――聖ヨト暦三三〇年、アソクの月、赤、ふたつの日、昼。
 
 

 グリゼフに案内されて城下に下りた柳也は、そこで展開される光景に思わず目を奪われた。

 たしかに、地球のように近代化された商業施設があるわけでもなく、流通が発展しているわけでもない。巨大な高層建築が建ち並んでいるわけでもなければ、人々の移動手段はすべて徒歩だ。それでも、間違いなくそこには、この国の人々の日常が凝縮されていた。

 ラキオス王国首都ラキオス。所属国家と同じ名前を冠するその街は、人口約四万九〇〇〇人と、ラキオス王国の総人口の約五〇パーセントもの人々が生活を送る巨大な都市だ。エーテル技術導入以前の旧市街と、導入後の新市街からなる首都圏は、ラキオス王国を支えるリクディウスの森、リュケイレムの森の両方に面しており、都市自体が国家として独立しうるだけの力を十分に備えている。

 地平を埋め尽くすように建ち並ぶ家々は石造りか木造で、なんとなく以前、旅行雑誌を立ち読みして知ったイタリアの町の景観を思わせた。タダで海外旅行に来た気分になれて、ちょっと得した気分だ。

 ――そういや、こうやってこの世界の街を歩くのは初めてだったな。

 こうして街の空気を肌で感じていると、改めて今日まで自分達が見てきたものは所詮、この世界の一面でしかなかったことに気付かされる。

 忙しく市内を駆け回る商人達。限られた青春の時間を全力で謳歌する若者達。子連れの主婦達は井戸端会議に花を咲かせ、口数の少ない職人達は己の腕一本で生きていくための金を稼ぐ……文化的な差異はあれど、本質的には何も変わるところはない。かつては柳也も故郷の惑星で毎日のように目にしてきた光景が、人々の変わらぬ営みが、そこにはあった。

 ふと視線を右に向ければ、露店に並ぶ珍しい品々に、思わず目線が留まってしまう。

 ――おう? あの小箱は、佳織ちゃんが好きそうなデザインだなぁ…

【主よ、我はあちらの人形の方も良いと思うぞ】

 ――ん? どれどれ……。

 〈決意〉に促されて視線を左に向けても、結果は同じ。

 物珍しい異世界の品々には、活気溢れる売り子達の熱意が宿っているらしく、眺めているだけでその気にさせられてしまう。

 ――ほぅ…。〈決意〉、お前、良い趣味してんなぁ。

 思わず感嘆の吐息が漏れるほど素晴らしい出来栄えのアンティーク・ドールは、おそらくこの国でも一等の職人が手間隙を惜しまず作ったものだろう。

 無一文の自分にはとてもではないが手の届かぬ値段だが、もし予算が許そうものなら、一目見てすぐに買っていたに違いない。

『……少しは落ち着いたらどうだ?』

 物珍しそうにきょろきょろと目線を移動させる柳也に、グリゼフが呆れたように溜め息をついた。

 柳也が異世界からやって来たエトランジェだということを知らない中年剣士は、まるで遊園地に連れて行ってやった小さな子どものようにはしゃぐ彼の態度が、不思議でしょうがないようだ。

 ここはお前の国だろうに……と怪訝に目が語っている。

『ん〜…あんまり街の方に降りたことはないもんで』

 グリゼフの訝しげな眼差しに気が付いた柳也は、どう説明したものかと複雑に笑った。 『これでもインドア派でね』

『あの男の弟子らしからぬ発言だな』

『言ったろ? 不肖の弟子だって』

 柳也はからからと喉を鳴らして言った。

 伸ばし放題の黒髪と日に焼けた肌は、異世界の景観に完璧に溶け込んでいる。衣服も訓練時に着用が義務付けられているスピリットの戦闘服ではなく、この世界のごく一般的な服装だから、帯に佩いた二振りにさえ目を背ければ、違和感は薄かった。実際、グリゼフも目の前の男が異世界からの来訪者だということにまったく気付いていない様子だ。

 一方、グリゼフは白昼の城下を出歩くとあってチェイン・メイルは脱ぎ、兜と盾もはずしたいでたちで、柳也を連れ立っていた。彼もまた腰から吊り下げた直剣の鞘が異質だったが、周りでそのことを咎めるものは一人としていない。

 冷静に辺りを見回すと、柳也は、街の人々は男も女も、子ども以外は多くが大なり小なりの武装をしていることに気が付いた。柳也の世界でも、江戸幕府統治下の日本や、現代のアメリカなどは、政府によってある程度の武装が認められているから、町人が武装していること自体はそう特別なことではない。

 エスペリアは、この世界の戦いは基本的に人間に代わってスピリットが行うものと言っていたが、この有限世界にも自衛の考え方はちゃんとあるらしかった。

『おい! 珍しいのは分かったから、さっさと行くぞ』

 先ほどから少し歩いては立ち止まり、また少し歩いては立ち止まるを繰り返して、なかなか先に進むことができないでいる柳也を、グリゼフは急かした。

 何に使うかも判然としない奇妙な形状の道具に目を奪われている彼の腕を掴み、無理矢理引き摺ってその場から連れ出す。

 柳也は名残惜しそうに不思議な木製道具を見つめていたが、やがてある程度離れると、しぶしぶながら自主的に足を動かし出した。

 二人は多くの人で賑わう市場を抜けると、ラキオス外周の住宅街へと足を運んだ。

 石造り、あるいは木造の建築物が建ち並ぶ林の中には、僅かにレンガ造りの住居も見て取れる。四、五階建ての集合住宅は、王城を除けばこの都市で最も背の高い建築物で、この家々の中に溶け込むかのように、目的の安宿は隠れ潜んでいるという。

 住宅街へと足を踏み入れて数分が経ち、突然、グリゼフが立ち止まった。

 怪訝に彼の横顔を見つめる柳也に、グリゼフは憮然と言い放つ。

『案内はここまでだ』

『あん?』

『命を助けてもらった恩はこれで返した。貴様は、俺たちの宿泊している宿の“辺り”まで、と言った。言われた通り近所にまでは連れて来てやったんだ。あとは自分で探せ』

『……そうさせてもらうか』

 柳也は、特に気を悪くした様子もなく歩き出した。

 グリゼフが途中でこうした強情な態度を取るであろうことは、最初から予想していたことだった。クルバン・グリゼフは誇り高い騎士である。受けた恩を返しはするだろうが、自分の仲間を裏切るような真似は絶対にしないだろう。

 柳也の予想は見事的中し、彼はグリゼフにそれ以上、何も言おうとはしなかった。どんな手段を用いたところで、グリゼフが考え方を変えるとはとても思えなかったからだ。

 旧市街に程近い、古い伝説が巣食う住宅街の通りは、今の時分、往来はめっきり少なくなっていた。

 まだ昼になったばかりということもあり、住民の多くは仕事に出ているか、もしくは昼食を摂っているのだろう。視界に映ずる人影といえば、疲れを知らない子ども達が時折よぎるくらいで、大人達の姿は一人として見当たらない。

 尾行されるのを怖れてか、柳也が歩き出しても一向に動こうとしないグリゼフの様子を見届けて、少年は京の都のように整備された住宅地の、角をひとつ曲がろうとした。

 と、その時、人気の少ない通りの曲がり角から、弾丸のように一つの影が飛び出してきた。

 出会い頭の刹那の交錯。

 あわや衝突というところでお互いに避けた運動能力、反射神経は、両者ともに尋常の手合いのものではない。

『すまぬっ!』

 振り返った柳也に、疾走者の男は謝罪も短くその場から急いで立ち去ろうとする。

 正面衝突こそ免れたとはいえ、顔も見せぬ相手の横柄な態度に柳也が腹を立てる間もなく、すでにその背中は視線のはるか彼方にあった。

 よほど急ぎの用なのか、走り去るその背中には鬼気迫るものすら感じられる。どうやら、誰かに追われているようにも見えるが…。

『モーリーン!』

 その時、不動のグリゼフが驚きの形相とともに大きな声を出した。

 曲がり角から飛び出してきた男の足がぴたりと止まり、その端正な顔立ちに驚愕が走る。

『く、クルバン様! 生きておられたのですか!?』

 モーリーンと呼ばれた男は、声をわななかせて叫んだ。

 どこかで聞いた覚えのあるその声に、柳也もようやく男のことを思い出した。一昨日、リリアナを包囲していた七人の一人だ。

『モーリーン、いったいどうしたのだ? 何をそんなに急いている?』

 グリゼフはモーリーンのもとへと駆け寄った。

『クルバン様…よくぞご無事で……』

『何が起こったのか、要点だけをかいつまんで話せ』

『は、はい。……実は、シンが裏切りました』

『何ッ!?』

 グリゼフの顔から、さっと血の気が失せた。

 よほど慌てて走ってきたのか、青色吐息の呼吸の合間に、モーリーンは短く言葉を紡ぐ。

『正確には、シンはバーンライトの間者だったのです。奴は、自分の国にとって脅威となる、リリアナ・ヨゴウを始末する目的で、我々に同行し、我々のことを利用していたのです。そして奴は……いえ、奴らは、用済みとなった我らを殺しにかかり始めました。バーンライトのスパイどもの手にかかり、デイルさんや、グレイヴ様は息絶えました。そして、シンの手によってロバート様も…』

『おのれ!』

 中年剣士の顔が、さっと朱に染まる。

 我知らずして、腰の佩刀に手が伸びた。

 曲がり角の向こう側から、タッタッタッタッ、と数人の静かな足音が聞こえてくる。

 少しだけ顔を覗かせた柳也の目に、装いも新たにした四人の一団の姿が映じた。

 三人の黒装束、そしてシンは返り血を浴びた衣服を脱ぎ捨て、肌を拭うことで殺しの痕跡を掻き消していた。しかし、どんなに装いを改めたところで、先頭をひた走る少年の血刀は、急場凌ぎではどうしようもないほど、死肉の脂と赤い汁にまみれていた。

 たった一度、剣を振るっただけでは、ああも酷く汚れはすまい。おそらくあの少年は、デイルやグレイヴ、ロバートといった人物らの身体を、何度も斬りつけたに違いない。

『おい! 連中、すぐに追い着いてくるぞ』

 柳也の鋭い声が、二人の耳朶を打った。

 柳也は二人の騎士の元に走り寄ると、モーリーンの耳元で囁く。

『走れるか?』

『お、お前はリリアナの……』

『今はそんなことを気にしている場合か! …走れるよな?』

柳也の一喝に、当然だとばかりに頷いて、モーリーンは立ち上がる。

その息遣いは規則正しく、すでに若き騎士は消耗した体力の一部を回復させたようだった。

『よっしゃ! 逃げるぞ』

『逃げるといっても、どこに行くつもりだ?』

 ずい、と一歩踏み出した柳也の背中に、グリゼフが問う。

 直後、曲がり角から飛び出す四つの人影。

 視界の端に一団の姿を捉えた柳也は、舌打ちの音も大きく、住宅街に轟くような声で叫んだ。

『スピリットの館だ!!!』

『いたぞ!』

 元黒装束の男が発した叫びは、柳也の大声によって掻き消された。

『クルバンさん…あなたも一緒ですか!』

『シン! 貴様ぁ……!』

『グリゼフ殿、相手にするな。今は、この場から無事に逃げ延びることの方が先決だ』

 脱兎の如く走り出す柳也。その後ろ姿を追ってモーリーン、そしてしぶしぶながらグリゼフも、追ってくる一団に背を向けて駆け出した。

『クルバン・グリゼフ。モーリーン・ゴフ。騎士とあろうものが、挑まれた戦いから逃げるのですか!?』

 シンの口から迸った絶叫が、グリゼフの、そしてモーリーンの耳朶を打った。

 しかし二人は侮蔑も露わなその言葉を、苦渋の思いで振り切った。

『この臆病者め!』

『グリゼフ殿、気にするな。奴らは騎士ですらない。騎士でない奴らの誘いに乗る必要などまったくない!』

 怒号一喝。突如として柳也は立ち止まり、踵を返して反転した。

『ッ! あなたは……!』

 先頭をひた走る少年が、僅かに怯えを孕んだ眼差しを柳也に向けながら突進する。

 尊き騎士の血に濡れたロング・ソードが大気を裂き、立ちはだかる柳也の顔面目掛けて斬り上がる。

 たちまち、その身体が一回転した。

 腰に載せて投げ飛ばした相手を飛び越え、柳也は続く二人目に殺到した。

 抜きかけた剣の柄を一瞬の会敵にて押さえ込み、鳩尾に拳を叩き込む。奇妙な手応え。服の下に、軽装の鎖帷子を着込んでいるのだ。

 即座に両側から襲来する二条の冷たい刃をそのまま前に飛び出すことで避け、柳也は一気に追っ手の一団の背後へと抜け出す。

 その時には、すでにモーリーンとグリゼフの姿は、白昼の住宅街の闇へと溶け込んでいた。

『グリゼフ殿、また、スピリットの館にて会おう!!』

 姿形は見えずとも、時間的に二人はまだ近くにいるはずだ。直心影流二段の柳也が、腹の底から繰り出した大声は、逃げる二人に確かに届いたはず。

 柳也は年のためもう一度、同じ言葉を口にすると、一団に背を向けたまま必死の疾走を開始した。

 スピリットは国家が保有する強力な兵器、重要な財産だ。そのスピリット達が暮らす館は、柳也の世界でいうところの軍隊の兵舎のようなもの。その管理はラキオスの政府によって行われ、この施設に手を出すということは、ラキオスという国家に喧嘩を売るのと同義語である。たとえバーンライトのスパイであろうと、迂闊に侵入することはできないはずだ。追討から逃げ延びる上で、これ以上、安全と思われる場所はない。

 一方、後に残された追っ手の一団は、突然の柳也の反撃によって生じた混乱を、すぐには収拾しきれずにいた。

 なんとなれば、追討対象の一人はどういうわけか三人に増え、しかも二手に分かれて逃走を開始してしまったからである。

 どのように戦力を分散するべきか。そもそも現状の戦力でどうにかできる相手なのか。シンが受けたダメージは追撃に支障がない程度のものなのか。真昼の城下町でこれ以上の追撃は可能か否か……。考慮するべき問題は多く、混乱の終息にはプロのスパイ集団の彼らをして、判断を下すための僅かな猶予が必要だった。

 そしてその僅かな時間の間に、柳也は追跡者達との距離を大きく圧倒した。

 先にスピリットの館に到着したのはグリゼフとモーリーンだった。

 慣れない土地に何度か迷いながら、ようやく彼らがスピリットの館に辿り着いた時の時刻は午後二時二十分。さらに追っ手を振り切った柳也がスピリットの館に戻った時、時刻はちょうど午後三時を迎えようとしていた。

 そして、今後の行動についてミーティングを重ねる三人のもとに、血相を変えたリリアナが一通の書状を握り締めて来訪したのは、午後四時を回った時のことだった。

 皺だらけの書状をエスペリアを含む四人で回し読みし、起きた事態の深刻さを悟った男達が、緊急の軍議をその場で開いたのは、それから間もなくのことだった。

 

 

 

永遠のアセリア

-The Spirit of Eternity Sword Another-

第一章「有限世界の妖精たち」

Episode10「ドラゴン・アタック」

 

 

 

――聖ヨト暦三三〇年、アソクの月、赤、ふたつの日、夕刻。
 
 

 エスペリアの淹れてくれた茶は相変わらず美味で、香りも上等な珠玉の出来栄えだったが、今の柳也には、その味や香りを楽しむ余裕はなかった。

 柳也がこの世界に来て以来、洋館の食堂では最多の人数が卓を囲んでいた。席に着いているのは五人。そのうちスピリットとエトランジェはそれぞれ一人ずつしかおらず、スピリット達の宿舎というこの施設の役割を考えると、奇妙な光景ですらある。

 場に、悠人とアセリアの姿はない。柳也もエスペリアも、悠人にはこれ以上心配事を増やしてやりたくなかったし、そもそもアセリアは、突然の来客にもまったく関心を向けようとしなかった。

『……以上が、私が知っている事の全てだ』

 説明を終えたモーリーンが、議場の面々の顔を見回し、理解を確認してから着席する。

 自分の持っている情報の全てを、一気に吐き出した彼は、ティーカップの底に僅かに残った茶を飲み干すと、一気に何歳も老け込んだかのような顔色で長嘆息した。

 仲間と思っていた男達の裏切り、そして殺された仲間達のことを思って、こらえようのない怒りと哀しみに嘆くグリゼフもまた、重苦しい溜め息をつく。

 直接面識のないエスペリアや、ほとんど他人同然の柳也とリリアナも、胸に深い悲しみを抱き、彼らの冥福を祈った。

『バーンライトの諜報部か……噂には聞いていたが、まさか、私の命を狙って八年も潜伏していたとはな』

 気の長いことだ…と、揶揄の言葉を易々と口にすることは許されない。

 その気の長い連中によってすでに三人の男が犠牲になり、今また、新たな犠牲が出ようとしているのだ。

 柳也達が囲む卓の上には、エスペリアが並べたカップの他に、もみくちゃになって皺くちゃになった一通の書状があった。珍しく血相を変えたリリアナが持参してきた手紙だ。B5サイズの味気ない便箋一枚に、簡潔な言葉と多人数によるものと思わしき筆跡で、数行の文章が走り書きされていた。

 

 “今宵は快晴の折、月も見晴らしがよかろう。古の龍の祭殿の前にて月見と洒落込もうではないか。酒の肴は若い男女が二人。この宴会に関心あるならば、午後八時頃が最も景観素晴らしく察せられる。リリアナ・ヨゴウ殿、是非とも弟子を連れて此度の宴に顔を見せられたり。”

 

 差出人の名前は書かれていないが、件のバーンライトのスパイ組織の手によって書かれたものであることは間違いない。

 館に足を運ぶ前にリリアナが確認したところによると、実際に城下町で子どもが二人、行方知らずになっているという。今年で十六になる娘と、四歳年下の弟。拘引の瞬間を目撃したという情報はなく、手際の良さから考えても別件とは考えにくい。

『……一度、状況を整理してみよう』

 何か問題に直面した時には、とにもかくにもまずは何が問題なのか整理する。

 亡き父の教えに従って柳也がまとめたポイントは、次の六つに絞られた。

 一. 敵はバーンライト王国の諜報部の人間で、その狙いはリリアナと、自分にあるということ。

 二. さらに連中は用済みとなってグリゼフやモーリーンを、口封じの意味もかねて殺そうとしているということ。

 三. 敵はリリアナと自分を殺すために無関係な町の人間を人質に取ったということ。

 四. 人質を取った敵は場所と時間を指定し、自分達を呼び出していることから、罠を構えている可能性が極めて高いということ。

 五. 罠を構えているであろう敵の戦力が未知数だということ。

 六. この事態はバーンライトとの政治問題に発展する恐れがあり、表沙汰にできず、またラキオスの正規軍を動かすわけにはいかないということ。

 呼び出し状にグリゼフとモーリーンの名前が記されていないのは、呼び出し状を書き終えた時点で、手紙の著者達はてっきり二人のことをもう死んだものと考えていたためだろう。

 バーンライトの間者達は、どうやらかなりの人数がラキオスに潜伏しているらしく、セニコフらを襲撃した犯人と、幼い二人を誘拐した犯人とでは、別行動を取っていたらしい。

 有線でなくとも迅速な情報伝達が可能な現代世界と違って、有限世界の通信技術は未熟だ。別行動を取っている仲間達に、不測の事態についてすぐに連絡できなかったとしても、それは仕方のないことだ。

『ところで、古の龍の祭殿というのはどういう意味だ? どこかの場所を指していることは分かるのだが…』

 まだラキオスに来たばかりで、この国の地理をよく知らないグリゼフが発言した。

 この国にやって来たばかりなのは柳也も同じだったから、それは同時に彼の質問でもあった。

 三名の異邦者達の怪訝な眼差しに答えたのはエスペリアだった。

 彼女は必要になると思って先に用意しておいた首都ラキオスの全体図をテーブルの上に広げると、旧市街のある一区画を赤丸で囲った。続いて現在地のスピリットの館を赤丸で囲み、つつっ…、と線を繋げる。

『おそらく、この館から東に十二キロほどの距離にある、古い神殿のことだと思われます。聖ヨト王国建国以前に建立されたもので、ラキオスの守り龍……リクディウスの魔龍を祭ったものです』

『たしかこの区画は、すでに住民は誰もいないはずだったな』

『はい。四十年ほど前に最後の住民の方が新市街の方に移動されて、付近四キロ圏内には現在、誰も住んでおりません。解体作業にかかる費用の問題から、いまだ街は昔のままの姿で保存されていますが、実質的には廃墟といってもいいでしょう』

『なるほど。ドンパチやるにはおあつらえ向きの場所ってわけだ』

 柳也は納得した様子で頷いた。

 ある程度の広さがあって人気のない廃墟となれば、隠れ潜む場所はいくらでもあるし、陣地構築のための資材にも困ることはないだろう。最悪の場合、神殿が要塞化されていることも考えられる。地の利は断然、敵側にあると考えるべきだ。

『リュウヤがまとめたこれらの要点を踏まえた上で、改めて現在の状況を確認しよう』

 リリアナが席を立って言った。今回の事件のキーパーソンともいうべき中年剣士は、出自も所属も違う五人が集うこの会議の議長役を務めている。

『敵はラキオスと敵対関係にあるバーンライト王国の、諜報部のスパイ部隊。その狙いはラキオスの剣術指南役を務める私と、奴らの秘密を知ってしまったクルバン・グリゼフ、モーリーン・ゴフの二人、そしてリュウヤの命だ。

 連中は我々を一挙に殲滅するべく、勝負をかけてきた。ラキオスの城下から無辜の民を二人、拘引し、これを人質としている。今日の午後八時に、旧市街地の龍の神殿に陣を構え、私と、リュウヤを呼び出した。尋常の果し合いを望むものではないから、この呼び出しを無視することは可能だ。しかし、その際に人質となっている二人の子どもがどうなるかは分からない。

 私は、ラキオスの剣術指南役として、そして騎士として、無辜の国民を守るために、この呼び出しに応じねばならない』

『呼び出し状には我々の名は書かれていないが、我々も来ることを望んでいるのは間違いないだろうな』

『うむ。私やリュウヤ、エスペリアを除けば、奴らがバーンライトの間者だということを知っているのはこの場にいるお前達だけだ。連中からしてみれば、秘密を知ってしまった者は全員、生かしてはおけまい』

『そうすると、我々も、行かねばなるまいな…』

 グリゼフは苦々しげに溜め息をこぼした。

『知らなかったこととはいえ、シンをこの国に連れてきたのは我々だ。カイルのことも含めて、奴らに関しては我々も責任を取らねばならん。それに奴らはセニコフ達の仇でもある。……また、別な国の人間とはいえ、民を守るのは騎士の使命だ』

『……一時休戦とみて、よいか?』

『ああ』

 グリゼフはゆっくりと頷いた。

 今や事態はかなり危ういところまで切迫している。自分達にとって目の前の男が憎き師の仇であることに変わりはないが、今はそのことに拘っているときではない。今、やらねばならないことは、いかにしてこの事態を素早く終息に導くか、みなで協力して知恵を絞ることだ。自分達とリリアナの間にある問題に関しては、事件が終わってからでも遅くはない。

『これでこちらの戦力は四人か…』

 柳也が喜びと嘆きの入り乱れた複雑な表情で呟いた。

 条件付とはいえ戦力が増えたのは喜ばしいことだが、それでもまだこちらが不利なことに変わりはない。未知数の戦力や、敵が築き上げているであろう陣地以前の問題として、こちらは人質を取られているのだ。騎士でない連中が、少年と少女の命を盾にしないとも限らない。

『せめてエスペリアを勘定に入れられればな…』

『……すみません』

 リリアナの嘆きに、しゅん、と目を伏せるエスペリア。

 特に彼女が悪いというわけではない。仮にこの場にいるのがアセリアだったとしても、今回の一件においては、スピリットは例外なく戦力として期待できないのだ。

 生まれながらにして永遠神剣を持ち、その扱い方を心得ているスピリットの力は強大だ。彼女達に比べれば、いくら鍛えたところでただ人間の力など高が知れている。しかし、弱肉強食の論理に真っ向から逆らうように、なぜかスピリットは人間を傷つけることができない。そればかりかスピリットは生まれながらにして人間達への服従が義務付けられている。

 柳也達異世界の人間からしてみると、はなはだ奇妙な話ではあるが、強いスピリットは弱い人間に従い、また弱い人間を傷つけることは許されないという構図が、有限世界での常識なのだ。

 現ラキオス王国スピリット部隊の最古参メンバーであり、経験豊富なエスペリアは、戦うことさえできればかなりの戦力として期待できる。だが、相手が人間では、そもそも“戦う”こと自体許されない。せいぜい、後方支援としての役割しか、務められないだろう。

『ええい! 肝心な時に役に立たん奴らだ!』

 グリゼフがエスペリアを睨みながら叫んだ。

 完全な八つ当たりであることは誰の目にも明らかだったが、リリアナもモーリーンも、彼の発言を咎めることはしない。

 この世界において、スピリットとエトランジェは人間ではない。特にスピリットは、極端な言い方をしてしまえば家畜も同然で、人間でない彼女達には、どんな汚い言葉をぶつけてもそれが許されてしまう。

 この場にあってグリゼフの言葉を諫めることができたのは、この世界の常識を知らない柳也だけだった。

『グリゼフ殿、今はそのような事を口にしている場合ではないだろう?』

『なんだ? スピリットなんぞの肩を持つのか?』

 内心では煮えたつ怒りの感情を押し殺し、努めて冷静な態度でたしなめる柳也の言葉を、グリゼフは鼻で笑った。

 柳也は頭の血管が五、六本は切れたな、と思いながらも、冷静な態度を崩すことなく、困り果てた顔で苦笑した。

『だからそんな事を言っている場合じゃないっての。今は、この四人で何ができるか、考えるべき時だろう?』

『リュウヤの言う通りだな。…しかし、この圧倒的に不利な状況を、どうすればたった四人で切り抜けることができるものか……』

 議長のリリアナが忌々しげに言い放ち、腰を下ろして沈黙した。

 さしもの歴戦の勇士も、このように人質を取られたことは初めてなのか、思考するその表情は、憔悴に疲れきっていた。

『……この状況を切り抜ける、何か良い案はないか?』

 長い時間をかけて考え込んだところで、これといった妙案は浮かんでこない。

 リリアナは悔しげな顔でみなを見回した。

 有限世界の住人達は、みな苦い表情で沈黙していた。

 

 

『……発言していいかな?』

 淀んだ沈黙が漂う中で、ただひとり、柳也だけが挙手をした。

 全員の視線が最年少の少年に集中する。

『そ、そんなに見つめるなよ。照れるじゃないか』

 柳也は肩をすくめると、みなの視線を一身に浴びたまま続けた。

『本題に入る前にまず確認しておきたい。今回の呼び出しは明らかに俺達の命を狙ったものだが、生憎と人質を取られている以上、俺達は連中の呼び出しに応じなければならない。かといって連中の言うがままにノコノコ出て行ったら、俺達は間違いなく全滅だ。そして俺達がやられた後、これまた秘密を知ってしまった人質の二人が、無事に済むとは考えられない』

『では、どうしろというのだ!?』

 グリゼフが苛立った声で叫んだ。

『戦うしか、ないだろうな』

 柳也は淡々と言った。

 リリアナの唇から、失望の溜め息が漏れる。

 そんなことはこの場にいる誰もが理解している。しかし、同時にそれが容易なことではないということも理解しているからこそ、自分達は苦慮している。

 まさかこの男は、そんな当たり前のことを確認するためだけに、わざわざ口を開いたというのか。伝説のエトランジェというのは、こんな愚かな男だというのか。

 しかし、リリアナの失望とは真逆に、柳也の顔は自信に漲っていた。

『じゃあ、こっからが本題だ』

 その時、席に着くみなは例外なく己の目を疑った。

 この八方塞の状況下にあって、なんと柳也は口元に笑みをたたえていた。

 リリアナは、そしてエスペリアは、この時になって初めて、目の前の少年が隠し持っていた恐るべき一面に遭遇したのである。

 柳也は歌うように言葉を紡いだ。

『これから俺達が行う戦いは、ヨゴウ殿やグリゼフ殿、ゴフ殿がこれまで経験してきた戦いとは、まったく異なる形態の戦だ。今回の戦いでは、単純に敵を倒して、はい、勝ったとはいかない。単純に敵を倒すだけじゃ、勝利にはならない戦いだ』

『…言っている意味が、よく分からないが……』

 騎士達が、エスペリアが、まるで奇妙なものを見るかのような視線を柳也に注ぐ。

 すぐには理解できなくて当然だ、と彼は内心で呟いた。“単に敵を倒すだけでは勝利とはいえない戦い”は、十九世紀になって初めて自分達の世界に浸透し始めた概念だ。総合的に見て、まだ中世の段階を脱しきれていないこの世界の文明レベルでは、まだ発生はおろか受け入れることさえ難しいだろう。

『ここにいるみんなは、もしかして戦うってことの目的は、敵を倒すことだと思っているんじゃないか?』

『……違うのですか?』

『大いに違うと、俺は少なくとも考えている。敵を倒すこと……戦うってことは、自分の我を通すための手段に過ぎない。戦うという手段と、戦いの目的は、決してイコールじゃあない』

 プロイセン時代のドイツの将校カール・フォン・クラウゼヴィッツは、その著書である『戦争論』において、戦争は個人間の決闘が拡大・複雑化したものとし、そうした個人間の決闘における目的と目標、手段の関係を、そのまま戦争にも適用した。

 まず戦争を起こす上での目的があって、次にそれを現実にするための目標があって、最後に目標を達成するための手段として戦争(=決闘)が行われる。ベトナム戦争におけるアメリカの目的は“世界の共産化を防ぐこと”にあり、それを現実にするための目標として“北ベトナム軍の打倒”を掲げ、その目標を実践するために“海外派兵”という手段に踏み切った。

『戦うということは、別にそれ自体が目的なわけじゃない。むしろそれ自体を目的にしちまうと、ロクな事にならない。極端な話、戦うこと自体が目的の場合は、この世界から自分達以外のすべてを消し去るということに繋がるからな。だから、戦うこと自体を目的にしちゃいけないんだ。

 ついでに言っておくと、戦いに勝つということは目標を達成するということ。目標を達成するということは、目的を現実のものにするということだ。だから勝利っていうのは、目的を達成することといえるな』

『……難しい話だな』

 グリゼフが半分も理解できないといった様子で肩をすくめた。

 その隣ではモーリーンが、『なんとなく分かるような気がするな…』と、呟いている。

『要するに我々は、今回の戦いの目的を掲げていないというわけだな?』

『ああ、そうだ。いちばん大切な目的を決めずに戦術を立てたって、意味がないだろう? 戦術も目標も、根っこの目的があって初めて成立するものなんだから』

『すると、さしずめ今回の戦いの目的は、“バーンライト諜報部の脅威を払う”といったところか』

 リリアナが思案顔で発言した。

 それを合図に、モーリーンが、続いてグリゼフが、そして普段、人間の前では控えめなエスペリアさえもが、次々と口を開き始める。

『その目的を達成するための目標となると、“敵の殲滅”といったところですね』

『もう一つ、“人質の救出”も含めるべきだろう。いやむしろ、敵の殲滅という目標を達成するためには、まずはこれをクリアせねばならん』

『人質救出後の身の安全の確保も、目標の一つですね』

『…そして、そのための手段としての戦いに備えて、これから戦術・作戦を練るんだ』

 柳也がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 見ている者の背筋をぞくりとさせる、戦慄の笑みだった。柳也の顔には快活な少年のものとも、剣に命を賭ける侍のものとも違う、別な表情が浮かんでいた。リリアナが、グリゼフが、モーリーンが、そしてエスペリアが、よく知っている顔だ。まごうことなき、戦士の顔だ。

 四人はいつの間にかこの会議が、柳也を中心に回っていることにも気付かず、その少年の一言一句に釘付けになった。

『目的はバーンライト諜報部からの脅威を払うこと。戦略目標は順に人質の救出、身の安全の確保、敵の殲滅。…よって、最初に考えるべきはまず人質の救出作戦だ』

 柳也は目線を左手の腕時計に落とした。この世界にも電気ではなくエーテルの作用によって駆動する時計はあるが、手首に巻いて持ち運べるほどに小型化に成功した物はない。エスペリア達は柳也の腕時計を、単なるアクセサリーとして認識していた。

 父の形見の腕時計は、ここ十年以上もの間、ただの一秒の狂いもなく、正常に駆動し続けている。

 三つの針が指し示す現在の時刻は午後四時五十二分。移動の時間も考えると、約束の刻限まであと三時間もない。

『人質救出作戦を無事に完遂する上で肝要なのは、事前の情報収集と入念な準備、特別に訓練された少数精鋭による迅速な行動だが……あいにくと、今回は時間がない。情報収集は最低レベル、準備も訓練もほとんどできないものと考えてくれ。…だから俺達は、基本的にスピード一本で、奴らの手から人質を解放しなきゃならない』

『何か秘策があるのか?』

『勿論』

 柳也はにっこりと笑った。

『連中に、魔法の火を拝ませてやるのさ』

『魔法の火?』

『ああ…』

 怪訝な顔をするリリアナ達に、柳也は自信たっぷりに頷いた。

 彼の頭の一部では、一九七七年に起こったある事件に関する事の顛末が、繰り返しリピートされていた。

『敵を一切傷つけることなく、だから人質も傷つくことはない。けれど、敵の戦闘能力を確実に奪う、そんな魔法の火だ』

『……レッドスピリットの神剣魔法を使うのか?』

『いや、そうじゃない。それができればいちばんだが、今、ラキオスに手の空いているレッドスピリットはいない』

 柳也はチラリとリリアナ、続いてエスペリアに視線を送った。自分の説明に不備がないかどうか、確かめるためだ。

 リリアナもエスペリアも何も言ってこないところをみると、自分の説明に間違いはないのだろう。

 柳也は構わずに言葉を続けた。

『魔法の火に関する詳細については後で話す。とにかく、俺がその魔法の火を焚いたら、グリゼフ殿とゴフ殿とで人質を助け出してくれ』

『…我々に別行動を取れというのか?』

『呼び出し状に名前がはっきりと記されているのは俺とヨゴウ殿だけだ。連中、真意としてはあんた達がくることも望んでいるだろうけど、こうして無事に合流できたことを知っているのは、俺達だけだろ?』

『望みは叶えてやるが、真っ向から四人で攻める必要はないというわけか…』

『なるべく俺達が時間を稼ぐ。人質の居場所も、絶対に聞き出して見せる。その間に、二人を助け出すのに最適なポジションに着いてくれ』

『人質救出後は、我々はそのまま二人の警護に着けばよいのだな?』

『八年も一緒に旅をしてきた仲だ。シンもカイルも、グリゼフ殿達の手の内は知り尽くしているだろう? お二人に関する対策はかなりの完成度で練られていると思う』

『…心得た』

 グリゼフ達は不服そうにだが頷いた。

 戦の華は自ら攻撃に打って出ることだ。それが許されないというのはたしかに不満なことだが、柳也の言うこともまた理解できる。

 此度の戦は自分のことだけを考えて手前勝手に動いて良い戦いではない。自分達の行動のひとつひとつには、人質の命が懸かっている。罪なき無辜の民を守り抜くためにも、自分達は死ぬわけにはいかない。

『しかし、魔法の火を起こすのは分かったが、人質を救出した後はどうするつもりだ?』

 モーリーンが渋い顔で言う。

 たしかに人質を無事に救出できたとしても、おそらくは強力な陣を構えているであろう敵に対し、二人のお荷物を抱えた自分達の方が不利であることに変わりはない。

『敵の戦力は未知数で、まして地の利は相手側の方にある。その上で、龍の神殿が要塞化されていたら、我々に勝ち目はないぞ』

『たしかに、真正面から立ち向かえばそうなるだろうな』

 モーリーンの指摘に、柳也は素直に頷いた。

 太平洋戦争における拉孟守備隊や、第二次世界大戦前夜のソ芬戦争などの例を見るまでもなく、たとえ敵が圧倒的に少数であっても、地の利が敵にあり、まして拠点の要塞化が進んでいれば、圧倒的大多数の戦力ですら苦戦は免れられない。

 特に前者のケースでは、帝国陸軍拉孟守備隊の総兵力が一二八〇名だったのに対し、中国包囲軍の総兵力は四万八五〇〇名。比率はじつに約三七・九倍で、これだけでも圧倒的といえるが、拉孟守備隊一二八〇名のうち三〇〇名は傷病者で、実質的な兵力比率は四九・三倍強という、もはや圧倒的というより絶対的なものがあった。にも拘わらず、拉孟守備隊はこの地を約百二十日間にわたって防衛し続けた。

 しかも今回の場合は、敵の戦力は未知数だが、こちら側よりも低いということはあるまい。柳也達の戦力はたった四人。敵バーンライト諜報部の戦力は、少なくとも五人以上いることは確かなのだ。柳也達はすでに四人の敵を見ているし、シンに手引きされる形で裏切ったと思われるカイルも含めると、敵戦力が五人未満ということはありえまい。

『……よって、だ。奇襲をもってこれを制圧しよう』

『できるのか? 準備期間はあまりないぞ』

 モーリーンが部屋の置時計を指差して言った。

『大丈夫さ。それに、準備期間はないって言うけど、無事に人質救出を終えたことを前提に話している時点で、奇襲の準備は八割方終わったようなもんだ』

『人質救出作戦自体が、奇襲作戦の意味合いを孕んでいるというわけか』

『ま、そんなところさ』

 柳也は片目をつぶってモーリーンに微笑みかけた。

 彼は続いてエスペリアを見ると、途端にゆっくりとした口調になって、舌で言葉を探すように言葉を紡ぎ始めた。

『エスペリア、…え〜と、小麦粉は、あるか?』

『え? あ、はい…』

 エスペリアが戸惑い気味に頷く。なぜ、このタイミングで小麦粉が必要になるのか、理解できないようだ。

 そしてそれはリリアナ達も一緒だった。訝しがる彼らに、柳也はいたずらを成功させた子供のように無邪気な表情で言葉を続ける。

『よし、それじゃあ今からその小麦粉で厚みのある生地を作ってくれ。…それから、これはあればでいいんだが、“耳に蓋をするもの”と、“日光を遮る眼鏡”はあるか?』

 適切な単語が思い浮かばずに、必死で知っている言葉を並べて意味を繋げる。

 柳也の言葉に、特にグリゼフとモーリーンはますます困惑した表情を浮かべた。

 柳也は怪訝な眼差しの彼らに微笑みかけると、自分が焚き起こそうとしている魔法の火について、そして自分が考えている作戦のプランについて簡単な説明をした。

 説明を聞いているうちに、四人の顔色が段々と驚愕で変化していく。説明を聞き終えた彼らはみな一様に顔を見合わせた。今、柳也が語った内容は、有限世界の住人の常識では考えられないような“魔法”に関するものだったからだ。

 困惑の表情のリリアナは、ようやく少年の言う“魔法”の正体が、彼の住む世界における技術の産物であることに気が付いた。

『しかし、本当にそんな風に上手くいくものなのか?』

 語気も荒く、リリアナが懐疑的な眼差しを柳也に向ける。

『さて、な…。俺も実戦でこの手の武器を使うのは初めてだし、確かなことは言えないよ』

 柳也は肩を竦めて答えた。

 そもそも、彼は実戦自体初めてだった。

 剣術の稽古で何度も模擬戦闘を行ったことはある。命のやり取りだって何度か経験している。しかしそれらはあくまで突発的に起こった、半ば事故のような戦いでしかない。本格的に作戦を立案し、準備をし、実際に行動するという、いわゆる軍事的作戦行動に参加するのはこれが初めてなのだ。

 初めての戦場に対する不安と恐怖。そして僅かな期待。しかし柳也はそうした感情を押し殺し、自信たっぷりの表情で口を開いた。

『上手くいくかどうかは、結局のところ俺達次第だ。確実に効果の程が保証できるのは五、六秒だけ。あとは俺達の腕と運次第さ。……まぁ、安心してくれ、とは胸を張って言えないが、すくなくとも“フランク行一八一便”や、“わかくさ号”は、この魔法の火のおかげで被害を最小に防いでいる』

『お前は……』

 聞き慣れぬ発音の単語の連続に、グリゼフとモーリーンが何かに気が付いたようにはっと表情を緊迫させる。

 柳也は、みなまで言わせることなく、席を立った。

『さ、早いところ準備に取り掛かるとしよう。…時間はもうあまり、残っていない』

『……みんな、この作戦に異論はないな?』

 リリアナが議場の全員を見回した。

 もとより、柳也の提案した作戦以外に、有効打を見出せない彼らから、異論は出るはずもなかった。

 数秒の間、みなの顔を見比べ続けたリリアナは、やがて誰からも反論の声が上がらぬのを見てひとつ頷くと、柳也に視線を戻した。

『作戦コードはどうする?』

『……なんだって?』

 突如として耳慣れぬ単語がリリアナの口から飛び出して、柳也は露骨に顔をしかめる。

 リリアナは特に気にした様子もなく、表情を変えずに言葉を続けた。

『だから作戦コードだ。あ〜……これから、行おうとしている事を、どう呼ぶ?』

「ああ…作戦の名前ね」

 柳也はひとり合点がいった様子で、ポン、と手を叩いた。

『正規の軍事行動ではないとはいえ、先ほどお前が言ったように、これは我々と奴らとの戦争だ。一連の行動に名前は必要だろう』

『俺が決めていいのか?』

『作戦の立案者はお前だ。それに、この作戦の指揮はお前でなくては執れん』

『……えっと、今、何て言った?』

 柳也は自分の聞き間違いかと、リリアナに再度の発言を求めた。

 リリアナは頬を引き攣らせている愛弟子ににこりと微笑みかけると、簡単な言葉を多用して、ゆっくりとした口調で言った。

『この、作戦の指揮官は、お前だ』

 リリアナが手を伸ばし、柳也の肩に、ぽんっ、と優しく乗せる。

 柳也の顎が、テーブルに尖端を載せるほどに、垂れ下がった。

 彼は慌ててはずれてしまった顎を元に戻すと、動揺に声をわななかせながら叫んだ。

『ちょ、ちょ、ちょっと待てぇいッ!! 何故、俺が指揮官なんだ!? ここは普通、経験豊富なヨゴウ殿がやるべきだろう』

『今回の作戦の成否の鍵を握る魔法の火について、我らの中でもっとも知識を持っているのがお前だ。私も含めて、他の三人ではどのタイミングでその魔法を使うべきか、見極めることはできん。今回に限っては、適役は、リュウヤしかいないのだ』

『……』

 柳也は唖然とした面持ちで肩を落とした。

 リリアナの言っていることは正論だったから、文句の言いようもなかった。

 ――ああ〜…なんかデジャヴを感じるぜ……。

 初めてグリゼフ達と出会ったその日、成り行きで口走った師弟関係について、弟子を持ったことがないというリリアナは、柳也のその場凌ぎの発言に、背筋がむず痒い思いをしていた。それを知った柳也は、あの後もしばらく、同じネタでリリアナをからかったものだ。もしかすると、向けられているリリアナの微笑は、あの時の意趣返しのつもりなのかもしれない。

『…分かったよ』

 柳也はやがて覚悟を決めると、「憶えていろよ」と、小さく、溜め息混じりの日本語で呟いた後、半ば自暴自棄に答えた。

『決行時刻、二〇〇〇。作戦目的、バーンライト諜報部の脅威の排除。作戦目標、人質の救出とバーンライト諜報部部隊の殲滅。作戦名は……“ドラゴン・アタック”、とでもしておこうか』

 「これでいいんだろ?」とばかりに、柳也は居並ぶ面々を見回した。

 獲物を狙う猛禽の如き鋭い眼差しを双眸にたたえるその表情からは、すでに予想外の事態に戸惑う少年の面影は消えていた。

 今、リリアナ達の目の前にいるのは、この先に待つ戦いに向けて虎視眈々と爪を研ぐ、ひとりの戦士だった。

「連中に教えてやろうぜ。この国での悪事は、神様仏様が許しても、守り龍様が絶対に許さないって、ことをよ」

 彼は日本語で言い放つと、不敵に薄く笑った。

 唇にたたえた冷笑は、これから始まる戦いへの期待と不安で、僅かに震えていた。

 

 

――同日、夜。
 
 

 現代世界の地球人が、電気という万能のエネルギーを手にした産業革命以来、その文明レベルを大幅に高めてったのは、いちいち論拠を呈示するまでもなく明らかなことだ。

 有限世界の住人達も、エーテルという万能のエネルギーを手に入れて以来、その文明レベルを飛躍的に向上させていた。

 エーテル技術を導入する以前とそれ以降では、例えば水道の設備一つとっても技術的に見て雲泥の差があり、それは印刷や建築の技術においてもまた然りだ。そのためエーテル技術の普及とともに始まった聖ヨト暦以前に築かれた建築物に関して残された資料は少なく、旧市街地に聳え立つ龍の神殿について、限られた時間内にすべてを調べきることは叶わなかった。

 柳也とリリアナの師弟二人は、約束の刻限の二十分前には龍の神殿に到着していた。

 古代のサイクロプス式建築にも似た技術で築かれたと思わしき神殿は、柳也のあずかり知らぬ一定の神秘的法則に従って施設が配置されており、その様式はどことなく日本の神社を思わせた。巨大で高所に築かれた拝殿の向こう側に本殿があり、拝殿の出入り口へと続く道は、総数九十四段の石造りの階段しかない。石段の両側には階段に使われているものと同じ材質でできているらしい石灯籠が列をなしており、七つおきにおぼろな灯りを灯していた。当然ながら、辺りに二人以外の人影は見当たらない。

 柳也とリリアナは、視界に九十四段の全貌を捉えたところで立ち止まった。

 チェイン・メイルの要所々々を金属の板を重ねて補強し、騎士階級のみに許された白地のマントを羽織ったリリアナは、使い慣れたファルシオン以外にも予備のロング・ソードと、六十センチほどの直径のラウンド・シールドを肩から提げている。口元の豊かな髭も今宵は顔まですっぽりと覆った兜によって目立たず、普段の訓練の時よりも明らかな重装備で戦場に挑んでいた。

 重装なリリアナとは対照的に、柳也のいでたちは極めて軽装だ。重い鎧の類は何一つ身に着けておらず、丈夫なスピリットの服を着こなしただけの恰好で両刀を帯びている。左腰に差した大小の角度は地面に対して見事なほど水平で、いつ刀を抜き放つことになっても、一挙動にて腰の高さから横一文字の一撃を見舞うことができる状態だった。

 また、柳也の右腰には、普段の訓練の際には見受けられない、小さな麻袋が提げられていた。膨らみ具合から何か球状の物が入っていることは分かっても、それ以上のことは外からでは判別できない。

『ちと、早く来すぎたようだな』

『なあに。約束の十分前には到着するのが、紳士のエチケットさ』

 柳也は何食わぬ顔で石段の一段目に足をかけた。

 今のところ不穏な気配や攻撃の兆しはない。どうやら敵は、柳也達が石段を上らぬうちから襲撃するつもりはないようだ。

 とはいえ、敵は任務遂行のためならばどんな汚い手段の行使をも辞さないプロのスパイ集団。油断はできない。

 一段二段と上ってみて、どこからも襲撃がないことを確認した柳也は、そのままゆったりとしたペースで階段を上った。

 重装のリリアナも、ゆっくりとした歩調で確実に一段々々を踏み進めていく。石段の表面は必要最低限にしか均されておらず、要所々々がごつごつとしていて、幅も決して広いとは言いがたい。いつにも増して重装のリリアナには、一歩踏み外しただけで致命的となりかねない。

 柳也の歩調が急速に衰えてリリアナと並んだ。

 彼は肩を並べているリリアナにしか聞こえない声で、言葉短く告げた。

『……この先から永遠神剣の気配を二つ、感じる』

『……それは本当か?』

『ああ。…どうやら、連中は俺の正体に気が付いているらしいな』

 現在の柳也の神剣レーダーの最大探知範囲は半径八キロメートル四方だが、精度を高めるために、いまは半径一キロメートルまで探知範囲を狭めている。石段を上りきった先に二つ、柳也の〈決意〉と同じくらいか、あるいはそれ以上の力を持った神剣の気配を、彼は察知していた。

 どうやら今回の企みは、単にバーンライトの脅威であるリリアナ・ヨゴウを倒すためだけでなく、潜在的な脅威であるエトランジェの暗殺も、目的の内に含まれていたらしい。スピリットは人間には攻撃できないが、同じスピリットか、エトランジェには攻撃できる。リリアナひとりを相手にするのに、スピリットはむしろ不要だ。

 柳也は要件だけを手短に告げると、また元のペースに戻ってリリアナの前を歩いた。

 やがて四十四段を上りきり、ちょうど中腹まできたところで、開けた場所に出た。

 左手首の腕時計に視線を落とすと、約束の刻限まではあと十五分といったところだ。

 二人の剣士の耳朶を、異様なざわめきが打った。

 石段の両側を囲む雑木林から、突如として黒光りするつや羽に獰猛な眼を赤く光らせた鳥達が飛び立った。人気のなくなってしまった神殿をねぐらにする野鳥の群れだ。

 視界の端にその力強い飛翔を捉えた柳也は、その場に立ち止まった。

 今、柳也の頭の中では古の軍師がその著書の中で説いた、あるロジックが浮かび上がっていた。

 ――鳥、起つ者は伏なり。獣、駭く者は覆なり。

 鳥が飛び起つ時には、そこに伏兵の存在があることを示している。

 野生動物が怯えて逃げ出す時には、そこに敵の奇襲攻撃が迫っていることを示している。

 柳也は背後のリリアナにチラリと目線を送った。

 鉄の顔面のリリアナが頷いたその時、五段おきに置かれた石灯籠の全てに、灯りが灯った。と、同時に、尋常ならざる殺気の波が、二人の剣士を包囲した。

 二人の剣士はさっと周囲を警戒しつつ、きっと視線を上へと向ける。

 石段の上に、人影が立った。鎖帷子を着たシンとカイルだ。その他にも黒装束の男が三人いる。シンとカイルを従え、二人の黒装束を従えている中央の男こそ、この国に潜伏しているバーンライトのスパイの頭目らしい。

『リリアナ・ヨゴウ、そしてエトランジェよ、待っていたぞ』

 頭目の口から迸った、重い響きの声が夜気を裂く。あと五十段もの距離を隔てているというのに、不思議と耳通りの良い声だった。

『まだ約束の刻限には早いようだが』

『待ち合わせの十分前にはやって来るのが、デートの常識ってものだろう?』

『なるほど…。では、今宵の逢瀬の相手を紹介しよう』

 頭目が柳也達からは角度的に見えぬ背後に向かって合図を送った。

 すると足音もなく、柳也とリリアナの視界に、たおやかな花のような人影が二つ映じた。

 燃えるようなルビーの瞳と、謎めいたエメラルド色の瞳がそれぞれ特徴的な、まだ年端もいかぬ少女達だ。

『……なるほど、これは極上の女だな。一瞬の間に二度も恋をしてしまった』

 柳也は笑いながら言った。

 幼い容姿をしているが、どちらも柳也の好みのタイプだ。顔立ちのわりにそれなりに膨らんでいる胸元と、ウェストからヒップにかけての曲線美が、彼の嗜好に合致している。六頭身のプロポーションも秀逸で、短くまとめた髪は、見た目からも手触りが良さそうだ。

 ただ、二人揃って手に持った、あの剣呑な武器の存在だけはいただけない。あの武器の存在さえなければ、今のうちに唾をつけておきたいくらいの美人なのだが。

 ――レッドスピリットと、グリーンスピリットが一人ずつか…。

 脳裏に、エスペリアから受けた講義の内容を思い浮かべる。

 レッドスピリットは強力な神剣魔法の使い手で、グリーンスピリットは防御と支援に長けたディフェンダーのような存在。神剣魔法を無力化できるブルースピリットがいない現状において、敵に回すと厄介な組み合わせの一つだ。

『個人的には、そっちのお嬢さんと、燃えるような恋がしたいね』

 柳也が、石段の上に立ったレッドスピリットの少女を指差して叫んだ。

 黒装束の男の声が、石段を流れて下る。

『ふっ、好きなだけするがいい…。ただし、熱愛のあまり燃え尽きても知らぬぞ?』

『プレゼントの花束は俺達の命の花びらか』

『貴様らだけではない。我々の存在を知ったガストン一派の生き残りの門弟二人も、確実に仕留めてみせる』

『残念だが、それは無理だな。お前達は、ここで俺達に倒されるんだから』

『立場が分かっているのか? こちらには人質がいるのだぞ』

『その人質の存在自体、まず疑わしい。たしかに城下で、今日、少年と少女の二人が行方不明になったらしいが、それがお前達の仕業とは限らない』

『にも拘らず、こんなところまでノコノコとやって来たのか』

『一応、確認はしておかないとな。……さあ、まずは人質の姿を見せてもらおうか。それができないっていうんだったら、俺達はこの場から必死に逃げ延びて、今回の一件についてラキオス政府に報告してやる。わが国は、バーンライトに対して猛烈な抗議をするだろうな。大規模なスパイ狩りが始まるぞ』

『…あの小僧どもを連れて来い』

 頭目が背後の二人を振り返り、黒装束の姿が一瞬にして視界から消え去った。

 やがて縄目に縛られた少年と、それよりやや年上と思わしき少女が突き出された。行方不明の姉弟に間違いない。姉の方はさんざん抵抗したのか、顔中を痣だらけにしている。まだ十歳にも満たない弟の表情は涙目だ。

『おのれ……』

 顔面を覆う兜の隙間から、くぐもったリリアナの声が漏れた。五十段上の敵には聞こえぬほどの小さな声が怒りに染まっているのを、柳也は聞き逃さなかった。

『てめぇら…本当に外道だな』

 柳也は三白眼で一団を睨みつけると、威圧感すら漂うドスを孕んだ声で言った。

 不敵な眼差しに射竦められ、頭目以外の全員が、ビクッ、と身を震わせる。

 頭目の男だけが、柳也の並々ならぬ威圧の眼差しに耐えていた。

『目的のためならば我らは手段を選ばぬ。それが我ら闇に生きるスパイの務めよ。貴様ら騎士とは、根本的に違うのだ』

『……てめぇらの認識には、少し間違いがあるな』

『?』

 面当てに隠された頭目の表情が、僅かに動いた。動いた気配を、柳也は感じ取った。

『生憎、俺は騎士じゃない。俺は……“侍”だ』

『妙な動きをするんじゃねぇ!』

 カイルが、血走った眼差しで柳也の背後のリリアナを睨んだ。ファルシオンの柄に右手をかけた状態のまま、機先を制されたリリアナは動きを止める。

『人質がどうなってもいいのか!? リリアナぁ……!!』

『…悪い。その認識も間違っている』

 柳也が平然とした口調で言った。

 その表情には、なぜか勝ち誇った笑みがあった。

『ここにいるのは、ヨゴウ殿じゃない!』

『何ッ!?』

 面当ての隙間から覗く頭目の双眸がギラリと光った。

 柳也の背後に立つ騎士が、フルフェイスのヘルメットのような構造の兜の、フェイスガードの部分を押し上げる。現れた顔は、リリアナ・ヨゴウのものではなかった。リリアナよりももっと若い、端正な顔立ちの青年だった。

『も、モーリーン!?』

 カイルが動揺の叫びを上げた。

 シンも眼を剥き、驚愕に漂白した顔色でわななく。

『そんな…! で、では本物のリリアナ・ヨゴウはどこに……!?』

『ここだぁッ!!』

 その時、石段脇の雑木林から抜き身のファルシオンを構えたリリアナと、ロング・ソードを抜いたグリゼフが飛び出した。

 二人ともすでに夜なのにも拘わらず、サングラスで目元を隠し、耳には耳栓を嵌め込んだ奇妙ないでたちで人質のもとに殺到する。

 頭目を含む全員の視線が、石段の柳也達を離れ、一瞬にしてそちらを向いた。

 その一瞬の隙をついて、柳也は素早く右手を腰の麻袋に伸ばした。

 中から、ゴルフボールくらいの大きさの、小麦粉で作った餅のような玉を一つだけ取り出し、膂力の限り投げ飛ばす。

 と、同時に、柳也とモーリーンはぎゅっと眼をつむり、耳を塞いだ。

 小麦の餅は回転とともに勢いよく放物線を描き、一団の頭上に差し掛かったところで、パンッ、と炸裂した。

 次の瞬間、一六〇デシベルの大音響と五万ワットの閃光が五秒間にわたってスパークした。

 柳也が小麦粉で作った餅に〈決意〉の一部を寄生させて作った、特殊音響閃光手榴弾が炸裂したのだ。これこそ、柳也が口にした“魔法の火”の正体だった。

 この特殊音響閃光手榴弾とは、世界最強の特殊部隊として名高いイギリスのSAS(英国陸軍空挺特殊部隊)で対テロ用に開発された、特別な手榴弾だ。殺傷能力は極めて低いものの、凄まじい白光と音によって神経を一時的に麻痺させるほどの威力がある。単純に大音響と閃光を放つだけだから人質をほとんど傷つけることなく敵にダメージを与えることが可能で、一九七七年のルフトハンザ航空機ハイジャック事件においてドイツ国境警備隊GSG-9が初めて実戦で使用して以来、現代の人質救出作戦にはなくてはならない兵器の一つとなっている。日本でも二〇〇〇年五月三日に起きた西鉄バスジャック事件において国内で初めて使用され、突入から僅か二分で犯人の逮捕と人質の解放に成功している。

 今回、柳也が即席で作った特殊閃光音響手榴弾の効果時間は五秒間。実際にはその後もしばらくは耳鳴りや眩暈によって動けなくなるため、敵の動きを封じることはもっと長い時間が可能だが、手榴弾の影響を免れた伏兵の存在がいないとも限らない。

 リリアナとグリゼフは白銀の世界の中を猛然と駆け抜けた。

 すれ違いざまに二人の黒装束を斬りつけ、幼い姉弟を脇に抱え込む。

 眼下の柳也達も猛然と石段を駆け上り、四人の戦士達は合流を果たした。

 彼らは人質を確保したまま拝殿の側へと走ると、そこで少年らの縄を解いた。特殊閃光音響手榴弾の洗礼を受けた二人の幼子は、何が起こったのか分からずに身を強張らせながらも、縄を解く際の抵抗は少なかった。

 五秒が過ぎた。

 手榴弾による視覚と聴覚へのダメージが抜け切っていない一団が、苦悶とともにうろたえている。

『頭目、奴らは後ろにございます!』

 身を隠していた幾人もの黒装束が出現し、神殿の庭に群がった。その数、七人。シンとカイル、二人のスピリット、そして頭目の男を含めて、これで敵の戦力は十三名となった。他に伏兵の気配は……少なくとも、今のところはない。

『お、おのれ…!』

 未だ眩む目元を隠しながら、頭目が怨念に満ちた声を吐き出した。

『斬れ! 奴ら全員叩き斬れ!』

 その声を合図に、七人の黒装束が直剣を抜き、四人の剣士に躍りかかった。

 四人の男は、すでにサングラスと耳栓をはずしている。

『グリゼフ殿とゴフ殿は二人を頼む! ヨゴウ殿、行くぞ……!』

『おおッ!』

 殺到する七人の波を、逆に飲み込む勢いで柳也とリリアナは突進した。

 左右に分かれた黒装束達が、宙に高く跳ぶ。だが攻撃は地を這うように真っ直ぐに突進してくると、直剣を両手に構え体ごとぶつかってきた。

 二尺四寸七分の豪剣が鞘走り、ファルシオンが鋭く閃いた。

 曲刀との刃が地面を低く這うように擦り上がり、左手の男の脇腹を薙ぐやさらにのびやかな弧を描いて右手の襲撃者を切り払う。さらに頭上に走った九州肥後生まれの刀身が夜空にきらめき、舞い降りてくる二人の下腹部を峰打った。

『一つ、二つ……』

『三人、四人……』

 リリアナと柳也の口から呟きが漏れた。

 二人は突進の勢いを殺すことなく、さらに殺到する三人と向かい合った。

 三人は縦一列の隊列を保持したまま突撃し、寸分たがわぬ動きで柳也達を幻惑しながら、真正面から襲い掛かる。

 すかさず柳也がリリアナよりも前に飛び出し、同田貫の豪剣を八双に構えた。

 先頭をひた走る黒装束が、柳也の腹を狙って地面をのたうつ蛇のように横薙ぎの斬撃を放つ。

 柳也は地面を蹴って跳躍し、それを躱すや、先頭の男の頭を次なる足場に求めた。

 柳也に踏み台にされ、黒装束の体がぐらりと揺れて、前のめりに倒れる。

 突如として目の前に敵が現れて動揺する後続の二番手の顔面に、すれ違いざまの一撃で同田貫の峰打ちを放った直後、最後尾を走る三番手の男が、柳也の頭上めがけて真っ向から斬りかかった。

 柳也は構うことなくそのまま突き進んだ。

 真っ向からの斬撃は、いつまで経っても襲ってこなかった。

 立ち止まり、振り返ると、柳也に続いて走っていたリリアナの攻撃によって斃された黒装束が、ちょうど断末魔の悲鳴を上げたところだった。

『五人、六人……』

『七つ目……』

『お、おのれぇ……!』

 釣り上がった頭目の眦が二人の剣士を睨んだ。五人の敵は、すでにかなりの視力を回復させていた。

『もはやこうなれば出し惜しみはせぬッ! 全員でかかれッ!』

 隠れていた最後の伏兵達が、一斉に姿を現した。直剣以外にも小型軽量の弓を携えた弓兵の姿もある。その数、およそ二十名。

『ふむ…まだこれほどの数を残していたとはな』

『けど、これでおそらく打ち止めだ。多分だけど、この場にいるのはラキオス王国に潜伏しているサーギオスのスパイの、少なくとも戦闘員の総戦力だと思う』

『ならば、この場の全員を打倒することは……』

『ラキオスにおけるサーギオスのスパイ網の壊滅を意味する』

『成し遂げれば、我々は英雄だな』

 素顔のリリアナは不敵に笑った。

 包囲の輪の中心にいる二人に向かって、時間差で四本の矢が降り注いだ。間を置くことなくまた四本、矢が連続で飛んでくる。

『突っ込むぞ!』

「応ッ!!」

 リリアナの掛け声に呼応し、柳也は自分達を取り囲む敵の渦中へと飛び込んだ。

 襲ってくる矢を手の中の愛刀で切り払い、包囲の輪を突き崩す。

 同士討ちを恐れて、矢の襲来がやんだ。

『八つ、九つ……』

『十人、十一……!』

 隊列を組んで襲い掛かり、再び二人の剣士を包囲しようとする列の先頭を斬り、中央を打ち、隊列が崩壊したところを衝いて、二人は一気に攻め立てる。

 柳也とリリアナを相手にしてはとてもではないが敵わぬと悟った数人が、人質を守るグリゼフとモーリーンのもとへと向かった。

 それを察知した柳也の手が、再び麻袋の中へと伸びる。

『…ッ! またあの魔法が来るぞー!!』

 柳也の動きを察した弓兵の一人が叫んだ。

 直後、黒装束の一団は全員がたがわずに目をつむり、耳を塞いだ。

 柳也が小麦の餅を投げた。

 小麦の餅は警告の声を発した男の面当てに、べとっ、と引っ付いた。

『うおおおおおお――――――ッ!!』

 男達の怒号が重なった。

 てっきり手榴弾の閃光と爆音がくると思って目を隠し、耳元を覆う彼らに、グリゼフとモーリーンが、柳也とリリアナが挑みかかった。

 グリゼフとモーリーンが手前の五人を斬り斃し、柳也とリリアナは厄介な弓兵を襲う。

『十二、十三、十四人目……!』

『十五、十六……』

『二人やったぞっ!』

『こっちも三人倒した。残るは……』

 十五人。

 すでに敵は当初の戦力の半分を失い、弓兵全員を失った。

『チィッ! …お前達、何をしている!? 敵はたった四人だぞ!!』

 頭目の叱咤が、シンとカイルを動かした。

 同時に、混戦の様子を茫然と眺めていた二人のスピリットも走り出した。

 一瞬、夜の闇に赤と緑の光が繚乱したかと思うと、少女達の周りに、スピリットが永遠神剣の力を発動させた証であるハイロゥが出現する。

 夜の戦場に、ひときわ甲高い少女達の黄色い声が響いた。

『スピリットが来たか…』

『ヨゴウ殿、連中の相手は俺が……』

『任せたぞ、サムライ』

 押し寄せる熱波が、柳也の頬を撫でた。

 短い言葉のやり取りの後、柳也は先行する赤髪の少女に八双から斬りかかった。

 会心の一撃。

 しかしその斬撃は、突如として少女と自分の間に出現した赤い壁によって阻まれてしまう。レッドスピリットの少女が張ったマナの防御壁だ。

 エスペリアの講釈によれば、レッドスピリットが張るマナの防壁は、他のスピリット達のそれと比較して効果の低いものだという。これはレッドスピリットのエネルギー源である赤マナの性質が関係しているらしく、普通に訓練を重ねただけではどうしようもない特性らしい。

 しかし、今、柳也の斬撃を阻むマナの障壁は、後続のグリーンスピリットが仲間のために発動させた神剣魔法によって強化されていた。

『風の盾よ……力を』

 地面に浮かぶ、緑の光輝を放つ魔法陣。穏やかな風が戦場に吹き、赤髪の少女の身体を優しく包み込む。

 柳也は、これと同じ現象を前にも見たことがあった。

 あの謁見の間での、忌々しい見世物の戦いの際に、エスペリアが使った神剣魔法だ。

『私たち緑のスピリットが使うウィンドウィスパーは、大地のマナを風の盾に変えて、防御力を強化する魔法です』

 訓練の最中に教えてくれたエスペリアの言葉が、耳の奥で反響する。

 いくらレッドスピリットの防御壁とはいえ、グリーンスピリットの魔法によって強化されたそれを突破することは困難だ。

 柳也は一度態勢を立て直すべく後退した。

 退く柳也に向かって、レッドスピリットの少女が双刃を振り下ろした。

『後退なんて、許さないんだから…ッ!』

 外見通りの幼い声。

 一瞬、柳也の表情が悲痛に歪む。

 ――こんな幼い子でも、スピリットってだけで……!

 自分達の世界にも、少年兵という存在は当たり前のようにあった。

 しかし、現実に年端もいかない少女が相手の命を奪うために刃を振るう光景を見てしまうと、柳也はどうしても湧き上る悲しい気持ちを抑えられなかった。

「〈決意〉!」

【オーラフォトンシールド!】

 攻撃の標的地点を瞬時に見極め、ピンポイントに張ったオーラフォトンの盾がレッドスピリットのスイングを受け止める。

 すかさず反撃に移った柳也は、無防備な少女の腹部に蹴りを放った。

 一瞬の攻防の最中の出来事だけに、今度は相手もマナの壁を張る暇すらなかった。

 少女を蹴り飛ばしたことによって、結果的に広がった距離。だがスピリットやエトランジェの身体能力をもってすれば、それはほんの一瞬で詰められるほどの僅かな距離に過ぎない。

 レッドスピリットの少女がすぐさま起き上がった。

 その前を、今度はグリーンスピリットの少女が駆け抜ける。

 前衛と後衛の後退。

 グリーンスピリットは、レッドスピリットが神剣魔法を発動するまでの時間を稼ぐつもりだ。

 開いた距離を一気に詰めるグリーンスピリット。

 槍を中段に構えながら突進するその動きは、同じグリーンスピリットのエスペリアと比べると、明らかに技量の点で劣っている。しかし、そのスピードはエスペリアにも負けぬものがあった。

『リュウヤ!!』

 十何人目かと切り結ぶリリアナが、不意に叫んだ。

 正面からの敵を前にして、柳也の目線が一瞬だけリリアナの方を向いた。

 刹那の交錯。

 視線だけの会話。

 しかし偽りの関係とはいえ剣とともに心を交わした師弟には、その一瞬だけで十分だった。

 ――覚悟を決めるなら、今しかないぞ……?

 ――ああ…。分かっている。

 柳也は目線を正面のグリーンスピリットへと戻した。

 その表情は、苦渋の決断に迫られて苦しげに歪んでいた。

 この強固な防御力を持つ少女を相手に、峰打ちで済ませることは難しいだろう。判断を誤れば、防御を突破できぬままレッドスピリットの神剣魔法が発動し、その先に待っているのは死だけだ。

 そして自分は、この場で死ぬわけにはいかなかった。

 自分自身、死にたくはなかったし、佳織を助け出すまでは悠人のためにも死ぬわけにはいかなかった。

 ――瞬……。

 そして何より、今はどこにいるかも分からぬ、親友の存在が、ある。

 彼の所在を確認し、その無事な姿を見るまでは……何があっても、死ぬわけにはいかなかった。

 となれば、今まで決めあぐねていた覚悟を、決めるしかない。

 ――〈決意〉……。

 己の中の、今やなくてはならぬ相棒に、そっと呼びかける。

 大切な人を守るために、その他一切を切り捨てて、この両手を血に染める。

 自分以外のすべてを無視し、切り捨ててでも、己の意志を貫き通す。

 その、覚悟を表明し、それまで出し惜しみし続けてきた永遠神剣の力を解き放つために、柳也は口を開いた。

『俺の、決意を聞かせてやる……』

 この有限世界に落ちてくる直前、タキオスとメダリオに放った、あの力。

 敵を倒し、友を救うために発現させた、あの強大な力。

 あの力を、今、再び解き放つために……柳也は、覚悟を、〈決意〉した。

「俺は、生きる。生きて佳織ちゃんを助け、瞬を探し出してみせる。そしてそのために、俺は眼前の敵を……」

                               ・・・・・・・
 グリーンスピリットの刺突が、眼前に迫った。狙いは心臓の位置。ゆっくりとしたその一撃を、柳也は僅かに身をよじっただけの動きで避けた。

「……斬る!」

【汝の決意、聞き入れたぞ……!】

 壮絶な輝きが、肥後の豪剣二尺四寸七分に集束した。

 その輝きの奔流は、現代世界で柳也が最後に放ったあの一撃以上の力を宿し、また放出していた。

 柳也は静かに前へと踏み出した。

 突如として目の前に出現した敵に、赤い瞳の少女が呪文詠唱も忘れて唖然とする。

『……申し訳、ない』

 苦しげに紡がれたその言葉を、はたしてその少女は聞き取ることができただろうか。

 同田貫の豪剣が旋風を巻き起こしながら擦り上がり、次の瞬間、少女の身体が黄金の霧となって霧散した。

 金色の粒子が儚く散り、哀れにも空へと還っていくその様子は、何度も見ても飽きぬほど、やはり美しかった。

『貴様っ』

 仲間を殺されて、剥き出しの憎しみをぶつけながらグリーンスピリットの少女が柳也の背中に肉薄する。

 同田貫の閃光剣がのびやかに弧を描き、柳也の反転とともに緑の少女に襲い掛かった。

 回転の遠心力によって刀勢を増した同田貫が、一条の光線となって夜闇に溶け込む。

 リリアナ・ヨゴウ直伝の必殺剣“リープ・アタック”だ。

 咄嗟に少女はマナの障壁を全面に張り巡らせるが、柳也の剣はそれを易々と突き破り、緑の少女を袈裟に斬割した。

『な…あ、ああ……』

 苦悶する少女に、柳也は容赦なく必殺の突きを放つ。

 現時点における己の最強の一撃を放つその表情から、苦渋の色は消えていた。

 今や柳也は、決意の表情とともに、一人の剣士としてそこにあった。

 二人のスピリットを斬ったその直後、腰から頭頂にかけて、信じられないほどの快感が駆け上った。少女達の傷口から放出されたマナが、少女達の死とともに神剣から解放されたマナが、柳也の体内に入り込んできたのだ。

 先の一撃や手榴弾の精製に費やしたマナを回復しても、まだ釣りが出るほどの量のマナを取り込み、柳也の五体にこれまで以上の力が漲った。

 それはセックスにも勝る快感の瞬間だった。

【敵を倒し、敵の持つ永遠神剣を砕けば、その内に溜め込んだマナが解放される。そのマナを取り込むことによって、主と我はさらなる高みへと望むことができる…】

『なるほど……』

 頭の中に響く、いつもより上機嫌な〈決意〉の声に得心して、柳也は頷く。

 これまでにない契約者の〈決意〉の迸りを聞けたからか、それとも一度に大量のマナを取り込むことができたからか、〈決意〉は普段以上に饒舌に語った。

【さあ、主よ。残る敵はあと僅かぞ。汝と我の二人ならば、どのような敵がこようと問題はない】

『ははっ…そうだな』

 興奮した〈決意〉の声に苦笑しながら、柳也は次の敵を探した。混乱する戦場からは、もうほとんどの敵がいなくなっている。

 そんな中、柳也の視界に、ひとつの人影がやけに目立った。

 黒装束の頭目が、神殿の石段を下ろうとしていた。

 


<あとがき>

某日名古屋市内某喫茶店にて――――

タハ乱暴「……というわけで、次回のアセリアはこんな感じでいこうと思うんだが」

友人S津さん「うん。いいんじゃないかな。ところで……」

タハ乱暴「ん?」

友人S津さん「結局、柳也はリリアナとグリゼフのどっちとくっつくの?」

タハ乱暴「や、これ、そんな話ちゃうから……」

 

 

タハ乱暴「この数日後、別な友人からも同じ事を言われました」

北斗「……で? 結局、お前の本命はどっちなんだ?」

柳也「だから俺はノーマルだって言っているだろうぐわぁぁぁぁぁぁあああッッ!!」

小鳥「……はい。永遠のアセリアAnother、EPISODE:10、お読みいただきありがとうございました!」

佳織「今回は先輩たちがあんな状態なので、わたしと小鳥の二人があとがきの進行をさせていただきたいと思います」

小鳥「今回の話はいかがだったでしょうか? 今回は軍事オタク柳也先輩の本領発揮とでもいうべき話でしたが」

佳織「なんていうか、活き活きしてたよね、桜坂先輩」

小鳥「やんちゃ坊主っていうか、不良少年剣士っていうか……」

佳織「一応、今回が初めての実戦なのに……」

小鳥「この手の作品にありがちな葛藤の描写とかまったくなかったよね〜」

佳織「お兄ちゃんとの差別化をはかりたかったんだろうけど…あっさりとした決断だったよね」

小鳥「まぁ、それが柳也先輩の先輩らしいところだけどね」

佳織「それで小鳥、次回のお話は?」

小鳥「ええと…カンペによると……次回はバーンライト諜報部との決着編だって」

佳織「……ねぇ、小鳥…このカンペによると、次回、桜坂先輩、お兄ちゃんを襲う、って書いてあるんだけど…」

小鳥「……えぇっ!? ……まさかのBLネタ!?」

佳織「さすがにそんな投稿先に迷惑のかかるようなことはしないと思うけど」

小鳥「でも……あのタハ乱暴だよ?」

佳織「…………」

小鳥「…………」

佳織「……はい! 永遠のアセリアAnother、EPISODE:10、お読みいただきありがとうございました!」

小鳥「次回もまた楽しんでくださいね!」


人質は無事に救出できたみたいで良かった、良かった。
で、頭目は一人逃げようとしているのかな。
美姫 「どうなのかしら。まだ何か策があるのかもよ」
おお、どんな展開が待っているんだろうか。
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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