これは世界に二人の続編的な話になりますが、かなりご都合と捏造設定があります。さらにデュエルセイバーのネタバレ満載です。
 主人公であるキョウヤ(カタカナなのはわざとです)はかなり歪んだ性格になっていて、思考が支離滅裂です。
 そして地の文ばっかりです。そういう話が嫌いな方は読まないようお願いします。














 あれからどれだけの時が流れたのだろうか?
 千の年まで数えていたが、それ以降はバカらしくなって数えるのを止めた。
自分は……否、自分たちは、永遠の時に閉じこめられた、永劫の存在。
 ああ、確かにそう願った。
 だが、自分たちは願っていたのは、こんなものではなかった。
 ただ二人でいたかった。
それを求めていたはずなのに。
だけど、彼女が心の底で何を願っていたのか、永遠の時がすぎて、初めて理解させられた。
無限の時の果てで、彼女の真の願いが何であったのかを理解させられた。
 なぜなら、そこには自分がいた。
 最愛だったはずの家族がいた。
 かつての仲間たちがいた。
そして……彼女がいた。
 壊れた心の奥底で、彼女は願っていたのだ。
かつての世界を。







 永遠の囚人







「どういうこと……だよ」
 
目の前にいる黒衣の男を見て、大河は呆然と呟いた。
 だが、呆然としているのは大河だけではない。他の救世主候補たちも呆然とした様子でその男を見ていた。
 だがそれ以上に驚いているのは、恭也となのはだろう。
大河の言葉をどうとったのか、青年は再び口を開いた。

「もう一度言う。破滅と戦うのはやめろ」

 だが黒衣の男はそんな彼らには気にせず、感情の色をみせずに、淡々とした口調。

「その先にあるのは絶望だけだ」
 
 再び紡がれた言葉。
だが、全員がその言葉に驚いているわけではない。
いや、それよりも青年の言葉を聞いている者がいるのかも怪しいものだった。



彼は唐突に現れた。
 カエデが召喚されしばらく経ち、今回は久しぶり試験になった。そして、恭也とリコが戦い始めようとしたとき、彼は現れた。
 本当にいつのまにか、闘技場の中央に現れた。
最初は、どこかの科の生徒かとみんなが思った。
 だが彼の顔を見た時、全員が驚きを通り越して、唖然とし、その動きを止めてしまった。

「どうして……恭也さんと……同じ顔……なの……?」

 未亜が、全員の心の声を代弁するように呟いたが、それは問いかけたというよりも、ただ漏れてしまっただけの言葉。
そう、彼は恭也と全く同じ顔をしていた。
 似ている、などというレベルではない。
 同じ、なのだ。
 輪郭も、目の大きさも、鼻の作りも、唇の曲線も。全てが恭也と一緒。
 違うとすればその表情。
 青年は無表情。
 恭也も無表情だが、そこにはちゃんとした色があった。無表情でも、どこか柔らかさがあり、透き通ったような、生きているとわかる色が。
 だが青年にはそれがない。まるで闇を纏い、地獄を見てきたかのような……見続けているような、生きながら死んでいるような、そんな常人とは思えない色が感じ取れてしまうのだ。
 だから、彼は恭也ではない。
 恭也ではないはずなのだ。
 なのに救世主候補たちは……何より、恭也本人となのはが、彼は高町恭也だと認識してしまっていた。

「俺……?」
「おにーちゃん……?」

恭也となのはがそう呟いた時、青年の無表情が微かに歪んだ。




 恭也……キョウヤは、かつての自分と、その仲間たちを見つめ……そして、彼女を見つめていた。
 その瞬間、もう遠い昔に捨てたはずの心が再び疼きだした……あの時、彼女に再び出会った時と同じように。

 止まれ……

『どうしてなんだよ!? 恭也!!』

 黙れ……

『幸せ……に……なり……さいよ……』

 煩い……

『しあ……せ……なっ……て……ね……』

この者たちは違う……かつての仲間ではない……

『……おにーちゃん、大好きだよ』

 彼女は、自分の彼女ではない……
 
 いくら彼女が共にあっても、その心が感じられず、姿すら見えず、永劫の時の果てでその心は凍り付き、ただ復讐の刃のみを研ぎ続けてきた。
 自分たちの望みはこんなものではなかったのに、と。
ただ二人だけの世界が欲しかった……。
 それに神は応えた。
 しかし、それは一時の紛い物だった。
いや……確かに二人でいたいという願いは叶えられたのだろう。
だが、こんなものは望んでいなかった。
 彼女と二人だけの世界に歪みができたのは、いつなのかはもう覚えていない。
 だが、新たな世界が創られてから、それほど時は経っていなかった。
 そして唐突に、彼女は姿を変えた。
 彼女が扱っていた武器と同じく、純白の小太刀へと。
それが世界の瓦解。
 いや、世界の始まり。
 その瞬間、世界が生まれた。
あらゆるモノが生まれた。
 彼女の心を苗床に、真の意味で世界が再構成された。
その世界にキョウヤは投げ出された。召喚器へと姿を変えてしまったなのはと共に。
最初、キョウヤにあったのは絶望だった。
 なぜならなのはがいない。
 召喚器として彼女は共にあった。
 だが、語りかけても応えが返ってくることはない。姿を見せてくれることもない。その召喚器がなのはだとはわかるのに、それはなのはであったものに変わってしまっていた。
彼女が生みだした世界に、キョウヤはなのはの傍にいながらも、共にはいられなかった。


呪った。
キョウヤは神を呪った。
このとき……神と敵対するには、錆の着いた復讐の刃が生み出された。


 キョウヤは神を殺すために、そのためだけに生き続けた。
 もしかしたら、神を殺せばなのはも元に戻るのではないかという淡い希望を持ちながら。
 皮肉なことに、二人だけの世界で、永遠に共に在るという願いは、やはり歪んだ形でもたらされていた。
 それは不老の身体。
キョウヤは、この世界が新たに生み出された時から、歳をとることがなくなった。
だから、時間だけは無限にあった。
地獄の時間だった。
 愛する者の傍にありながら、だが言葉をかけることしかできず、心を交わすこともできず、姿が見えない。
 慰めは、その召喚器がなのはだとわかることだけ。
 だけど、それでもキョウヤは生きていけた。
神を殺す、ただそれだけを考えて。
 なのはを元に戻すために。
 キョウヤは無限の時を利用して、自らを鍛え続けた。
 錆着いた剣を研ぎ続けた。
 求めるのは力。
 力ならばどんものでもよかった。
 時ならば無限にある。いくらでも力は手に入る。
 そうして、キョウヤは力を手に入れ続けた。


 違和感が出てきたのはいつぐらいからだろう。すでに永劫とも言える時が流れていたのは確か。
白を選んだなのはによって生み出された白の世界。
 支配するモノとされるモノが分かたれ、整然と整っていたはずの世界が、ゆっくりと変わっていった。
 心が……生きるモノ全てに、心が芽生え始めたのだ。
そして、整っていたはすの世界が崩れた。
再び世界は、白と赤が同時に存在するものへと変わっていた。

 
 それに気づいた時、すでに消えてしまっていたはずの心が歓喜した。
 このままいけば、いつか必ずヤツは現れると。
 またこの世界を再構成させるために降りてくる。
力を手に入れるのと同時に、キョウヤは神がいる次元を探し回っていた。そのために召喚術さえ覚えてみせた。
 だが、神の次元は巧妙に隠されているのか、見つけだすことはできなかった。
しかし、いずれはまた現れる。
 ならば自分はそのときまでに、さらなる力を手に入れる。




 また永劫の時が流れ、その流れの中で、あらゆる世界を彷徨った。
 そして、そこでありえない世界を見つけてしまった。
それは、かつてキョウヤが存在したはずの世界。
 バカなと叫んだ。
 世界は一から作り直された。
 世界の根であるアヴァターから。
 つまり、その枝の部分であるこの世界は消失したのだ。
 最初は、ただの似た世界だと思った。新たに誕生した世界に創られ、似たような文明を築いていっただけにすぎないのだと。
 それでも気になり、何百年と見続けた。
その世界の文明は発展していく。
 そして……本当にありえないものが生まれた。


 かつての自分。
不破恭也という存在が、その世界に生み出された。
 ありえない。
なぜ、父がいる。
 なぜ、自分が生まれる。


そのままキョウヤは見続ける。
 そして、彼の知る通り……永劫の時を経ても、忘れようのなかった時のように歴史は動いた。
 御神の宗家が死に絶え、父が死んだ……
 そして……

「なの……は……」

 彼は再び出会った。
彼がもっとも大切にしていた彼女に。
まだ生まれたばかりの彼女に。
 彼女は、キョウヤが手を差し出すと、その手を握り……笑った。
 その瞬間、涙が溢れてきた。
もう枯れ果てて、血の涙すら流せなかった瞳から、止めることなどできずに溢れてきた。
 その時理解した。
 彼女は彼女ではない。
自分が愛し、自分を愛してくれた、最愛の妹ではない、と。
それでも……それでもその笑顔は、永遠の時と、絶望で凍り付いていたキョウヤの心を、ほんの僅かにだが溶かしてくれた。


 キョウヤには、この世界が……自分のなのはが望んだ世界なのだとわかった。
自分と二人だけの世界を望みながらも、壊れた心の奥底で、みんなが幸せに生きていて、自分と共に生きている世界を望んでいた。
そんな世界でやり直すことを望んでいたのではないだろうか。
 そしてその願いは、やはり歪んだ形で叶えられた。
本人たちにやり直しの機会は与えられず、ただ自分たちと同じ存在が生まれた。
似せて創られた世界。
同じように創り直された世界だった。
 家族が、友人が、仲間が……そして、自分たちがいても、それは自分たちの世界ではなかった。
 そこにいたのは、かつての大切な人たちでもなく、自分たちでもなかった。
 だけど、それは同じ存在。
 自分たちと同じように生まれ、同じ考えをし、同じ人生を生きてきた……生きていく、かつての自分たちだった。

 
 キョウヤはその世界から離れた。
 自分は必要がなかった。
なのはが望んだ世界。自分と共にある世界、幸せだった……いや、幸せになれる世界。ならばきっと彼女のためにこの世界は動いていく。
 この世界の自分との関係がどうなるかはわからないが、かつての世界のようにはならないだろう。
 ならば、それでいいではないか。
 少なくとも、彼女の願いの存在は幸せになれる。
 それは自分たちになんの影響も与えてはくれないが、それでもそれは可能性の一つのではないか。
 永遠の時を経ても、未だ色褪せない、あの遠い場所で……最後の友を手にかけ、自分などを好きになってくれた少女を看取った時に考えた可能性になってくれるかもしれない。
 自分たちでは選び取れなかった未来の可能性。
ある意味では代償行為に近いものだが、僅かな……本当に僅かな慰めにはなってくれるかもしれない。


 そうして、彼はアヴァターへと戻った。
 おそらくは、もうすぐ始まるから。
 アヴァターには、やはり懐かしい者たちがいた。
 リコがいた、リリィがいた、ベリオがいた、クレアがいた、セルがいた……他にも色々な人たちがいた。
彼の知るままの姿の……かつての仲間であり、その手で殺した者たち。
 どれだけ血の流し、記憶を消失し、心を失い、永遠の時が過ぎようとも、忘れることのできなかった人たちがいた。
 だけど、彼らは違うのだ。
 自分の……彼らではないのだ。
自分がどうこうしていい人たちではない。
キョウヤは待った。
 ただ、待ち続けた。
 今までの永遠の時に比べれば、僅か数年の時など瞬く間でしかなかった。
そして、大河と未亜が召喚された。
これから始まっていく。
 救世主候補たちの戦い。
それに介入するつもりはなかった。
 ただ、キョウヤは神が降りて来るのを待つ。
 無論、絶対に救世主が誕生するという確証はない。なぜならなのはとキョウヤ……恭也がいないのだから。
白の主となるはずのなのはがいない以上、誰が白の主となるかわからない。とはいえ、イムニティが何かしらのアクションはとるはずだから、問題はない。
 自分がどうこうしてはならないと考えているが、神を殺すためならば別だ。必要ならば、再び彼らを殺すことすら厭わない。
 リコ・リスでも、イムニティでも、白の主でも斬り殺す。再び大河をこの手にかけることになったとしても、神を殺すためならば、やってみせよう。


 だが、そうはならなかった。
恭也となのはが召喚されたのだから。
 
「なぜ……だ……」

呆然と呟いたが、次の瞬間には自分の浅はかさを呪った。
 この程度、気づけて当然ではないか。
 神とは……そういうものだ。
 慈悲などもたない。
 世界を再構成させるためには、どんな手段でも使うだろう。
 この場合、どのような手段が一番簡単か。
 それは繰り返すことだ。
 なのはによって、再構成されたこの世界。それが行き着いたのは、かつてとまったく同じ世界、同じ思考を持ち、同じ行動をする者たちが存在する、二度目の世界。
 ならば配置を一度目と同じにしてやれば、繰り返される。
 それが一番簡単な方法だ。
恭也となのはは、かつてのキョウヤとなのはと同じ、神斬と白琴を持っている。
 キョウヤ自身もかつて不思議に思ったこと。この世界になってから、神斬を呼ぶことができなくなった。その正確な理由はわからないが、かつて二人が使っていた召喚器は、この世界の自分たちが所持していた。


 こうしてキョウヤは動かなければならなくなった。
 別に守りたいとか、そんなことではなく、かつて自分が体験したことを端から見てるなどというのは我慢がならなかった。
 それだけだ。
 それだけのはずだった。




「救世主とは、お前たちが思っているようなものではない」

自分は何を言っているんだ?

「あれはただの傀儡にすぎない」

 自分は、この中の誰かを救世主にしなければならないのだ。
神を殺すために。
なのはを元に戻すために。
なのに、なぜ止めるような発言をしている。

「お前たちは無知な子供だ……なのに、何も知ろうとしない」

 ああ、そうか……。

「破滅がなんなのかを……救世主とはなんなのかを。
 ただ言われたから、破滅が世界を滅ぼすと、救世主が世界を救うと。それを鵜呑みにして、自らで考えようともしない。それらが本当に正しいのかも調べようともしない。
 そんな都合の良いものがこの世にはあるわけがないんだ。
 お前たちは知らない。その先にある絶望を……知ろうともしない」

 許せないのだ。
過去の自分たちが……無論、それが正確な自分たちではないのだとしても。
 無知なのに何も知ろうとせずに、ただ破滅を倒すと叫んでいただけ……ただ真っ直ぐに進んでいただけ。それを見せつけられることが。
 再び、自分たちを演じられることが。

「アンタは……なんなのよ……」

 リリィが……かつての姿で、かつての声で聞いてくる。
 同じ存在ではないとわかっているのに、ギリギリと心が締め付けられた。


(それだけじゃないんだな……)

 許せないだけじゃない。
 きっと、俺は……

 
 キョウヤは心の中で首を振った。
 
「俺は……過去の……そして未来の亡霊だ」

 この者たちにとっては、自分など亡霊にすぎない。
それが、過去のなのか、未来のなのかは、本当に些細なことだろう。
キョウヤは八景を抜いた。
 無限の時の中でも、八景は色々な改良を加えられながら、その姿を変えずに未だキョウヤの手の中にあった。

「八景……」

 恭也が……かつての自分が呟いた。
 自らの武器だ。間違えるわけがなかろう。
  
「お前たちはそこで止まれ」

 八景を突き出しながら言う。

「あんな未来は……もういらない」

それが、自分たちに似た、赤の他人が演じるものであろうと。

「ちょっと待ってくれないかしらぁ」

そう言ったのはダリア。
 相変わらずの狸ぶりを発揮し、すでに顔に驚きの表情はなく、いつも通りにニコニコと笑っている。
 その笑顔の裏で、深く物事を考えているのだということを、キョウヤはよく知っていた。

「なんだ」
「えっと、恭也君のそっくりさんは救世主がどんなものなのか知っているのかしら?」

 当たり前だ。この目で見てきたのだから。
 見続けてきたのだから。
 キョウヤはダリアの質問には答えず、その視線をリコ・リスに……再び宿敵に生み出された存在へと向ける。
彼女は、まるで睨むようにこちらを見ていた。
 
「リコ・リス……」
「なん……ですか?」
「まあ、まだであることはわかっているが……一応聞いておく。
 主は決めたのか?」
「なっ!?」

 リコは驚きのためか、目を見開く。

「なぜあなたが、そんなことを……!?」
「答えろ」

キョウヤは僅かに殺気を出しながら、再び問う。

「……決めていません」

 リコはキョウヤを睨みながらも答えた。
それにキョウヤは頷いた。
 おそらく自分が介入しなければ、大河が赤の主となっていたのだろう。

「一体、何なんですか……」

 話についていけず、ベリオは呆然と呟く。
それはベリオに限らない。
 誰もが、理解などできていないのだ。

「お前は……俺……なのか?」
「違う」

 恭也の問いに、キョウヤは無表情に首を振った。
 そう、二人は違うモノだ。
 どれだけ似ていようが、違う存在なのだ。

「どういうことでござるか?」

 しつこく質問してくる一同に、キョウヤはため息をついた。
 この探求心が、少しでも破滅や救世主に向いていたなら……。

「お前たちはここで止まる、それだけを理解していればいい」
「おにーちゃん……えっと、おにーちゃんじゃないけど、えっと……あなたは何をしたいんですか?」

まだ心を壊していない少女が、聞いてくる。
 この声を聞くと、やはり心がギリギリと痛む。

「お前たちを止めにきた。もしお前たちが止まらないというのなら……破滅と戦い続けるというのなら」

 八景の切っ先を突き出したまま、キョウヤは目を細めた。

「お前たちをしばらく戦えなくする。そして、リコ・リスを貰う」
  
その宣言を聞き、救世主候補たちは目を見開いた。
だがすぐに恭也が、キョウヤと同じように八景を抜き、さらに神斬を呼び出した。

「お前がなんなのかはわからん。だが、黙って仲間を渡す訳にはいかない」

 恭也がそう言うと、他の者たちも我に返り、同じように召喚器を呼び出した。
 だが、

「クッ……ふ、ふふ」

 キョウヤは小さく笑った。
 久しぶりに笑ったというのに、それは嘲笑だった。

「何がおかしいんだよ?」

 トレイターをキョウヤへと突き出し、大河は気にいらなそうに聞く。

「これが笑わずにいられるか。高町恭也の口から仲間などという単語が聞けるとはな」

 お前は俺が現れなければ、その仲間を皆殺しにしていたんだ。それどころか本当の破滅となり、家族や大切な者たちすらも無に帰したのだ、と言ってやりたかった。
妹のために全てを切り捨て……そして斬り捨てたのだと。
それを後悔はしていないが、未来も知らずに、何も知らずにそれを言う高町恭也が許せない。
 本当に殺してやりたかった。




 恭也は、自分に向けられる憎しみを感じていた。
 今まで、どんな強敵にも恐れなどというのは感じなかったが、これは違った。
 ひたすらに怖かった。
 自分に憎しみを込めた視線を向けてくる、目の前の自分に似た青年が。
だが、それに呑まれることはなかった。

「フン、あんた、もしかして破滅が恭也を似せて作り出した偽物かなんかじゃないの?」

 リリィが、大河と同じように気に入らないとばかりに言う。
 だが、恭也は違うと思った。
あれはそんなものではない。

「拙者たちは、破滅と戦うでござるよ」

 カエデも構えをとりながら、そんなことを言った。

「あなたは恭也さんじゃない。恭也さんはそんなふうに禍々しく笑いません」

 ベリオもそういうが、それも違うと思った。
 憤怒と、憎しみと、絶望と……そんなものが積み重なれば、自分はあんなふうに笑えるのではないかと思う。
 隣にいるなのはを見れば、どこか困惑している。
 彼女もやはりわかるのだ。
 あれは高町恭也だと。

「さっき言ったはずだ。俺は亡霊だと」

青年は嘲笑を消してから言った。

「破滅と戦う、というのだな?」

青年はやはり無表情で問う。
それに大河が胸を張って答えた。

「あたりまえだ! 俺は救世主になって、ハーレムを作るんだからな!」
「お兄ちゃん……こんなときに」
「大河君、状況がわかってるんですか?」
「このバカは……」
「……師匠」

 そんなやりとりを見て、青年が少しだけ笑ったように見えたのは、目の錯覚だろうか。

「そうか。ならば宣言の通りに、しばらくの間動けなくなってもらおう」
「はん、こっちには救世主候補が八人いるんだぜ?」
「一人でノコノコ現れたことを後悔させてやるわ」

 不敵に言う大河とリリィに、青年は肩を竦めてみせた。

「別段、問題はないが……まあいい」

 青年はそんなことを言いながら、空いている右手を突き出した。
 
「来てくれ……菜乃葉」

 そう呟いた瞬間、光を放ちながら、それは現れた。
 それは純白の小太刀。
 
「召喚器!?」
「そんな!?」
「あれって……なのはちゃんの白琴に似てる」

 未亜の言う通り、青年が呼び出した召喚器は白琴に似ていた。
 ただ明らかに違う。
 鍔の柄の色は一緒だが、形が微妙に違うし、刀身も完全な白銀ではなく、どこか黄色がかっているように見える。
だが、そんなことはどうでもよかった。
彼は召喚器を呼ぶときに何と言った?

「これが俺の召喚器……そして、俺の最愛の者、菜乃葉だ」
「なの……は……?」

青年以外の者たちが、一斉になのはを見てしまった。
 そのなのは自身も、どこか驚いたように菜乃葉と呼ばれた召喚器を見つめていた。

「わか……る……私……だ」

 なのはは、ただ呆然と呟いた。

「お前ではないさ……同じではない。同じであったなら、どれだけよかったか。
 俺などどうでもいい。ただ彼女だけでも、その願いが叶っていたなら、どれだけ……」

青年はほんの一瞬だけ、悲しげな表情をみせた。
 だが、それは本当に一瞬だった。

「……さあ、来い。破滅と戦うというのなら、その前に俺を倒してみせろ」

青年は構えすら取らず、そう言った。




 戦いはすぐに終わった。
結果は言うまでもなくキョウヤの勝利だった。
 なのはとダリアを除いた全員が、地面に伏している。
永遠の時で力を付け続けてきたキョウヤに、彼らが勝てる訳がないのだ。

己を鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて……
己を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して……

敵と戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って……
敵を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して……

そんなことを永劫に繰り返してきた。
 今の彼を殺せるものがあるとすれば、それは本当に神ぐらいだろう。
彼らに命の別状はない。
 殺すにも値しないほどの、脆弱な力しか持たない。
だが、それでもなのはを傷つけることはできなかった。
 まだ心の中で燻る甘さが、彼女を傷つけることを良しとしなかった。

「こんな……」

 ダリアが、救世主候補には見せない驚きの表情を顔に張り付けて呟く。
彼女には何が起きたかはわからなかったのだろう。いや、それは今この場で呻き声を上げながら倒れている救世主候補たちも同様だ。
なのはは白琴を構えて震えている。

「構えずともお前は潰さない」
「え?」

そんななのはに、キョウヤは表情を変えずに言った。

「今回はこれぐらいにしておく。リコ・リスも置いていこう」
「あなたは……」

 なのはは呆然とキョウヤを見つめている。

「だがこれだけは覚えておけ……この先に行くというのなら、この程度では足りない。俺を止める力がなければ、本当の意味で破滅をなくすことはできない」

本当に何を言っているのか、キョウヤ自身もわからなかった。
なぜこんなことを言っているのか……。

「破滅の裏、救世主の裏にあるもの、それを知れ」
「裏……?」
「すべては隠れ蓑にすぎない。その裏に全ての真実がある。
 もっとも全て知って残るものは絶望かもしれんがな」

そう言って、キョウヤは菜乃葉を消し、八景を鞘へと戻す。そしてなのはに背を向けた。

「お前は……お前たちは繰り返すな。あいつの希望たるお前たちは、幸せになれ。
 でなければ、本当に救われない」

それだけを残し、キョウヤは現れた時のように、忽然と姿を消した。
 



 こうして繰り返されるだけだったはずの物語が歪んでいく。










あとがき

 なんか逆行っぽいけど、正確には逆行ではない作品ができましたー。
エリス「いや、恭也が二人って」
 二人は正確には別の存在です。同じ人生を歩み、同じ……かつてのキョウヤと……考え方をしているけど、違う恭也。かつてのなのはが壊れた心の底で望んだ世界で、新たに生み出された恭也です。ついでにキョウヤの方は長い……というか、ほとんど永遠の時を経て最強に。
エリス「なんかホントとんでも設定」
 最初は恭也もなのはもアヴァターには召喚されず、大河と未亜だけで、デュエルセイバーそのままで話が進んでいき、キョウヤが介入することで話が歪んでいくというというものだったのですが、それじゃあおもしろくない、ということで、結局恭也となのはも召喚。
エリス「なんでこんなの書いてたの?」
 いや、前に浩さんとアハトさんとネタだしやったとき、逆行ネタがあったんだけど、世界に二人を書いたあと、これならいけるのではと思い、プロットから設定まで書きまくってしまった次第。というか、長編でも書けるぐらいのものを書いてしまった。
エリス「あんた、まさか」
 いやいやいや、長編では書きませんよ。うん、書きたいけど、この短編で我慢します。下手するとダーク展開になりかねない。しかも完全最強設定だから確実に話が歪む。今回はとりあえず短編形式にするため、救世主候補たちの前にでてきただけだから、長編だったらほとんど接触しない。
エリス「なんか凄いことになってるね。それにしてもこの話、ほとんどプロットの一部を変えて書いただけじゃない?」
 う、ご、ごめんなさい。
エリス「とりあえず久しぶりの短編は終了、黒衣の続きへいきなさい」
 はい。
エリス「それではまた、他の話で」
 それではー。







ああ、あのネタだしの〜。
美姫 「それがこんな形で読めるなんて」
うんうん。感涙だよ。
美姫 「でも、確かに長編にも出来そうな話よね」
流石はテンさん。
美姫 「ありがとうね〜」
ありがとうございました。とっても面白かったです!
美姫 「それじゃあ、またね〜」



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