未来へと続く時間を巡っての最終決戦があった年の十二月。

カイとの壮絶な戦いの中でその存在を確立させたモモタロスたちとともに時間の旅人となったハナは、しかし当然のように良太郎たちの暮らす時間にしばしば足を運んでいた。

というのも、お姉ちゃんのことが忘れられないリュウタロスや、あゆみやゆかり、エリーらとのデートを画策するウラタロス、「喧嘩巡りだ!」と周期的に叫んでは良太郎のいる時間に行こうとするモモタロスらのお目付け役として、同行することが多かったからだ。

また、はぐれイマジンを倒す目的もあった。

現代にやってきた未来人のエネルギー体は、その多くがカイの消滅と同時に消えていたが、あの最終決戦の最中に契約を遂行していたごく一部のイマジン達は、戦いの後もはぐれイマジンとなって良太郎達の時間で暮らしていた。ほとんどのはぐれイマジンは司令塔たるカイの不在もあって大人しく暮らしていたが、他方、少数のはぐれイマジンは未来への帰還が不可能と知って暴れだすものも多かった。

そうしたはぐれイマジンを倒す目的で、ハナは度々良太郎を訪ねて「Milk Dipper」に足を運んでいた。

 

 

――二〇〇八年十二月五日。

 

金色に輝く斧の横一閃が、電王を取り囲む三体のはぐれイマジンに炸裂した。

オーラアックスに集中するフリーエネルギーの刃がイマジンの強靭な肉体を断ち割り、薙ぎ倒す。圧倒的なエネルギーの奔流をその身に受けたイマジン達は次々と爆散、砂と化して消滅していった。

爆炎の中心にひとり腰を据えて立つ金色の電仮面の戦士……電王アックスフォームは、倒すべき敵の気配が消失したことを悟るや、ぽつり、と一言呟いた。

「……ダイナミックチョップ」

技名は敵を倒してからひっそりと呟く。

それが電王アックスフォームに変身したキンタロスの流儀だった。

三体のはぐれイマジンを倒した電王はデンオウベルトのロックを解除すると腰からはずした。それまで金色に輝いていたアックスフォームの鎧が瞬時に色をなくし、ついには消えていく。

変身を解除したキンタロスは戦いの凝りを癒すように首を鳴らした。

今日、暴れていたはぐれイマジンは計五体。このうち三体はたったいまキンタロスが倒し、残りの二体は良太郎が追っているはずだ。

「キンタロス!」

戦いを終えて静けさを取り戻した戦場に、ひとりの少女が駆け寄ってきた。ハナだ。戦いの余波が及ぶことを危惧した良太郎とキンタロスが、安全な場所で隠れているよう遠ざけていたのだ。

自分の名を呼びながら走り寄ってくるハナに、キンタロスは軽く右手を挙げて応じた。

「おー! ハナ、もう大丈夫やで。はぐれイマジンは全部俺が片付けたからな」

キンタロスはそう言って得意げに胸を張る。

そんなキンタロスのもとに駆け寄るや、ハナは金色の腹筋に鉄拳を叩き込んだ。

「おうっ!」

イマジンの攻撃に対しては微動だにしない強靭なキンタロスの肉体も、ハナの鉄拳に対しては無力だ。思わず悲鳴を上げたキンタロスは、衝撃をこらえきれずにその場にうずくまってしまった。

「な、なにすんねん、ハナ!?」

痛む腹の辺りをさすりながらキンタロスは睨むようにハナを見上げた。

街で暴れているはぐれイマジンを見つけて、倒した。ねぎらいの言葉をかけられることはあっても、何も言わずに殴られるようことはしていない。

文句のひとつでも叩きつけてやろうと思ったキンタロスは、しかし、ハナの顔を見た瞬間、はっ、と息を呑んだ。

キンタロスの目の前で、ハナは、幼い顔に不釣合いなおどろおどろしい怒りの形相を浮かべていた。

「キンタロス? なんでわたしが怒っているか分かる?」

「……いや、わからん」

キンタロスは少し考え込んだ後、首を横に振った。

なぜハナがこんなに怒っているのか、まるで心当たりがない。

「見てみなさいよ」

ハナはそう言って小さな両手をいっぱいに広げ、周りを示した。

言われた通りに周囲を見回してみる。やや間を置いて、キンタロスの口から「ああ、またやってもうた」と、嘆くような呟きが漏れた。

はぐれイマジン達が暴れていたのは東京の街中、それも多くの一軒家が建ち並ぶいわゆる高級住宅地だった。しかし豪快な一撃必殺を得意とするアックスフォームが駆け抜けた後のそこには、戦いに巻き込まれて崩壊した家屋や壁の瓦礫が広範に散らばる、廃墟然とした光景が広がった。

「またこんなに派手に壊して……いい? 分かってるとは思うけど、現代で戦って壊れたものはイマジンを倒したからって元には戻らないの! 修繕費とか払うのは誰だと思ってるのよ? 始末書を見る度にデカ長……じゃなかった、オーナー、カンカンよ」

「ああ〜……いやあ……そのぉ……スマンな」

キンタロスは居心地が悪そうに一九二センチの巨躯を小さくして呟いた。

普段は豪放磊落でならすキンタロスも、ハナの前では無力イマジンでしかない。

キンタロスの口から謝罪の言葉を聞いたハナは、深い溜め息をつくと、

「ほら、わかったんならまずは瓦礫の撤去を始める! ……わたしも手伝ってあげるから」

と、いまだうずくまっているキンタロスに右手を差し伸べた。

しばしハナの顔と右手とを交互に見比べていたキンタロスは、

「おおきに」

と、笑いながらその手を掴んだ。

 

 

 

 

 

「キンのコハナは聖夜に咲く」

 

 

 

 

 

はぐれイマジン・ネガタロス一味の壊滅を機にしばし沈静化していたはぐれイマジン達の暴走は、十二月に入ってからまたぞろ活発化しつつあった。

月が明けてまだ一週間しか経っていないというのに、今日までに倒したはぐれイマジンの数は全部で八体にも及んでいる。先月いっぱいで倒したはぐれイマジンの数が三体しかいないということを踏まえても、異常な数字だ。

「なにかまた、はぐれイマジン達が組織だった活動を企んでいるのかもしれませんねぇ」

例によって食堂車にやって来たオーナーも、そんな含みのある発言を残していった。

しかし二十日後にクリスマスを控えたいまのハナには、はぐれイマジン達の活動以上に頭を悩ましていることがあった。

「キンタロスへのプレゼント、どうしよう……?」

デンライナーの個室で、ハナはテーブルに頬杖をつきながら呟いた。

時を駈ける列車デンライナーに乗っている限り、ハナやイマジン達に季節感の概念は薄い。しかし良太郎に出会ってからというもの、デンライナーの住人達は一年に一度の七夕やクリスマスといったイベントに敏感になっていた。

「今年ももうすぐクリスマスですし、良太郎くんやオデブちゃん達も呼んでみんなでパーティをしましょうよ!」

わざわざターミナルから特別にクリスマスツリーを取り寄せたナオミの一言に、異論を唱える者はいなかった。

ハナとしても、みんなと一緒にクリスマスパーティをすることについてはなんら異論はなかった。

しかし、ナオミの次の発言、

「どうせだから、今年はみんなでプレゼントとか用意してみません?」

には、異議というより戸惑いを覚えてしまった。

故郷の自分の時間が消えて以来、ハナはクリスマスパーティのようなイベント事とは無縁に過ごしてきた。昨年のクリスマス会にしても、イマジン達との戦いが忙しくてプレゼントを用意する暇はなかった。彼女にとって誰かにプレゼントをあげるという行為は、久しぶりの経験だった。

だから、誰に何をあげるべきか、何をあげればみんな喜んでくれるか、それを考えるにあたって、最初は戸惑いのほうが大きかった。

それでも、モモタロスやウラタロス達へのプレゼントはなんとか決まった。

イマジン達は基本的に単純で、わかりやすい性格をしている。リュウタロスにいたっては子どもだから、方向性を間違えさえしなければ何をあげても喜んでくれるだろう。

何をあげても喜んでくれるという意味では、良太郎も同じだ。人の良い彼のことだから、何をプレゼントしても精一杯の喜びを見せてくれるに違いない。

問題はキンタロスだった。

キンタロスは四人のイマジンの中でも特に単純で分かりやすい性格をしている。しかしそれだけにかえってプレゼント選びが難しい。キンタロスの好きなものといえば格闘技だが、その方向でプレゼントを選ぶと、他の誰かとかぶってしまう可能性がかなり高い。和を好むという線もアウトだろう。

どうせ渡すなら他の誰かとは違うものにしたいし、キンタロスには出来れば自分のプレゼントでいちばん喜んでほしい。出来れば形に残るもの。いつまでも大切にしてくれるような物が良い。

「それが分からないから苦労してるんだけどね……」

延々と流れ続ける時間の荒野を眺めながら、ハナは溜め息をついた。

 

 

ひとりで悶々と悩んでいたところでしょうがない。

もともと考えるより即日行動がモットーのハナだ。

彼女は他のみんながどんなプレゼントを考えているのかリサーチしてみることにした。

モモタロスの場合……

「はぁ? クマ公へのプレゼントだぁ? ンなもん、サケの一匹でもやりゃあ済むことだろ? ……クマだけに、なんつってな」

「……あんたに訊いたわたしが馬鹿だったわ」

自分の言葉がそんなに面白かったのか、腹を押さえて笑い転げるモモタロスに、ハナは呆れたような溜め息をついた。

モモタロスの部屋を去る際に、「あと、これだけは言っておくけど……」と、父親の名文句を連想させる切り出しを口にする。

「サケは一匹じゃなくて、一尾だから」

「え? そうなの?」

モモタロスはたいそう驚いた様子で唖然とした。

ウラタロスの場合……

「キンちゃんへのプレゼント? 勿論、考えてあるよ」

食堂車でナオミのコーヒーを片手にくつろいでいたウラタロスは、「あくまで参考までに訊きたいんだけど」と、自分のもとにやって来たハナに、訳知り顔で言った。

「本当? それってどんなものなの?」

すでに何日も前から用意していたらしいウラタロスの発言に、対面に座るハナは俄然、聞く気で身を乗り出す。

普段は嘘つきのナンパ師でハナの神経を苛立たせるウラタロスだが、こういう時には役に立つ。

「こういう時には……って、ヒドイなぁ。ボクがハナさんの役に立たなかったことなんてあったかい?」

「それより、あんたは何、プレゼントするつもりなの?」

「それはね……」

ウラタロスは前ふりにたっぷり時間をかけてから、声をひそめた。

「木彫りの熊の置物だよ」

「……ごめん。あたしが悪かったわ」

ウラタロスの答えを聞いたハナは、すぐさま頭を垂れた。期待した自分が、愚かだった。

リュウタロスの場合……

「わ〜い! 今度はボクのば〜ん」

「あ、リュウタはいいから。大体、予想はついてるし」

ウラタロスに見切りをつけて食堂車を後にしようとしたところに駆け寄ってきたリュウタロスに、ハナは、ぴしゃり、と言った。

ぴょんぴょん、跳ねながらやって来たリュウタの手には、クレヨンで描かれたキンタロスの似顔絵が握られていた。

「え〜っ! ボクだって出番欲しいのに〜」

リュウタロスは不満を口にしながらその場で地団駄を踏んだ。

その脇をすり抜けながら、最後にハナは、リュウタロスへのコーヒーを淹れるナオミを振り返った。

「ちなみにナオミちゃんは?」

「私ですか? 私はゴールドジェントルマンコーヒーにさらなる改良を加えたその名もゴールドジェントルマン・シャイニングフォーム・コーヒーを……」

「あー、うん。ありがと。とっても参考になった」

ナオミに最後まで言わせることなく、ハナは食堂車を後にした。

 

 

――二〇〇八年十二月七日。

 

 

結局、デンライナーに乗っている面々で参考になりそうな意見は出なかった。

そこでハナは『Milk Dipper』へと足を運んだ。目当ては勿論、良太郎だ。

昼のピーク時を過ぎた『Milk Dipper』は、それでも、相変わらず愛理目当ての男性客でかなりの賑わいを見せていた。一時期は借金騒動の際の差し押さえや、正月に起こった愛理の入院などで経営が危ぶまれていた『Milk Dipper』だったが、一年が経とうとしているいまではかつての盛況さを取り戻していた。

「あら? コハナちゃん、いらっしゃい」

ちょうど常連の客にコーヒーを振る舞っていた愛理は、ハナの姿を見つけるなりにっこりと笑顔を浮かべた。

数多くの男性客に癒しと安らぎの瞬間を与えてくれる愛理の笑顔につられて、ハナも笑顔で「こんにちは、愛理さん」と、挨拶する。

「コハナちゃん、久しぶりだね〜」

続いてハナを迎えたのは『Milk Dipper』常連でジャーナリストの尾崎正義だ。イマジンが起こす事件のことで何かとお世話になった彼は、一年経っても相変わらず愛理のことを狙い続けていた。

その尾崎のライバルである自称スーパーカウンセラーの三浦イッセーは、ハナに向けて清潔感のある笑みを浮かべる。店員でもないのに「いらっしゃい」と口にする彼もまた、『Milk Dipper』の常連だ。

Milk Dipper』では特に愛理が気に入った常連客にのみ振る舞われる、その人専用の特別なブレンド・コーヒーがある。

尾崎と三浦にコーヒーを淹れた愛理は、続いてハナ専用のブレンド・コーヒーを作り始めた。

丁寧な手つきでコーヒー豆をすりつぶしながら、愛理はハナに言った。

「良ちゃんに会いにきてくれたの? だったらごめんなさいね。いま、良ちゃんにはお遣いに行ってもらってるの」

「商店街に新しいコーヒー専門のお店が出来たんだ。良太郎くんはそこの豆を買いに行っている」

「歩いて五分くらいの距離なんだけど……良太郎君のことだからね〜。もしかしたら三十分くらいかかるかもしれないよ」

愛理の言葉を継ぐように三浦、そして尾崎が言った。

運の悪さはギネス級と言われ、行く先々で不運に見舞われるのが野上良太郎という少年だ。本来ならば五分とかからぬ道のりの間に、画鋲を踏んで自転車がパンクし、慌てて止めようとしたところブレーキが故障、結局、暴力団の自動車にぶつかってしまい、警察沙汰に巻き込まれる、なんて事態が起こったとしても、なんら不思議ではない。

実際は四人の予想を大きくはずれて、良太郎は彼がお遣いに出かけてから一時間後に帰ってきた。

その姿はだいぶよれていた。

「あ、ハナさん……じゃなかった、コハナちゃん、こんにちは」

冬場の必需品たるセーターとマフラーをボロボロにさせた良太郎は、泥だらけで傷だらけの顔をにっこり笑顔に染めると、ハナに挨拶をした。

軽く右手を挙げた途端、怪我を負っているのか、痛みに顔を引き攣らせる。

道中でいったい何があったのか問いただすと、なんでも、すばらしき青空の会なるカルト教団的な会の勧誘を受け、断りきれずに困っていたところ、突如として正体不明の怪物が出現、勧誘をしてきた一人が白い仮面の戦士に変身して戦い始め、そこに蝙蝠の怪物がやって来た……という、おおよそ普通ではない事件に巻き込まれていたそうな。

「さすがは良太郎君だねぇ」

良太郎の身体に着いた泥を払いながら、尾崎は哀れみの篭もった口調で呟いた。

ハナも呆れた表情でその言葉に同意する。良太郎の運の悪さは生まれつきだが、電王に変身するようになってからというもの、以前にも増して彼の不運体質は悪化しているような気がする。

「ところでコハナちゃん、今日はどうしたの?」

みなの手前、「コハナちゃん」と、ハナ自身はあまり気に入っていない名前を口にして良太郎は訊ねた。

「ちょっと相談事があるの。……二人きりで」

キンタロスのことはここでは話せない。周囲の目を気にしながら言うと、良太郎も何か感じ取ってくれたのか、「わかったよ」と、脱ごうとしていたボロボロのセーターをもう一度着直した。

頼まれていたコーヒー豆を愛理に手渡すと、

「そういうことだから、姉さん。ごめんね」

と、両手を合わせて彼女に言う。どうやら彼はこの後、店を手伝う約束だったらしい。

しかし愛理は嫌な顔ひとつ浮かべずに、

「ええ、行ってらっしゃい」

と、優しい笑顔で二人を見送った。

「でも、良ちゃん、犯罪は駄目だからね」

……いらぬお節介とともに。

 

 

良太郎を『Milk Dipper』から連れ出したハナは、近所の公園で良太郎に今日やって来た用件を話した。

「キンタロスへのプレゼント? うん。もう、考えてあるよ」

まだ身体が痛むのか、あまり勢いをつけずにブランコをこぎながら良太郎は言った。

続けて、愛理同様見る者に安らぎを与えてくれる微笑とともに、ハナの疑問に答える。

「キンタロスの好きな黄色の着流しを新調してあげようと思ってるんだ」

やはりその方向でプレゼントを選んだか、とハナは興味深そうに良太郎の言葉に相槌を打った。ようやく、まともな回答が返ってきた。

「最初は格闘技関係で何かないかな……って、思ったんだけどね。それだと、他の誰かと重なっちゃうかな、って思って。ハナさんは何か考えてるの?」

「うぅん……まだちょっと考え中」

良太郎はもうすでにプレゼントを決めているのに、自分が決まっていないのはなんとなく悔しい。

曖昧な返事をこぼしたハナに、良太郎は「そっか……」と、得心した様子で呟いた。

「キンタロスへのプレゼント、悩んでるんだ?」

「うん……」

嘘をついても仕方ないので、ブランコをこぎながら頷く。

再び「そっか……」と、呟いた彼は、ブランコを揺らしながら控えめな口調で続けた。

「僕でよかったら相談に乗るよ?」

モモタロスやウラタロスの口からは出てこなかった優しい言葉。やっぱり良太郎は優しくて頼りになる。無神経なモモや、上辺だけの優しさしか見せないウラとは違う。

「ありがとう、良太郎……。でも、もう少しだけ自分で考えてみるから」

しかしハナは、良太郎の厚意をあえて断った。

良太郎にはこれまでにも何度も自分の問題で世話になっている。本人に言えばおそらく否定するだろうが、これ以上迷惑をかけたくはなかった。

それにキンタロスへのプレゼントについては自分一人で考えたかった。みんなの意見を参考にするのと、相談をするのとはまた違った次元の問題だ。

「……キンタロスは幸せ者だね」

不意に、ブランコをこぐ良太郎の口からそんな言葉が漏れた。

どういう意味なのか怪訝に思ったハナが訊ねてみると、

「いやさ、ハナさんがキンタロスへのプレゼントをすごく真剣に考えているからさ。自分のことでそんなに悩んでくれるなんて、僕がキンタロスだったらきっと嬉しいだろうな、って思って」

良太郎はそう言うとハナににっこりと笑いかけた。

正直に言って、良太郎の言葉は意外だった。

かつてイマジンをあれほど憎んでいた自分にそれだけの価値があるとは思えなかったし、かえって迷惑にならないかと思ったぐらいだ。

「そう……なのかな?」

「そうだよ」

自信なさげに問うてくるハナに、良太郎はまたにっこりと微笑みかけた。

「きっとそうだよ」

「……うん。良太郎にそう言ってもらえると、なんか自信が出てくる」

一年前にこの時間を救った知られざる英雄は人を元気付けるのが得意中の得意分野だった。

この少年の発する裏表のない本心からの言葉は、心の奥に、すっ、と入ってくる。

やっぱり良太郎に会いに来てよかった。

参考になりそうな意見は聞けなかったが、それはハナの本心だった。

「あと、これは独り言なんだけど……」

不意に良太郎が口を開いた。

振り向くと、良太郎は独り言と言いながら、ハナの方を見つめて言葉を紡いだ。

「キンタロスのことをよく見てあげたらどうかな?」

「よく見る?」

「直接、何が欲しいとは訊けない時はさ、相手のことをよく見て、それから考えたらどうかな、って」

「相手のこと……キンタロスのことを見る……」

言われて、ハナはキンタロスと初めて出会った日から今日までの出来事を思い返してみた。

隣でブランコをこぐ良太郎は、そんなハナを黙って見つめている。

空手家・本城勝と契約して、紆余曲折を経て良太郎に取り憑いたキンタロス。仁義を重んじ、人情を重んじながらも早とちりが多く、どこか抜けている性格のイマジンだった。イマジンのくせに自分よりも他人のことばかりを考え、戦いの度にいつも傷ついていた。自分を救ってくれた良太郎をどこまでも信じ、彼のために自らの存在を賭けてまで戦った。

昼寝が好きで、自分を鍛えることが好きで、なによりみんなと一緒に過ごすこの“時間”を、大切に思っていた。そんなキンタロスが、ハナは好きだった。

「……決めた」

ブランコを揺らすハナの小さな唇から、呟きが漏れた。

良太郎の方を振り向き、彼女はにっこりと微笑みかけた。

「キンタロスへのプレゼント、わたし決めた」

「そっか」

良太郎もにっこりと笑って見せた。

彼の優しい笑顔を眺めながら、やっぱり会いに来て良かったと、ハナは改めて強く思った。

 

 

良太郎と別れた後、ハナはたまたまこの時代に停車していたゼロライナーを訪ねた。

すでにキンタロスへのプレゼントは決まり、もう誰かの意見を聞く必要はなかったが、この際、ついでなので彼らがどのような物をプレゼントに考えているのか訊いておく。

侑斗とデネブ場合……

「……安眠枕。あいつ、しょっちゅう寝てばかりいるからな」

「俺は特大デネブキャンディー金太郎飴バージョンを……」

「……お邪魔しました」

結局、格闘技関係のプレゼントは誰一人考えていないようだった。

どうやらみんな、考えることは同じらしかった。

 

 

ゼロライナーを下車したハナはその足で都内の百貨店へと向かった。

目的は一つ、キンタロスへのプレゼントの材料を買うためだ。

ハナが考えたプレゼントは手編みのマフラーだった。

良太郎に言われてキンタロスの日頃の行動を思い返してみたハナは、彼がしょっちゅうくしゃみを繰り返していることに気が付いた。本城勝が思い描く『金太郎』の熊のイメージから生まれたキンタロスは、首回りや腕に立派な毛皮を生やしている。その彼が普段からくしゃみを絶やさないのは、イメージによって作られた肉体が、本質的に本物の熊同様寒さに弱いからだろう。モモタロスの「冬眠」という言葉も、あながち嘘ではなかったようだ。

くしゃみが多いからマフラーというのも単純な連想だが、十二月を迎えたいま、これから寒さはますます厳しくなってくるだろう。

はぐれイマジン達の暗躍が活発化している。これまで以上にデンライナーの外での活動が増えるだろうキンタロスへのプレゼントに、マフラーはぴったりのような気がした。

ちなみ手編みのマフラーを贈ろうと思ったのは、市販のマフラーではキンタロスが好きそうな和をイメージした物がなかったからだ。ハナは決して編み物や裁縫が得意な方ではなかったが、どうせ渡すなら喜んでもらったほうがこちらも嬉しいと、彼好みのイメージを作るべく、自ら編むことにしたのだった。

クリスマスパーティはイブの夜に行う予定だ。あと二週間、勝負事の好きなハナでさえ、これまで経験したことのない種類の戦いが、幕を開けようとしていた。

 

 

百貨店のソーイングコーナーで色とりどりの毛糸を前にひとり悩んでいるハナを、気配を殺し、ひっそりと見つめる者がいた。

野生の肉食獣のように鍛え抜いた身体を学生用ブレザーに包んだその男は、ミシンの並ぶ棚の死角から、巧妙に気配を消しつつ、ハナに射るような眼差しを注いでいた。

「ほぅ…あれが特異点の娘か。……なんというか、ドリームな可憐さを持ったお嬢さんだな」

特徴的な口調で呟かれた独り言。

当然、周囲には誰もいない。

しかし、誰に対して向けたわけでもないその言葉に、返事をする者がいた。

「あらん? 柳也はあんな小さな娘がタイプだったのかしら?」

どこからともなく聞こえてきたその声は、男の耳膜を震わすことなく、直接、彼の頭の中に響いていた。

姿なき声の持ち主。それは紛れもなく……

「そんなわけないだろう。俺はボインちゃんの方が好きだ」

男はニヤリと笑って自分の中に潜む、得体の知れない何者かに言った。

続けて、何もない天井の方へと目線をやりながら、言葉を紡ぐ。

「ともかく、あいつの頼みだ。しばらく監視を続けようぜ? チャンスが巡ってくる、その日までね」

監視。チャンス。どことなくダーティな響きを孕んだその呟きに、「ええ」と、姿な怪人は答えた。

身長一八二センチ、体重七四キロ。ドリームという言葉をこよなく愛し、また常日頃からドリームな事件を追い求める男、桜坂柳也。今回の彼は、悪役だった。

 

 

 

ハナがキンタロスへのマフラー作りを始めてから五日目。

デンライナーの大浴場では、モモタロスらイマジン達が湯を浴びていた。

「なあ、カメの字」

シャンプーハットを使いながら頭を洗うウラタロスに、浴槽に身を浸すキンタロスが声をかけた。

髪の毛一本として生えていない青い頭を丁寧に揉みながら、ウラタロスは「なに、キンちゃん?」と、返事をする。

「最近、ハナの様子がおかしないか?」

「ハナさんの様子?」

SM○Pの歌が流れるCMでお馴染みの資○堂の赤いボトルのシャンプーを洗い流しながら、ウラタロスがまた聞き返した。

「どういう風におかしいって?」

「最近、デンライナーに帰ってくるなりずっと部屋に篭もっとるやろ? 食堂車の方にもあんま顔見せんし……何か、俺らに言えんような悩みでもあるんやろうか?」

「悩み、ねぇ……」

ウラタロスはシャンプーハットをはずすと、自らもまた湯船に身を沈め、キンタロスの隣に座った。意味深に呟く彼に、金色のイマジンは訝しげな視線を向ける。

「何や、何か知ってるんか?」

「いいや、僕も詳しくは。……ただ、悩んでいるのは確かだと思うよ」

「そか……やっぱりなぁ」

キンタロスは自分の考えが間違っていないことを知り、得心した様子で腕を組んだ。

「心配やなぁ……俺らにしてやれることはないやろか?」

「その気持ちだけでハナさんはきっと嬉しいと思うけどね。……それに、してあげられることっていっても、ハナさんの悩んでいる理由がわからないんじゃ、どうしようもないよ」

「そやなぁ……ハナみたいな年頃の女の悩み事言うたら……」

キンタロスは腕を組みながらしばし考え込む。

そして、ぽつり、と呟いた。

「……男か」

「ビンゴ」

「うん? 何か言うたか?」

「いや、何も」

囁くように呟いたウラタロスの声が聞こえなかったか、キンタロスは再び思考の渦へと自らの意識を沈めていった。

「男、男……はっ、もしかして三角関係か!? 痴情のもつれ!?」

「いやあ、ハナさんに限ってそれはないと思うよ。彼女、結構、一途だし…」

「一途? カメの字、お前、ハナが好きな男のこと知ってるんか?」

「……本心からの言葉、だよねぇ?」

「うん?」

ウラタロスの言っている意味がわからず、思わず聞き返すキンタロス。

ウラタロスは「いや、ごめんよ」と、呆れたように呟いて、自らの前言を撤回した。

「よく考えたら、キンちゃんが嘘をつけるはずがない、か」

実はウラタロスはハナがここ数日、自室に篭もって何をしているのか、大体の見当がついていた。

しかしそれをわざわざキンタロスに教えてやるのは、ハナに対するお節介というものだろう。

――ハナさんも大変だよね。こんな鈍感熊さんが相手じゃ。

ウラタロスは内心で溜め息をつくと、露で濡れた窓の方を見た。

靄がかかって判然としない時間の荒野を眺めながら、彼はいまだハナのことで妄想をふくらませ、勝手に悩んでいるキンタロスには聞こえぬよう、ひっそりと呟いた。

「応援しているよ、ハナさん」

そんな彼の目の前で、ウラタロスのシャンプーハットを踏みつけて、モモタロスがすっ転んだ。

 

 

――二〇〇八年十二月二四日。

 

クリスマス・イブ当日、ハナはやや駆け足気味に百貨店へと向かっていた。

良太郎には内緒で愛理に手伝ってもらったこともあり、二週間をかけて作ったマフラーはすでに出来上がっている。

そんな彼女がなぜまた再び百貨店に足を向けているかといえば、マフラーの製作に夢中になるあまり、ラッピングすることをすっかり忘れていたためだった。せっかくマフラー作りが上手くいっても、ラッピングを忘れていた、で失敗しては、泣くに泣けない。

ハナは近道とばかりに人気の少ない裏道を通っていた。

その両手には茶色の紙袋が大切そうに抱えられている。中身は勿論、プレゼントのマフラーだ。すでにパーティまであまり時間がないとあって、材料を買ったらすぐにラッピングをしようと持ち出した物だった。

百貨店へと急ぐハナの足が、唐突に止まった。

まるでハナの行く手を阻むように、ひとりの男が道の真ん中で胡坐をかいていた。まさに六尺豊かな大男といった表現がぴったりくる巨漢で、分厚い胸板のせいか、ジャケットの下に着込んだカッターシャツのボタンを上から三つまではずしている。

スラックスが汚れるのも構わず、男はそのままの姿勢で軽く右手を挙げた。

「やあ!」

それが挨拶だとわかるまでに、数秒を要してしまった。

勿論、ハナはこんな男のことは知らないし、見たこともない。

見知らぬ男から突如として挨拶をされたハナは、戸惑いよりもむしろ気味の悪さを覚えた。

それが決定的な不信感へと変化したのは、男の次の発言のためだった。

「特異点の女の子……ハナちゃん、で良かったかな?」

「あんた……」

マフラーの入った紙袋を抱えながら、ハナは静かに身構えた。

特異点。普通とは少し違うハナの特殊性を言い表すその言葉を知っているということは、この男はつまり……

「あんた、イマジンの関係者?」

「関係者……っていうか、一応、契約者」

男は屈託のない笑みを浮かべると、胡坐を解き、すっく、と立ち上がった。

ブレザーの裾から、イマジンの契約者であることを示す白砂がとめどなくこぼれ落ちる。

「んで、こいつが俺のイマジン」

男がそう呟くと、彼の足下に溜まった白砂が、異形の怪人へと変貌していった。

戦国時代の実用的な鎧甲冑を身に付け、大小の刀を腰に佩いた、人型のムササビだ。失われた未来からやって来た未来人の変異体、イマジン。帯前には鷲の意匠を凝らしたバックルが取り付けられている。

「その名も、ミヤモトムササビードルだ」

「源氏名はパー子っていうの。パーちゃん、って呼んでねん♪」

「……オカマ?」

「オカマ言うな! ニューハーフって言え」

その口調から思わず呟いたハナの一言に、男は過敏な反応を示すと、ひとつ空咳をした。

「ま、まぁ、それはさておいてだ……俺は君に恨みはないし、別段、戦う理由もない。けど、知り合いのイマジンが、どうも君達に恨みを抱いているらしくってね。君達を倒すのに協力しろ、って言ってきたんだ」

「恨み、ですって?」

男の物言いにハナは眉をひそめる。

もしや最近のはぐれイマジンの組織だった行動は、その知り合いのイマジンとやらに関係しているのではないか。

ハナはいつでもデンライナーの食堂車と連絡が取れるよう懐の携帯電話に手を伸ばした。マフラーの入った紙袋で隠しながら、短縮ボタンをプッシュする。あと一度、通話ボタンを押せば食堂車の電話に直接繋ぐことができる。

男はハナの行動を知ってか知らずか、「ああ」と、頷き、言葉を続けた。

「その恨みがいったいどういうものなのかは本人の口が堅くて俺も知らないが、君達電王一派には俺もかねてから興味があった。この時間を守った、知られざる英雄の実力を俺も試してみたくなってね」

「ごめんなさいね〜。あたしの契約者ってば、生粋の剣術馬鹿だから」

ムササビのイマジンが自分の契約者を指差して言った。

なるほど、鍛えられた肉体からそうではないかとは思ったが、やはりモモタロスやキンタロスと同じタイプの人間らしい。己を鍛えることが好きで、戦うことが大好きな人種のようだ。

「……というわけで、申し訳ないが、ハナちゃん、君を誘拐して、電王一派をおびき出させてもらうよ」

男はにっこり笑ってからとんでもない事を言い出した。

男と、目の前のイマジンが意図するところを悟ったハナはすかさず踵を返す。と同時に、懐の携帯電話の通話ボタンを押し、デンライナーのナオミと連絡を取ろうと図った。

しかし、振り返ったその先で、ハナは見てしまった。

振り返ったハナを、別な異形の怪人が待ち構えていた。

ヒュドライマジン。ギリシアのヒュドラ伝説をモチーフにした白い怪人は、身体の各所から生やした蛇の頭部をうならせながら、ハナに牙を剥き、威嚇していた。

百貨店へと続く裏路地は基本的に一本道だ。前と後ろを塞がれたハナは、逃げ場がないことに気付き顔を強張らせる。前後を挟まれては、迂闊に連絡を取ることも出来ない。

動?から再び男とムササビのイマジンの方を振り返るハナ。

不意に、腹のあたりに強い衝撃を感じた。

痛い、という実感すらなく、意識が薄れていく。

「ごめんなさいね。一応、手加減はしておいたから」

ミヤモトムササビードルことパー子。

彼、あるいは彼女の声を遠くに聞きながら、ハナは意識を完全に闇の世界へと手放した。

 

 

ハナの携帯電話からデンライナーに連絡が入ったのは、クリスマスパーティの準備も佳境に差し掛かった時のことだった。

「おう、こっちはデンライナー、食堂車だ」

ツリーの飾り付けで手が離せないナオミの代わりに電話に出たのはモモタロス。

もし掛かってきたのが知らない人間だったらどうするのか、というほどにぶっきらぼうに受話器を取った彼の耳朶を打ったのは、案の定、知らない男の声だった。

『あー……もしもし、デンライナーの食堂車?』

「だからそう言ってるだろうが。テメェは誰だよ?」

『デンライナー署じゃないのか……ちょっぴり残念だ。ええと……とりあえず、決まり文句言っとくぞ』

「ああ?」

『娘は預かった。返してほしければ今から言う住所の場所に来い。場所は……』

相手の男は品川区にあるとある倉庫の所在地を一方的に告げた。

『……だ。野上良太郎、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスの全員で来いよ。特に、キンタロスは忘れるな』

「あん? 何言ってんだお前? 俺に娘なんていねぇぞ?」

『……お約束の台詞サンキュー、ありがとう、スパシーバ。娘っていうのは、ハナちゃんっていうプリティな女の子のことだよ』

「コハナクソ女がプリティだぁ? ……お前、頭、大丈夫か?」

『酷い言われようだなぁ……まぁ、いいや。伝えることは伝えたし。それじゃ、待ってるぞ』

ガチャリ、と通話を打ち切る音が鳴って、続いて不通を告げるお決まりの電子音が延々と続く。

モモタロスは受話器を元あった位置に戻した。

「電話、誰からだったのさ?」

ツリーの飾り付けをしていたウラタロスが訊ねてきた。

「いたずらだ、いたずら。……ったく、ハナクソ女をさらったなんて、ホラ話もいいとこだぜ。電話代の無駄だ、まったくよ」

「……先輩、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど」

ウラタロスが呆れたような、哀れむような眼差しでモモタロスを見た。

大きく肩で溜め息をついてから、

「イタズラだとしても、どうしてデンライナーの電話番号を知っているのさ?」

「あ……」

クラッカーの数を数えていたモモタロスの手が、唖然と止まった。

時を走る列車の、それも食堂車の電話番後を直接知っている相手など、限られているに決まっている。

「モモの字……どんどんアホになってるで」

「わーい、ボケたボケた」

キンタロスとリュウタロスの声が、耳に痛かった。

 

 

もしもウラタロスの言葉がなければたいへんな事になっていただろう。

呼び出しの電話があった後、急いで良太郎と合流したモモタロス達は早速、指定された倉庫へと向かった。

折からの不景気で倒産した工作機械の会社の資材が置かれていた倉庫はなぜか鍵が開いており、慎重に中に入ると、そこでは学生用のブレザーを着た一人の男が待っていた。

「遅いぞ、お前達! ……もしかして来ないんじゃないかって、不安だったじゃねぇか!」

涙目で理不尽な怒りを叩きつけてくる男。

しかしそれ以上に静かな怒りを表情にたたえた良太郎は、

「ハナさんはどこ?」

と、男の言葉には聞く耳もない様子で、言葉を投げつけた。

見たところ倉庫には自分達と目の前の男以外に人の気配なく、ハナの姿はどこに見られない。どうやら別の場所に囚われているらしいが。

「聞く耳なしですか。そうですか。いいよ、いいよ…どうせ俺なんて。……心配するな。彼女は別の場所で、俺の仲間達からおもてなしを受けているだろうよ。ちなみに、俺はハナちゃんに指一本触れていないから、安心してくれ。……俺は、な」

「俺は……って」

「俺の仲間が彼女にどう接するかまでは関知していないんでね」

男はニヤリと不敵な笑みを口元にたたえると、良太郎の後ろに立つキンタロスを指差した。

「お前……」

「ん? なんや? 俺がどうした言うんや?」

キンタロスが良太郎を押しのけ、ずいっ、と前に出る。

「いやね、俺達のリーダーはさ、お前に用があるんだって」

「何やて?」

キンタロスが怪訝に声を低くした。

「何があったのかは詳しく聞いていないが、どうやら俺達のリーダーはキンタロス、お前さんに恨みがあるらしい。今回の誘拐も、お前さんをおびき寄せるために企てたことなんだ」

「おいクマ、心当たりあんのか?」

「……いいや」

背後からモモタロスに問われたキンタロスは、少し考えてから首を横に振る。

「つーか、俺らは今日までたくさんのイマジンを倒してきよったからな。恨みなんて、なんぼでも買うてきとる」

「それもそうか」

「ま、そういうわけでさ。俺達のリーダーが、本当に用があるのはキンタロス、お前だけなんだよ。だけど、電王一派の皆さんは非常に結束力が強い。キンタロス一人をおびき出そうとしても、他の連中が邪魔をしてくるのは必至だ。

そこでリーダーは、他の連中を足止めするために、俺や他のイマジン達を仲間に引き込んだわけだ。どうやらリーダーの恨みは、相当に根が深いらしい。直接晴らしたいって、聞かないんだよね」

気が付くと、良太郎達の周りにはイマジンの気配がいくつも出現していた。

いつの間にか男の隣にも、ムササビ型のイマジンが腰をくねらせながら立っている。良太郎達が入ってきた倉庫の入り口には、二体のモールイマジンが控えていた。

ブレザーの男は右手の親指で自らの背後を示した。

倉庫の裏口の側に立っているレッドラビットイマジンが、その扉を開けた。

「キンタロス一人だけで、裏口を出ろ。向かって右に進んで二つ目の倉庫に、ハナちゃんと一緒にうちのリーダーがいる。それ以外の連中は……わかってるよな?」

「キンタロス……」

良太郎が不安そうな、それでいて強い意志の輝きを秘めた眼差しをキンタロスに向けた。

キンタロスはチラリと、一瞬だけ良太郎を振り返ると、

「ハナのことは任せとき」

と、頼もしげに頷いた。

「……うん。わかった。僕たちもすぐに行くから」

「行けると思ってるのか? 俺達の包囲網を前に」

「行くよ。必ずね」

ブレザーの男の浮かべる不敵な笑みに、良太郎は堂々と応じた。

その手には、すでにデンオウベルトとライダーパスが握られている。

「モモタロス、いくよ!」

「おう」

隣に立つ赤鬼と頷き合い、良太郎はデンオウベルトを腰にセタッチした。

ほぼ同時に、キンタロスが猛然と裏口へと一目散に駆け出す。いくらキンタロスだけは通してやると言っても、ハナを人質に取るような輩の言葉だ。いつ、どこから不意打ちが来るとも限らない。そうならないよう、己の出しうる最大の速度で、キンタロスは駆け抜けた。

ブレザーの男と、ムササビのイマジンの隣をすり抜けるキンタロス。

しかしブレザーの男の目線は、もう彼を捉えてはいない。

いまやブレザーの男の双眸は、良太郎とモモタロスに集中していた。

「電王一の剣技の使い手……モモタロスのソードフォーム、見せてもらおうか!」

「うふふ、本当に剣術馬鹿なんだから。……でも、そんなところも好きよ」

ムササビのイマジンに言われ、ブレザーの男が露骨に嫌そうな表情を浮かべた時、良太郎はターミナルバックルにライダーパスをかざした。

「変身!」

Sword form!】

その掛け声とともに、モモタロスの姿は赤いオーラとなって良太郎の身体と重なった。

特異点たる良太郎の体内に眠るチャクラが目覚め、オーラスキンの第二の皮膚が彼の身を鎧うように覆う。オーラメタルの赤い装甲が特に重要な胸部を守り、頭部を走る線路を伝って、赤い電仮面が現出した。

オーラの余剰エネルギーが、衝撃波となって周囲の砂埃を吹き飛ばした。

仮面ライダー電王、Sword-formの参上だ。

「俺、参上!」

二つの声が重なる時、その強さは誰にも止められない。

決めポーズを取った電王はデンオウベルトに接続されたデンガッシャーを合体させると、紅の刀身を持つ剣を手に取った。

「言っとくが俺は、最初からクライマックスだぜ!」

電王は叫ぶや否や、デンガッシャーを振り上げ、猛然と駆け出す。

剣術や剣道の常道をはずれた、構えも何もないトリッキーな剣技。それが、モモタロスの憑依した電王の得意技だ。

「パー子!」

「オッケー!」

正面から斬りかかってきた電王の斬撃を、パー子と呼ばれたムササビのイマジンが己の持つ大刀で受け止めた。

その隙にブレザーの男は数歩後ろに下がると、芝居のかかった動作でジャケット脱ぎ、カッターシャツとスラックスだけの恰好になる。

「あれは……」

電王の変身を合図に戦闘を開始したウラタロスが、二体のモールイマジンを相手にしながら呟いた。

ブレザーの男の腰には、なんと電王と同じデザインのベルトが巻かれ、そして手にはパスが握られていた。

「時を駆ける列車はデンライナーだけじゃないんでね。パー子、合体だ!」

「あらん、卑猥な響き。でも、そんな柳也も好きよ」

「気色の悪いことを言ってないで、早くやるぞ」

「もう、気の早い男は嫌われるわよ?」

次の瞬間、電王の猛攻を凌いでいたパー子の体が、すぅっ、と煙のように掻き消えた。

そして柳也と呼ばれた青年が、ベルトにパスをセタッチする。

「チェンジ・ドリーム!」

Dream form!】

その掛け声を合図に、エネルギー体となったパー子の身体と柳也の身体が重なった。

永遠のアセリアAnotherの主人公たる柳也の体内に眠るチャクラが目覚め、オーラスキンの第二の皮膚が彼の身を鎧うように覆う。迷彩色のオーラメタルが特に重要な胸部を装甲化し、頭部を走る線路を伝って、虹色の電仮面が現出した。

オーラの余剰エネルギーが、衝撃波となって周囲の砂埃を吹き飛ばした。

「あたし、参上よん♪」

クネクネと腰を踊らせながら(はっきり言って気持ち悪い)、新たなる電仮面の戦士は自らの存在を誇示するように告げた。

二つの声が重なる時、その男は……無敵になるんだろうか?

仮面ライダー夢王の参上だ。

「言っておくけどん、あたしは最初から最後までドリームよん!」

「気持ち悪いんだよ、このオカマ野郎!」

デンガッシャーを合体させたサムライドリームブレードを振り上げ、腰をクネクネとうねらせながら迫る夢王に、電王は悲鳴じみた声を上げながら応戦した。

すでに戦場からキンタロスの姿は消えていた。

 

 

裏口を出たキンタロスは柳也に言われた通り、向かって右側、二つ目の倉庫へと一目散に駆け込んだ。

アルミの合金でできた扉を蹴破ると、いまキンタロスが最も聞きたかった声が彼を出迎えた。

「キンタロス!」

「ハナ! 助けに来たで!」

ハナは倉庫を支える鉄柱の一本に荒縄で縛り付けられていた。

キンタロスは慌てて駆け寄ろうとして、足を止めた。

倉庫内に乱雑に並べられた工作機械の陰から、二体のイマジンが姿を現した。

蛇の姿をした一体はハナを守るように彼女の側へと歩み寄り、そしてもう一体は、キンタロスの前に立ちはだかるように歩を進める。

「お前は……」

キンタロスが警戒に身構えた。

キンタロスの前に現れたのは何かの植物のイメージから実体化したと思わしきイマジンだった。全身から鋭い棘を生やし、見るからに凶悪そうな茨の軟鞭を手にしている。

「よく来たね、キンタロス君」

口らしい口を持たぬ仮面から紡がれたのは、機械的な印象を匂わせる冷たい声だった。

「お前は……」

「私の名前はローズイマジン。『いばら姫』の物語から薔薇のイメージで実体化させていただいたイマジンだ。……もっとも、すでに契約者とは縁を切っているがね」

「そうか……お前がはぐれイマジン達の親玉やな?」

「その通りだよ」

ローズイマジンは茨の軟鞭を手で弄びながら、キンタロスへと近付いた。

キンタロスは得意の相撲スタイルに構えながら、柳也の話を聞いて以来の疑問を口にする。

「お前、何で俺を狙うんや? 俺はお前なんて知らんで」

「ふむ、何で……か。そうだね、君は私のことをよくは知らないだろう」

ローズイマジンはキンタロスの言葉を肯定した。

二人の距離はまだ四メートル以上もある。

超接近戦を得意とするキンタロスが一撃必殺を図るには苦しい間合いだ。ハナの側に立つもう一体のイマジンのことを考えると、このローズイマジンは一撃必殺で倒さなければならない。

もっと相手が近付くまで待たなければ、ハナを助け出すチャンスはない。

最大の警戒を自信に課しながら、キンタロスは続く言葉を待った。

「だが、私は君のことをよく知っているのだよ」

「……なんやて?」

キンタロスは思わず虚を衝かれた。

表情のないローズイマジンが、冷たい苦笑をこぼした。

「私はね、君に倒されたアイビーイマジンの……失われた未来では、フランクリン・カーターと呼ばれていた男の弟なんだ」

「兄ちゃんの仇討ちというわけか?」

「まさにその通りだ」

ローズイマジンが立ち止まった。

両者の距離は、約二・五メートル。

キンタロスは怒りを露わにした態度と口調で叫ぶ。

「せやったら、何でハナを巻き込んだ!? 俺が憎いんやったら、俺一人を狙えば済むことやろ!?」

「柳也から聞いていないのかね? 邪魔が入るのを私は好まない。それに、兄を一方的に倒した君を、私が一方的に倒すからこそ、意味があるんじゃないか」

ローズイマジンはそう言うと、茨の軟鞭を、しゅるしゅる、と垂らした。

ローズイマジンの考え一つで長さが変わる、伸縮自在の鞭らしく、最初、キンタロスが見たときよりもはるかに長い、三メートルはあろうかという長物になっている。

「動かないでくれよ? 動いたら、どうなるかは分かっているだろう?」

ローズイマジンが呟くと、ハナの側に立つヒュドライマジンが左腕に装備された鉤爪を彼女の首元に添えた。ちょうど、頚動脈の位置だ。

「キンタロス……」

不安そうなハナの声。

キンタロスは、毅然とした態度で言った。

「ハナ、もうちょっとの辛抱やからな」

「そうさ。もうちょっと……あと、ほんの少しの辛抱だ」

ローズイマジンが軟鞭を振り上げた。

茨の鞭が、勢いよく空中でしなる。

「貴様が死ぬまでのな!」

高速でしなる茨の軟鞭が、キンタロスの身体に襲い掛かった。

 

 

仮面ライダー電王と夢王の戦いは文字通りのクライマックスを迎えようとしていた。

すでに数の優勢を誇っていた他のイマジンはウラタロスとリュウタロスによって駆逐され、いまや倉庫で戦力を残しているのは夢王一人となっている。

「あっははははは! やっぱり強いなぁ、電王は。あれだけのイマジンを、もう全部倒しやがった。楽しい、楽しすぎるぜ」

「全員じゃないわ。まだ、あたしがいるじゃない?」

「おっと、申し訳ない。忘れていたよ、パー子」

そう言って笑う夢王の息はすでに上がり始めている。

しかしそれは対峙する電王も同じだ。

電王と夢王の剣技、そして実力はまったくの互角。

電王が三度斬りつければ夢王はその回数分だけ反撃し、夢王が四度刺突を繰り出せば、電王がそれと同じ数だけ、刺突を浴びせるという状況が続いて、なかなか決着が着かないでいた。

「とはいえ、あんまり長々と勝負を続けるのも剣士の名折れなんでね。そろそろ、決めさせてもらうぜ」

「気が合うな。俺もそろそろ終わりにしようと思ってたところだぜ」

電王と夢王は互いにパスを取り出すと、最後の一撃を決めるべくフリーエネルギーをチャージする。

「俺の必殺技、パート3!」

Full charge!】

「俺とパー子の必殺技、ラブ・ドリーム・スラッシュ!」

Full charge!】

電王はデンガッシャーに、夢王はサムライドリームブレードに。

フリーエネルギーを充満させた刀身を互いに腰溜めに構えた両者の間に、一瞬、凪のような静寂が訪れた。

これから放たれるであろう斬撃の緊迫に、空気が凍る。

電王と夢王は、まったく同じタイミングで互いの得物を右へ、左へと裁いた。

一撃、二撃とぶつかり合い、夢王の口から苦しげな呻きが漏れる。

「チィッ……ラブ・ドリーム・スラッシュでも決着がつかないか!」

「そいつはどうかな?」

苦みばしった呟きをこぼす夢王に、電王は余裕の様子でデンガッシャーを頭上へと振り上げた。

「残念だったな。俺の必殺技は、最後に頭から斬るんだよ!」

フリーエネルギーで満ちた紅の刃が、夢王の頭上に落下した。

夢王は咄嗟に右へと飛び退こうとする。

しかし、その反応はコンマ・ゼロ数秒遅かった。

デンガッシャーの刃は頭部への炸裂こそ免れたが、夢王の肩口へと正確に炸裂した。

「う、おおおおおお!」

次の刹那、夢王の身体を尋常ならざる衝撃が襲った。

圧倒的なフリーエネルギーの奔流に耐え切れなかった夢王は、絶叫を上げながら後ろへと飛ぶ。少しでも衝撃を逃そうとするその行為が、しかし背中からの転倒というさらなる衝撃を生み、夢王の変身は解除されてしまった。

「うわっと!」

「やっだー!」

変身が解け、憑依も解けた柳也とパー子は倉庫の床に転がった。

二人とももはや戦う気力も体力もないのか、苦しげな呻きを漏らすばかりで、立ち上がることはない。

「ふ、ふふふ……」

不意に、転倒したままの柳也の口から笑い声が漏れた。

電王の一撃を受けた肩は、装甲越しにも相当な衝撃を受けたのか、脱臼しているようだ。

しかし痛みにも拘らず、柳也の顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。

「ふふ…ははは……楽しかったぜぇ、電王……くっ…はぁ……イテェ……また、一から鍛え直しだな」

柳也は顔だけを起こして電王らを見ると、

「俺の役目は、終わった。時間は稼いだし、あとはどこへなりとも好きに行け。あのプリティなお譲ちゃんが待ってるぜ?」

「テメェに言われなくてもそうすらぁ!」

電王ソードフォームは肩を怒らせながら柳也の横を通り抜けていった。

ウラタロスとリュウタロスも、それに続く。

「あ、ちょっと待て」

倒れたままの柳也が、思い出したように三人を呼び止めた。

振り返る三人に、柳也は嬉しそうな笑いを顔に張り付かせたまま、

「それ、持っていけ。あのお譲ちゃんをさらう際に、持っていたもんだ」

と、裏口のすぐ側に置かれた茶色の紙袋を指差した。

 

 

ハナが囚われている倉庫に良太郎達が駆けつけた時、すでにローズイマジンによるキンタロスへの一方的な数百回を数えていた。

「クマ公! なんで反撃しねぇんだよ!?」

電王の変身を解き、良太郎と分離したモモタロスが一方的に傷つけられるだけのキンタロスを見て叫んだ。

ローズイマジンの軟鞭術はたしかに強力だが、圧倒的というほどの力量ではない。彼のよく知るキンタロスの実力ならば、すぐにでも反撃に転じ、一撃の下に相手を粉砕することは可能だろう。

しかし、なぜかキンタロスはそれをしようとしない。

そればかりか回避や防御といった動作を一切取ろうとせず、ひたすらに攻撃を浴び続けている。

モモタロスにはそれが不思議でならなかったが、鉄柱に縛りつけられたハナと、その首筋に鉤爪を添えているヒュドライマジンの姿を見た途端、彼の疑問は氷解した。

「おっと動くなよ……動いたら、この娘の命はないぜ?」

咄嗟に加勢に入ろうとリュウボルバーを構えたリュウタロスに、ヒュドライマジンの冷酷な声が投げられた。

リュウタロスはヒュドライマジンとハナを交互に見比べると、悔しげな唸り声を発して、リュウボルバーの銃口を地面へと向けた。

リュウタロスがリュウボルバーの引き金を引けば、ヒュドライマジンを倒すことは可能だろう。しかし、引き金を引き絞ったと同時にハナの首を掻っ切るであろうヒュドラの鉤爪を止めることは、遠距離戦闘を得意とするリュウタロスにも不可能だ。ヒュドライマジンとハナの位置関係は、それほどに密接だった。

「そうだ。お前達はそこでおとなしく見物していればいいんだよ」

ローズイマジンが良太郎達の方を見て不敵に笑った。

伸縮自在の茨の軟鞭が、右へ左へと迸る。

空振りかと思われた軟鞭の打撃は、キンタロスの両サイドに置かれた工作機械を跳ね飛ばし、何百キログラムという単位の鉄塊に膨大な運動エネルギーを与えて宙に踊った。

左右から押し潰すように飛んできた工作機械に対し、キンタロスは案山子のように立ち尽くすばかりだった。

凶器と化した工作機械がキンタロスの身体に炸裂した。

さしものキンタロスも、これにはたまらず悲鳴をあげた。

思わず膝を着くキンタロス。しかしそんな彼に、ローズイマジンの茨の軟鞭は呵責のない連打の嵐を浴びせかけた。

「兄さんの受けた苦しみ、死の恐怖……貴様も存分に味わうがいい!」

狂気に染まった雄叫びを上げるローズイマジンの手の先で、軟鞭もまた踊り狂っていた。

一思いに急所を衝こうとせず、ただ相手を痛めつけることを目的とした滅茶苦茶な乱打が、キンタロスの頭を、肩を、胸を、足を、腹を襲う。叩く。引き裂く。切り捨てる。その度にキンタロスの身体からは白砂が飛び散り、彼の身体は沈んでいく。

軟鞭の嵐がやんだ。

あまりの猛攻に優勢に立つ方が疲れたか、ローズイマジンは肩で息をしながらキンタロスを見下す。

「はっ…はっ……どうだ? 少しは兄さんの味わった苦痛を貴様も感じてくれたかね?」

「キンタロス……」

ヒュドライマジンの腕の中で、ハナの口から泣きそうな声がこぼれ落ちた。

目の前で大切な仲間が傷つけられているのに、何も出来ない怒りから、良太郎達は誰もが悔しげに歯噛みしている。普段からキンタロスと仲の良いリュウタロスなどは、「クマちゃん……」と、泣きそうな声を発している。

そんな彼らを交互に見たローズイマジンは、満足そうに笑った。

いまだ膝を着き、痛みを耐え忍んでいるキンタロスの目の前で、勝ち誇ったように胸を張る。

「貴様らはそこで見ていろ。貴様達の大切な仲間が、ここで死んでいくのをな」

「……無理やな」

不意に、キンタロスの口から呟きが漏れた。

あれだけの猛攻を受けて、まだ喋るだけの気力が残っているのか、とヒュドライマジンの顔が驚きに染まる。

キンタロスはゆっくりと顔を上げると、ローズイマジンの顔を真っ直ぐに見つめた。

その金色の一つ目には、強い意志の輝きがあった。

「その程度の強さでは、俺を倒すことはおろか、泣かすことも出来へんで?」

「貴様…!」

ローズイマジンが、激しい憎しみを露わにした。

顔を上げたキンタロスの顎先を、容赦なく蹴り飛ばす。イマジンの健脚から放たれた蹴りは強力で、キンタロスの巨体を一撃で転倒させた。だが、キンタロスの口は止まらなかった。

「……なんや? その程度かいな? これじゃ、やっぱ俺を倒すのは無理やで」

「貴様! 貴様ぁ!」

仰向けに倒れているキンタロスの身体を何度も踏みつけ、鞭を浴びせかけるローズイマジン。

その度にキンタロスの身体からは白砂の飛沫が散り、口からは呻きが漏れるが、実体化した肉体は、一向に消滅する気配を見せなかった。

そしてそのことが、激昂するローズイマジンの怒りをさらに煽り、彼の攻撃をより苛烈なものにしていった。

しかし、どんなに攻撃の手数を増やしても、どんなに一撃に篭める力を増しても、キンタロスの身体は、消えなかった。

「ハナ…もうちょっとやで……もうちょっとの辛抱やから、な」

いつしか、キンタロスの口からは苦悶の呻きすら消えていた。白砂の流出もなくなっている。

泰然自若と腕を組み、攻撃を受け続けるキンタロスの身体は、いまやローズイマジンがどんな攻撃を浴びせかけたところで、ビクともしなくなっていた。

その頃になると、ローズイマジンの心から怒りという感情は消え始めていた。

代わりに、彼の中では別な感情が生まれつつあった。

それはキンタロスの並外れた強靭さに対する恐怖であり、気味の悪さだった。

そしてその感情は、戦いを傍観しているヒュドライマジンも共通に抱いたものだった。

いつからかヒュドライマジンはキンタロスとローズイマジンの戦いとも呼べぬ一方的な私刑に釘付けとなっていた。そしてそのことが、人質に常に気を配っているという彼の役割に、ほころびを生じさせていた。

Full charge!】

その時、黄金に光る猛禽の翼が、ヒュドライマジンを飲み込んだ。

スプレンデッドエンド。

フリーエネルギーをフルチャージしたゼロノスカードをゼロガッシャーにセットすることで発動する、黄金の斬撃だった。

一撃の下にヒュドライマジンを粉砕すると同時に、爆発の衝撃からハナを守るように現れたのは、緑色のオーラメタルの装甲でその身を鎧った電仮面の戦士……仮面ライダーゼロノスだ。

「大丈夫か?」

接近と同時にゼロガッシャーで荒縄を断ち切り、ヒュドライマジンが爆発するよりもいち早くハナを腕の中に収めたゼロノスは、突然のことに唖然としているハナに優しく語りかけた。

ゼロノスに助けられたことをようやく自覚したハナは、「う、うん……」と、強張った顔のまま頷く。しかしそれ以上の言葉は出てこず、やはりまだ動揺しているようだった。

唖然としていたのはハナばかりではなかった。

人質を取っていたからこそ保てた絶対的な優勢を一瞬にして崩されたローズイマジン、そして突然のゼロノスの登場に眼を剥く良太郎達もまた、唖然としていた。

そんな中、ただ一人、キンタロスだけが、ゼロノスの登場に対して驚きもせず、仰向けに倒れたまま言った。

「そろそろ来る頃やと思っとったで」

「自覚は薄いけど、一応、俺の娘ってことだからな。助けないわけにはいかない」

ゼロノスはキンタロスに答えると、腕の中のハナをそっと下ろした。

失われてしまった未来では自分の娘となるはずだった彼女の頭を撫でながら、ゼロノスはローズイマジンを指差し、言う。

「最初に言っておく! 俺は、かーなーり怒っている!」

「怒っているのは私も一緒だ。なんでこう邪魔が入るのかね?」

「日頃の行いが悪いからやろ」

形勢逆転とあって、キンタロスが仰向けの状態から、すくっ、と立ち上がった。

あれほどの攻撃を受けて、まだ立ち上がる余力があったのか。

背後からリュウタロスが叫んだ。

「クマちゃん、ダメージを負いすぎだよ。僕がやる」

「いいや。こいつは俺一人でやる!」

自分の身を気遣ってのリュウタロスの申し出に、キンタロスは決然と首を横に振った。

「侑斗、それから良太郎の加勢もいらん。こいつは、俺一人で戦わんとあかん相手なんや」

「キンタロス……」

人質の緊張から解放されたハナが、震える声でその名を呟いた。

もしやキンタロスは兄の仇討ちに燃えるローズイマジンに責任を感じ、それで一人での戦いを選んだのではないか。しかしいくらキンタロスが強いといっても、ダメージを負ったいまの身体では……。

不安そうに見つめるハナに、キンタロスは頼もしげに胸を叩いた。

「大丈夫や。俺は負けへん。……良太郎!」

「うん、わかったよ」

キンタロスとローズイマジンの関係については知らない良太郎だったが、毅然とした彼の態度に何か感じ取ったのだろう、良太郎は迷うことなくデンオウベルトとライダーパスを投げ渡した。

二つのアイテムを受け取ったキンタロスは、デンオウベルトを装着するやターミナルバックルに取り付けられた金色のボタンを入力、慣れた動作でライダーパスをセタッチする。

「変身!」

Ax form!】

カイとの最終決戦を経て自己の存在を確立させたキンタロスの身体から溢れ出るチャクラがオーラと化し、オーラスキンの第二の皮膚が彼の身を鎧うように覆う。オーラメタルの黄金色の装甲が特に重要な胸部を守り、頭部を走る線路を伝って、金色の電仮面……マサカリーダーが現出した。

懐紙吹雪が宙を舞った。

オーラの余剰エネルギーが、衝撃波となって周囲の砂埃を吹き飛ばした。

仮面ライダー電王、Ax-formの参上だ。

「俺の強さにお前が泣いた!」

その力を解き放つ時、この時空は金色の世界で満たされる。

首を鳴らしてそう言った電王に、ローズイマジンは蔑むように応じる。

「ふん……その身体で、しかも一人で戦うつもりか? 兄さんの時もそうやって、相手を馬鹿にしながら倒したのか!?」

「兄ちゃんのこと悪かったなぁ……せやけど、人質を取るっちゅーその手口は、やっぱりあかんわ」

電王は言いながら、デンガッシャーを合体させ、まさかりの付いた斧をその右手に握る。

「正々堂々の仇討ちなら、俺はいくらでも受けたる。それが武人の覚悟やからな」

デンガッシャー・アックスを腰溜めに構え、電王はローズイマジンの攻めを待った。

ローズイマジンの言うように、強がってみせてはいるが自分の体力はそろそろ限界近い。

持久戦をするだけの余力は、いまの自分にはない。一撃必殺を期さなければ、後がない。

ローズイマジンの軟鞭が唸りをあげた。

爆竹が弾けるような衝撃音が、電仮面によって強化されたキンタロスの耳朶を幾度となく連打する。

迫りくる軟鞭の軌跡を、電王はゆっくりと見つめていた。

フェイントを含む攻撃の嵐の中、どの攻撃を最も警戒し、どのタイミングを反撃の機会とするかを見極めるべく、ただひたすらに冷静な観察を続ける。

空中で円弧を描く軟鞭が、不意に一条の流星となって機動を変えた。軟鞭では絶対にありえるはずのない“突き”の一撃。並外れたイマジンの身体能力だからこそ可能なその技は、打撃にばかり注意を向けていたなら避けることはおろか防御も出来なかったことだろう。

電王の身体は、ほとんど無意識のうちに動いていた。

顔面めがけて一直線に進んでくる鞭頭を、寸前のところで首を動かして避けた電王は、ローズイマジンが鞭を引き戻すわずかな遅滞を狙って、左手を伸ばした。

茨の鞭を掴むことに成功した電王は、ローズイマジンが軟鞭を手放そうとするよりも一瞬早く、鞭を引き、強引に相手を引き寄せた。

アックスフォームの圧倒的な怪力に翻弄されるローズイマジンの胸めがけて、マサカリーダーの頭突きを炸裂させる。

もんどり打って転倒するローズイマジン。

電王は、その決定的な隙を見逃さなかった。

電王はすかさずライダーパスをターミナルバックルにかざし、自らの持つ最大の技を放つべく、チャクラを、オーラを、フリーエネルギーのすべてを解放した。

Full charge!】

電王はフリーエネルギーを充填して黄金色に輝くデンガッシャー・アックスを上空に向かって投げた。

自らもまた地面を蹴って跳躍した電王は、空中でデンガッシャーをキャッチ、落下の加速を上乗せした重い一撃を、立ち上がったローズイマジンの額へと叩き込む。

それはあたかも、黄金の稲妻が大地に炸裂したかのようだった。

「兄、さん……!」

上段からの一閃はローズイマジンの肉体を斬割し、倉庫内には爆発の閃光が繚乱した。

至近距離にいた電王は爆炎に揉まれ、良太郎達からはその姿が見えなくなってしまう。

「……ダイナミックチョップ」

オレンジ色の光芒が乱れ舞う世界の中、電王は静かに呟いた。

 

 

変身を解いたキンタロスはいまだゼロノスの側で立ち尽くしているハナのもとに駆け寄った。

「大丈夫やったか、ハナ?」

キンタロスはしゃがむと、ハナの小さな身体を触って状態を確かめる。

人質を取るなんて卑劣な真似をするローズイマジンのもとにいて、怪我がなかったとは限らない。

心配そうに身体のあちこちを調べるキンタロスに、しかしハナはそう問いかける彼の方が傷ついているのを見て、慌ててその行為をやめさせた。

「わ、わたしは大丈夫……それより、キンタロスの方が……」

「俺は大丈夫や。俺の身体の出来は、ハナもよう知っとるやろ?」

「でも!」

モモタロスの鉄拳も受け付けぬキンタロスの肉体が強靭なことはハナもよく知っている。

しかし塵も積もれば山となる、だ。いかに一撃一撃のダメージが小さくとも、あれだけの猛撃を受けた肉体のダメージ総量は、笑って済ませられるものではないはずだ。

「ごめん…ごめんね……わたしのせいでキンタロスが……」

ハナは嗚咽混じりの言葉をキンタロスに投げかけた。

周りにモモタロス達がいるのも構わず、小鹿のように大きな涙をこぼす。普段気の強いハナが、自分を見失っている証拠だった。

キンタロスがこんなに傷ついてしまったのは、自分のせいだ。自分さえ人質にならなければ、キンタロスがここまで傷つくことはなかっただろう。

暗い面持ちのハナに、しかしキンタロスは「いいや」と、首を横に振った。

「ハナのせいやない。どっちか言うと俺のせいや。俺の不始末が原因で、こんなことになってまったんや」

「いわば自業自得や」と、キンタロスは苦笑いをこぼす。

必死にハナのせいではないと悟す彼の口調は優しく、その言葉が単に彼女を慰めるための方便でないことを窺わせる。キンタロスは、本当に今回の事件は自分のせいで起きたと思っているようだった。

「すまんなぁ、ハナ……。俺らのせいで、こんな怖い目に遭わしてもうた」

キンタロスはどこまでも優しく、そしてその訴えは真摯だった。

彼は泣きじゃくるハナをそっと抱き寄せると、幼い身体を腕の中に収めた。

黄金色に輝く厚い胸板が、ハナの頬に触れる。

キンタロスの温もりと、存在しないはずの鼓動が聞こえてきた。不思議と安心できる、優しさと力強さに満ちた温もりだった。

その腕に抱きしめられていると、ハナは不思議と気持ちの昂ぶりが落ち着いていくのを感じた。

やがて完全に落ち着きを取り戻したのを見取ったか、キンタロスが、ハナを抱きしめたまま言う。

「……とにかく、無事でよかった」

「キンタロス……」

キンタロスの呟きに、ハナは小さな腕を精一杯に伸ばして、彼の背中に回した。

「キンタロスも…無事でよかった」

「ああ……ほな、そろそろ帰ろか?」

「うん」

ハナは頷いたが、キンタロスから離れようとしなかった。

不思議に思ったキンタロスは、「ハナ?」と、彼女の名を呼ぶ。

ハナはかすれるような小さな声で、キンタロスのみ聞こえるよう耳打ちした。

「……腰が抜けた。だから、だっこ」

「……しゃーないなぁ」

キンタロスは苦笑を浮かべると、そっとハナを抱き上げた。

未来への分岐点が発生して以来、ずっと子どもの姿のままでいるハナの身体は、キンタロスから見るとかなり小さい。その小さな身体を腕に抱き、胸に担ぎ、キンタロスはいわゆるお姫様だっこの体勢をとった。

まさかキンタロスがこのような形で自分を抱き上げるとは思わなかったハナの顔が、真っ赤に染まる。

しかし変更を促すような言葉はなく、むしろその状態を望むように、彼女はキンタロスの太い首に自分の両手を回した

「あ〜あ、見せ付けてくれるねぇ」

「……うるさい」

ウラタロスがニヤニヤと笑いながら呟いた言葉に、ハナの照れ臭そうな小さな声が反論した。

 

 

ハナの誘拐とローズイマジンというアクシデントこそあったものの、クリスマスパーティは当初の予定通り開かれた。

デンライナーに戻った一同はそこで恒例の短冊吊るしを行い、クラッカーを鳴らして、一年に一度だけの聖夜を祝った。その中には、昨年のクリスマス会で集った面々のほか、侑人とデネブ、さらにはもう二人、新しい面子も混ざっている。

「……ところで、なんで君たちもここにいるのさ?」

サンタクロースの仮装をしたウラタロスが、ちゃっかり一同に混じってローストチキンを食べている柳也とパー子に問うた。

柳也はローストチキンを頬張りながら、

「いやぁ、あの後鍛え直しってことで武者修行に出ようとしてたんだけど、ナオミさんに見つかってしまって」

「それで、連れてきちゃいましたー」

ナオミは明るく笑ってウィンクをひとつ。

それにならって「そういうことよん♪」と、パー子もウィンクをひとつ。

ウラタロスは複雑な様子で、

「また濃いキャラクターが登場したなぁ」

と、これからのデンライナーの旅の行く末を思い、嘆息した。

 

 

宴もたけなわといった感ある食堂車から離れて、ハナはデンライナーの乗車口にキンタロスを呼び出した。

「なんや、みんなの前じゃできん話て?」

「うん。ちょっとね」

ハナはしばし恥ずかしそうに俯いていたが、やがて意を決したように、後ろ手に持っていた茶色の紙袋をキンタロスの方へ突き出した。

「……これは?」

「クリスマスプレゼント。ラッピングする時間がなくなちゃったから、こんな紙袋で申し訳ないんだけど」

柳也の手によって保管され、良太郎の手から再びハナの手元に戻った手編みのマフラー。

紙袋を受け取ったキンタロスは、やわらかいその感触に「開けてもええか?」と、ハナの方を見た。

「う、うん」

ハナは珍しくやや緊張した面持ちで頷いた。

キンタロスが袋を開けた中身を取り出すまでの時間が、やけに長く感じた。こんなに時間の流れを遅く感じるのは、昨年の肝試し大会以来ではないだろうか。

やがて紙袋からマフラーを発見したキンタロスは、やや大仰に驚いてみせた。

「これは……」

「マフラーよ。手作りなんだから。……大切にしなさいよね」

「おおきにな」

キンタロスはにっこり笑うと、受け取ったばかりのマフラーを首に巻いた。キンタロスのことを意識して、わざわざ黄色と黒の縞模様を描くように編んだマフラーは、やはり彼によく似合っていた。

キンタロスは首に巻いたマフラーを嬉しそうに指で弾いた。

「あったかいなぁ。ハナが俺のために作ってくれたもんや。くぅ〜…泣けるでぇ!」

「そ、そんな大袈裟な」

「大袈裟やない! これは俺の本心や」

キンタロスはきっぱりと言い切ると、腰を落とし、ハナの肩に両手を置いた。

「ホンマ、おおきにな」

「キンタロス……よかったぁ、気に入ってもらえたみたいで」

基本的に和を好むキンタロスだ。マフラーなんて洋の文化が生んだ物をプレゼントされて、むしろ迷惑なのではないかという不安は常にハナの中にあった。

しかしそれが払拭されたとあって、ハナの顔には明るい笑顔が浮かんでいた。

マフラーを巻くキンタロスが、思い出したように手を叩いた。

「せや! 俺もハナにクリスマスプレゼントがあるんや」

キンタロスはジャケットの内ポケットをまさぐると、綺麗に包装された小箱を取り出した。キンタロスがわざわざ良太郎の身体を借りて、2008年の世界で買ってきた物だ。

「これは?」

「開ければわかる」

キンタロスから小箱を受け取ったハナは、箱の蓋を開けて驚いた。

小箱の中には、銀の鎖に繋がれた懐中時計が入っていた。素人のハナにもかなりの値の張る代物と思われ、蓋には蝶の彫刻が刻まれている。

ハナはキンタロスを見上げた。

キンタロスは、にっこり笑って言った。

「良太郎に聞いたんや。良太郎のねーちゃんが未来の桜井に時計を渡した意味。俺も、ハナと一緒に時間を刻んでいきたい思うてな」

「キンタロス、それって……」

ハナは息を呑んでキンタロスの顔を見つめる。

キンタロスは、優しくハナの頭を撫でた。

「これからも、ずっと一緒やで? ハナ」

「……うん!」

かつてハナの所属していた時間は消滅した。

しかしいま、ハナは新たな時間の波に乗っている。

その時間の流れを、ともに歩んでいこう。

キンタロスの言葉に、ハナは満面の笑みを浮かべて答えた。

 

 

そんな二人のやり取りを隠れ見る者の姿があった。

文字通りの出刃亀……ウラタロスだ。

「あ〜あ、あの言い方じゃハナさん絶対誤解してるよ」

嘆くように呟いたウラタロスの手には、ハナと同じデザインの――ただしこちらの蓋には亀の彫刻が施されている――懐中時計が握られている。

「あの懐中時計、実はキンちゃんがみんなにプレゼントした物なんだよね〜」

しかも同じフレーズを口にして。キンタロスの意図するところは要するに、大切な仲間達とこれからも一緒にやっていこう、ということだ。

そこにいま、ハナが感じているような意味合いはない。

「キンちゃんも罪な男だねぇ」

そう呟くウラタロスの口調は、なぜか楽しそうに笑っている。

「これからが楽しそうだね」

ウラタロスの呟きは、デンライナーの振動に消され、誰にも聞かれることなく消えていった。

他方、そんなウラタロスの隣では、侑人が鼻息荒く、血走った目で二人のやりとりを見つめていた

「やらん……やらんぞ……キンタロスのような力だけが取り得のクマに、娘は……ハナはやらんぞ!」

……ハナとキンタロスのこれからは、色々と前途多難なようである。

 

 

 

 

 

<設定>

 

桜坂柳也

 

永遠のアセリアAnotherに登場するタハ乱暴のオリジナル・キャラクター。

詳しい設定は永遠のアセリアAnotherにゆずる。みんな、そっちも読んでみてね(笑)。

仮面ライダー夢王に変身する。彼がいかなる経緯でライダーパスを入手するにいたったのかはまったくの不明。

 

 

パー子

 

桜坂柳也の思い描く剣豪宮本武蔵からシャレで思いついたムササビをムチーフにしたイマジン。柳也からミヤモトムササビートルの名前を与えられるが、本人はそれよりも源氏名のパー子の方を好んで名乗る。

検視の柳也がイメージしただけあって圧倒的な格闘戦闘力を誇る。

もともと彼女(?)は「本物の戦艦大和が見たい」という柳也の願いを果たすために色々と奔走していたが、本物の大和がすでに海没していることや、柳也の要求があまりにも過酷すぎるために契約を完了させることができず、そうこうしているうちにカイが消滅し、現代に取り残されることとなった。

現在は六本木のニューハーフカフェ「磯の香り」で働いている。

柳也に惚れている。

……なんなんだ、この詳細な設定は?

 

 

<主題歌>

Double-ActionDream-form

 

 

後悔先に立たないと 昔の人は言ったけど

なんでこいつがパートナー クリーリングオフはなしですか?

ああ、そうですか……

 

深い意識の海の底 あんたの望み叶えるために

あたしだって頑張ってんのよ あんたが好きだから……

 

俺と あたしの 願いと 想いが ひとつになった

 

二つの声重なるとき、誰もが素足で逃げ出す

腰をくねらせDouble-Action 俺の あたしの 夢の戦い始まる

 

 

なんの因果かこいつと二人 時間の波に乗り損ね

いつの間にやらライダー稼業 本業アセリアの出番はないの?

ああ、そうですか……

 

悲しまないでとあたしの言葉 四畳半の部屋に響く

お金も仁義もない時代 それでもあんたに尽くす……

 

俺と あたしの 夢と 希望で 花を咲かす

 

二つの声重なるとき、誰もがその場にひれ伏す

夜の女王Double-Action 女 なんかに 負けないわ この心意気

 

 

柳也あんたのためなら この操をささげるわ

パー子忘れないでおくれ 俺とお前は男同士

 

 

二つの声重なるとき、夢の王様参上

愛のひと時Double-Action いやん ばかん あっはーん!

 

この力解き放つとき、この時空 薔薇色の未来

略奪愛よDo the Action あたし あんたが その気なら!

 

二つの声重なるとき、その強さ止められない

ひわいな響きDouble-Action 日曜 朝に 絶対に登場できない

 

 

 

 


<あとがき>

 

電王の小説ということでBLを期待した方、申し訳ありません(笑)。仮面ライダー電王のベストカップルはキンタロスとハナだと妄想してやまないタハ乱暴でございます。

仮面ライダー電王SS「キンのコハナは聖夜に咲く」お読みいただきありがとうございました。

映画を観た勢いで書いたこの話、構成もほとんど考えず、ただひたすら勢いに任せて書いた話でしたが、お楽しみいただけましたでしょうか? 

この話を読んで、少しでもクライマックスな気分を味わっていただけたのなら幸いです。

 

秋の映画で電王も終わりということですが、タハ乱暴はいまだクライマックスの最中に暮らしております。

テレビで電王に釣られ、劇場で泣き、こうして小説を書くにいたりました。タハ乱暴の小説の出来はともかくとして、電王という作品が私に与えた衝撃は大きなものがあります。

 

なお、本作に限っては、タハ乱暴は感想を求めません。

なぜなら、

 

答えは聞いてない!

 

から(笑)。

ではでは〜




ここにも出番があった柳也だけれど、やはりというか、ここでも女難(?)
美姫 「戦いあり、ラブ要素ありとかなり楽しめたわね」
うんうん。ライダーを知らなくても本当に楽しめましたよ。
美姫 「投稿ありがとうございます」
ありがとうございます!



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