――はじめに――

 

この作品は、「とらいあんぐるハート」を基にしておりますが、一体どこでどう間違え

たか、へんてこな出来になっています(笑)。

と言うわけで、この作品を読まれる方は、いわゆる「ものがたりの脈絡」を決して求め

ないように、よろしくお願いいたします。

では、つたない作品にどうぞ、お付き合い下さいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜はげ山(丘?)にて〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いた時、相川真一郎は何故か、荒野に放り出されていた。

(……なんでさ?)

寒くもなければ暑くもない。なのに、周りに漂うのはどことなくうそ寒い空気のみ。服

こそ着てはいるが、白茶けた土を裸足で踏みしめていて、その目はほの暗い空間を映すだ

けだ。霧、と言うより靄、と言うべきか、そのほの暗い光景が唐突に開けてくると、

「……何もないじゃんか……」

思わず、がっくりと肩を落としそうになった。いや、何もない、というのはいささか語

弊があるだろう。真一郎の見渡す先には、こんもりと盛り上がった山、と言うより丘があ

り、それ以外はいくら見回しても、目印になるようなものひとつすら見当たらない。

「このままここに黙〜って突っ立ってても、何にもならないか」

大体が手ぶらな上に、こうも何もない場所に立たされると、方向感覚の「ほ」の字も覚

束ない。

結局、真一郎は丘を目指す事に決めた。特に深い理由はない。全方位、くまなく見渡し

ても丘以外に目印がない以上、それしかやりようがなかったからだ。

白茶けた土は、特に柔らかくもないが、いくら踏んでも痛さを感じない。ふと見ると、

石ころが全く見当たらなかった。ただただ、土の床が拡がっているのみである。

「歩きやすいのはいいけど……本っ当に、何もないなぁ」

家もない。並木もない。店もなければ電柱もない。人もいなけりゃ、挙句の果てには道

すらない。まことに殺風景な景色――と言うのも抵抗がある。

そんな中を、ただひたすら歩く真一郎だった。

 

 

 

 

 

歩いたようでいて、意外に歩いた感じはない。ふと振り返ると、付いたはずの足跡はそ

の側から消えてなくなっていた。

(風、吹いてるわけでもないのにな)

おまけに汗すらかいていない。不思議な事だ。疲れ、と言う疲れもない。ついでに、今

が何時なのかも分からない。午前か午後か。

丘は、ただそこに黙然と座していた。樹木も何もない、今まで踏んできた土と同じ色。

「それでも、頂上に上がれば何か見えるかも」

思った事を口に出さなければ、いいかげん叫んでしまいそうになる。頭を一度左右に振

って、真一郎は丘を登り始めた。

丘の斜面はなだらかで、登るのにそれほど負担は感じない。しかしその分、実は大きな

丘なのだろう。頂上が中々見えてこない。

それでもなお登り続けると、

(あれ? さっきまでは上がってなかったのに……)

煙がひと筋、そろそろと立ち昇っているのが見える。誰かが頂上にいるのだ。歩みは自

然と速くなり、遂には走り始める。

いよいよ頂上が見えた、という頃になって人影が見えた。それも複数。何か大きなもの

を取り囲むようにしている。

安心した真一郎は、手を振りながらそこに走り寄って行く。

「おぉ〜い!」

声を張り上げて、しかし真一郎は、急に違和感を感じた。

 

 

 

 

 

目指す先にいる人々の格好は、まるで示し合わせたかのように真っ黒。被っているもの

はとんがり帽子――

「え……と、どういう事かな?」

立ち止まると同時に、その〔真っ黒のとんがり帽子〕の一人が振り返って、

「あ〜、しんいちろ〜だ〜!」

「ゆ……唯、子?」

思い切り脱力した真一郎に、鷹城唯子は構わず近付いて来ると、

「しんいちろ、ほら早く早く」

右腕を掴んでぐいぐい引っ張って行く。満面の笑顔で。

そして頂上に着いた真一郎の目の前には、

「……」

また、思わず突っ伏したくなるような光景が拡がっていた。

真ん前にはレンガ仕立ての台座。その上に大鍋がどんと鎮座していて、真下では焚き火

がごうごうと炊かれている。その横にある踏み台には、

「こ、小鳥……?」

サイズの合わないとんがり帽子に、半ば視界を遮られている野々村小鳥が上がっていて、

やたら長い棒のようなもので、懸命に鍋の中をつついていた。

「あぁ、あややや……あっ、真く〜ん」

かき混ぜている棒に半ば振り回されつつ、小鳥は笑顔で声をかける。真一郎は、引きつ

った笑顔で応えるより他になかった。

 

 

 

 

 

不意に肩を叩かれて、反射的にそちらの方を向くと、

「先輩」

綺堂さくらがそこにいた。とんがり帽子と黒衣がよく似合う――

「って、さくら……耳、それに尻尾……」

「あ、これですか? ここでは隠しても意味がないですから」

「いや……そ、そういう事じゃなくて……」

だったらどういう事なんだろう。真一郎はそこまで考えたが、何も言わない事にした。

何を言っても無駄な気がしたからだ。

ふと気配を感じて空を仰ぐと、

「や、真一郎」

春原七瀬が宙を舞っていた。一般論として、魔女は箒にまたがり空中を移動するものと

されているが、七瀬はそんな事をしていない。

(する必要も、ないんだっけ)

何故なら、彼女はいわゆる〔幽霊さん〕だからだ。

段々、考えるのがアホらしくなって来つつある。大きな溜め息を吐くと、今度は鍋の中

から唸り声か、はたまた呻き声か、妙な声が聞こえてきた。

(え? まさか……)

鍋の縁に手をかけて、顔を出したのは――

「あう〜……もうこれ以上浸かってたら、のぼせちゃいますよぉ〜」

豆だぬき――もとい、タヌキの着ぐるみらしきものを着ている、井上ななかだった。

 

 

 

 

 

「い、井上ぇ!?

「ふぁ、あ〜相川先輩〜、って、わ!」

ななかが手を滑らせて、鍋の中に落ちた。水音は鍋に遮られて大して響かなかったが、

「だ、大丈夫か〜?」

真一郎はとりあえず声をかけてみた。

「大丈夫です〜」

何が何だか、本当に分からなくなってきた。

「い、一体何をしてんのさ……これ?」

たまりかねて聞くと、それまでそこにいた皆が真一郎の方を見て、

「真くんは、知らなくてもいいんだよぉ」

「そうそう。しんいちろ〜はぁ、ここにいてくれればいいんだにゃ」

「はい。もう少しで鍋の中身も出来ますから、待っていて下さいね、先輩」

「あう〜」

最後の声は、多分ななかだ。そろそろ限界らしいが、

(井上をダシにして、一体何を作ってるんだ?)

何故か、嫌な予感が背筋をすい、と撫でていった。本能的に、一歩後ずさる。が、

「逃がさないよ、相川」

「ハイ、もウ逃げられなイですヨ」

いつの間にか左に御剣いづみ、右に菟弓華。真一郎は両腕を二人に掴まれて動けない。

 

 

 

 

 

「い、い、一体……何なのかな……これ」

「もう少しシたら、分カりますネ」

真一郎の問いに、弓華がにっこり笑い、反対側でいづみが耳に顔を近付けてきた。

「まぁ、このまま待ってなよ」

と、不意にいづみが更に口を近付けて、

「真一郎、さ・ま♪」

もの凄く甘く聞こえる囁きを、真一郎の耳に刻印する。柄にもなく、背筋が一瞬ぶるり、

と震えた。

「え、え〜、と……」

急に、先程感じた〔嫌な予感〕が、未だ正体が定かでないながらも、ひどく切迫したも

のをもって真一郎を締め上げる。

(う、うわぁ、何が何だか分からないけど……き、危険だ。間違いなくここにいちゃダメ

だぁ)

しかし、未だにいづみと弓華は傍から離れない。頭上は七瀬、正面にはさくらと唯子。

鍋の中の豆だ――もといななかは、何の役にも立たない。

「そろそろいいかな?」

小鳥が鍋の中身を小皿に取って、踏み台から降りて来た。すると、全員の目の色が変わ

った――ように、真一郎には見えた。

(ま、まずい……なぁ)

「さぁ、真くん。出来たよ〜」

小鳥が真一郎の前にやって来る。真一郎は身動きも取れず、ただその光景を見ていた。

 

 

 

 

 

とてとてと近付く小鳥の姿は、魔女の衣装であろうが可愛らしいのひと言だ。だが、

(その鍋の中身だけは……)

口にしたくもないのが本音だ。唯子を始めとする皆が魔女の衣装を着ていても、実のと

ころ真一郎にとっては怖くも何ともない。とにかく、

(い、いやいやいやいや……)

得体の知れぬその小皿の中身を食べたら――いや、それはよく見たらどろりとした黒い

液体だった。つまり飲む事に――そう思ったのが運の尽き。動きが完全に封じられ、

「はい、真くん。召し上がれ♪」

「う、うわぁ!?

小鳥が、真一郎の口に小皿を付けようと迫る。思わず鍋の方向に目をやる真一郎。だが、

ななかは鍋の縁にのぼせ切って、ばたりとへたばっている。そして、周りを囲むのは目の

色がすっかり変わった唯子を始めとする〔魔女〕たち。逃げ場は、ない。

(も、もう……これまで、か……)

真一郎は、これで最後かとばかりに目を閉じ――

教会で鳴らされるような鐘の音が突如、どこからともなく鳴り響いた。そして、ある一

点からまばゆいまでの光が、真一郎達のいる丘の頂上に降り注ぎ、

「真一郎!」

「瞳ちゃん!?

白馬の曳く戦車に騎乗した千堂瞳が、柳眉を逆立てて光の中を駆け、棍を振り上げ、

「こんの浮気ものぉ! コロスわよ!!

 

 

 

 

 

「え、ちょ、ちょっと待っ……う、うわぁ〜!?

掛け布団を盛大に跳ね飛ばし、真一郎は目を覚ました。

「……へ?」

せわしなく、きょろきょろと周りを見回す。

夜明け前でまだ暗いが、夜目に慣れると見慣れた光景がそこにはあった。

「ゆ、夢……か。はぁ〜っ」

それにしても、何てメチャクチャな夢だったろう。悪夢には違いなかったが、そこで見

たものをよくよく思い返すと、その時ほどの緊張感は感じない。

「結局、あの鍋の中身の正体も、なんで唯子達がそこにいたのかも、何もかも分からずじ

まいだったなぁ。それに、瞳ちゃん……浮気なんて考えてもないのに……」

それが夢というものだ、と言われればそこまでかもしれない。もう一度溜め息を吐くと、

目覚まし時計を手にとって時間を見る。午前四時を少し回ったところ。

しばらくそのままぼうっとしていると、少しずつ夜空が白くなり始める。起きなければ

ならない時間まで、まだしばしの余裕があった。

もう少し、寝ていたい――再び布団を被り直す。今日は、午後から皆と一緒に市立図書

館で、受験に備えた勉強会をする予定だった。真一郎の恋人――今は大学生の瞳ちゃんも、

忙しいスケジュールを縫いながら、助っ人として来てくれる事になっている。

この夢はとりあえず忘れてしまおう。そう決めて、真一郎は再び目を閉じた。部屋には

すぐに、静寂が戻る。

――ある一日が始まる前の、それは不可思議なひとつの夢の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜はげ山(丘?)にて〜 了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


後記

 

題名からして変てこなものですが(笑)。

即興ながらこの作品を書くに当たって、ヒントになった曲は実在します。ロシアの作曲

家、ムソルグスキー作曲の『はげ山の一夜』です。

曲の標題説明には、

 

「闇の精とチェルノボグ(ロシアの悪魔)の登場……黒ミサと魔女たちの饗宴……その最

中にはるかな村の教会から鐘の音が響き、闇の精たちは退散、夜が明ける」

 

とあるそうですが、いざとらハキャラでイメージすると、これが「さざなみ女子寮」で

あっても「3」であったとしても、自分の中では実際の曲の前半のような〔おどろおどろ

しい〕ものには、どうにもなりようがありません(苦笑)。

まぁ、とりあえず「1」のキャラで、曲をヒントにして(あくまでもヒントであって、

この曲になるべく沿った格好にする、というわけではありません)自分なりに書いてみた

らどうなるだろうか。で、実際に書き上げてみたら出来たのはこれ、という次第。

この作品はパロディ、と言うよりナンセンス、と形容した方がまだ近いかもしれません。

 

さて、この辺で筆を擱く事にします

ではでは。





夢で良かったね、真一郎。
美姫 「でも、鍋の中身は気になるわね」
まあ、夢だし。
それにしても、こういうのも楽しいですね。
美姫 「本当にね」
タケさん、ありがとうございました。
美姫 「ました〜」



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