注)このSSは著しくキャラが壊れております。それを考慮した上でお読みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは美沙斗さんが久々に有給をとって高町家に来ていたある日のこと。

 

「う〜ん」

 

A4のプリントを睨み、唸る美由希。

それを見て不審に思ったのか、美沙斗は美由希の元に近付く。

 

「どうしたんだい、美由希?」

 

やんわりとした優しい声。

美由希は振り向き、苦笑しながら答える。

 

「ああ、うん…ちょっと、宿題が……」

 

見れば、卓上のプリントには何種もの数字や記号が書かれていた。

美沙斗は、日頃鍛えた視力でそれを読み取る。

 

 

――次の循環小数を分数で表わせ。

 

 

0.()

 

 

 

高1の問題である。

美由希はすでに高校2年に進級していたが、ありがちなことに、解き方を忘れてしまったらしい。

美沙斗はその問題を凝視して、なぜか目をパチクリさせた。

数秒の逡巡の後、美沙斗は踵を返す。

 

「?どうしたの、おかーさん?」

 

頭上に疑問符を浮かべた美由希が尋ねる。

すると美沙斗は脱兎の如く駆け出した。

 

「ごめんよ美由希!不甲斐ないわたしを許してくれっ!!」

 

その目頭には、薄っすらと涙すら浮かんでいた。

 

「お、おかーさん!?」

 

突然の母の行動に、美由希はますます混乱する。

影からそれを見ていた晶とレンが――

 

「そういや美沙斗さんって……」

「せや、たしか高校中退やったな……」

      

      

    

 

 

 

 

美沙斗さん勉強する!!

 

 

 

      

      

    

   

美沙斗は己を恥じた。

娘を救ってやれない自分に。

高1の問題も解けない自分に。

そしてなにより、『戦えば負けない』をモットーとする御神流を極めていながら、戦いもせずに逃げ出した自分に。

だから美沙斗は向った。

これから戦いに挑むための準備をすべく。

美沙斗が向った先はそう、本屋である!

 

「いらっしゃいませー」

 

スマイル0円ではないが、アルバイトと思わしき店員が元気よく叫ぶ。

 

(そう言えば、昔兄さんがアルバートさんのことをアルバイトさんと呼んでいたな)

 

内心細く微笑む美沙斗。

アルバイトで議員になれるものなのだろうか?(なれない)

美沙斗は店員を一瞥すると、すぐに教育のコーナーに向った。

おおっ!!!

娘のために知識を補充する。なんと出来た母親であろうか。

 

(まずはこれから……)

 

数多の本の中から1冊を選び、手に取る。

 

『たのしいさんすう―――しょうがく1ねんせい』

 

小学1年生の問題集だった。

思いっきり平仮名である。

たしかに美由希が解けなかったのは1年生の問題だ。

しかし、彼女は高校1年生であって小学1年生ではない。

パラパラとページを捲りながら、美沙斗の眼がある一点に止まった。

小学校1年生の問題集で眼が止まる、というのも凄いが、問題も凄い。

 

 

――つぎのもんだいをときましょう。

 

7+4−2

 

 

(…………7?)

 

答えはである。

―――訂正。

問題も凄いが間違える美紗斗も凄かった。

しかしそんなことはどこ吹く風。さすがに美紗斗もこれはないだろうと思ったのか否か(多分違うんだろうが)、次にひとつ隣りの棚……小学3年生と4年生のコーナーの棚を探り出した。

 

『たのしく勉強〜算数〜―――小学3年生』

 

小学3年生の問題だった。

さすがに漢字を使い始めている。

 

 

――つぎの計算を答えよ。

 

8×6

 

 

典型的な乗法の計算問題である。

 

(…………14だね)

 

加法……もとい、足し算をしていた。

美沙斗は問題集を閉じて、次のコーナーに向った。

 

『中学の歴史1・2年共通』

 

もはや数学ですらない。

当初の目的を忘れ、美沙斗は問題集を読んだ。

 

 

――次の年号に起きたできごとを言え。

 

645年

 

1192年

 

1582年

 

1941年

 

 

 

(……黒船来航、ガンジーの塩の行進、第二次オイルショック、浄土真宗成立……)

 

物凄い歴史である。

彼女の頭の中では645年にペリーが来航して江戸幕府と日米和親条約を結んで、1192年にガンジーが非暴力主義を訴え、1582年に石油を巡って世界が混乱し、1941年になってやっと浄土真宗が成立したらしい。

 

(……わたしもまだまだいけるな)

 

どこか誇らしげな表情で、とんでもないことを思いながら胸を張る美沙斗。

――と、そんな彼女に声をかける者がいた。

 

「……美沙斗さん?」

「…恭也?」

 

振り向くと、そこには最愛の甥の姿があった。

よほど美沙斗が本屋にいるのが珍しいのか、恭也は驚いたような表情を浮かべている。

 

「美沙斗さんも買い物ですか?」

「恭也もかい?」

「ええ」

 

そう言って、抱えていた1冊の本……月刊『盆栽至上主義(定価580円)』を取り出し、見せる。

 

「美沙斗さんは何を?」

「わたしかい?わたしは――」

 

そう言って、今日の出来事、そして本屋にきた経緯を話す。

恭也は、しきりに「はい」だとか、「そうですか」などと呟いて、「それだったら……」と、棚から1冊の問題集を取り出した。

 

『たのしいさんすう―――しょうがく1ねんせい』

 

再臨。

 

「ああ、それだったら……」

 

美沙斗は『たのしいさんすう―――しょうがく1ねんせい』を恭也から受け取ると、パラパラとページを捲り、ある問題を指差す。

 

 

――つぎのもんだいをときましょう。

 

7+4−2

 

 

「……ですね」

「さすがだね」

 

繰り返すが答えはである。

 

さらに美沙斗は本棚から再び『中学の歴史1・2年共通』を取り出し、先刻のページを開いて見せる。

 

 

――次の年号に起きたできごとを言え。

 

645年

 

1192年

 

1582年

 

1941年

 

 

(……『ゴッドファーザー』初公開日、東京タワー完成、青函トンネル開通、ハルマゲドン勃発……か?)

 

もっと物凄い歴史である。

しかもかなりマニアックな内容だ。

彼の頭の中では645年に映画『ゴッドファーザー』が公開され地元シチリア住民の反感を買い、1192年に、東京タワーが完成して東京の名物となり、1582年というまだ北海道が蝦夷地の時代に青函トンネルが開通し、1941年に、とうとう世界は最終戦争を向えているらしい。

 

「解けたかい?」

「ええ、一応。ですが美沙斗さん、問題を解かせるだけでは技術は身に付きません。技術が身に付かなければ勉強の意味がありませんよ。もっと、解説付きのものを探しましょう」

「……そうだね。そうしよう」

 

頷き、2人は本屋中を探した。

愛する娘のために。

愛する弟子のために。

女は母として。

男は師として。

探しに探して、ついに2人は目当ての、懇切丁寧かつ、分かりやすい問題集を見つけた。

 

「見付かりましたね……」

「見付かったね……」

 

2人の額から汗が滴る。

その表情は10日ばかり便秘に悩まされていた時に、突如としてそれが解消された時の爽快感と開放感を孕んだような、これ以上ないぐらいに爽やかな笑顔だった。

 

『……人間とは?』

 

ある意味、究極の問題である。

恭也と美沙斗はともに頷き合い、店内にも関わらず出現した夕陽と大海原をバックに涙を流した。

きっと美由希も喜んでくれる。

そんな想いを胸に秘めながら、2人は本屋を後にした。

 

 

 

 

 

その日、海鳴市藤見町64−5に住んでいる高町美由希さんにより、新たな法則が発見された。

ある特定の血筋に限定されるが、剣の腕前と反比例して、馬鹿になるというその法則は、『不破の法則』と名付けられ、生涯、美由希氏はこの法則の発見を後悔したという。

自分が、半分不破の血を引いているとも忘れて……

      

      

      

  

 

 

〜あとがき〜

 

随分前の話ですが、今回投稿するにあたって少しだけいじっております。

――なので、もしかしたら前に読んでくれた方々が「あれ、こんな話だったかな?」と、思われたとしても、そこはまぁ、笑ってやってください。

……しかし自分、相変わらずヘタやなぁ

   

   

   

 

 『人間とは?』

  

  

 




物凄く大きなテーマを扱ったこの作品…。
美姫 「えっ!?」
人間とは、何ぞや。
美姫 「まあ、浩は人間じゃないから良いとして」
人間だよ!
美姫 「えっ!! 嘘!?」
何で、さっきよりも驚くかな。
美姫 「またまた、冗談ばっかり言って」
いやいやいや。冗談じゃないだろう。
美姫 「えーっと、ああ、そうそう。美沙斗さんは高校中退だったから、高校の問題が分からなくても仕方がない面もあるわよね」
おい、俺の発言をなかった事にするな。
美姫 「うるさいわよ。因みに、美由希のやっていた問題の答えは?」
えっ! えっ! えーっと、えーっと。
そもそも循環小数って、何?
『0.7』なんだから、分数にすれば、『7/10』だから。
分かった。答えは、『7/10』だ!
美姫 「7の上に付いてるドットは無視するの?」
えっと、問題用紙の印刷上で付いたゴミとか…。
美姫 「はぁ〜。それじゃあ、また次回でね〜」
うわ〜ん、馬鹿にされた〜。って、お前は答えが分かるのかよ!
美姫 「正解は、『7/9』よ」
……合ってるのか間違ってるのか、分かんねーよ!
美姫 「それじゃ〜」
うわぁ〜ん。



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