。

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

どうも、タハ乱暴でございます。

Heroes of Heart第一話、お読みいただきありがとうございました。

クロス作品の答え、特撮ヒーロー全部(笑)。

正確には特撮とのクロスではなく、特撮ヒーロー達の戦いは本当にあったことで、その世界の上に、とらハの世界を置いたって感じです。

具体的には、仮面ライダー、スーパー戦隊路線がメインで、そこにウルトラマンが介入してます。まぁ、あとはその他作品が細々と。そして、そんな世界を舞台に、特殊機関さざなみの三心戦隊が戦い、色々な事が起きるわけです。

この作品を書くにあたって、漫画家、長谷川祐一先生の「すごい科学で守ります(NHK出版)」という本を読んでいます。むしろ、そちらの方を読んでいただけたら分かりやすいと思います(イカンッ!宣伝になってしまった!)。






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