『選ばれし黒衣の救世主』










戦争。
 二人の戦いはまさにそう言っていいものだった。
一人は赤き書を持った可憐な少女。
 一人は式服を着た美しい美女。
だが、周りにはそんな二人に似つかわしくものが飛び回る。
 空より現れた岩の塊が辺りを押しつぶし、地面より剣が飛び出し、黒い球体が踊り、それらに雷が狂ったように乱れ落ちて塵へと、無へと返していく。
全てが辺り構わず破壊する。
その中心にいる二人。
二人は己の金の髪を振り乱しながら移動を続ける。

相手に渾身の一撃を与えるために。
 相手の攻撃を避け、粉砕するために。

その余波だけで辺りが無慈悲に蹂躙されていくのだ。
それは個人での戦いではありえない光景。
二人は一対一にも関わらず戦争をしていた。





赤の主・大河編

第二十五章 二人の戦争






リコは召喚陣を地にセットしながらも魔力弾を久遠に投げつける。
しかし久遠はそれをかわそうともしない。魔力弾が直撃するかと思われた瞬間、久遠の周りに帯電していた雷が、魔力弾に向かい、押しつぶしてしまった。
リコはそれに顔を顰めながらも、久遠の周りを移動し続ける。
久遠があの姿に変化すると、先ほどまでとて凄まじいスピード出していたのに、さらに速くなっていたのだ。
だからリコは最小限の動きとテレポートで、彼女の周りを旋回して近づかれるのを防いでいた。
しかし遠くにいた所で……

「雷っ!!」

久遠は雷に雨を降らせる。
その雷の威力すら、先ほどまでとは雲泥の差だった。
 それを何とかリコはテレポートで避ける。
だがやはり勘なのか、久遠はまるでリコが現れる場所がわかっているかのように駆け出す。
そしてリコが再び現れた場所は、確かに久遠が向かう先だった。

「くっ!」

 リコは呻きながらも、それすら予測していたのか、現れた瞬間にはいつのまにか持っていた書からページを抜き取り、それを全て久遠に向けて投げた。

「邪魔!」

 進行の邪魔だと、久遠はそれらを長く伸びた爪で引き裂かんと腕を振り上げた。
 しかし空を舞うページはそれぞれが意思を持っているかのように動き、大きく旋回する。
久遠の爪は数枚を引き裂いたものの、残りが次々と久遠の身体に張り付いていく。

「なっ!?」

それにどんな意味があるのかわからないものの、久遠はページを引き剥がそうとしたが……。

「っっ!?」

 その前にまとわりついたページが、次々に電流を流してきた。
 元々雷を纏う久遠には、それなりに電流への耐性はあったものの、驚きと僅かな痛みでその身体が硬直した。
その瞬間をリコは逃さない。
全身に青白い電流をシールドのように纏いながら回転し、特攻する。
久遠は硬直が解けたもののかわせない。
リコはその時勝利を確信していた。
 しかし、久遠はあろうことか回転するリコを両手で真正面から受け止めた。
いくら耐性があると言っても至近距離から雷を受けてはダメージを避けられない。さらに回転して勢いつけてきていたリコを受け止めるのだ。その勢いは殺し切れるものではなく、足を引きずられ、地面にその線を残しながら後退していく。

「ううううううう!!」

それでも久遠は唸り声を上げながら受け止めていた。

「ああぁぁあああぁぁぁぁあああ!!」
 
そして両手より発生させた雷をそのままリコに叩き込む。

「くっ、あああぁぁぁぁぁぁぁ!」

自らが纏うシールドすら突き抜けてくる衝撃に、リコは悲鳴を上げて弾き飛ばされた。
 だが久遠も無傷であろうはずもなく、膝をつく。
弾かれたリコも何とか立ち上がろうとしたものの、やはり力が入らないのか膝を曲げてしまった。
二人の服は焦げ、さらには煙すら上げていた。
 だが、それでも二人はお互いの顔を睨み続ける。
二人とも戦う意思は消えていない。
久遠は恭也のために……恭也を守るために。
 リコは主のもとに行くために……恭也に全てを聞くために。
まだ戦える。
まだ身体は動く。
目的を果たしていないのに、膝をついてなどいられない。
その意思の元、二人は立ち上がる。
そう、まだ戦えるのだ。


 相手を打ち倒し、恭也の元へ!


「あああああああああっ!」
「はああああああああっ!」

久遠はそのスピードで一気にリコへと向かう。
 リコはその火力と物量で久遠のスピードを殺しながらも、押しつぶそうと一気に魔法を展開させる。
隕石と黒き球体、火炎、雷、空中に浮かぶ赤き書より生み出される様々な攻撃が、またも二人が戦うフィールドを蹂躙していく。
 久遠はそれをスピードでかわし、リコ以上の雷でかき消していく。

破壊の嵐で辺りを地獄に変えて、それでも二人は止まらない。
破壊の衝撃と暴風が二人の身体を撫で回し、薙ぎ倒そうとするが、それでも止まらない。


 相手が止まらないから止まらない。
相手を止めなければ、恭也の元には向かえないから止まれない。


久遠は向かってくる魔力弾を爪で引き裂き、地より生えてくる巨大な剣の刀身をやはり爪で砕き、そして空より落ちてくる隕石を雷で塵に返しながら真っ直ぐに進む。
 久遠には技術と呼べるものがほとんどない。
元々その破壊力で過去、祟神として恐れられた久遠は技術など必要としていなかったのだ。
 その一撃で人間など簡単に滅せてしまうだから、わざわざ技術を学ぶ理由もかなったし、技術を学ぶ術もなかった。
故にその攻撃の姿勢は実にシンプルだ。
邪魔なものは全て力で粉砕し、そのスピードで真っ直ぐに獲物へと近づき、爪か雷で狩る。
まさに力押しの獣の手段と言ってもいい。
シンプルであるからこそ、強力な攻撃の姿勢。
人所か救世主候補たちすら軽く越えた身体能力と破壊力を有するからこそ、その効果は相乗されていた。


対してリコは、赤の精というある意味久遠以上に特殊な存在ではあるものの、その身体能力は後衛組の救世主候補たちとさして変わらない。
だが今のリコは主を得たことで魔法を遠慮なく行使することができる。
 魔力を取り戻せる今ならば、その魔力の量はライテウスを持ったリリィを軽く上回る所か、救世主候補たち全員分の魔力を合わせても届かない程の量かもしれない。
 だからこそのこの火力と物量。
そしてそれ以上に、長く生きてたことで得た戦闘経験と知識が彼女の強み。
その火力と物量故に、意味もなく放たれているように見えるかもしれない魔法の嵐。だがその一つ一つが先を見て放たれている。
おそらく主を得た今の彼女ならば、この平地という空間でなら恭也にすら楽々と勝利するだろう。
今現在ならば、確実に救世主候補たちの中では最強の存在と言っていい。

そんな二人が今、拮抗していた。
力と知謀の戦いであるからこそ、二人の戦いは拮抗しているのだ。
久遠は力業でリコの罠を食い破る。
 リコは知謀と物量、火力で久遠を押しとどめ、さらに追撃をしかける。

 できれば両者ともにすぐにでも決着をつけたい所ではある。
 久遠の場合は、今の姿……大人の姿を維持するには燃費が悪い。あまり長くこの姿のままではいられない。
 リコの場合は、その巨大に魔力故に燃費こそ悪くないものの、長い間戦闘で魔力を使いすぎれば自身を構成するページを使ってしまう。
 そして二人はこの戦いに勝利したとしても、まだ戦闘が残っている。
久遠は恭也を守るために、大河とカエデの二人と戦わなくてはならない。
 リコは恭也を止めるために、彼と戦わなくてはならない。
こんな所で時間と力を消費している暇はないのだ。
だが、そんな理由と考えが両者共にあるからこそ決着がつかない。



「うぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

久遠は唸り声を上げながら、身体の回りに今まで以上に強力な雷を纏う。
 そして、その強靱な足のバネで地を思い切り蹴る。
 そのまま弾丸のような勢いでリコの元へと突っ込んでいく。
 リコはその無防備な身体に向けて魔力弾を二発向かわせたが、それは久遠が張った強力な雷に弾かれた。
 それは先ほどリコが使った……電流のシールドを纏って回転しながら特攻……を真似したものだろう。
久遠は本来攻撃に使用するばすの雷をシールド代わりにして、敵の攻撃を無視しながら突っ込む。
 まさしく力業だ。

魔法の嵐を無視しながら久遠は進む。
 無論、いくら雷をシールド代わりにしようと、リコの火力を全て無にすることなどできはしない。
 雷を通り抜け、かき消し、いくつもの魔法が久遠の身体に届いていく。身体を傷つけていく。
だが久遠は気にしない。
痛いけど痛くない。

なぜって、

「恭也はいつもこんなことをしてる!」

久遠は近づいてきたスライムを再び爪で引き裂き、雷で消し炭にして叫ぶ。

久遠は知っている。
 恭也は何度傷ついても、どれだけ痛くても、どんなに辛くても、それら全てを無視して突き進む。
自分のことなど知ったことではないと。
全ての傷、痛み、辛さをただ一人で受け止めて、周りの人たちにそれを与えないようにと頑張っている。
それを知っている。
 だからこんなのは痛くない、辛くない。

「私は恭也を守るって決めた!」

あの時決めた。
 久遠は決めた。
恭也の全身に刻まれた傷を見た時に決めた。
 恭也と一緒に友達のなのはを守ると。
そして周りの人たちを守ろうとして、いつも傷ついている恭也を守ると。
少しでも恭也が傷つかないように、辛くないように。
 周りの人たちを守るために頑張る恭也を守るために、久遠が頑張ると。
何より悲しみから護ると。

「あなたたちが……恭也を悲しませる!」

あの時、彼女たちと戦うことを決めた恭也は悲しそうだった。
 少なくとも久遠はそう感じた。
難しいことはわからない。
久遠には救世主だとか、破滅だとか、そんなことはどうでもいい。
 だけど、久遠は恭也を悲しませる存在を許さない。

「だからあなたを恭也の所には行かせない!」

その目的のために、全てが邪魔だと久遠は身体と雷でねじ伏せる。
魔力の塊を纏う雷で弾き、爪で引き裂く。それでも爆発し、身体に衝撃を与えるが……気にしない。
 地より生えてくる剣の腹を蹴り、打ち砕く。それでもバラバラになった刀身が、細かくなったために、雷を通り越して身体を切り裂くが……気にしない。
空より振ってきた隕石を雷で吹き飛ばす。それでも粉々にはできず、小さな石と化して降り注ぎ、纏う雷でも完全には塵に返せず、腕や肩に直撃するが……気にしない。
全てを気にしない。
 きっと恭也はもっと痛かった。もっと辛かった。
もっと……頑張ってた。
もっと頑張ってる。
だから、

「私は……!」

突き進む。
恭也を護るために突き進む。
恭也と同じように突き進む。




「っ!」

 久遠の叫びが、リコの胸に突き刺さる。
恭也を悲しませると。
 だけど、それは……。

「私だって……私たちだって!」

自分たちとて同じだ。

「私たちだって、恭也さんたちと戦いたくなんてないです!」

誰が好き好んで、大切な仲間と戦いたいなどと思うものか。
 これほど悲しいと思う行為があるものか。
これではあの時と一緒ではないか。
千年前と同じではないか。
 お互いの理由のために戦わなくてはいけなくて、仲間だった者同士が傷つけあったあの時と。
 だけど今回は根本が違う。
あの時はお互いが理由を知っていた。
だが今回は……。

「私は理由を聞きたいだけなんです! 恭也さんの敵になりたくないだけなのに!」

 大河の事は好きだ。
赤の精として、敬愛する主として好きだ。
だけど、リコ・リスとしての心は……。
その想いは、二千年前にも感じたものに近く……いや、きっと同じで、赤の精として許されない気持ち。
だが、だからこそ戦いたくない。
 敵になんてなりたくない。
彼らが救世主を誕生させたくない理由を聞ければ、もしかしたらその誤解を解けるかもしれない。
彼らが知った真実がどんなものであるかは知らない。だがもしも千年前の自分の主たちと同じ理由であるならば、きっと大河たちとて同じことを思ってくれるはずだ。
 だから……。

「私は何としてでも恭也さんの所へ行きます!」

叫び、リコは隕石の豪雨を降らせ、無数の魔力の塊を撃ち、スライムたちを次々に召喚し、雷を轟かせ、いくつもの召喚陣を地にセットし、爆炎を呼ぶ。
自らに近づかせないように久遠を押しとどめながら、さらにダメージを与えていく。
自分と同じく、人ではないナニかである彼女に。
 きっと恭也は、彼女にも自分と同じように……自分よりも優しく接しているのだろう。
 彼は人でないとわかった自分にも、同じように接してくれるのだろうか。目の前の彼女と同じように。

「っ!」

 嫉妬。
これもきっと心の一つ。
 赤の心の一つ。

「テトラ……グラビトン!!」

今はその心すら力に変えて、リコは今までとは比較しようもないほどの巨大な隕石を召喚した。
自身の願いのために彼女を粉砕する。




久遠は、自らに向かってくる魔法を無視しながらスピード上げて直進し、上空から迫る巨大な隕石が逃れる。
背後に着弾した隕石は轟音を上げ、爆風と砂塵が久遠の背を押す。
だがそのおかげで、久遠はリコの目の前にまで辿り着いた。
そして久遠はその爪をリコに向けて今度こそ振り下ろす。
 リコも今度はテレポートを使わない。だが、その腕に魔力を張り付けて爪を受け止めた。しかしそれで久遠の鋭い爪を完全に防ぎきれるはずもなく、腕が切れて血が滲む。
 力でも負け、膝が沈みそうになる。だがリコはそれに耐え、久遠の目を下から睨み付けた。
 それは久遠も同じ。
腕を振り下ろしたまま、上からリコを睨み付ける。


「あなたは邪魔……」
「あなたは邪魔です……」


お互いを睨み付けたまま、二人は低い声で同時に言う。


「私の目的の……」
「私の願いの……」


目の前の存在は己の邪魔だ。


「私が恭也を護るためには……」
「私が恭也さんの話を聞くには……」


似た目的と願いを持つ二人。
それを遂行するには……。


「あなたが邪魔!」
「あなたが邪魔です!」


目の前の存在が邪魔だ。
だから、己の目的のために……。
だから、己の願いのために……。


「あなたは倒れて!!」
「あなたは倒れてください!!」


ただ目の前の存在を倒す。


久遠は至近距離から雷を……。
 リコは至近距離から複数の魔法と召喚陣を……。
 二人は同時にその力を解放した。
 








あとがき

 あー、あー、死ぬ。
エリス「ちょっと死ぬって」
 もうダメ。戦闘はダメ。テンションが高い時じゃないと書けない。書き方変えようと思ってもこの作品の中では今更だし。行間空けて書くと無駄に容量食うから、携帯でこちらのサイトの作品を読ませてもらっている者としてはしたくないし。ダメ、もう無理。
エリス「情けない」
 うう。この頃バトル系は読むのも辛くなってきて、こちらのサイトにある作品以外はほとんど読まないし。つくづくバトル書きではないなぁ。とくに久遠とリコは難しいよ。自分の下手なのじゃなくて良質なバトルものがこちらのサイトにはいっぱいあるんだから、自分はもういいじゃないか、と思う今日この頃。
エリス「いいわけないでしょ! これからも戦闘はもっと増えるんだし、ちゃんと書きなさい!」
 ぐびがぎ! け、けどほのぼのが書きたい! 日常が書きたい! 恭也とリリィのデートが書きたい! 知佳かなのはとのデートでもいい! もしくは狂愛もの! なんか大河編書いてたらリリィの恭也への狂愛ものが本当に書きたくなってきた。
エリス「これが終わったらいっぱい書けばいいでしょ」
そうだなぁ。デュエルとクロスした以上戦闘は抜かせないし。次は耕介たちの戦闘にいかないとなぁ。やっぱり恭也と一緒に書いちゃおうかな。
エリス「でも恭也が出てこなかった話って初めて?」
 黒衣ではそうだな。戦闘である以上仕方ないけど。次の話でも出るか出ないか。
エリス「それじゃあその次の話を書きなさい」
 はい。ああ、クロススクランブルをやる暇がない。さすがに新キャラの娘をこの作品には出せないだろうけど、続きを書くためにもやっておきたいのに。
エリス「はいはい。書きながらやりなさい」
 書く暇あってもゲームやる暇がないいいいい。いいよいいよ、息抜きに恭吾の育成計画書いて、自分が書いて楽しむためだけにリリィの恭也への狂愛ものをやってやる。
エリス「ちゃんと続きを書くなら別にいいけどね」
 うい。
エリス「それでは、このへんで失礼します。今回もありがとうございました」
ありがとうございましたー。







リリィの狂愛ものは是非にでも!
美姫 「アンタ、好きだもんねリリィ」
おう! で、ここで一つ耳よりな情報を。戦闘が苦手なテンさんのために、同じく苦手な私から取っておきの手を。
美姫 「へー、そんなのがあるんだ」
ああ。ずばり、『戦闘シーンをスキップしますか? Yes』
これで戦闘シーンはあら不思議? 脳内で補完してくるという……ぶべらっ!
美姫 「さて、バカの戯言は置いておいて」
こ、今回は久遠とリリィによる戦い。
二人の強い気持ちが。
思わずジーンと来るな。特に久遠の一途な思いには。
美姫 「どちらが正しいとかではないけれども、互いに譲れないモノを持って闘う」
果たして、その結末は。
次回も非常に楽しみです!
美姫 「待ってますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る