ラキオスのエトランジェ、桜坂柳也が失踪した。

 その驚くべき事実が発覚し、王国軍上層部を震撼させたのは、彼が行方をくらませたその日の深夜のことだった。

 その日、柳也は朝から、彼自身が副隊長を務める特殊部隊スピリット・タスク・フォースの通常訓練を一日みっちりこなし、夜には労働後の心地よい疲れを癒やすべく風呂に入った。夕食前の入浴で、故郷の世界では湯を張った風呂釜に肩まで浸かることを至福としていた彼の嗜好をよく知る詰め所のスピリット達が、一番風呂を上官に譲ってやったのだった。異世界からやって来た風呂好き民族の青年は、部下達の心遣いに嬉しそうな顔をして、「晩飯時までには上がるから」と、言って、浴室へと足を向けた。

 ところが、先の発言とは逆に、夕食が出来てからもなかなか浴室から出てこない。

 心配になった一人の赤スピリットが様子を窺いに向ったところ、浴室には誰もいなかった。

 自分達が気づかなかっただけで、彼はもう出た後なのか。とすれば、風呂上がりの上官が向かう先は、たぶん自分の部屋だろう。件の赤スピリットはそう考えて、柳也の自室へと向かった。しかし、彼は自室にもいなかった。

 いよいよこれはおかしいということになり、詰め所のスピリット達は総出で柳也を探すことにした。

 しかし、詰め所の中は勿論、周辺のどこを探しても、彼の姿は見当たらない。彼がその場にいたという痕跡さえ見つけられない。

 何か急な用事で王宮か、STF隊が保有するもう一つの詰め所にでも向かったのかとも思い、双方に人を送ってみるも、返事は「来ていない」、「見ていない」というものばかり。柳也との恋仲が噂される、リリィ・フェンネスをして、知らないという返答だった。

 スピリット達から事の次第を聞き、事態を重く見たリリィは、実父にして上司のダグラス・スカイホーク通産大臣に相談。ダグラスはラキオス王に報告し、かくして、桜坂柳也行方不明の報が、ラキオス王国軍上層部の知るところとなった。

 姿を消した柳也を、ラキオス王は失踪したと判断。国王は、王国軍最強の矛の一振が失われた事態を重視し、ただちに捜査本部を開設した。捜査本部長には、日頃から柳也との付き合いが深い、剣術指南役のリリアナ・ヨゴウを据えた。

 開設された捜査本部はまず失踪原因の特定に尽力した。すなわち、柳也が自らの意思で行方をくらませたのか、それとも何者かに拘引されたのかの究明だ。

 捜査本部が注目したのは、彼の自室に取り残されていた同田貫の名刀と、王国軍が人質に取っている佳織の存在だった。

 同田貫は柳也が最も頼みする刀であり、普段から父の形見と公言している逸品だ。そんな大切な刀を置いて、自らの意思で失踪するだろうか。また、佳織は彼が最も大切に想っている女の子だ。やはりこちらも、そんな大切な人を置いて、行方をくらましたりするだろうか。

 捜査本部は、柳也が何者かに拘引されたとの前提で捜査を進めた。

 しかし、捜査は難航した。

 犯行現場と思しきはスピリット隊の詰め所の浴場。犯行の痕跡はことごとくが湯水で洗い流されたらしく、現場からは何も出てこなかった。科学捜査のない有限世界だ。現場から物的証拠を回収するのは、諦めざるをえなかった。

 また、ここ最近の柳也を取り巻く人間関係を調べてみるも、彼を拘引して利益を得るような人物は出てこなかった。

 もともと異世界からやって来たエトランジェ、交友関係は限られた範囲内でのことだ。それらしき人物がいれば真っ先に捜査線上に浮上するはず。それがないということは――――――、

「あまり考えたくはないことだが、サムライは自らの意思で行方をくらましたのではあるまいか?」

 一度は否定した疑念が再び浮上し、捜査本部長リリアナ・ヨゴウの頭を悩ませた。

 そもそも、桜坂柳也という男は六尺豊かな体格と、並外れた運動能力の持ち主だ。また、自身を臆病者と称する彼は、脇差を浴室に持ち込む癖があった。いかに愛刀・同田貫を持っていないとはいえ、そんな男を御し、拘引出来る人間など、そうそういるはずがない。

 考えれば考えるほど、状況証拠はすべて柳也が自らの意思で姿を消したことを示唆しているように思えた。思えて、ならなかった。

 人間というものは、一度一つの考えに到達してしまうと、なかなかそれ以外の結論を導き出すことが出来ないものだ。

 かくして視野狭窄に陥ったリリアナの疑念は、やがてラキオス王にも伝播した。ついには王国軍の最高司令官までもが、柳也の失踪に疑念を抱いてしまった。

 桜坂柳也は自ら失踪したのだ。

 亡き両親の想いを捨てて、高嶺佳織を見捨てて、戦いから、逃げ出したのだ。

 ラキオス王は、桜坂柳也は自らの意思で行方をくらましたとし、捜査本部の解散を命令した。

 ラキオスが誇るもう一人のエトランジェ・高嶺悠人や、柳也をよく知るスピリット達、騎士セラス・セッカ、ダグラス通産大臣など、彼を信じる者達は勿論、強く反発した。

 しかし、なんといっても最高司令官自らの決定だ。

 捜査本部は解散され、『エトランジェ・リュウヤは、自らの意思で王国軍を逐電した』という公式見解が発表された。

 

 

   だが、そんな見解に異議を唱える者がいた。

 ラキオス王国の敵対国、神聖サーギオス帝国のエトランジェ、秋月瞬である。

  サーギオスのエトランジェが桜坂柳也失踪の報を知ったのは、ラキオス国内で彼の失踪が明らかになって僅か五日後のことだった。ラキオスに潜伏するスパイからの情報で、報告を受け取るや瞬は、すぐに事の真偽を確かめるよう情報部に命令を下した。

 軍事先進国のサーギオスでは、戦争における情報の価値が十分に認識されている。情報機関の規模や予算はラキオス情報部の比ではなく、情報は速やかに、かつ正確に集められた。

 無線などの機械を用いた通信技術がまだ存在しない有限世界では、遠く離れた相手への通信は、基本的に手紙のやり取りとなる。狼煙という手段もあるが、狼煙は基本的に煙の有無で情報を伝える通信手段だ。伝達出来る情報量には、どうしても限りがある。王都ラキオスから帝都サーギオスまでは、最短ルートを選んでも約一〇〇〇キロメートル。ラキオスに潜伏するスパイから、再度の報告書が瞬のもと届けられたのは、彼が命令を発してから、約二ヶ月後のことだった。

 幕僚から報告書を受け取った瞬の第一声は、「遅い」の、一言だった。

 報告書には王国軍内で発足した捜査本部の捜査資料が添付されていた。

 捜査資料には、捜査本部の起ち上げからラキオス王の逐電見解発表までの経緯が、詳細に、そして克明に記されていた。

 二〇〇ページ近い捜査資料を僅か一時間で通読した瞬は、「馬鹿め」と、端整な美貌に険しい表情を浮かべて呟いた。

 ――あの柳也が、佳織や、父君の形見の刀を残して自ら姿を消すはずがない。あの男は、僕の知る限り最も義に厚い魂を持った男だ! それに、いま、柳也がラキオスを抜けていったいどんなメリットがある!?

 右も左も分からない有限世界。知り合いは一人もおらず、故郷の惑星へと帰る手段もない。そんな状況下で、ラキオスという国家の後ろ盾を失えばどうなるか。

 ――ラキオスの馬鹿どもは、そんな簡単なことも分からないのか!?

 報告書を読み終えた瞬は、初恋の少女が囚われている国家に対して、改めて憎悪の炎を燃やす。と同時に、憎むべき男のいる軍上層部の程度の低さを、せせら笑った。

 サーギオス帝国軍における瞬の地位は、ラキオスにおける悠人や柳也とは違ってかなり高い身分にあった。現代陸軍の役職でいうならば、参謀総長に相当する身分といえよう。帝国軍の大戦略をデザインする立場は、彼の掌に巨大な権力を握らせていた。

 報告書を読み終えた瞬は、情報部の幹部達を自らの宮殿へと招聘した。やはりラキオスの悠人達と違って、彼はサーギオス皇帝から自分だけの宮城を与えられていた。

「どんな手段を使っても構わない。情報部の総力を挙げて、桜坂柳也を探し出せ」

 集まった情報部の幹部達の前で、瞬は淡々と命令を発した。

 当然のように、情報部員達の口からは疑問の声が上がる。

「サクラザカ・リュウヤとおっしゃりますと、例の、ラキオスを出奔したエトランジェのことですね?」

「違う。出奔したんじゃない。柳也は、何か事件か事故に巻き込まれ、やむなく行方をくらましたんだ」

「王国軍の捜査によれば、エトランジェ・リュウヤは自らの意思で逐電したのことですが?」

「浅薄なラキオスの馬鹿どもの言うことなど真に受けるな。サーギオスは、サーギオスで調査をする」

「アキヅキ閣下がそうおっしゃるのでしたら……」

 自分よりも二回りは年長の情報部幹部はしゃっちょこばった態度で頷いた。

 年若いこのエトランジェに逆らった者がどうなるか。彼は数多の同胞達が腰元の真紅の永遠神剣の餌になったことを知っていた。

「……して、首尾よくエトランジェ・リュウヤを見つけ出した場合には、いかがいたしましょう?」

「サーギオスに引き込め。説得に苦労するようなら、こう言え。サーギオスで、秋月瞬が待っている、と。これを言えば、間違いなく帝国陣営に降ってくれる」

 瞬は確信した表情で言い放った。あの柳也が僕の誘いを断るはずがない、と頭から決めつけていた。

 ――僕と、柳也と、佳織は、三人が一緒じゃなければならないんだ。誰か一人でも欠けていてはならない。僕達は、三人一緒じゃなければ駄目なんだ!

 瞬は、狂気さえ感じさせるほど禍々しいルビー色の双眸を炯々と輝かせた。

 この世に生を受けたその瞬間から、実の父に疎まれ、愛を知らぬまま育てられた。近づいてくる人間はみな秋月の名前に惹かれてばかりで、自分という一個人を見てくれる者は誰もいなかった。そんな環境の中で、瞬はいつからか自分を取り巻く世間そのものに対し憎悪の炎を燃やした。そんな少年にとって、唯一対等な友人として自分に接してくれる柳也と佳織の存在は、世界のすべてだった。

 瞬は情報部幹部達に「なんとしても柳也を探し出せ」と、厳命した。

 かくして、エトランジェ・シュンの命令一過、桜坂柳也の捜索ミッションが開始された。

 捜査に当たるのはラキオス情報部の十倍の人員と、二十倍の予算を誇るサーギオス情報部。彼らは、最強のエトランジェ秋月瞬の指令の下、かつて大陸に存在しなかった、またこれからも存在しえないであろうほど高度な捜査網を形成。柳也の行方を追った。

 しかし、大陸最高の情報機関の力をもってしても、捜索は難航した。

 柳也が姿を消して、すでに二ヶ月以上が経過していた。その間、ラキオス王国が総力を挙げて見つけられなかったものを、そう易々と発見出来るはずがなかった。

「柳也、お前はいま、いったい、どこにいるんだ?」

 情報部員達からの報告を受ける度に、瞬は己が宮城にて人知れず嘆息を繰り返した。

 

 

 事態が急変したのは、瞬の口より桜坂柳也捜索指令が発せられて四ヶ月が経った頃のことだった。

 その日、自らの宮城にて柳也捜索の資料に目を通していた瞬のもとを、一人の女が訪ねてきた。

 幕僚の一人から来訪者の名前と用件を告げられた彼は、すぐに自分の執務室に通すよう伝えた。女は、自らを「倉橋時深」と名乗り、「失踪した桜坂柳也について話したいことがある」と、門番に言ったという。

 倉橋時深。聞き覚えのない名前だった。しかし聞き慣れた、日本語の発音で構成されたその名に、瞬の心臓は早鐘を打った。

「事前の連絡もなく突然、お伺いして申し訳ありません」

 執務室にやって来た倉橋時深は、そう言って楚々とした所作で腰を折った。

 執務室の中には、自分と、時深の二人しかいない。一応、扉の向こう側では衛兵が二人、この部屋に張り付いているはずだが、瞬自身が絶大な戦闘力を持つ存在だ。仮にこの女が襲いかかってきたとしても、衛兵の出番はないだろう。

 長い黒髪が美しい、自分と同じか、やや年上といった顔立ちの少女だった。初めて見る顔だが、瞬の心に、どこか懐かしい気持ちを感じさせる容姿の持ち主だった。

 瞬が特に注目したのは、少女の纏う服装だった。きめ細かな素肌が透き通りそうなほどの純白がまぶしい襦袢に、緋色の袴という上下の構成は、一般に巫女装束と認知される装いに相違なかった。有限世界の文化には、存在しないはずの意匠だ。

 瞬は執務室に入室した時深の姿を頭頂から足袋で覆われたつま先までしげしげと眺めた。

 間違いない。倉橋時深という名前に加えて、この容貌、この服装だ。なにより、耳膜を叩く、この言語……腰を折った時深の口上は、瞬もよく知る日本語で紡がれていた。疑いようがなかった。

「……お前、僕達と同じ、エトランジェだな?」

 それも、自分と同じ日本人の。

 険しい表情で紡がれた瞬の問いに、倉橋時深を名乗る少女は首肯してみせた。

 形の良い唇から紡ぎ出される言葉は、やはり、流暢な日本語だった。

「はい……。この世界における、エトランジェという言葉の意味が、異邦人という意味ならばそうなります」

「もう一つ意味がある。異世界からやって来た、得体の知れない化け物。魑魅魍魎の類という意味だ」

 瞬は有限世界における自分達地球人の蔑称を、嫌悪感も露骨な口調で説明してみせた。

「それで、化け物? 柳也のことで、僕に話があるということだが……分かっているだろうな? あいつがいなくなってから、僕は非常に短気になった。僕を満足させる報告でなければ、どうなるか……」

 瞬はかたわらに立てかけておいた真紅の刀剣の柄を握ってみせた。

 永遠神剣第五位〈誓い〉。この世界に召喚され、気がついた時にはもう、自分の手の中にあった神剣だ。目の前の女一人を殺すのに、十分すぎる力を持っていた。

 柳也の名前と、帝国における自分の立場を知ってなお己に接触してきたこの女のことだ。〈誓い〉の能力についても知っているはず。

「ええ。よく、承知しております」

 しかし、剣呑に輝く真紅の刀身を見せつけられてなお、女に動揺した様子は見られなかった。肝の据わった女だ。これだけの容姿に、この度胸。いま、行方不明の親友がこの女を見たら、決して放ってはおくまい。

 時深はにこやかに微笑んだ後、真顔になって言った。

「単刀直入に申し上げます。秋月瞬さん、あなたのご友人、桜坂柳也さんは、いま、こことは違う、別な世界にいます」

 時深の話は、瞬がこの半年間心待ちにしていた情報だった。失踪した親友の行方に関する情報。

 瞬は逸る動悸を表情に出さぬよう努めながら、先を促した。

 彼女曰く、半年前、柳也は詰め所の浴場で入浴中に、突如として、有限世界とは別な異世界へと召喚されたという。召喚された先の異世界で、柳也は、有限世界に残してきた佳織達のことを気にしながら、いつの日か元の世界へ帰還出来ることを信じて、件の異世界にて生きる道を模索しているという。現在はとある王国の貴族の下で、従者として働き、生活の糧を得ているらしい。

 時深の話は、一見したところ荒唐無稽で、普通ならば到底、信じられるような内容ではなかった。

 しかし、瞬は彼女の話を素直に受け入れた。

 なんといっても瞬自身、異世界召喚というものを経験している身だ。こことは違う別な世界の存在を、彼はまったく疑わなかった。

 柳也が異世界にいると聞かされた瞬は、得心した様子で頷いた。

 ラキオスやサーギオスの諜報機関が、彼を見つけられない理由が、ようやく分かった。親友は、そもそもこの大陸にいなかったのだ。それでは見つかるはずがない、と瞬はしきりに納得した。

 それから、瞬は時深に、真剣な面持ちで訊ねた。

「それで? 柳也がこことは違う異世界にいるのは分かった。その世界から、あいつを連れ戻す方法はあるのか?」

 瞬にとっては、異世界が存在するしない云々よりも、そちらの方が気がかりだった。

 自分にとって桜坂柳也という男は大切な友人だ。その大切な友人が、異世界の地にて、元の世界へ帰る手段も見つからず、途方にくれながら歳を取り、死んでいく未来なんて……到底、許せるものではなかった。

 はたして、瞬の問いに、時深は頷いた。

「はい。そもそも、今日、私があなたのもとを訪ねたのは、あなたに柳也さんの居場所と、彼を助け出す手段を伝えるためでした」

 時深はそこで一旦言葉を区切ると、まず自らのことを語り始めた。

「詳しくは言えませんが、私は、ある組織の人間なのです。組織には敵対する勢力が存在し、二つの陣営は、ある物を巡って長く争い続けてきました……」

「ある物?」

「永遠神剣です」

 時深は瞬の手の中の〈誓い〉を見つめ、言った。

「瞬さんもご存知の通り、永遠神剣は巨大な“力”を持っています。その力は、高位の神剣であるほど強く、上位神剣の中には、単独で“門”を開くことの出来る神剣もあります」

「門?」

 聞き慣れない単語に、瞬は眉をひそめた。

「世界と、世界とを繋ぐ扉、とでも言いましょうか……私達も、上手く説明出来る言葉がないので、便宜上、”門”と呼んでいます。柳也さんや瞬さんが、この世界にやって来たのも、その“門”を通ってきたからです」

「……あれか」

 瞬はこの世界に初めてやって来た日の出来事を思い出した。

 現代世界でタキオス、メダリオを名乗る二人組の男に襲われ、柳也と二人、窮地に立たされた時、突然、光の柱が自分達を飲み込んだ。自分はすぐに気を失ってしまい、気がついたときには、もう、己は一人、帝国最西端のミスレ樹海にいた。時深の言を信じるならば、自分を飲み込んだあの光の柱が、“門”とやらだろう。

「……今回の柳也さんの失踪も、何者かが“門”を開き、柳也さんはそれに飲み込まれたのでしょう」

 時深はそう自らの推論を述べた後、自らの腰元に手をやった。

 まるで腰帯に差した刀の柄を握るかの如き手つき。しかしそこに、手を添えるべき柄はない。

 ……ない、そのはずだった。

 瞬が、瞬きをしたその刹那、時深の手の中に、魔法のように一振の刀剣が出現した。

 奇妙なシルエットの剣だった。一見したころ、密教における金剛杵に似た形状をしている。煩悩を破砕し、菩薩心を表す法具だが、本物の金剛杵と違い、一尺七寸ほどの両刃の剣身を有していた。さしずめ、“金剛剣”と名付けられようか。

 刀身には、歓喜天の文字が刻まれている。たしか、子宝や安産の護法神だったか、と瞬は思った。

 話の持っていき方から察するに、あの剣もまた、永遠神剣だろうか。

 はたして、瞬の予想は的中する。

「私の永遠神剣〈時詠〉は、その“門”を開くだけの力を持った神剣です。この子の力を使って“門”を開き、あなたを、柳也さんのいる世界へ送り込みます」

 時深が言い放つとともに、剣身に刻まれた歓喜天の文字が怪しく輝いた。

 うなじを駆けあがる、巨大な、マナの気配。

 呼応して、瞬の手の中で〈誓い〉の剣身も鈍く発光した。

 瞬は〈誓い〉を一瞥してから、切れ長の双眸に炯々たる眼光を灯し、時深を見つめた。

「それが、柳也を……あいつを、助け出す、手段というわけか」

「はい。……ですが、この方法には一つ、欠点があります」

 瞬の鋭い眼差しを真っ向から受け止めて、時深は言った。

「私は、あなたを柳也さんのいる世界へ送り込むことは出来ますが、その逆……向こうの世界で“門”を開き、あなた方をこの世界に連れ戻すことは出来ないのです」

「なぜだ? お前の〈時詠〉とやらは、“門”を開くほどの力を持っているはずだろう?」

「向こうの世界では、私の力は大きく制限されてしまうのです」

 瞬の問いに、時深は悔しげな面持ちで告げた。

「柳也さんがいまいる世界は、時間樹という大きな括りの中に存在します。時間樹世界では、私のような大きな力を持った神剣士はオリハルコンネームという、一種の呪いを刻まれ、大きく力を制限されてしまうのです。

 だからこそ、オリハルコンネームの影響を受けない、あなたを訪ねたのです。

 ……私も、出来ることならば自分の力で柳也さんを助けたいと思っています。でも、オリハルコンネームをこの身に刻まれた状態では……」

 その先は、言葉にならなかった。

 瞬もまた、その先は口に出されずとも、容易に想像がついた。

 しばし、二人の間に沈黙の時間が続いた。

 瞬はこの時間を利用して、アームチェアーに深々と腰かけながら、これまでの情報を整理する。

 行方不明の親友は現在、有限世界とは別な異世界にいる。目の前の女はその世界へ向かうための手段は持っているが、帰るための手段を持っていない。片道切符になってしまう所以は、柳也のいる時間樹世界とやらでは、彼女の力は大きく制限されてしまうから。時深の口にしたオリハルコンネームの意味は分からないが、どうやらそうなるように強制力がはたらくらしい。

 ――問題は二つだ。一つは、向こうの世界に行った後は自力で帰還の手立てを探さなければならないということ。二つ目は、必ずしも、帰還の手段が見つかるとは限らないこと。

 瞬は深刻そうな面持ちで呟いた。

 仮に柳也を見つけ出したとしても、有限世界に帰る手段が見つからねば意味がない。

 別段、有限世界自体そのものには愛着はない。しかし、この世界には佳織がいる。自分の愛する、あの優しい少女が……。もう二度と彼女に会えなくなるなんて、御免だった。

 かといって柳也を見捨てることも、瞬には出来なかった。自分と、佳織と、柳也の三人は、三人が一緒にいて初めて幸せになれるのだ。自分達は、三人一緒じゃなければならないのだ。柳也一人を、異世界の地に置いておくなんて……、あいつ一人が、異世界の地で寂しく死んでいくなんて、許されていいはずがなかった。

 ――そうだ。許されていいはずがない! あいつが……・あんないい奴が、異世界なんてわけの分からない場所で、一人孤独に苦しみながら、朽ちていいはずがない!

 神様なんて存在が、仮にこの世界にいたとして。

 その神が、柳也に、異界で朽ちる運命を与えたとしても……そんなもの、自分が許さない!

 自分が、その運命を覆してやる!

「……どうしますか、秋月瞬さん?」

 時深は暗い面持ちを拭い捨て、真摯な眼差しで瞬を見つめた。

「先ほども申し上げた通り、私には、あなたを柳也さんのいる世界に送り込むことが出来ます。ですが、その後、あなた達がこの世界に帰ってこれる保証はありません。……もしかすると、二度と戻ってこられないかもしれません」

 時深は殊更にリスクを強調して言った。瞬に少しでも判断材料を与え、彼自身が納得出来る答えを出せるようにするための配慮なのか。しかし、無用の配慮と言えた。

 答えは、もう出ていた。

「それでも、あなたは行きますか? 柳也さんを……親友を、助けに?」

「……当たり前だ」

 瞬は、毅然とした態度で言いきった。

 その強い想いに呼応して、手の中の〈誓い〉がいっそう強く輝いた。

「僕と、柳也と、佳織は、三人一緒じゃなきゃ駄目なんだ。柳也は、僕が探し出す。そして、必ず連れ戻す!」

 これまで、自分の思い通りにならなかったことは何一つなかった。

 勉強でも、スポーツでも、ちょっと本気を出せばすぐ一番になれた。

 だから、今度もきっと上手くいく。

 きっと、柳也を連れ戻せる。

 瞬は真紅の眼差しに決意の炎を滾らせ、時深を睨んだ。

「倉橋時深、“門”を開け。僕を、柳也のいる世界へ連れていけ!」

「……わかりました」

 歓喜天の名を刻む剣身を、右腕一本、斜に構えた。

 呼吸を研ぎ澄まし、精神を研ぎ澄まし、マナを、研ぎ澄ます。

 時深の精神力が高まるにつれて、瞬の肌を、巨大で、凶暴な、マナの波動が叩いた。

「……向こうの世界に辿り着いたら、“ティファニア”という少女を探してください。その娘が、あなたと、柳也さんとを繋ぐ鍵となるでしょう」

「わかった」

 ティファニア。

 頷きながら、口の中で反芻する。

 佳織以外の女の名を、こんなにも深く、胸に刻みつけるのは、初めてではないだろうか。

「……最後に一つだけ聞かせろ。倉橋時深、お前は、いったい柳也の何なんだ? なぜ、そんなにあいつのことを気にかけてくれる?」

「……私には、柳也さんに対して責任がありますから」

「責任?」

「はい」

 時深は、一瞬だけ沈痛そうに表情を歪めた。

「柳也さんを、この世界に連れてきたのは……あの人に、永遠神剣なんて過酷な運命を背負わせたのは、この私」

「……なに?」

 重ねて問いただす間は、与えられなかった。

「“門”よ、開け!」

 青白い光芒が、時深の神剣からあふれ出た。

 足下に描かれた魔法陣から、巨大なマナの柱が上った。

 門が、開いた。

 瞬の視界は、真っ白な闇に包まれた。

 

 

 

 

 その日の午後、サーギオス帝国上層部に激震が走った。

 ラキオスのエトランジェ、桜坂柳也が失踪したときと同じように、忽然と、秋月瞬が、行方をくらました。

 

 

 

永遠のアセリアAnother × ゼロの使い魔クロスオーバー

ゼロの魔法使いとその使い魔と、ついでに現われた守護の双刃

EPISODE:46「another etrangere and another world」

 

 

 

 時間は、少しだけ遡る。

 アルビオンの未来を賭けた、王党派と貴族派の戦い。その最後の決戦が行われようとしていた、少し以前のこと……。

 アルビオン大陸の南部、サウスゴータの地方に所在するウエストウッド村は、地元民でさえその名を知らぬ者がいるほどの、小さな、それは小さな村だった。

 村の人口僅か数十人。

 サウスゴータ最大の都市・シティオブサウスゴータと港町ロサイスを結ぶ街道からちょっとはずれた森の中というその立地は僻地と呼べず、本来であればもっと多数の住民を抱えていてもおかしくはない。それが斯様に小規模な村として成立している背景には、大きく二つの理由があった。

 一つには、ウエストウッド村の近辺には有力な水源がなく、大規模な耕作が不可能なことが挙げられた。食料を遠隔地に運ぶ輸送手段と、長期保存を約束する保存技術が未発達な時代、多数の人々が一箇所に長く留まり続けるには、近辺に大規模な耕作地を持つ必要があった。いわゆる世界の四大文明が、いずれも例外なく大河の近辺で興った背景には、大河の水を農業用水として利用しなければ、数千人単位の人口を養っていけない事情があった。

  ウエストウッド村の周辺には、そうした農業用水に適した水源がなかった。勿論、地面を掘り進めば地下水脈に辿り着いたが、この世界の土木技術の水準では、大量の水を一度に汲み上げられる井戸の設置はまず不可能だった。

 大人数を養えぬ土地。

 これでは、ウエストウッド村が、大きくなるはずがなかった。

 二つ目の理由は、ウエストウッド村が築かれた理由にあった。

 ウエストウッド村は、多数の近隣住民が寄り集まって自然に生じた村落ではなかった。

 かの村はもともと、森を切り拓いて作った空き地に藁葺屋根の家屋が一軒建つだけの、およそ村とさえ呼べぬ小世界だった。

 しかし、とある目的から一軒、また一軒と家が建つようになり、村としての形を整えていったのだった。

 その目的とは、すなわちウエストウッド村の存在理由でもあった。

 ウエストウッド村は、孤児院だった。親を亡くした子どもを引き取って、みんなで暮らす。そんな、子ども達だけの村。大きな集団と、なるはずがなかった。

 森の中の空き地には、十軒ばかりの家が建っている。

 天上の太陽が浮遊大陸の真上に浮かんで地表をじりじり照らす正午の時間帯。

 寄り添うように並び建つ家々の中でも、いちばん大きな家屋の煙突から、白い煙が上っていた。

 かまどを炊いているのだ。

 二階建ての家屋にある一階のキッチンでは、一人の少女が、ぐつぐつ、鍋を煮込んでいた。

 流れる星の川のような、長い金髪が美しい少女だった。丹念に造り込まれた彫刻のように美しい顔立ちが、柔和な微笑を形作っている。丈の短い草色のワンピースの裾から覗く、すらり、と長い両脚が、小柄な彼女を長身に見せていた。

 肌の艶から察せられるに、年齢は十五、六といったところか。大人とも、子どもとも呼べぬ、微妙な年頃と思われた。

 少女が煮込んでいるのは、野菜たっぷりのシチューだった。

 彼女がおたまで鍋をかき混ぜる度、食欲を刺激する匂いとともに湯気が立ち上る。

 その匂いに釣られて、彼女の家の窓辺には、早くも数人の子ども達が寄り添い、涎を隠そうともしないでいた。みな、少女よりも明らかに年少の子ども達だ。期待に満ちた眼差しを少女の背中に注ぎ、シチューの完成をいまかいまかと待ちわびている。

  少女は、ウエストウッド村で暮らす子ども達の中でも、最年長の人物だった。

 子ども達だけの集まりとはいえ、そこが村である以上、村民をまとめるリーダーの存在は必要だ。ウエストウッド村において、その役割を与えられたのが、年長者の彼女だった。

 ウエストウッド村において、リーダーに課せられた役割は、第一に年少の子ども達の世話をすることだった。

 社会で生きていくための手段を教わる前に両親を失った子ども達の多くは、料理が出来なかったり、読み書き数の勘定が出来なかったりと、大小様々な短所を抱えていた。村のリーダーには、何よりそうした短所を補ってやる、自活のためのスキルが必要とされた。

 いま、少女が作っているシチューも、自分のためというよりは、子ども達のために作っているという向きが強かった。

 かまどの火が炙る鍋の中身は、小柄な彼女一人分の昼食にしては少々多すぎる。食べ盛りで育ち盛りの子ども達のためにと思えばこその分量だった。

 鍋の中身をかき回すおたまからは、重い手応えが感じられた。シチューの煮汁が、野菜の栄養をたっぷり吸い込んだ証左だ。おたまで掬って唇に寄せると、青物特有の青臭さや苦みの取れた、マイルドな味わいが広がった。この調子なら、もう少し煮込めば完成だろう。

「ティファニアお姉ちゃん!」

 窓の外から、子ども達の呼び声が聞こえた。

 昼食時には似合わぬ、やけに切迫した印象の声。

 ティファニアと呼ばれた金髪の少女がそちらを振り返ると、シチューの完成を心待ちにしていた一団とは別な子ども達が、息を切らしながら立っていた。長い距離を走ってきたのか、額には大粒の汗が浮かんでいる。

「お姉ちゃん、大変!」

「いないの、いないの」

「エマが見当たらないんだ、お姉ちゃん!」

 子ども達はティファニアの姿を見ると、興奮した様子で口々に喚きたてた。

 当然、聖徳太子でもないティファニアは困惑した様子で、まず落ち着くように言う。

「みんな落ち着いて。そんな一度に喋られても聞き取れないわ。誰か代表して、順を追って話してみて。エマが、どうしたって?」

 子ども達は顔を見合わせた。やがて騒いでいる子ども達の中でも最年長のジムが、自然と代表役を務める形で言う。

「今朝、僕とジャックとサマンサ、それからエマの四人で、野いちごを摘みに森へ行ったんだ。そしたら、今日はあんまりいちごが採れなくて、ジャックがもっと西の方に行って探してみようって言ったんだ」

「西の方へ? でも、あの辺りは……」

 森の西側と聞いて、ティファニアの顔色が変わった。

 森の西側にはリザードマンの群れが暮らしている。オーク鬼やサイクロプスなどと同じ亜人の一種で、トカゲの頭と尻尾を持つ種族だ。人間とほぼ同じくらいの体格でありながら、数倍の膂力を持ち、オーク鬼と同様武器を扱う知恵まで併せ持った動物だ。

 敵に回すとこれほど厄介な相手もいないが、脅威度でいえばオーク鬼には劣る。

 オーク鬼は人間のテリトリーを侵すが、リザードマンは侵さない。獰猛な種族ではあるが、多くの野生動物がそうであるように、こちらから手を出さなければ特に危険のない動物だった。

 逆に言えば、縄張りを侵されたリザードマンの反撃は凄まじい。

 以前、出入りの商人から聞いた話によれば、リザードマンの群れに手を出した国軍二個大隊は、壊滅的な被害を受けたという。しかも、そのとき国軍が手を出したリザードマンの群れは、僅か二十頭の小規模な群れにすぎなかったというから、その凶暴性が窺える。

「僕達、リザードマンの縄張りは避けて、いちごを摘んでたんだ。でも、そのうち、誰がいちばんたくさんいちごを集められるか、競争になって……。気がついたら、エマがいなくて……探しても、見つからなくて……」

 最後の方は、嗚咽混じりの涙声となっていた。

 年長者のジムの悲しみが伝播したか、同じくいちご狩りに精を出していたジャックとサマンサも、しきりに目元を拭った。

 エマはウエストウッド村の子ども達の中でも特に幼い少女で、今年で五歳になる娘だ。いちご狩りに夢中になっているうちに、リザードマンの縄張りに入ってしまうことは十分ありえた。

 年長者としての責任感から、エマがいなくなったことに心を痛めるジムは、やがて、わんわん、泣いた。

 ティファニアは自身も泣きたい気持ちを必死に堪えながら、窓辺から手を伸ばして泣きじゃくるジムの頭に載せた。

 栗色の髪が瑞々しい彼の頭を、優しく、撫でさする。

「泣かないで、ジム。あなたが泣くと、他の子まで悲しくなってしまうわ」

 その中には、勿論、自分も含まれている。

 ジムも、エマも。ジャックも、サマンサも。ウエストウッド村に住むすべての子ども達は、自分の弟であり、妹だ。弟の悲しんでいる姿を見ていると、自分まで悲しくなってしまう。

「大丈夫よ、ジム。エマはわたしが探しておくから。あなたはみんなと一緒に、先にご飯を食べていて」

 わたしが、きっと見つけてくるから。

 再度、泣きじゃくるジムにそう言って、ティファニアは薄絹の上着を一枚羽織ると、窓から飛び降りた。

 かたわらに立っていたサムに、「シチューをお願いね」と、声をかける。自分より僅かに三つ年下の弟は、他のみんなよりかは料理の腕が立った。

 サムが頷くのを確認して、ティファニアは森の中へとひた走った。

 

 ◇

 

 四方を囲む青白い光芒が、消えた。

 唐突に晴れた白い闇。

 しばし瞬きを繰り返し、突然の視界の変化に目を慣らす。

 まず、下を見た。

 地球で暮らしていた頃から愛用しているスニーカーの靴底が、若草色の地面を踏んでいた。

 次いで、顔を上げて四方を見回す。

 生い茂る木々。高く成長した草花。濃い、緑の匂いと、野生動物の鳴き声。どうやらここは、森の中らしい。

 先ほどまでいた宮城の部屋とは明らかに異なる光景を前にして、秋月瞬は、緊張に強張った表情を緩めた。自然と、口から安堵の溜め息がこぼれる。どうやら世界間の移動は、無事に済んだらしい。

 秋月瞬が異世界への“渡り”を行うのは、今回で二度目になる。もっとも、一度目は気を失った状態で行われ、気がついたときには、もう、有限世界への移動は済んでいた。だから実質的には今回が初めての経験だった。

 人間何であれ、初めてのときは大なり小なり緊張をするものだ。普段、傲岸不遜な態度を常とする瞬とて、それは例外でない。ましてや今回彼が経験した“初めて”は、異世界移動なんてメカニズム不明の現象だ。青白い光芒に飲み込まれた瞬間に彼が感じた緊張は大きく、ストレスから解放された彼の表情は生気に漲っていた。

 無事に異世界にやって来たことを認識した後、瞬は次いで自身の健康状態の確認に努めた。

 異世界に行く、というのは、すなわち未知の惑星に行くも同然のこと。息苦しさはないか、身体が不自然に重かったりしないか、肌がやけに乾燥していたりしないかなど、確認すべきことは数多かった。

 平素から自分の体調管理をしている〈誓い〉とともに、自己診断を続けることたっぷり五分。結果は、すべて問題なし。気温。湿度。大気成分。重力。宇宙線。病原体。そして大気中のマナの濃度など。この世界の自然環境が、己の肉体に悪影響を及ぼす心配はない。自分は、この世界を自由に歩き回ることが出来るはずだった。

【マナの濃度が有限世界と同じくらいなのは僥倖だったな?】

 頭の中に、聞き慣れた声が響いた。

 〈誓い〉の声だ。

 瞬は頷き、腰帯に佩いた真紅の刀剣を見る。

【大気中のマナがこれだけ濃いと、それだけで疲れにくいし、傷の治りも早い】

「僕達神剣士が活動するには、もってこいの環境だ」

 瞬は呟くと、相棒の柄を右手で握った。

 抜き身の〈誓い〉を体側に沿って、だらり、と提げ持ち、彼は手近な樹木へと近づく。

 幹の太さが、直径五十センチはあろう大木だった。高さは七、八メートルはあるだろうか。

 大木の前に立った瞬は、〈誓い〉を右手一本で保持したまま、地擦りに構えた。

 手の内を練り、真紅の刃筋を立てる。

 地擦りから、一文字に振るった。

 熱したナイフでバターを切るが如く、抵抗感はまったくなかった。

 右足を持ち上げ、軽く蹴る。

 ずささささ、と周りの細い木々を巻き込みながら、大木が倒れていった。

 直径五十センチの、切り株椅子の完成だった。

 抜き身の〈誓い〉を手にしたまま、瞬は自ら拵えた切り株に腰を下ろした。

 腕を組み、今後の行動方針について考える。

 ――時深は、まず、ティファニアという女を探せ、と言っていたが、その前にやることがある。誰でもいい。まずは、この世界の人間に接触することが最優先だ。

 かつて、有限世界へ召喚されたときの経験が、ここで生きた。

 瞬はまず、情報を集めるべきだ、と判断した。

 この世界の人間が何を考え、どんな風俗・文化・文明を持っているか。そもそも、この世界の人間は、地球人と同じ姿をしているかどうか。いったいどんな言語を使っているのか。文字はあるのか。

 時深の言う、ティファニアなる人物を探そうにも、この世界の人間と意思疎通の方法を確立せねば思うようにいくまい。

 まずはとにかく、この世界の人間を観察し、情報を得なければ。

 さてそうすると、まずはどの方角に足を運ぶべきか。そもそも、北はどちらの方向なのか。

 自分が腰かけている切り株の年輪を見たからといって、北が分かるとは限らない。なんといってもここは異世界だ。この世界の植物が、地球の植物と同じような法則の下で年輪を刻んでいるとは限らない。

【悩んだって意味ねぇよ。直感でいこうぜ】

 〈誓い〉の気楽な声が、頭の中に響いた。

 浅薄な発言だ。しかし、真理を衝いている。この世界に関して、あらゆる情報が不足しているいま、方角について思い悩んだところで意味はない。相棒の言う通り、直感で動くのも、十分、ありな選択肢だった。

 そのとき、瞬の耳朶を、遠くから黄色い悲鳴が叩いた。

 幼さを感じさせる、女の悲鳴。

 森の奥から、聞こえてきた。

 情報源がやって来たと、瞬は口元に不敵な冷笑をたたえた。

 瞬は切り株から立ち上がって、〈誓い〉を手に森の奥へと走った。

 

 

 目の前で、小さなバスケットが踏み潰された。

 踏み潰したのは硬い鱗に覆われた異形の足。

 踏み潰されたのは、自分のバスケット。

 ティファニアお姉ちゃんが、自分のために買ってくれた大切なバスケット。

 中には、今朝早起きして摘んだいちごが入っていた。ジムやジャック達との競争の成果だ。額に汗を流しながら集めた、自慢の成果だ。大好きなティファニアお姉ちゃんの喜ぶ顔が見たくて、集めた成果だ。

 それを、踏み潰された。

 自分の大切な宝物と、努力の成果が、自分の目の前で、無残にも、踏みにじられた。

 目前まで迫った生命の危機よりも、五歳のエマにはそのことの方が悔しく、悲しかった。

 反射的に、目の前の異形の怪物達を睨みつけるも、若干五歳の少女の視線に覇気は薄い。

 かえって、人間の体躯を持つトカゲ達の怒りを煽る結果となり、憤激に充血した眼差しを、ギョロリ、と向けられてしまう。荒々しい凶暴性を宿す眼光だ。

 ついで、リザードマン達は各々手にした武器を、少女の目の前で、がちゃがちゃ、鳴らした。

 右手に持ったショートソードの剣呑な輝きに、エマの気勢は早くも挫けた。

 少女は瞳いっぱいに涙を溜めながら、悲鳴を上げた。

 エマがリザードマン達の縄張りに足を踏み入れてしまったのは、そう意図しての行為ではなかった。

 昨晩の夕食の席で、ティファニアがパンに塗るいちごのジャムが少なくなっていることに気がついた。そのことを覚えていた年長のジムが、今朝、「ティファニアお姉ちゃんのためにいちごを採りに行こう!」と、言い出したのが、そもそもの発端だった。ジムは歳の近いジャックとサマンサ、それからいちばん年下のエマを誘って、いちご狩りへと繰り出した。

 しかし、いざ森へ足を踏み入れると、いちごはなかなか見つからなかった。見つかっても、実が小ぶりだったり、赤熟していなかったりで、調理に適した果実はほとんどなかった。

 それでも、エマ達は懸命にいちごを探したが、成果は一向に上がらなかった。

 やがて、最年長のジムが、「誰がいちばんたくさんいちごを集められるか競争しよう!」と、言い出した。実りの少ない現状を打破するべく、みなを奮起させようと幼い彼なりに考えた末の発言だった。

 結果として、ジムの奇策が裏目に出た。

 ジムの言葉に煽られて、エマよりも三歳年上のジャックが、「森の西側に行こう」と、言い出した。

 当然、みなはリザードマンの縄張りのことを口にしたが、「避けて通れば大丈夫!」の一言に、それもそうかと頷いてしまった。リザードマンは頭の良い種族で、自分達の縄張りと、他の動物の縄張りを区別するために、しばしば目印を使った。その目印を避ければいい、というわけだった。

 はじめはエマ達も、目印を見つけてはその場所を避けていちごを探していた。

 しかし、年長者の三人に比べるとまだ上手くいちごを見つけられないエマは、みんなと同じ場所を探してもいちばんにはなれないと思い、こっそりリザードマンの縄張りの内へと足を踏み入れた。

 はたして、待ち受けていたのは一瓶を満たすのに十分な量のいちごと、ちょうど縄張りの見回りをしていたリザードマンの一隊だった。

 リザードマンは、縄張りを侵す者を決して許さない。

 人間達から「生まれついての戦闘者」と恐れられる彼らの本質は、臆病な気質だ。臆病な彼らは、たとえ侵入者が幼い童女であろうと容赦をしない。おさなご一人の侵入が、縄張りの崩壊に繋がるかもしれぬと真実思っていればこそ、彼らはエマ一人のために大規模な部隊を差し向けた。

 総勢二十体のリザードマンの追跡から、若干五歳のエマが逃れられるわけがなかった。

 森の袋小路に追い詰められ。

 ティファニアからプレゼントされたバスケットを踏み潰され。

 捕えられたエマは、彼らの処刑場へと連れていかれた。

 他の動物と比べても高度な知性を持つリザードマンは、人間と同様料理の文化を持っていた。雑食性の彼らは、肉を食べるときにはまず処刑場に獲物を運び、そこで屠殺してから調理を行う。エマが連れていかれたのは、まさにその処刑場だった。

 処刑場は、森を切り拓いて作った空き地に築かれていた。二十坪ほどの広さの平地には大きな穴が掘られ、穴の中には、肉を削ぎ落した動物の骨がごろごろ転がっていた。

 肉の腐臭と、血の匂いが、エマの鼻を刺激し、吐き気を催させる。

 出来立ての死体にありつこうと、早くも集まって来たハエの群れが、処刑場に集まった二十体のリザードマンとエマの回りを、ぶんぶん、飛び回っていた。

 処刑場には木組みの処刑台が一つ置かれていた。馬や猪といった大型動物を解体するために作られた台座だ。簡素な見た目に反して、頑丈な造り込みをしていた。

 エマはオオカミの皮から作ったベルトで台座に拘束されてしまった。

 必死に泣き叫び、もがき続けるエマだったが、幼い彼女の体力でどうこう出来るような拘束ではなかった。

 リザードマンの一体が、巨大な両手剣を持ち出した。重ねの部分が異様に厚い、片刃の刀剣だ。刀身だけで一メートル近くある、巨大な出刃包丁を思わせる凶器だった。リザードマン達の牛刀に、違いなかった。

 数々の大型動物を解体してきたであろう刀身には、所々赤錆が浮いている。

 恐慌のあまり、赤錆が血糊に見えてしまったエマは、いっそう大きな声を張り上げて叫んだ。

 大好きなティファニアお姉ちゃんの名を呼び、助けを求めた。

 しかし、助けは現れない。

 ここはリザードマン達の縄張りの奥地。

 まともな神経をした人間ならば、決して立ち寄ろうとしない土地。

 少女の悲鳴を聞いてやって来てくれる者など、いやしない。

 そしてまた、リザードマン達が、縄張りを侵したこの少女を許すはずもなかった。

 牛刀を手にしたリザードマンが、ゆっくり近づいてきた。

 牛刀の峰を下向けて、大きく振りかぶる。

 まず、峰の部分でエマの身体を叩いて、骨という骨を粉砕し、それから肉を解体する腹積もりだ。

 幼いエマの骨格は、大人に比べるとやわらかく、強度も低い。そして骨髄には、肉とは比べ物にならないほど多くの栄養が詰まっている。獲物が幼い童女であればこそ、リザードマン達は、普段ならば残す骨の部分さえも美味しくいただこうと、エマを挽き肉にしてしまおうと考えた。

 目前まで迫った最悪の未来を、エマは、受け入れるしかない。

 悲鳴を上げ、

 髪を振り乱し、

 必死にもがきながら、

 しかし、受け入れるしかない。

 受け入れるしか、ない。

 

 

 その、はずだった。

 血飛沫が、エマの頬を濡らした。

 自分の血………………ではない。

 牛刀を振りかぶった、リザードマンの血だった。

 ゴトン、とエマの腹の上に何かが落ちてきた。

 重い衝撃に、思わず、エマの口から呻き声が漏れる。

 ついで、自分の腹の上に視線をやったエマは、恐怖から、息を呑んだ。

 おなかの上に、載っている。 

 重い、頭蓋骨を収めた部位。リザードマンの首が、載っている!

 見ると、牛刀を振りかぶるリザードマンの首から上が、なくなっていた。

 まるで鋭利な刃物で斬割されたかの如き、綺麗な切断面。

 断面からは滾々と赤い液体が湧き出で、滴り落ちて、エマの頬を濡らした。

 牛刀を振りかぶったままの姿勢で、首を失ったリザードマンの身体が、ぐらり、と揺れた。

 重い地響きを上げながら倒れ込む、亜人の体。

 亜人が倒れて、その後ろに立っていた、男の姿が、エマの視界に映じた。

 ティファニアお姉ちゃんよりも、少し年上といった印象の、若い青年。

 見知らぬ、青年。

 朱色に濡れたエマは、また息を呑んだ。

 恐怖から、ではない。

 視界に映る男の、あまりの美しさに、彼女は息を呑んだ。

 まず、目を惹いたのは、銀糸とまごう細い髪だった。

 次に目を惹いたのは、深い、深い、血のように深い、赤の双眸。

 切れ長の瞳が自分を流し見た瞬間、エマは、自分の小さな心臓が激しく高鳴るのを自覚した。幼い女の本能を刺激する、危険な眼差しだった。

 彫りの深い端整な横顔は、大好きなティファニアお姉ちゃんのように美しく、凛々しい。

 細身の長身に纏った、見たこともない紺色の衣服と、黒い外套がよく似合っている。

 右手には、奇妙な形状の刀剣の姿があった。ねじれた刀身。いびつな鋸刃。剣身は、彼の瞳と同様血のように赤い。切っ先からは赤い滴りが垂れ落ち、彼が、牛刀を振りかぶったリザードマンの首を落としたのは、明白だった。

 ――もしかして、助けてくれたの……?

 エマの胸中に生じた、淡い期待。

 自分が助けを求めたタイミングで、やって来た。

 二十体のリザードマンの群れの中に、単身、飛び込んできてくれた。

 処刑台に拘束されたエマは、縋るような眼差しを、赤い瞳の青年に注いだ。

 途端、睨まれた。

 嫌悪、侮蔑、憎悪といった負の感情を孕んだ眼差しが、エマの心臓を凍らせた。

「オース、エノウィ(おい、お前)

 青年の口が、動いた。

 「え?」と、思わず、エマの口から呆けた声が漏れる。

 青年の口から飛び出したのは、これまでエマが、聞いたことない言葉だった。

 知らない単語の羅列。発音というよりも、言葉の文法そのものが、普段、エマ達が使っている言語と異なっているように思えた。

「デハルサゥ、ノトンカ、ナクンカ。ニルラ、ソサレク、ワ、アブミステ、ヤァ、ヨテト。デ、タルム、テカレウト、ワ、エノウィ。(勘違いするなよ。僕がこいつらを倒すのは、お前を助けるためじゃない)

 青年は、エマの様子はお構いなしに、彼女の知らない言語を紡ぎ続けた。

 視線をエマからはずし、処刑台を取り囲むリザードマン達を睨みつける。

 目の前で、仲間の一体を殺された。仇討ちに燃えるリザードマン達は、エマが青年の姿に見惚れている間にも、包囲の円陣を組んでいた。

 憤怒に滾る眼光が、赤い瞳の青年と、いまだ拘束されたままのエマを射抜く。

 手には、めいめいの武器が光っていた。

 エマの心を、再び、死の恐怖が圧迫した。

「イッド、モニネス・ネト、ハユエヘェ、ラ、エノウィ。ニルラ、ソサレク、ワ、アブミステ、ヤァ、ヨテト。イッド、タルム、ハクナ、ヨテト(お前は情報源だ。僕がこいつらを倒すのは、僕自身のためだ)

 だが、そんな状況にも拘らず、赤い瞳の青年は、毅然としていた。

 端整なマスクには、余裕を孕んだ冷笑さえ浮かんでいた。

「スニ、リュークオロア、ワ、カンテ、ヤァ、リュウヤ。テノメ、スング、ヤァ、カシケカ、カサーシ……。ルゥ、トワエン(リュウヤが姿を消してから、ずっとストレスが溜まっていた……。ちょうどいい)

 赤い瞳が、輝いた。

 そんな風に、エマの目には映じた。

「ハテス、ソサレク。トンスゥ……(いくぞ、〈誓い〉……)

 その声が、宣戦布告の、サインだったか。

 エマの目の前で、青年の持つ赤い剣から、光芒が溢れた。

 黒い……。

 負の感情に満ちた、精霊光……。

 ダークフォトンの名を、エマは知らない。

 身動きの取れないエマの目の前で、凄惨な殺戮劇が始まった。

 

 

 ティファニアは森の中を走っていた。

 いなくなったエマを探して、リザードマンの縄張りに入ったのが、かれこれ四半刻前のこと。

 探すべき少女一人に対して、トカゲ頭の亜人達の縄張りは広い。エマはいちごを探していた、という手がかりはあるものの、いちごが群生する範囲自体多く、捜索は困難を極めた。それでも、ティファニアはエマの名を呼びながら、森の中を駆け回った。

 やがて、切り立った崖の側に辿り着いたティファニアは、そこで、壊れたバスケットを発見した。

 その瞬間、ティファニアの顔から、血の気が引いていった。

 壊れたバスケットが意味するもの……それはすなわち、すでにエマがリザードマン達に捕まった事実。

 ティファニアは、以前、出入りの商人から聞かされた、リザードマンの処刑場へと向かった。

 ――エマ……エマ……!

 胸の内で何度も、何度も、その名を呼びながら、顔面蒼白、ティファニアは処刑場を目指して疾走した。

 彼女がエマを探し始めてすでに四半刻。

 長の酷使に耐えかねて、ふとももはとうに悲鳴を上げていた。

 下腹を襲う刺し込みの痛みに、ただでさえ苦しげな呼吸はなお乱れた。

 それでも、ティファニアは走り続けた。

 エマを助けなければ。

 その一念を胸に、全力疾走を続けた。

 やがて、

 やがて――――――、

 森を切り拓いて作った、空き地に、出た。

 そこで、彼女は息を呑んだ。

 目の前の光景に。

 赤い徒花が繚乱する、惨劇に。

 彼女は恐怖し、そして心を奪われた。

 惨劇を振りまくのは、一人の青年。

 銀糸とまごう白い髪と、赤い双眸が印象的な、美貌の青年。

 次々殺到するリザードマン達の攻撃をまったく問題にせず、奇妙な形の刀剣で反撃しては、血飛沫とともに、また一つの命が奪われる。

 ティファニアが到着した時点で、処刑場にはすでに十体以上のリザードマンの死体が折り重なるように転がっていた。

 赤い瞳の美しき彼は、楽しそうに笑いながら、殺戮の惨禍を振りまいていた。

 ティファニアは、思わず胴震いした。

 その、あまりに凄惨な光景に恐怖を覚え。

 その、あまりの美しさに、魂の震えを感じた。

 美しい。

 そう、美しい!

 赤い血。

 不浄とされる、異形の血煙。

 その返り血を浴びながら、黒光りする剣を振るい続ける、赤い瞳の青年の、なんと雄々しいことか!?

 惨劇を演出する赤い刀剣の、光輝燦然としていることか!?

 禍々しい光景だ。

 だが、その禍々しさが美しい!

 嫌悪すべき光景だ。

 だが、その嫌悪すべきはずの光景を、美しいと感じる!

 目を背けたいのに、目が離せない。

 ティファニアは、この世に生まれてから初めて感じた異様な感動に、興奮した。

 赤い瞳の青年から、目を離すことが出来なかった。

 やがて青年が、最後のリザードマンにトドメを刺した。

 か細い悲鳴が鳴り響き、それを最後に、処刑場に静寂が訪れた。

 ティファニアは、呆然とした眼差しを、赤い瞳の青年に注いだ。

 自分に注がれる視線に気づいた彼が、こちらを向く。

 凛々しい顔。

 返り血に濡れた、精悍な顔。

 ティファニアは、胸の高鳴りを自覚した。

 

 

 

 

 

 

 秋月瞬は、知らない。

 自分を見つめる、少女の名を。

 ティファニアは、知らない。

 目の前の青年の正体を。

 そして、処刑台の上に拘束されたままのエマは、知らない。

 秋月瞬と、ティファニア。

 この世界の運命さえ左右する、二つの力。

 この二つを繋ぐかすがいの役割を、自らが担ったことを。

 神ならぬ人間達は、知らない。

 自分達の出会いが、永遠の時を生きる神々をして、予期しえなかった事態であることを。

 彼らはまだ、知らない。


<あとがき>
 

 読者の皆様、おはこんばんちはっす! タハ乱暴でございます。 今回もゼロ魔刃をお読みいただきありがとうございました!

 今回はアセリアAnother本編三人目の主人公、秋月瞬がなぜゼロ魔の世界にやって来たのか、その核心に迫るお話でした。彼が異世界にやって来たのは、実は柳也のためだったんですね〜。

 秋月瞬という人間について、タハ乱暴が思うことは、彼は誰かのために本気になれる人間だろう、ということです。

 方向性や、客観的に見た場合の是非はともかく、瞬の佳織に対する愛情、執着は本物でした。彼は佳織たった一人のために、他の全てを巻き込んでラキオスに戦争さえしかけました。この行動力は、瞬が誰かのために本気になれる人間という証左だと、タハ乱暴は思います。

 そんな彼が、親友の柳也が異世界にいることを知ったらどうするだろうか? その答えが、今回の話というわけです。

 ついでに言うと、エマを助けるために単身リザードマン達の巣へと向かったティファニアや、彼女のためにいちごを摘みにいったエマ達、仲間の仇討に燃えるリザードマン達も、誰かのために本気になれる連中です。

 善悪の問題ではありません。みんながみんな、誰からのために本気だったのです。

 次回もお付き合いいただければ幸いです。

  ではでは〜




今回は瞬がこの世界にどうやって来たかだったな。
美姫 「どうしてティファニアの元にいるのかも分かったわね」
だな。サイトのように召喚された訳じゃなかったのか。
美姫 「暫くは瞬のお話となるのかしら」
かもな。こっちの話も楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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