――はじめに――

 

この作品は「とらいあんぐるハート3 〜Sweet Songs Forever〜」を基に、特にヤマ

場などを設定する事なく執筆したものです。

この作品をどのように解釈するかは、お読みいただいた皆様次第です。では、つたない

作品にしばしお付き合い下さいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜スペードのクィーン〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トランプを使うゲームにはいくつものバリエーションがあるが、そのひとつにブラック

ジャックなるものがある。

ルールはまったく単純で、配られたカードの合計が21になれば勝ち、オーバー(バー

スト)するか、21に満たず、かつ相手よりも数が遠ければ負け、というもの。一般に、

カジノなどで行われる〔賭け事〕のひとつとして知られているものだ。

絵柄札は10、A(エース)は1あるいは10として扱われ、最初に渡される二枚の時

点で21になっていたら、当然無条件勝利(ナチュラル・ブラックジャック)である。

 

 

 

 

 

まるで賭博とは無縁の高町家で、何故にブラックジャックか? という疑問が湧いてき

そうなものだが、この日遊びに来ていた月村忍が、来る前に商店街で気まぐれを起こし、

トランプを買って来たのである。

高町家唯一の男手である高町恭也は、所用で出かけていて留守にしており、高町家の長

女的存在、フィアッセ・クリステラは〔かーさん〕こと、高町桃子の切り盛りする喫茶店

〔翠屋〕で仕事に勤しんでいたが、妹ふたり――美由希となのは――に、料理長二名――

同居している城島晶と鳳蓮飛(レン)――がいて、美由希の親友でもある神咲那美、なの

はとすこぶる仲の良い子狐の久遠も遊びに来ていたから、家の中は俄然華やかな雰囲気に

なってきた。

最初は神経衰弱だのババ抜きだの、スタンダードな遊びで楽しんでいたのだが、トラン

プに同封された簡単な説明書を何気なく見ていた忍が、

「ね、ね、今度はこれやってみようよ」

「忍お嬢様……それは遊びの範囲を超えかねませんが」

忍に仕えるメイド、ノエル――実は自動人形だったりする――のツッこみも聞き流した

ひと言で、とにもかくにもやってみよう、という事になったわけだ。

ネタが賭け事で知られるものだけに、何か賭けるとなるとシャレにならないから、元手

は特に設定しない事にした。そんなこんなで、リビングでの新たなゲームは幕を開けたの

である。

 

 

 

 

 

じゃんけんで組み合わせを決めた結果、最初は晶とレンの勝負。

普段から何かとどつき合い――傍から見るとほぼ漫才――を繰り返しているからか、二

人とも表情は真剣だ。

最初の一枚は、晶がスペードの6、レンはダイヤの5。二枚目は、裏返されている。さ

て、二枚目のカードを見たレンは、三枚目を取らずそのまま勝負に出た(スタンド)。一

方、晶は二枚目を見ると三枚目を取って(ヒット)、数を見た途端に唸ってしまった。

「ほれ晶ぁ、早よ決めんかい」

「るせぇ、カメ」

「おぉ? むかちゅ〜やな、こら」

「ええい、もう一枚!」

晶は言葉通り更に一枚引いて、

「だあぁぁぁ!」

数を見るなり天井を仰いだ。ほくそ笑むレン。その結果は――

 

晶  スペードの6、ハートの9、ダイヤの3、ダイヤのジャック

レン ダイヤの5、クラブのA

 

つまり、21よりオーバーした為(バースト)、無条件で晶の負け。

「ほっほっほ〜♪」

「ぐぅ、こ、こんのぉ……ぐ、ぐやじぃ」

 

 

 

 

 

次は那美とノエル。

那美が最初にハートのジャック、ノエルがスペードのAを引いた。もしノエルの二枚目

が絵柄の札だった場合、無条件でナチュラル・ブラックジャックだが、ノエルは二枚目を

見るなり三枚目をヒットした。

一方、那美は二枚目を見ると首を傾げ、

「あ、あははは……ど、どう、しましょう……」

困った笑いを浮かべて迷っている。

「那美さん、頑張って」

「あ、ありがとうございます、美由希さん」

美由希の応援を受けた那美は、しばらくじっとカードの山を見つめていたが、結局スタ

ンドした。そして――

 

那美  ハートのジャック、ダイヤの7

ノエル スペードのA、ハートの5、スペードの2

 

「ああっ、負けちゃいましたぁ」

「良い勝負でした、那美さん」

確かにノエルの言う通りだろう。出来る限り21に近付けなければならないが、しかし

下手に次を引くとバーストしてしまう可能性がある。そういう意味では、中々一筋縄では

いかないゲームだと言って良いのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

次は、美由希と忍。

「忍さん、ゲーム得意だから」

「ええ、そうでもないと思うけど?」

とにもかくにも、最初のカードは美由希がクラブの6、忍がダイヤの8。二枚目を見た

美由希は、少し逡巡して三枚目をヒット。忍も同じく三枚目を取る。

「……」

「スタンド〜」

忍は三枚で勝負に出るようだ。

美由希はしばらく無言だったが、四枚目をヒット。さすがに勇気がいったのか、カード

の数を見た後でひとつ、大きな溜め息が出た。

「美由希さん、大丈夫ですか?」

「あ、うん。大丈夫だよ、那美さん」

さて、どうなったろうか――

 

美由希 クラブの6、ハートの4、ハートの3、ダイヤの7

忍   ダイヤの8、クラブの3、スペードのクィーン

 

「やった♪」

「ん〜、残念」

これまた、中々の好ゲームだったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

そうこうしている内に、

「ただいま」

「あっ、おかえりなさい、おにーちゃん」

「くぅん」

恭也が所用を終えて帰って来た。なのはと子狐姿の久遠が揃って迎える。

「賑やかだな」

「あのね、お姉ちゃん達でぶらっくじゃっくやってるの」

「……ほう?」

あまりゲームに親しまなかっただけに、いささか要領を得ない様子の恭也だが、聞くよ

り実際に見た方が早い。なのはに手を引かれ、久遠に先導されてリビングへ。

「あ、おかえり恭ちゃん」

「お邪魔してます」

「やあ、遊びに来たよ」

「お邪魔しております、恭也様」

「お帰りなさい、師匠」

「お師匠、お帰りなさ〜い」

「で、何やらやってるとなのはに聞いたが……トランプゲームか」

恭也がテーブルの上のカードに目を向けると、忍が切り出した。

「そうだ。ルールは簡単だから、高町くんもちょっとやってみようよ」

というわけで急遽、恭也と忍の勝負が組まれたのである。

 

 

 

 

 

簡単なルール説明の後、なのはと美由希が切ったカードから、二人に二枚ずつ。最初の

一枚は恭也がハートの10で、忍がスペードのキング。

「おお、同じ数や」

「次が問題なんだよな、これって」

レンと晶の呟きを聞きつつ、恭也は二枚目の数を確認すると三枚目を引かず、

「月村、お前はいいのか?」

水を向ける。対する忍はと言うと、

「うん。スタンドで」

「そうか」

二枚目を見て、これまた三枚目には手を出さない事にしたようだ。と、

「高町くん。この勝負、もらったよ」

にっこり笑って言い放ったものだ。

「自信あり気だな」

そして、カードを全て晒すと――

 

恭也 ハートの10、ダイヤの8

忍  スペードのキング、スペードのクィーン

 

「……参った」

恭也は試みに、カードの山から一枚引いてみる。それはクラブの6だった。

 

 

 

 

 

その後、なのはと久遠を除く全員と手合わせした恭也の成績は、トータルで三勝三敗。

忍とノエルとレンに負けている。

「なるほど……ルールが単純だから遊びやすいし、熱中しやすいのだろうな」

「そういう事だね。だから賭け事なんかでもよく使われるんだよ、きっと」

「なのは」

「なに? おにーちゃん」

「こういう悪い遊びは覚えるなよ。月村みたいになるからな」

「うわ、高町くん何気に意地悪ぅ〜」

そこに、晶が口を挟んできた。

「そう言えば忍さん、二回とも同じカード引いてますよね」

「あ、分かった? 私も不思議だったけど、でもカード切ってたのは、ずっとなのはちゃ

んだったからね。いかさまはしてないよ」

更に美由希が会話に加わって、こう口に上せた。

「そうだね。でも、忍さんには合ってるかな? スペードの女王……なんか、ぴったりき

そうだよ」

それを聞いた忍は、まんざらでもなさそうな表情になる。

「あははは。女王様とお呼び! なんちゃって♪」

リビングが、ひとしきり笑いに包まれた。

なのはの横で、久遠がひとつ大きなあくびをした。日常が多く、事もなく過ぎていくの

と同じように、休日もまた、こうしてのんびりと過ぎていくものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜スペードのクィーン〜 了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


後記

 

いかがでしたでしょうか?

この作品もフランツ・フォン・スッペの喜歌劇「スペードの女王」のタイトルだけもじ

って、ある休日をネタにしたものです。まぁ、特に深い意味はありませんので(笑)。

ここではトランプのゲームを題材に取り上げているわけですが、個人的には恭也メイン

に限らず、とらハ二次創作にことさらアクションを組み込む必要を感じていません。もち

ろん、作品のストーリー進行上、どうしてもそれが必要になる、と判断した場合は別の話

です。

そういう意味で、自分は「御神流、という設定」やら読み手の目を引くアクションを全

く軽視していて、むしろ高町恭也と彼を取り巻く人々の「日常の関わりあい」の方に、作

品を書く為の題材として大きな魅力を感じているのかもしれません(これは自分が「1」

や「さざなみ女子寮」をネタに書く時も、基本的に変わらないのですが)。

 

またも好き放題書いたところで、筆を擱きたいと思います。

ではでは。





高町家での日常。
美姫 「うんうん。やっぱり良いわね」
本当に。こういう日常も大好きだ!
美姫 「本当にこういうのも良いわよね」
また一つ勉強させてもらいました!
美姫 「それがいかせれば……」
それは言わないで…。
美姫 「それじゃあ、今回はこの辺で」
ではでは。



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