前回のアレの続きです。

前回のアレを読んで不快な思いをされた方は、飛ばして次の話を読んでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、飛ばして読んで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、本当に飛ばした方が身のためだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも読むというのなら、止めないけど……そうか。それならば、これだけは言っておくぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テレビを見るときは部屋を明るくして離れて見てね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――聖ヨト暦三三〇年、コサトの月、緑、よっつの日、昼。

 

民子が泣いていた。

吾郎も泣いていた。

爆炎が二人の頬を照らす。

オレンジ色の火が、二人の悲しみを朱色に染め上げる。

そして無慈悲な魔人達は……地下の爆発の結果、瓦礫と化した倉庫に向かって、高笑いを捧げていた。

「ふははははっ、伝説の悪鬼OTAKUも口ほどにない! OTAKUは滅んだ。もう、ナイトメア団の理想を止められる者はいないのだ!」

ゴマフアザラシ男の哄笑に呼応して、魔人達の口からも歓声が、嘲笑が迸る。

勝利の愉悦に浸るナイトメアの魔人達を、民子と吾郎の姉弟が恨みの篭もった眼差しで見つめている。

そんな二人の目線を、ゴマフアザラシ男はむしろ嬉しそうに受けた。

「絶望しろ、人間よ! その絶望が悪夢を生み、未来への希望を、未来への夢を奪うのだ。心安らかに過ごせるのだ!!」

ゴマフアザラシ男は声高に叫んだ。

その笑い声が、民子から、吾郎から、希望を奪い、夢を奪う。

夢見る心は曇り、二人のドリーム・パワーが見る見る弱くなっていく。

ドリーム・パワーの減少を肌で感じつつ、ゴマフアザラシ男は笑い続けた。

 

 

しかし、その笑いは、長くは続かなかった。

ゴマフアザラシ男の高笑いは、別な音によってかき消される。

風が泣いていた。

空が叫んでいた。

突如として神殿に木霊する大気の絶叫に、ゴマフアザラシ男が、ナイトメアの魔人達が、そして民子と吾郎が瞠目する。

聞こえてきた爆音は、有限世界では絶対に鳴らないはずの音。

機械文明ではなく、エーテル技術文明に頼るファンタズマゴリアでは、ありえないはずの音。

しかしそれは確かに聞こえてきた。

それは確かに存在した。

民子の耳朶を、吾郎の耳朶を打ち、魔人達の目線を釘付けにした。

龍の神殿へと続く九四段の石段の下。下方より聞こえてきたその音に、みなは一斉にそちらを振り向く。

そして見た。

赤と白のコントラストがまぶしいシルエットを。

そして聞いた。

水冷式四ストローク並列四気筒のエンジンが生み出す、一〇〇馬力の轟音を。

ドリームCB1300。日本が世界に誇る自動車メーカー……ホンダが生んだ、夢を追うオートバイ。有限世界には、存在しないはずのマシン。

「な、何なのだあれは!?」

ゴマフアザラシ男が絶叫した。

有限世界の住人から生み出されたナイトメア・モンスターは、恐慌に表情を歪めた。

鉄で出来た猪が自分達の方へと向かってくる光景は、彼に得体の知れないものに対する恐怖を感じさせた。

「ええいっ、手投げ炸裂弾を投げろ!」

あれは敵だ。敵に違いない。

恐怖からそう判断したゴマフアザラシ男は、部下のモーニングナイト達に命じた。

モーニングナイト達にとっても、得体の知れないオートバイの存在は恐怖だったのだろう。彼らはゴマフアザラシ男の命令に疑問も挟まず、一斉に手榴弾を階段の下へと投げた。

 

“BAKOM! BAKOM! BAKOM!”

 

手榴弾の炸裂音が、旧市街に響き渡る。

爆発の炎と衝撃波、炸裂する破片が、CB1300に襲い掛かる。

しかし謎のCB1300は構わずに突き進んだ。

「ええいっ、何をしている? あいつの未来位置を予想して投げろ!」

CB1300の進行方向に、手榴弾が投下された。

瞬発式信管が組み込まれていたか、地面に叩き付けられるや次々と手榴弾が爆発する。

しかしCB1300は、前方から襲ってくる暴力の嵐に慌てることもなく、前輪を上げ、ウィリー状態で疾走するや、後輪のサスペンションに弾みをつけ、そして跳んだ。

「なっ!?」

跳躍して手榴弾からの攻撃を避けたCB1300は、着地と同時についに石段を踏む。

ゴマフアザラシ男は戦慄した。

ようやく、向かってくる鉄の猪に、誰かが乗っていることに気が付いた。

――なんだ、あれは!?

ゴマフアザラシ男が抱いた疑問は、魔人達全員の疑問でもある。

突進してくるCB1300に騎乗するその者……身体の輪郭からして男には間違いない。だがその装いは異質にして流麗。白いマントをたなびかせる姿は有限世界に現存するいかなる騎兵よりも勇ましく、身に纏いし銀色の服は有限世界のいかなる衣装にも増して神々しい。

顔は見えない。男の顔は、仮面に覆われていた。バイザータイプの黒いゴーグルを備えたフルフェイスのヘルメットで、額には……何を意味するのか、“D”という金色のモニュメントがあった。

畏敬。

ゴマフアザラシ男は、向かってくる敵に対し、思わずその感情を抱いてしまった。

荘厳に輝く銀色の戦士は、ゴマフアザラシ男の知るどんな偉人よりも輝いて見えた。

モーニングナイト達の攻撃の手が止まる。手持ちの手榴弾が尽きたのだ。

いまが好奇とばかりにCB1300は加速し、あっという間に石段を登り切った。

そして、魔人達の群れに向かって突進する。

群がるモーニングナイトを次々と蹴散らし、囚われの民子と吾郎を、魔人達から引き離す。

CB1300で時に跳ね飛ばし、時に轢き、時にウィリーからの前輪アタックで、魔人達を混乱させ、連携らしい連携を封じる。

卓越した機動力を以って敵陣に奇襲を仕掛け、その衝撃力を以って敵陣を混乱の坩堝とする。その戦い方は、騎兵の運用を知る者であればこそ出来る戦法に他ならない。

あの銀色の戦士は、騎兵戦闘の経験があるのか。

民子と吾郎を拘束する魔人が一人もいなくなったのを見て、頃合良しと定めたか、銀色の戦士は二人の姉弟の前でCB1300を停車した。

「怪我はないか?」

その問いが自分達に向けられたものだと、茫然とする民子が気付いたのは数秒後のことだった。

こくこく、と頷く彼女に、その男は言葉を重ねる。

「そうか、よかった。……安心してくれ。もう大丈夫だから」

銀色の戦士はそう呟くと、CB1300から降りた。

バイクに乗っている時は気付かなかったが、よく見ると不思議なデザインのベルトをしている。バックルが、とにかく大きい。中央の部分に丸い穴が開いており、上部にも穴がある。もっとも、上部の穴は長方形型だ。それも、縦幅が極端に狭い。まるで現代世界にあるカードリーダーのようだ。左右にはそれぞれ青と赤のボタンが付いている。

ベルトの左右には長方形型のパウチを留めている。いったい何が入っているのか、民子にも、吾郎にも、ましてナイトメアの魔人達にも想像がつかなかった。

「き、貴様は何者だ!?」

ゴマフアザラシ男が叫んだ。

銀色の戦士が、二人の姉弟からゆっくりと目線をそちらに向ける。

いたって隙だらけ。いたって緩慢な動作。

絶好のチャンスにも拘らず魔人達が攻撃を控えたのは、銀色の戦士が発する圧倒的なオーラに気圧されてのことだ。

ドリーム・センサーを使わなくてもわかる。

この銀色の戦士のドリーム・パワーは、異常だ。

銀色の戦士は、右手を高らかに掲げた。

左手は腰元に、両脚は肩幅よりやや広く。

白いマントが翻る。

「誰だ、誰だと俺を呼ぶ。お前は誰だと貴様が問う。……そんなに知りたきゃ教えてやる!」

銀色の戦士は、声高に宣言した。

己の名を。己の使命を。ナイトメア団への宣戦布告を。

「俺の名は、愛の戦士! マスクド……D!!!」

 

 

 

 

 

永遠のアセリア

-The Spirit of Eternity Sword Another Story “Twin Edge of Protection”-

第一・五章「開戦前夜」

Episode35……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改め

 

 

 

 

愛の戦士 マスクド・ドリーム

第一話登場、愛の戦士!

 

 

 

 

 

OPソング「誰だ!? マスクド・ドリーム」

 

誰だ 誰だ 彼は誰だ!?

僕らの街の イカスやつ

どこだ どこだ 敵はどこだ!?

僕らの街を 汚す悪魔

 

見知らぬ星の空の下

誰かの悲鳴が響く時

光の速さで駆けつける

 

叩け 悪魔を ドリーム・パンチ

砕け 悪魔を ドリーム・キック

いまだ トドメの ドリームバズーカ

 

誰だ 誰だ 彼は誰だ!?

俺は 俺は 俺はドリーム

愛の戦士 マスクドD

 

 

誰だ 誰だ あれは誰だ!?

みんなの夢を 守る猛者

誰だ 誰だ あれは誰だ!?

みんなの愛を 守る猛者

 

見知らぬ星の空の下

正義を呼ぶ声轟けば

どこからともなくやってくる

 

斬れ 悪魔を ドリーム・カット

討て 悪魔を ドリーム・シャワー

いまだ トドメの ドリームエンドレス(夢は、終わら、なーい!)

 

誰だ 誰だ 彼は誰だ!?

俺は 俺は 俺はドリーム

愛の戦士 マスクドD

 

D D 我らのD

D D 夢のD……

 

 

 

愛・夢変身!

 

 

 

 

 

――聖ヨト暦三三〇年、コサトの月、緑、よっつの日、昼。

 

愛の戦士。マスクドD

そう名乗った銀色の戦士は、ナイトメアの魔人達と対峙した。

敵はゴマフアザラシ男率いる一〇〇人近い兵。この中には負傷者が含まれているとはいえ、相手は人知を超えた魔人達だ。戦力差は誰が見ても明らかだ。

しかしマスクドDは微塵もたじろがなかった。

それどころか、彼は居並ぶ魔人達に向かって言い放つ。

「己の理想を押し付けるために無辜の民を襲い、無関係な姉弟を苦しめ、あまつさえラキオス一の美男子! そう、ラキオス一の美男子、桜坂柳也を爆殺せんとしたナイトメア団! ……絶対に、許さん!」

「おい待て! 最後のには物申すぞ! あの男、そんなにいい男だったか?」

「問答無用!」

背後の二人に「離れていろ」と、短く告げるや、マスクドDは眼前の敵に向かって、敢然と立ち向かっていった。真っ向から。

一〇〇人近いモーニングナイトは、馬鹿正直にも真正面から向かってくる敵に対し、包囲殲滅の構えで迎撃する。向かってくるたった一人の敵をわざと迎え入れ、抜き差しならない状況にまで引き寄せてから、包囲する。

純軍事学的にはあまりにも正しい、教科書のような戦い方。

だが、この戦場においてその作戦は愚作でしかない。

魔人達が迎え撃つ敵はあまりにも強大で、その力は、絶大だった。

マスクドDが放ったたった一撃の鉄拳で、一度に二体のモーニングナイトが撃破される。

続いてローキックとハイキックの連続攻撃。ローで相手の足下を崩し、ハイで相手の急所を打つコンビネーションは、しかし最初の一撃からして必殺の威力を有していた。

一体が倒れ、その転倒に巻き込まれたもう一体が、頭部に直撃を受けて絶命する。

と、その直後、マスクドDの背後を別なモーニングナイト達が取った。

それぞれめいめいの武器を構えた彼らは、必殺の一撃を叩き込むべく、同士討ち覚悟で強襲する。

しかしマスクドDは、そんな彼らの企みを始めから見抜いていた。

「ドリーム・バックアタック」

そう短く叫ぶや否や、背後から襲い掛かる槍遣いに向かって飛び込むようなバックステップ。間合いを一気に詰められた槍遣いは、得意の得物を振り回す余裕さえ与えられず、裏拳の一撃に倒れ伏す。

「ドリームチョップ!」

さらにマスクドDは仲間の無念を晴らさんと、次々と襲ってくる剣士達の白刃に真っ向から応じる。

マスクドDの作った手刀は、魔人達の持つどの刃よりも硬く、強靭で、鋭利だった。

たちまち戦場には無数の鋼鉄片が飛び散る。

さらに手刀の圧倒的な切れ味は、武器だけでなくその使用者の命まで斬割した。

「とはいえ、武器を持った相手にいつまでも素手は辛いな」

マスクドDは低く呟いた。

次の瞬間、彼は跳躍一閃、跳び蹴りの一発で数体の魔人を一気に薙ぎ倒すや、いったん敵から距離を取った。

敵との間合いが開き、彼はこの機にベルトの右のパウチを開けた。パウチはボタン式で、白いボタンを一度押しただけで開いた。マスクドDは親指と人差し指だけを差し込むと、中から一枚のカードを取り出した。

そしてそれを、ベルトのバックル上部のカードリーダーに挿入する。

Dream is fulfilled. Come on Masked rider KUUGA TITAN’s weapon. Cord TITAN sword.

次の瞬間、ベルトの穴という穴、隙間という隙間から、電子音が漏れた。

バックル中央の丸い穴から光芒が溢れ、なんということか、中央の穴から剣の柄が出てきた。両手剣サイズの柄で、鍔は何かの象徴か、三日月のように上へと釣り上がっている。

マスクドDは躊躇うことなくその柄に手を添えると、一気に引き抜いた。

紫色の刀身が、陽の光を浴びて怪しく輝く。両刃の両手剣だった。

マスクドDは片手一本でそれを握ると、再び敵陣へと突入した。

群がり、襲いくる敵に向かって一閃、また一閃と、紫刃を振り回す。

一閃一殺。

気が付けばナイトメアの魔人達はその数を半数にまで減らしていた。

「いっぺんに串刺しにしてやる」

マスクドDが、再び右のパウチを開け、カードを取り出す。

バックル上部のカードリーダーに挿入するや、またも電子音が鳴った。

Dream is fulfilled. Start up Masked rider KUUGA TITAN’s finish blow. Cord CALAMITY TITAN.

ベルト中央の穴から、圧倒的なエネルギーの奔流が迸った。

魔人達がこれまでに感じたこともない、ドリーム・パワーだ。

「ドリーム・パワー3万五〇〇〇……四万……四万五〇〇〇……五万……ま、まだ上がるのか!?」

圧倒的なマスクドDの戦闘力を垣間見て、慌ててドリーム・センサーを引っ張り出したモーニングナイトが悲鳴を上げた。

五万ドリーム・パワーといえば、彼らの上司ゴマフアザラシ男よりも強力なパワーだ。

「せいッ」

裂帛の気合が、マスクドDの口から迸った。

膨大なドリーム・パワーの奔流を刃に宿した紫の剣が、敵に向かって突き出される。

その流麗かつ繊細、無駄のない素早い動きを、避けられる魔人は存在しない。あっという間に三体の魔人が串刺しになった。

「……これが、仮面ライダークウガ・タイタンフォームの必殺技、カラミティタイタンだ」

マスクドDが呟いた。

次の瞬間、紫の剣……タイタンソードに集束していたドリーム・パワーが、一気に炸裂した。

刀身から溢れ出したエネルギーが爆発を呼び、大気が悲鳴を上げる。

串刺しにされたモーニングナイトは勿論、エネルギーの余波を受けた十数体の魔人が一度に消滅した。

「……ふぅ」

自身爆発の中心にいながらも、傷一つ負っていないマスクドDは、残心の後、タイタンソードの刀身を中央の穴へと突き刺した。まるで鞘に納めるように、タイタンソードはするすると消えていった。

タイタンソードを納刀したマスクドDは、残った魔人達を振り返る。

残る敵は十体足らず。しかもいままでのマスクドDの戦いぶりを見て、みな戦意を大きく削がれている。

「一対多なら、こいつに限る」

マスクドDはみたびベルトのパウチを開けた。

目の前の敵がパウチを開けた時はすなわち自分達が死ぬ時。

恐怖にかられたモーニングナイト達は、ナイトメアの理想も使命も忘れて踵を返した。

「逃がすか」

マスクドDは取り出したカードをリーダーに挿入した。新たな武器を呼ぶカードだ。

Dream is fulfilled. Come on Mobile suit WING GANDAM ZERO CUSTOM weapon. Cord Twin buster rifle.

バックル中央の穴が、三度目の輝きを放出した。

タイタンソードに続いて出現したのは、一挺のライフル銃だった。しかし、現代世界に現存するいかなるライフルとも違う。

そのライフルは銃口が横に二つ並んでいた。そればかりか、中央のところで分解でき、二挺のライフルとしても使うことが可能だった。マスクドDは迷うことなく一挺だったライフルを二挺とし、二挺拳銃ならぬ二挺小銃のいでたちで、大地を蹴った。

奇跡が起こったのは、マスクドDが跳躍したまさに次の瞬間だった。

白くたなびくマントは突如として金色の霧となり、やがて光の粒子を放ちながらその形態を変えていった。

翼に。猛禽類の翼に。

翼を得、空を飛ぶ力を得たマスクドDは逃げるモーニングナイト達の頭上へと舞った。

空中で静止すると、二挺のライフルの銃口は下に、トリガーを引き絞る。

ライフルの銃口からは、光芒が溢れた。

二挺のライフル……ツインバスターライフルが放つのは鉛の弾丸ではない。成形炸薬弾でもない。二挺のライフルが撃ち放つのは、溢れんばかりの光芒。超高熱を伴うレーザーだった。

マスクドDはその場で回転を繰り返した。

マスクドDが回る度に、地上を焼くレーザー光線も回る。

レーザーの雨は魔人達の焼き殺し、膨大な熱量はその肉体を跡形もなく蒸発させる。

やがてマスクドDが回転を止めた時、戦場にはあれほどいたモーニングナイトの姿は一つもなく、ゴマフアザラシ男と、民子、吾郎の三人しかいなくなっていた。

 

 

マスクドDの両脚が再び地面を踏みしめた時、彼の背中に、白い翼はなかった。

ツインバスターライフルもない。

白いマントをなびかせて、マスクドDはゴマフアザラシ男と向かい合った。

「……なるほど。それが貴様の夢か」

ゴマフアザラシ男が呟いた。

マスクドDが頷く。

「ああ。この世界に生きるたくさんの人々、みんなが思い描く夢。それが俺の力の源であり、俺の武器であり、俺自身でもある」

「世界に生きる人々の、か……」

ゴマフアザラシ男は、ふっ、と冷笑を浮かべた。

「その力はどれほどだ? たくさんの人々の力とやらは? 六万か? 七万か?」

「一〇万ドリーム・パワーだ。そして、まだ上がる」

「そうか…」

ゴマフアザラシ男が腰を低く沈めた。

突進の予備動作。いきなり全力の一撃で攻め込むつもりだ。

手加減や下手な小細工は命取りになる相手と、マスクドDを認めた証だった。

「いくぞ!」

轟、と、風が嘶いた。

ゴマフアザラシ男が、一陣の風となって吹きすさぶ。

流派を問わず、格闘家の多くは一様に言う。『相撲は強い』と。

力士の脂肪は運動不足によって生じる脂肪とはまったく違う。鍛え抜かれた上で生じた、硬い脂肪なのだ。また、狭い土俵の中で発揮される力士の瞬発力はあらゆる格闘技の中でもトップクラスのスピードを有する。力士の巨体から生み出される体当たりは、衝撃力が一トンを超えることも珍しくない。

ゴマフアザラシ男の肉体も同様だ。彼の持つ脂肪は肉の鎧であり、その巨体を支える健脚は、陸上動物最速のチーターをはるかに凌駕する。

巨躯と、突進力。この二つの要素が絡み合って生まれる体当たりの衝撃力は、乗客を満載した電車が時速二〇〇キロで突っ込んできた際の威力に等しい。

それだけの一撃を叩き込めば、脅威の一〇万ドリームの男とて大ダメージは必至なはず。

ゴマフアザラシ男はそう考えて、我武者羅に突進した。

そんなゴマフアザラシ男の攻撃を、マスクドDはひらりと避けた。

避けた、はずだった。

結果は違った。

直撃こそ免れたものの、暴走列車のようなゴマフアザラシ男に跳ね飛ばされ、その身体は宙を舞ってしまう。

「……ぐぅっ」

ここにきて、マスクドDの口から初めて苦悶の声が漏れた。

「D――――――!」

吾郎少年が悲鳴を上げた。

地面に叩きつけられたマスクドDのもとに、慌てて駆け寄る。

「D、大丈夫!?」

「む、うぅぅ……ああ。大丈夫だ、少年」

「いったいどうしちゃったんだよ、D?」

吾郎少年が心配そうに訊ねた。

先ほどまで鬼神の如き強さを振りかざしていたマスクドDが、なぜ先ほどの一撃を避けられなかったのか。

吾郎少年の問いに答えようとしたマスクドDは、第二撃を加えようと突進するゴマフアザラシ男の姿を視界に映じて、慌てて彼を突き飛ばす。

自らも回避運動を取りながら、彼は吾郎少年に向かって叫んだ。

「どうやら、先ほどの雑兵相手の戦闘でドリームを使いすぎたらしい!」

「え、どういうこと?」

吾郎少年がまた訊ねる。

その間にも、三撃、四撃と、熾烈な体当たりの猛攻がマスクドDを襲う。

マスクドDはその攻撃をギリギリのタイミング避けながら、果敢に反撃を試みた。

反撃を試みながら、彼は吾郎少年に言い放った。潔い説明口調だ。

「私は、世界中に生きるみんなの夢を叶えようとする力……ドリーム・パワーを集めて戦っている。このドリーム・パワーを呼吸とともに集める器官が“ドリーム肺”、集めたドリーム・パワーを溜め込んでおくのが“ドリーム胃”、貯蔵しておいたドリーム・パワーを消費して攻撃力に転換するのが“ドリーム心臓”だ。

いま、私の中のドリーム胃は、ほとんど空近い状態になっている。先ほどの戦いで飛ばしすぎたためだ」

「だったら、もう一度、ドリーム肺でドリーム・パワーを溜めれば……」

「そうしたいのは山々だが……」

ゴマフアザラシ男の攻撃パターンが変わった。

マスクドDが弱体化していることを知り、格闘戦に持ち込もうと果敢に手を、足を伸ばしてくる。

ゴマフアザラシ男のパンチを時に受け止め、時に流し、時に捌いていくマスクドDだったが、次第にその動きには精彩さが欠けていった。

「こう、激しい攻撃の合間の短い呼吸では、僅かなドリーム・パワーしか集められない。僅かな力では、回避運動だけで消費しきってしまう」

「それじゃあ、どうすれば……」

「せめて私がドリーム深呼吸をするだけの時間か、私自身のドリーム・パワーを喚起させるような物か、出来事があれば……」

「そんな時間は与えんし、そんなものもない!」

ゴマフアザラシ男の攻撃が、ついにマスクドDの身体を捉え始めた。ディフェンスをすり抜けて攻撃がヒットする増え、マスクドDはさらに体力を消耗させていく。

銀色の戦士は、徐々に追い詰められていった。

「くっ……」

「D……」

「何かないの? 何か……?」

民子が必死の形相で周囲を見回した。

しかし聡明な彼女はすぐに自分の努力が無駄だということを悟る。

マスクドDのドリーム・パワーを喚起させる。それはすなわち彼の夢見る心を刺激するということだ。しかし銀色の戦士と民子達とは今日が初対面。彼がいったい何を好み、何を嫌うのかも知らない現状では、マスクドDの心を揺さぶるなどそれこそ夢物語だ。

それでも、民子は探した。探さざるをえなかった。目の前で繰り広げられる壮絶な戦いを前にして、何かしていないとどうにかなってしまいそうだった。

「ああっ!」

吾郎が悲鳴を上げて、民子は反射的にそちらを振り返った。

ゴマフアザラシ男のハンマーパンチを米神に受け、マスクドDが転倒してしまったのだ。

その光景を見た瞬間、民子の脳裏に、ほんの数分前の柳也とゴマフアザラシ男の戦いの様相が蘇った。

あの時、柳也もまたゴマフアザラシ男のハンマーパンチに米神を叩かれ、脳を揺さぶられ動けなくなったところを、執拗に痛めつけられた。いままた、それと同じ光景を自分は見なければならないのか。

うつ伏せに倒れたマスクドDの背中を、ゴマフアザラシ男は踏みつけた。

ほんの数分前、柳也にしたのと同じように、何度も、何度も、相手を踏みつける。

「やめろ――――――っ!」

吾郎が叫んだ。

叫びながら、ゴマフアザラシ男に向かっていた。

「やめなさい、吾郎」と民子が叫ぶも、もう遅い。

戦いの邪魔をする吾郎を排除するべき対象と見なしたゴマフアザラシ男が、無造作に腕を振り上げる。

向かってくる吾郎を、本気で叩き飛ばすつもりだ。勿論、ゴマフアザラシ男の腕力でそんなことをすれば、叩き飛ばすどころの威力ではない。子どもの吾郎は間違いなく死に至る。

「来るな、少年!」

マスクドDも叫んだ。

残されたすべてのドリーム・パワーを使い、上に乗るゴマフアザラシ男を跳ね除けようとした。しかし、いまの彼に残された力では、そうすることは出来なかった。

ゴマフアザラシ男の鉄拳が、近付く吾郎に振り下ろされる。

民子が悲鳴を上げた。

マスクドDが絶叫した。

吾郎少年の顔が、恐怖に歪む。

そして、時間の波が、歪曲した。

Full charge!】

閃光の斬撃が、ゴマフアザラシ男の腕に炸裂した。

ゴマフアザラシ男の身体から火花が飛び散り、体勢が大きく崩れる。

マスクドDがこの好機を逃すはずもなく、彼は残るすべての力を以ってゴマフアザラシ男を跳ね除けた。

「うおっ!」

突然、マスクドDに起き上がられ、今度はゴマフアザラシ男が転倒した。

慌てて起き上がったゴマフアザラシ男は、本日何度目になるか分からない驚愕を覚えた。

「お、お前は……!?」

ゴマフアザラシ男の眼前には、マスクドDと、吾郎と、もう一人、別な戦士が立っていた。

ジャングル戦仕様の迷彩色の装甲を備えた、虹色の仮面騎士だ。その威容は心なしかムササビの意匠を拵えているように見える。

「俺か? 俺は通りすがりの仮面ライダーだ」

虹色の仮面騎士はそう言って、吾郎少年の肩に回した腕を解いた。

ゴマフアザラシ男の平手が吾郎少年に炸裂する寸前、彼を助けたのが、この仮面騎士だった。

「仮面ライダー夢王。別世界の俺がちょっとやばそうだったから、助太刀に来たぜ」

「別世界、だと?」

「そういうこと♪ 詳しくは聞かないでねん。女は、ミステリアスな方が魅力的なんだから」

仮面騎士……仮面ライダー夢王は、腰をくねらせて言った。二重人格なのか、先ほどとはまるで違う態度と物腰だ。

吾郎少年、民子、ゴマフアザラシ男の背筋に怖気が走った。

マスクドDだけが、平然としていた。

夢王はマスクドDに向き直る。夢王は何やら手に持っていた一冊の本を銀色の戦士に手渡した。

「むっ、その本は!?」

「俺が出来る手助けはここまでだ」

「あとは自分の力で頑張ってね、ダーリン」

「ああ。わかった」

マスクドDは力強く頷くと、渡された本を開いた。カラフルな装丁が目にまぶしい雑誌だ。表紙にはブルマ姿の小さな女の子がセクシーなポーズを取っている写真がでかでかと掲載されている。また表紙には、『熟女白書』とタイトルが大きく書かれていた。エロ本だ。しかも熟女専門の。

「……おい。まさかそのエロ本で夢見る心を喚起するつもりではあるまいな!?」

ゴマフアザラシ男が訊ねた。正義の味方としてそれはあまりにもアレな展開だろう、という気持ちが口調に滲んでいる。

「勿論、そのつもりだ!」

そう言って胸を張ったのは仮面ライダー夢王だ。

読者の中にはこの男もまた変態だということを知っている人もおられるかもしれない。

「ふお、ふおおおおおおおお! ふおおおおおおお―――――――!!!」

『熟女白書』のページを一ページ捲った瞬間、マスクドDの肉体から、かつてないドリーム・パワーが放出された。

『熟女白書』が彼の夢見る心を揺さぶり、圧倒的なドリーム・パワーを引き起こしたのだ。

「ま、待て。こんな展開、正義の味方としてアリなのか――――――!?」

「……まぁ、正義の味方っていうか、ただの変態だわな」

夢王はそう呟くと、たっ、と踵を返した。

「じゃあ、あとは任せたぜ。……俺」

その小さな呟きを聞くことが出来たのは、この場に何人いただろう。

夢王のささやかな呟きは、マスクドDの雄叫びにかき消され、霧散する。

そしてマスクドDは、『○ぶモード』を読んだことで発生したドリーム・パワーに加えて、夢王の参上によって得られた間隙を有効に使う。

「ドリィィィィム、ディィィプ、ブレェェェスゥ!!!」

深く。深く。

息を吸い。世界に満ちるドリーム・パワーを吸う。

その圧倒的なエネルギー量! 絶対的なエネルギー量!

「ぐぐぐっ、この力は……」

ゴマフアザラシ男が怯んだ。

最強のナイトメア・モンスターをして恐怖を覚えるほどのドリーム・パワー。

それは……

「一〇万どころの騒ぎじゃない。この力は、一〇〇万ドリームの……」

「いくぞぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお―――――――――――――ッッ!!!!!」

マスクドDが、左のパウチを開けた。

右のパウチを開けた時と同じように、一枚のカードを取り出し、バックルにインサートする。

Dream is fulfilled. Start up Masked Dream’s finish blow. Dream Bazooka.

ベルトのバックルが、かつてない光を放った。

額のDの紋章が、七色の閃光を放った。

マスクドDは両腕を真っ直ぐ前へと突き出した。

光り輝く指先の描く軌跡が、空のキャンパスに奇跡を描いた。

右手は上へ、左手は下へ。それぞれ時計回りに半弧を描いた指先が、日輪を作った時、空間が歪み、円の中から、巨大な兵器が飛び出した。

現代世界において、バズーカ砲と呼ばれる肩撃ち式の対戦車兵器によく似たシルエットの武器だ。ただし、砲口径を始めとするその寸法は、通常のバズーカ砲を大きく上回っている。

いわゆるバズーカは第二次世界大戦に開発された内径2.36インチ(60mm)のM1、M9ロケット発射機のことを指す。朝鮮戦争で活躍し、わが国の陸上自衛隊にも給与されたスーパー・バズーカの愛称を持つM20ロケット発射機でも口径は3.5インチ(89mm)だ。

しかしマスクドDが召喚したバズーカは、口径だけで二〇センチ近くあった。口径が二〇センチといえば昔の巡洋艦の主砲並だ。当然、口径に比して他の寸法も長大なものとなっている。その重量、ゆうに六〇キロは下るまい。

彼は右腕一本でバズーカのグリップを掴むと、軽々とそれを担ぎ上げた。重さをまったく感じさせない動きだ。

さらにマスクドDがそれを右肩に担ぐと、ちょうど彼のバイザーの補助するような位置に、光学式照準器が出現した。彼は照準規制目盛の十字線に敵の姿を重ねると、力いっぱいトリガーを引き絞った。

「食らえっ、ドリームバズーカ!」

Dream is fulfilled !】

夢は叶う、と、電子音が響いた。

次の瞬間、バズーカの砲口から、まばゆい光芒と、凄まじいドリーム・パワーが飛び出した。

超高出力のレーザー。一〇〇万ドリームの超兵器……ドリームバズーカの光が、ゴマフアザラシ男を飲み込んだ。

 

 

世界に存在するすべてのものが白銀の光に包まれ、世界に存在するすべての色が意味を失った。

虚無の時間はほんの一瞬。

訪れた静寂もほんの一瞬。

世界中の夢を叶える力が集まって生まれた破壊の光がすべてのものを薙ぎ倒した後、龍の神殿は、朱色の光に照らされていた。

夕焼けが、その場に立つ四人の影を長く、細く、引き伸ばす。

マスクドDと、民子と、吾郎と、ゴマフアザラシ男。

襲いくる閃光を一身に受けたナイトメア・モンスターは、断末魔の命を必死に繋ぎ止め、白銀の戦士に問う。

最強の悪夢魔人に許された、最期の時間のすべてを使って、彼に問う。

「貴様はぁ……何者だ? マスクド……Dなどと……聞いたことが……」

「……賢者トゥアハ・ランボゥは、粘土板を彫る際に、故意に一つの名を消した。子孫達に、無用の心配を与えぬようにという配慮から、な。……『伝説の悪鬼OTAKUが窮地に立たされた時、宇宙に存在するありとあらゆる夢の化身が、OTAKUを救うために参上せん』」

「……そう、か」

ゴマフアザラシ男が、ニヤリと笑った。

笑ったような、気がした。

「わが夢、破れん」

ゴマフアザラシ男の口から、鮮血が噴出した。

仁王立ちしていた悪夢魔人の膝がくず折れる。

ゴマフアザラシ男は、前のめりに倒れた。

そして、ナイトメアに満ちた肉体は爆発した。

「男は黙って前のめり……これぞ、ドリームなラストだぜ」

マスクドDが小さく呟いた。

その小さな呟きが、戦いの終わりを告げる鐘だった。

いつの間にか夢王の姿は、消えていた。

 

 

戦いが終われば、戦士は用済みだ。

マスクドDはその場を立ち去るべく愛車のCB1300に跨った。

「待ってよ、D!」

そんな彼の背中を、吾郎少年が呼び止めた。

いつの間にか呼び名が「D」一文字になっているが、マスクドDは気にしなかった。

そんな細かいことをいちいち気にしていては、でっかいドリームの男にはなれない。

「でっかいどりーむの男?」

「気にするな、少年。……それより、トカゲロンと十体の再生怪人は倒したぞ」

「……とかげろん?」

「……いや、やはり気にするな。ファンタズマゴリア人にライダーのネタが通用しないというのは実証済みだ」

首をかしげる吾郎少年に、バイクの上からマスクドDは向き直った。

「行っちゃうのかよ?」

「危機は去った。そして、戦いが終わった。戦が終われば戦士は用済みだ」

「また、会える?」

不安そうに少年が見上げてくる。

十かそこらの子どもが命の危険に晒されて、しかも目の前で顔見知りの男を殺されてかなり不安定な精神状態にあるのだろう。

マスクドDを見上げる眼差しには、不安以上に縋るような輝きがあった。

マスクドDはそんな少年の頭に優しく手を置くと、ゆっくりと、丁寧に撫でさすった。少年の中から不安という感情を、孤独感を取り払うよう、何度も、何度も。

「再会の約束は出来ない。俺は戦士だ。戦いのある場所にしか存在を許されない男だ。俺ともう一度会うということは、そこは戦場だ。……だが、これだけは言おう。もしまた、君達に何か不幸が押し寄せてきたとしたら……その時は、必ず駆けつける」

マスクドDは力強い口調でそう言って、吾郎と、そして民子を見た。

吾郎少年ほど感情を露わにはしていないが、民子も彼に不安げな視線を送っていた。

なんといっても、目の前で一人の人間が殺されたのだ。直接命が奪われる光景こそ見ていないものの、倉庫が爆発する光景は、彼女の網膜に焼き付いてしまっている。

「……そういえば」

不意に、マスクドDが呟いた。

「あのカレーパンは美味かった。中の具だけではなく、パン生地自体にも下味があって、それでいて歯ごたえが良かった」

「え……?」

民子が茫然とマスクドDを見た。

銀色の戦士は軽く肩をすくめる。

意図は、それだけで伝わった。

「それじゃ」

マスクドDは少年の頭から手を離すと、CB1300のエンジンスイッチを押した。

たちまち、いがらっぽいエンジンの起動音が響く。

初めて見るオートバイという機械が発した突然の轟音に、二人の姉弟が一瞬身構えた。

マスクドDは小さく笑うと、夕日の彼方へとオートバイを走らせていった。

 

 

民子と吾郎はCB1300が発する黒煙の糸をいつまでも見送っていた。

やがて完全にその糸が見えなくなった時、二人の耳朶を、聞きなれた声が打った。

昨日出会ったばかりの男。軽薄で、女好きで、昨日出会ったばかりの自分達を助けるために、己の命を捨てたはずの男。

「おーい!」

夕日を背に、桜坂柳也はやって来た。

大きく両腕を振り、屈託のない笑顔で。

桜坂柳也は、帰ってきた。

 

 

死んだと思われていた男との再会。

通常ならばありえないはずの事態に、民子と吾郎は大いに驚いてくれた。

「どうして生きているのか?」。「あの爆発の中どうして助かったのか?」。矢継ぎ早に繰り出される質問の数々に、柳也は「マスクドDが助けてくれたんだよ」と、答えた。

「縄はなんとか自力で解いたんだけどな、その後の爆発からはさすがに逃げ切れなかった。

いやもう、大変だったんだぜ? 炎と衝撃波が三六〇度全方位から襲ってくるわ、くるわで。……マスクドDが助けてくれなきゃ、本気で危なかった」

柳也は努めて明るい口調で言った。

自分が健康体だということをアピールするように、わざと大袈裟に振る舞ってみせる。

そんな柳也に真っ先に駆け寄ったのは、民子だった。

「でも、本当に無事で良かったぁ」

民子は涙目になって柳也の胸に縋りついてきた。

美人の接近に、柳也は思わず頬の筋肉が緩める。

べつに美人が自分から擦り寄ってくれたという事実だけが嬉しいわけではない。

民子とは昨日会ったばかりの間柄だ。そんな彼女が涙を流して己の身を心配してくれた事実が、柳也にはなによりも嬉しかった。

他方、吾郎との再会は意外と素っ気無く終わった。

というのも、柳也の胸に飛び込んだ姉の態度を、吾郎少年はこの機を逃すまいとばかりにからかったからだ。少年はニヤニヤと笑いながら言う。

「うっわ〜、姉ちゃんってば大胆だな〜」

「ご、吾郎!」

弟にからかわれ、民子は顔を真っ赤にして、慌てて離れた。

少し残念なような気もするが、少年の頬に涙の痕跡を見取って、柳也は優しい微笑を浮かべる。

近付いてきた吾郎の頭に、柳也は右手を乗せた。

「あ……」

「吾郎も、心配してくれてありがとうな」

そう言って、努めて優しい手つきで撫でさする。丁寧に、なによりも感謝の気持ちを篭めて、何度も、何度も撫でさする。

吾郎少年は嬉しそうに微笑んだ。

「へへへ……兄ちゃんの手、でっかいなぁ。Dに撫でられているみたいだ」

そう呟いた吾郎は、ふと思い出したように口調を改める。

「ところで、結局、マスクドDっていったい誰なんだろう?」

それは純粋な疑問からくる呟きだったのだろう。

見上げられた柳也は、わずかに困った表情を作ってから、とつとつと口を開いた。

「……それは分からない。俺を助けてくれた時も、彼は自分のことについてはほとんど喋らなかったから。……ただ、これだけは言える」

柳也は地平線へと沈みゆく夕日に目線を転じた。

「マスクドDは、俺を助けてくれた。彼は、俺達の味方だ」

そう言って笑う柳也の顔は、夕日に照らされ赤く染まっていた。

 

 

万魔殿。

大広間の玉座で、竜の王は怒りの感情を露わにしていた。

「ええいっ! なんということだ!?」

守り龍の神殿の近辺に放っていた斥候の悪夢魔人の報告を受けたのがわずか五分前。伝説の悪鬼OTAKUの殺害には失敗し、あまつさえマスクドDなる新たな脅威の出現を知らせる内容に、王はその場にあった儀礼用の剣を振りかざし、魔人の首を刎ね飛ばした。

その魔人の死体はすでに片付けられ、広間には王自身と、彼の信頼する四体の魔人しかいない。

「おのれOTAKU ! おのれマスクドD! このままでは済まさんぞ……〈将軍〉、〈博士〉!」

「「はっ」」

突如として名前を呼ばれた〈将軍〉と〈博士〉は、王に向かって恭しく頭を垂れる。

自分に忠実な二体の忠臣に、竜の王は烈々たる怒号を飛ばした。

「〈博士〉は新たなナイトメア・モンスターの製造に取り掛かれ。〈将軍〉は次なる作戦のプランニングを」

「かしこまりました」

「御意に」

白衣の老人と、甲冑の騎士は命令一過、同時に頷いた。

「ただちに準備に取り掛かります」

「すべては王の理想のために」

「我らがナイトメアの理想のために」

「うむ」

自分の望む返事を得て、竜の王はようやくいくらか溜飲を下げたか、彼は満足げに頷くと、万魔殿全体を揺るがす怒号を迸らせた。

「待っていろ、OTAKU ! そしてマスクドDよ! 次こそはかならずやその仮面に隠されし素顔を暴いてみせよう!!!」

 

 

 

 

 

EDソング「夢」

 

朝焼けに燃える この星の空は

はるか遠い 故郷の空と同じ色

 

生まれた町を

はからずも離れて

寂しさに流す 孤独の涙

 

悲しい想い 仮面に隠して

今日も 守る

みんなのドリーム

朝の来ない 夜はないから

今夜も 夢を 抱いて……

眠る……

 

 

夕焼けを見つめる この星の人々は

故郷の同胞と 同じ心

 

今ははるか

遠い友達の

笑顔を偲び 涙を流す

 

悲しい顔を 仮面で隠して

今日も 微笑む

みんなのために

朝の来ない 夜はないから

今日も 夢を 抱いて……

眠る……

 

 

 

戦いに疲れ 心の渇きに

うなされて 夢見る

今日も悪夢を

それでも朝が 来ない夜はない

だから 今夜も 夢を……

抱く……

 

 

 

 

 

【ところでご主人様、毎回あのモードで戦ったら今後の戦いも楽になるんじゃないですか?】

「しっ! 読者の皆さんに正体がばれる!」

……マスクドDの正体は、永遠の謎に包まれている。

 

 

脚本

タハ乱暴

 

出演

桜坂柳也ことタケシ/桜坂柳也

〈決意〉の声/井○和彦似の声の人

〈戦友〉の声/青○ナガレ似の声の人

 

民子/真○千恵子っぽい人

吾郎/三○康晴っぽい人

 

おやっさん/小○昭二っぽい人

 

竜の王の声/納○悟朗っぽい人

ドレーバ〈将軍〉/丹○又三郎っぽい人

ガイザス〈大使〉/潮○児っぽい人

タイロン〈博士〉/天○英世っぽい人

ソーディス〈大佐〉/宮○二郎っぽい人

 

マイヨ・ナカーダ/納谷○朗っぽい人

 

リョウ・サイトウ and ゴマフアザラシ男の声/斉藤亮

 

マスクドDの声/????

 

仮面ライダー夢王の声/桜坂柳也 and パー子

 

スーツアクター

マスクドD/岡○次郎だったら良いなぁ

ゴマフアザラシ男/高○成二だったら良かったなぁ

仮面ライダー夢王/褌の男

 

 

 

企画

タハ乱暴

桜坂柳也

 

音楽

桜坂柳也

トゥァハ・ランボゥ

 

撮影

タハ・ランボー

 

照明

タ波乱坊

 

美術

タハランボゥイ

 

編集

タハ乱暴GX

 

記録

チハ乱暴

 

助監督

たーっ! 覇っ 乱暴!

 

衣装

ティハ乱暴

 

 

 

技斗

タハ乱暴邪悪

 

進行主任

タハランボージャック

 

スタントマン

タハ乱暴・アクション・クラブの皆さん

 

製作担当

タハ乱暴グレイト

 

録音

タハ肉マン

 

現像

タハ肉マンU世

 

協力

ラキオス有志の皆さん

ナイトメア団の皆さん

 

監督

タハ乱暴

 

 

 

 


<あとがき>

 

柳也「……なぁ、結局今回の話は何だったんだ?」

 

タハ乱暴「んう?」

 

柳也「いや、この話を世に出した意図がまったく伝わってこないっていうか……言っちゃあアレだけど、小説って基本、作者の世間に対するメッセージだろ? ただ書いているだけで満足するっていうんなら、公開する意味ないし」

 

北斗「うむ。前回と今回は、タハ乱暴がいったい何を訴えたかったのかがまったく分からんな」

 

タハ乱暴「う〜ん……みんな夢を持って生きよう?」

 

北斗「……頭の中に夢しか詰まっていない男らしい台詞だ」

 

柳也「つまり、頭空っぽなんだよね。……読者の皆さんこんにちは! 永遠のアセリアAnotherEPISODE:35、お読みいただきありがと……って、読んでくれた人いるのかな、コレ?」

 

北斗「分からん。分からんが、一応、やっておくべきだろう。お読みいただき、ありがとうございました」

 

柳也「今回の話はいかがだったでしょう……って、訊くまでもないか」

 

北斗「ああ。酷いな」

 

タハ乱暴「うをい! いきなりそれか?!」

 

北斗「いくらなんでも趣味に走りすぎだ。これは一応、小説という体裁を取った、物語だぞ? 物語は、物語ると書く。作者のものであると同時に、読者のものでもあるんだ。読者の存在を意識しない話は、物語とは言わん」

 

タハ乱暴「え? 意識はしたよ?」

 

北斗「……本気で言っているのか?」

 

タハ乱暴「うん。だって本気で100パーセント趣味に走ったら、もっとコアな特撮になるっぺや?」

 

柳也「あれで表現ソフトだったんだ……」

 

北斗「こいつの特撮好きは筋金入りだ。なにせ、物心ついた最初の記憶が『宇宙刑事シャリバン』のビデオだからな」

 

柳也「…………」

 

北斗「幼稚園の頃いちばん好きだった作品は、『電光超人グリッドマン』だった」

 

柳也「なるほど。筋金入りだな、こりゃ」

 

タハ乱暴「病弱だったからねぇ〜、昔は。強いものに憧れたのさ」

 

北斗「その結果、中学以降健康な身体を得たこの男は、反動で不良化した」

 

タハ乱暴「不良じゃねぇよ! 正義を愛する男だったよ!」

 

北斗「世間的にはどう見ても不良だった」

 

柳也「うん。教室から先生追い出したり、文化祭の前日にクラスメイト殴って停学もらったり、どう考えても優等生のすることじゃねぇよ」

 

タハ乱暴「あの頃は俺も若かったんだよ……さて、今回も永遠のアセリアAnotherをお読みいただきありがとうございました!」

 

柳也「同時掲載予定のEPISODE:36も読んでいただければ幸いです」

 

タハ乱暴「ではでは〜

 

 

 

 

 

 

<今回もおまけはなしの方向で>




遂にタイトルまで乗っ取られてる!?
美姫 「謎の男、マスクドDも登場……って、この正体って」
謎は謎のままが一番さ。しかし、親玉とも言うべき存在はまだいる。
彼が真に休める日が来るのかどうか。
美姫 「続くのかしら?」
どうだろう。タイトルを乗っ取った勢いで番外として登場するかも。
美姫 「こういうノリは嫌いじゃないけれどね」
さてさて、次回は本編に戻るのか、それとも。
美姫 「色んな意味で気になる次回は……」
この後すぐ!



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