狂想

歪み狂う想い





なのはの中に狂った想いが生まれ、それなりに月日が経った。
 その間に恭也は風芽丘を卒業して、海鳴大学に入学したが、これは別になのはが何かしたというわけではない。なのはが何かを言うまでもなく、桃子が恭也に進学するように促したのだ。
 もしこの大学に落ちても翠屋で働くと、なのはは恭也自身から聞き出していたので、特別動く必要がなかった。
無論、その間もなのははできる限り恭也の傍に居続けた。そして、それは着実に効果を上げていた。
今ではどこかに出かける際、大抵の場合恭也からなのはに一緒に出かけるかどうかを聞いてくるようになった。それだけ恭也にはなのはがいるということに違和感も抵抗もなくしている上、余計になのはを気にかけるようになったのだ。
 家族たちは、相変わらずなのはには甘いと苦笑している程度だが、なのはにとっては作戦が成功したということだ。
もちろんこの程度で、恭也が自分のことを女として見るようになったなどとは、なのはも思ってはいない。ただ恭也の考えに、常に自分があると思わせられればいいのだ。
 今はまだ、自分が兄を手に入れ、『結ばれる』ための準備段階にすぎないのだから。



だが、今日……この考えすら覆ることになる。
 なのはの想いがさらに狂うことになる。
それは今まで以上に苛烈に、鮮烈に、純粋に、白く、暗く、重く、積もり、壊れ、歪み……決定的に、なのはは堕ちる。
狂った想いに……自身の狂想に堕ちていく。







「初めてまして……なのはちゃん」
「初めまして……」

なのはは目の前の……どこか兄に似た女性に頭を下げた。
だけど、彼女はなのはの姉である美由希の『母親』。
 御神美沙斗。
なのはの『叔母』にあたる人だった。




何となくわかっていた。
何となく感づいていた。
 何となく知っていた。
自分の家族が色々複雑であることは。
 自分たち三人の兄妹が、他の家庭と比べれば、その関係が複雑であることは。
姉は……直接的な意味では……血が繋がっていないのだということは。
恭也は桃子の……自分の母の息子ではないということは。
 だけど、なのはは初めてそれを本当の意味で理解した。
それを本当に桃子から教えられた。

「血の繋がりが少し違っても、変わらないわよね?」

 なのはに桃子はそう言った。
そしてそんな桃子に、なのはは笑って頷いた。
 変わる訳がない。
 だってそんなのどうでもいい。
 自分に必要なのは兄という存在であって、何より重要なのはその兄に向ける狂った想いだ。
 そこに姉の存在は意味がないものだ。
介入する余地すらない。
だから、今更そんなことどうでもいいことだった。
なのに……。

「いとこ……」

なのはは、まだギクシャクしていたものの、親子の会話をしていた美沙斗と美由希……そして、そんな二人を暖かく見守っていた他の家族を残して、自分の部屋へと戻り、ポツリと声を漏らした。
それはなのはと美由希の関係であり、そして同時に恭也の美由希の関係でもあった。
恭也との関係は従妹。
故に美由希は、法律で恭也と結婚することを許された女性。
なのはは腹違いとはいえ妹で、法律では結婚を許されない。

「あ……れ……?」

いつのまにか、自分が手を握りしめていることになのはは気付いた。
なのははその手を目の前に持ってきて、手を開いた。
 その手は堅く握りしめたせいなのか、爪が食い込んだ部分が真っ赤になっていた。

「羨ましい……」

その手を見たまま、なのはは呟いた。
姉には権利がある。
 妹の自分にはない権利が。
姉妹であるはずなのに、同じ妹のはずなのに、この違いはなんなのだろう。
同じ立場であったはずなのに、少し……たった少しの違い。
 姉は、父の妹の娘だった。
 自分は、父と母の娘だった。
 兄は……父と知らない人の息子だった。
複雑だが、それでも言葉にしてしまえば、全てに父が関わってくるので、なのはの感覚では、それぞれ少しの違いにしか感じられないのに、それは大きな違いだった。
自分は『半分』だけ兄と同じ血が流れている。
 姉には兄に『近い』血が流れている。
半分と近い。
 たったこれだけの違いで、自分は権利を奪い取られた。
 未来永劫に奪い取られた。

「なんで……なのはには……」

姉にあって自分にはない。
 少しの立場の違いであったはずなのに。
 
「ずるいよ……」

なんで自分だけ。
 なんで自分だけが奪い取られなくてはならない?
 なんで自分が姉の立場でなかったのだろう。
それは嫉妬だ。
 兄の隣にいられる姉への。
自分はこんなにも……恭也を想っていて、彼が『欲しい』のに。
姉はきっと、自分なんかより簡単に手に入れられる立場にいる。
なのはは唇を噛み締めて、手から視線を離した。
 そこでたまたま鏡が目に入った。


 その鏡の中の人物。
 そこにいた『彼女』は笑っていた。
それはまるで蔑むように、狂ったように、幸せそうに。
それはきっとただの幻だった。
 自分の心が見せた……想いに狂った心が見せた幻影にすぎなかった。
だがそれを見て……鏡の中の、自分ではない自分を見て、なのはは気付いた。
 おかしなことに気付いてしまった。
 なんで幻影の自分が笑っていたのかに気付いてしまった。

「あは……あはは」

 なのはは笑った。
 ただ嗤った。
 本当におかしそうに。
鏡の中の自分がそうしていたように。

 自分は何を言った?
何を思った?
 羨ましい?
なぜ自分が姉の立場ではなかったのか?
 何だそれは?

「関係ないのに」

 それでも漏れてくる笑い声……本当に可笑しくて、自分自身が可笑しくて、涙すら浮かんでくる。
 ……なのはは自身を嘲笑っていた。
だって本当に簡単なことに気付いてしまったから。

ああ、そうか。
 まだ自分は狂いきってはいなかったのか。
兄を手に入れるために狂っているということを認め、受け入れ、さらに狂っていこうと決めたのに、自分はまだ狂いきっていなかった。
 この狂った想いに身を任せきっていない。
心のどこかで、まだブレーキをかけてた。
そんなどうでもいいことを心のどこかで求めてしまっていては、手に入れることなんてできないじゃないか。
 現実を受け入れていなかった。
 狂っていなければ恭也は手に入らない。
現実になのはは恭也の妹なのだ。
それこそ今更だ。
 素面で手に入れられるわけがない。

「おかしいなあ」

 クスリと自分を嗤う。
だいたいおかしいだろう。
 恭也が兄であることに不満なんてないのだ。むしろ今では良かったと思っていたはずなのに、今更兄妹でなかったらなどと思うなんて。
 恭也以外に興味なんてないのに、兄妹であろうがこの想いにはなんの関係もないはずなのに。
いや、もし恭也と自分に血の繋がりがなかったら……。

「そんなんじゃ、手に入らないよ」

 絶対にできない。
だって彼女の想いは『普通』ではないから。
今更、仮定で恭也と兄妹でないとされたとしても、もうこの狂った想いを止めることなんてできはしない。
きっとこの想いは周りから見れば、狂い、歪み、汚れすぎている。
 この狂った想いは、兄である恭也のみに向けることができる。
 こんな想い、兄でない恭也に向けられるものではない。
 恭也が兄であり、父であり、男だから向けられる。
そして、今更この想いをなかったことになどできはしないのだ。この狂った想いが積もり積もっていくことはあっても、溶けていくことなどありえない。
今の自分の夢は兄と結婚することなんかじゃない。
恋人関係でもない。
 そして、ただの兄妹でもない。
 そんなどこにでもある関係を求めているんじゃない。

「あはは、おねーちゃんには無理だよ」

自分の兄であるからこそ、その夢はある。
何より思い違いをしていていた。姉は確かに兄と結婚できるかもしれないが、手に入れやすい位置になどいないのだ。

「おねーちゃんじゃ、おにーちゃんを手に入れるのは無理なんだ。男の人として好きになることはできても、結婚することはできても、無理なんだよ。
おにーちゃんの全てを手に入れるのは無理なんだ」

それはつまり、自分が姉の立場であったなら無理だということ。
なのはが求めるのは結婚ではない。
 ……結ばれることですらない。手に入れること。
 『どんな結果』であれ、恭也を手に入れることだ。
そのためにどんなことが起ころうとも、何を犠牲にしようとも。
 自分がどうなろうと、恭也がどうなろうと。
 恭也が手に入るならそれでいい。

 それはきっと先ほどまでとは違う。
 きっと違う未来の考え方。
恭也を手に入れた時の結果。
 先程までは、その時はただ恭也の傍にある自分をなのはは思い描いていた。
 恭也と結ばれた自分を思い描いていた。
 だが、今は違う。

「手に入れる方法は……傍にいることだけじゃない、結ばれることだけじゃない」

どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのか。
 恭也を手に入れる方法。
そんなものは無数にあって、何も傍にいることだけが手に入れたという結果になるわけではないのだ。

何て爽快な気分だ。
 先ほどまでは思いつきしなかった方法が幾らでも思いつく。次々と浮かんでくる。
 策などいくらでもあるではないか。
難しいことなど何一つもない。
 
 全てが欲しい。
兄の身体も心も。
 兄の全てが。
高町恭也という男の全てを手に入れたい。
兄である高町恭也も、父である高町恭也も、男である高町恭也も……高町恭也の全てを。
 その存在の全てが欲しいのだ。
 そのためなら、自らが死んでしまっても構わない。恭也を殺してしまっても構わない。
 恭也の全てが手に入るなら、そこに生き死には関係なく、そして恭也がどう思うかも関係ない。
恭也を手に入れたという結果があれば、どんな状況だろうと構わないのだ。

そしてそれができるのは、

「私だけだ。私だけが、おにーちゃんを手に入れることができる」

彼女だけだった。
狂い、歪んでしまったなのはだけが可能だった。
 狂った想いを抱き、常軌を逸し、背徳の道を逝き、倫理を否定し、『普通』というものに背を向けたなのはだけが可能なのだ。
 彼女以外は思いつかず、彼女しか高町恭也を『手に入れる』ことはできない。
 
 それに思い至り、なのははただ……笑い続けた。




恭也は沈黙と会話を交互に繰り返す親子を見て、少し息を吐いた。まあ、久しぶりに会ったのだからこんなものだろう。
それでも大きな進歩だ。美由希は元々自分を捨てたと思っていた母親を嫌っていた傾向があったし、美沙斗も色々とあった。
 だからこれからだ。これから二人はゆっくりと本当の親子になっていく。
そんなことを思いながら恭也は二人を見つめていたのだが、ふとこの場に足りない人物がいることに気がついた。
高町家全員が、美由希たちの様子を微笑ましげに、ハラハラした感じで見つめているのだが、一人だけ足りない。
そう、なのはがいない。
恭也は今更気付いたことに、自分もまだまだだと苦笑う。

「……かーさんが言ったんだったな」

 母が家族の複雑な部分をなのはに説明したのを聞いた。
 やはり思う所があるのかもしれない。なのははまだ小学生だ。よくわからない部分などもあるだろうし、受け入れられない部分もあるのかもしれない。
恭也は、また沈黙してしまった二人と、その二人を見守る家族たちに気付かれないように気配を薄め、部屋から出た。
そして階段を上がり、なのはの部屋の前に立つ。
 なのはの部屋のドアをノックしようとしたその時、


 …………まるで巨大な殺気でも感じたかのように、背に汗が流れた。
叔母と戦った時も、自動人形のオプションたちと戦った時も、今では純粋な子狐となった大妖と戦った時も、こんなものを感じたことはなかった。

「っ……!」

 悪寒はない。恐怖もない。痛みもない。
そもそも殺気などないのだ。
 だが……だが勘が告げる。
 開けてはならない。
 恭也の本能が、このドアを開けてはならないと告げている。
このドアは唯一つの道に通じてしまう……最後の門だと。

 逃げろ。

この門から逃げろ。
この先に、お前が今まで戦ってきた者たちとは比較にならない程の……化物(モノ)がいる。
そんな訳の分からないことを本能が告げる。

このドアはなのはの部屋に通じるドアに過ぎない。
 この向こうには、ただ大切な妹がいるだけだ。
 そう理性が言う。

本能と理性がせめぎ合っていたのは、本当に一瞬のことだった。
そして高町恭也という人格が、全ての答えを出す。

「何を考えている」

 深々とため息を吐いた。
 もしかしたら、なのはが自分たちの複雑な関係を聞いたことを、自分も気にしているのかもしれない、と恭也は頭を振る。
なのはがどう受け止めたのかを気にしているのでは、と。

「なのはが俺たちを否定する訳がない」

 そう、なのはは血の繋がりがどうとかで、今までの関係を無にするような妹ではない。
そんな間違った答えに……縋った。

恭也はゆっくりとノックする。

「はーい」

そんないつも通りの……本当にいつも通りのなのはの声が聞こえ、恭也は安心したように息を吐く。
 だがそれは家族の複雑な関係を聞いてもいつも通りななのはに安心していたのか、それとも……。

そしてドアは、恭也が開くまでもなく、中にいたなのはが開けた。

「あ、おにーちゃん」

ドアの向こうに兄を見つけ、なのははふにゃりと笑った。
それにつられ、恭也も少しだけ笑う。

「少しいいか?」
「うん」

なのははどうぞー等と言ってドアを大きく開き、恭也を中へと招き入れた。
部屋に入るとなのははクッションの上に座り、恭也にはベッドに座るように促す。恭也はなのはがベッドに座れと言ったのだが、なのはは上から恭也を見るのは嫌だからと断った。
恭也にはその違いがよく分からないのだが、素直にベッドへと座った。

「なのは……すまなかったな、話すのが遅くなってしまって」

もう少し早く教えるべきだったのではないかと、恭也はそう言った。
だがなのはは笑って首を振る。

「別に関係ないから」
「そう、か?」
「うん」

 関係ない。
 それは血の繋がりだとか、そう言ったものは関係なく、美由希は姉なのだという意味で恭也はとった。
 だが、

「関係……ないんだ」

クスリと……なのはは……笑って……もう一度……呟いた。

 その笑顔を見て、恭也は目を見開いた。
もう一度見れば、いつもの笑顔に見えた。

 ただの見間違え……そんな訳がない。

恭也は確かに見てしまったのだ。

「なの……は……?」

 綺麗に、狂い、歪んだ笑顔を。
 それはいつか見た笑顔。
 それはいつか幻視した笑顔。
 だが、それはあの時よりもはっきりと、あの時以上に綺麗に狂い、歪んだモノ。

その笑顔を、見間違いでもなく、幻でもなく、確かに今、恭也は見た。
恭也の背に汗が滲む。
まるで心臓を鷲掴みにされたかのように、胸が痛む。

「なに、おにーちゃん?」

だがなのはは不思議そうな表情を見せるだけ。
 
「あ、いや」

 何なのだ、今の笑顔は。
人は……あんな笑顔を浮かべられるものなのか?
わからない。
 だが、恭也の前にいるなのははその笑顔を浮かべ、すでにそれはない。
今はいつも通りに笑っているだけ。

「本当に気にしていないのか?」
「うん。おねーちゃんはおねーちゃんだし、おにーちゃんは大好きなおにーちゃん。それだけ。なのはにはそれだけだよ」

いつも通り、いつも通りのはずだ。
ちゃんと家族の真実を受け入れ、それでも変わらないと言ってくれる、優しいなのはのままだ。
大切な妹のままだ。

それでも……

「そう……か」

何となく、恭也は気付いてしまった。
 
 自分は開けてしまったのだ。
 開けてはならない門を。
逃れられない道を塞いでいた門を開き、その中へと入り、すでにその門は背後で閉じてしまった。
もう引き返すことはできない。
いや、きっと自ら門を開けずとも、逃れることなどできなかった。いずれそれは勝手に開き、自分はいつか気付かずにその中へと入っていた。

 そんな訳のわからないことを、恭也は漠然と思った。




それからなのはと取り留めもない会話をし、恭也は彼女の部屋を出た。
そしてすぐに壁へと手を着ける。

「なんだったんだ?」

 未だに、あの笑顔が恭也の脳裏にこびり付いていた。
あの笑顔は綺麗すぎていて、狂いすぎていて、歪すぎていた。ただ見ているだけで取り込まれそうなものに見え、確実に幻などではなかった。
 だが、同時にそのことをなのはに問うこともできない。
 なぜなら、その笑顔は酷く自然なものに見えてしまったから。
この頃なのはと一緒にいることが多くなってきていたが、あんな笑顔を見たのは初めて……いや、二度目だった。
なのにその笑顔が自然に見えた。
 なのはの中に何が起きたのか。

 恭也は手を壁から離し、今度は背を預ける。

「……注意していないとダメか」

なのはの中で何が起きたのかはわからない。だが、あの笑顔は危険だと思った。
暫く、なのはの様子を見るべきかもしれない。

心のどこかで、そんなことをしても無駄だと言っている自分がいるのに気づきながらも、それでも恭也はなのはの傍にいて護ってやらなければならないと言葉にする。

だがそれは何から護るというのか?

何かを覚悟するかのように一度だけ目を瞑り、すぐに開く。
そして、再び親子の会話をしているであろう美由希たちと、その会話を聞いているであろう家族の元へと戻っていった。


 この時、恭也は漠然と気付いていたのかもしれない。
 なのはの狂想に。
 では、なぜそれをすぐにでも止めようとしなかったのか。
 それはたぶん、恐怖にも似た感情。
 諦めにも似た感情。
今はまだダメだと。
 今止めようとすれば、きっと何かが……それが恭也の何かなのか、なのはの何かなのかはわからない……決定的に壊れると、恭也は本能的に理解したのだ。
だから、今はまだ止めた。
 遠い未来で、この時の選択を後悔することになるのか、それとも良かったと思うのかは……まだわからない。




 なのははクッションに座ったまま、愛する兄が消えていった方向を見続けた。

「関係ないよ」

なのはは笑いながらそう言った。
 姉も、叔母も、母も、父も、他の家族たちも、最早関係ない。
この先の未来に、最早彼らが介入することは許さないし、関係する意味すらない。
未来には、兄を手に入れたという結果だけがあればいい。
 それだけがあれば、他には何もいらない。
故に、全てが関係ない。
 だから、なのははああ言った。

「少し、見せちゃったなぁ」

 クスクスと笑って、なのはは呟く。
兄にあの笑顔を見せてしまった。
 先ほど自分自身でも初めて自覚した、あの笑顔を見せてしまった。
 自分の本当の顔を。
 本当の笑顔を。
純粋で、狂っていて、歪んでいるあの笑顔を。
 恭也もあの反応からすると気付いただろう。だが、何も言ってこなかった。
 恭也は何かに感づいただろう。理由はわからないが、それでもそれを問わなかったのなら……。

「ふふ、おにーちゃんも望んでくれてるのかな?」

 自分に手に入れられることを。
まあ、そんなことはないだろうが。ただ言ってみたかっただけだ。

なのははパタンとそのまま後ろへと倒れ、仰向けになった。そして天上を眺めながら両手を伸ばす。

「手に入れるよ、おにーちゃん。私はおにーちゃん……あなたを手に入れる。どんな手を使ってでも……手に入れる」

そう言って、彼女は再び笑った。
 ……あの笑顔で。
そして……

「愛してるよ……おにーちゃん」

 年齢にそぐわない言葉を……年齢にそぐわない笑顔で……両手の先に見える愛する兄へと向けた。




僅かに、本当に僅かに残っていた枷。最後の一線を守っていたブレーキが、この日確実に破壊された。
 止まること知らなくなってしまったその想いは、さらに歪み、狂い始める。
 それは自分という命も、愛する兄の命すらも、他のどんなものも、彼を手に入れるためなら簡単に犠牲にしてしまえるほどの狂気の愛。
それはこの日に生まれてしまった。









あとがき

 …………。
エリス「恐い」
 うん。自分も読み返して、思考という意味ではこの話のなのはが一番恐かった。
エリス「本当の意味で狂い始めた感じだね……」
だよね。この話は一番削っていない部類に入るんだけど、さらに加筆もかなりした。
エリス「そういえばさ、リリちゃはどうなったの?」
 エリスさん、何をおかしなことを。
エリス「どういう意味?」
 この恭也以外はどうでもいい黒なのはさんが、そんな恭也が絡まない事件に介入すると思うのかね?
エリス「……思わない」
 その通り。最速のバットエンドに突入した。むしろもしリンディの声が聞こえても無視。そんな事件に巻き込まれてたら普通に計画が台無し、恭也の傍にもいられないから、どうでもいいみたいな感じになるでしょう。
エリス「クロノ君、リンディさん、頑張って」
 むしろリリカル那美と久遠が頑張ってくれるんじゃない?
エリス「わけわからない」
まああまり気にせずに。
エリス「で、次回は?」
 一応次回で、短編版で要約してしまった部分は終わりにするつもりなんだけど。
エリス「けど?」
 どう改訂していいか迷ってる。だから少し時間がかかるかもしれない。ここだけは加筆もかなりしなくちゃいけないし、削除しなければならない所も多いから。その間にオリジナルを入れようかなとも迷ってる。
エリス「それなのに二話連続で送ったの?」
 いや、一話目を送った段階で二話目も改訂終わってたからさ、いっぺんに送っちゃった方がいいかなと。
 まあ、次回はちょっと間隔が空くかもしれない。やっぱりなかなかパソコンの前にいけないのに、改訂作業とかだけはパソコンがないとどうにもならない上、次回をどう改訂するか迷ってる状況だから。
エリス「皆さん、そんな訳で次回は少々お待ちください」
 すみません。いや、まあこの話本当になのはが壊れてるから、どれだけの人が読んでくれてるのかわかりませんが。
エリス「どうなんだろうね」
 書いた自分でさえこれの改定してたら、純愛物を書きたくなってしまうぐらいだからな。
エリス「アンタが純愛もの……」
 まあ、正確にはとらハの作品を初めて書いた、恭也×なのはの『純愛』物だけど。リリちゃ箱が出る前に書いたやつだったから、色々変な所もあったんだけどね。
エリス「なのは、壊れてないの?」
 全然。この狂想は流れ的にそれを元にしてたりするところもあるんだけど、そっちのなのはは普通の女の子。まあ、こっちは主人公がどっちかっていうと恭也なんだけどね。それをリメイクして書こうかなぁと。元のは前のパソコンのデータ事なくなったみたいだから。
エリス「これ以上連載を増やすな」
 そだね。いや、投稿しなくても書くだけなら……。
エリス「他の作品が滞るから却下」
 はい。
エリス「それではまたー」
ではー。





真・なのは覚醒。
美姫 「もの凄い考えに行き着いたわね」
なるべくしてなったのか、それとも運命の悪戯か。
美姫 「どちらにせよ、もう止まらない」
ゾクゾクするけれど、読むのも止まらない、止めれない。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
楽しみに待ってます。



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