注)このSSは独自の設定に基づいて構成されています。原作とはまったく違う設定で書かれておりますので、そういったものが嫌いなお方はプラウザの『戻る』を押して下さい。それでも読んで下さる奇特な方は、どうぞ下へとお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見てね(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――????――

 

 

 

 

 

幽冥の底はこれまでになく昂ぶっていた。

いったい何が起きたのか、その場にいる『龍』達ではなく、洞そのものが蠢いているのだ。

そして、それに呼応するかのように、『龍』達も内から湧き上がる昂ぶりを抑えられずにいた。

 

「見よ! 赤き王の復活と同時にこの洞も昂ぶりを感じておる! 計画は成功だ。また、新たな魂を東の空へと送ることが出来る!!」

 

暗闇の洞は光り輝いていた。

それこそ、大祭司、そして『龍』達の姿をはっきりと確認できるほどに。

彼らが居る場所は、いつものような広場ではなかった。

理科の実験で使われるような、得体の知れない緑色の液体。

それがプールして満たされている、小さな泉を抱えた広いホールのような場所だった。

そして、その緑色のプールの中に、双眸と右腕を失った牙龍が浸っている。

ふよふよとプールを漂う牙龍は眠っていた。まるで、その傷を癒すかのように、穏かな表情である。

否、実際に癒していたのだ。失われたはずの双眸には光が宿り、切断されたはずの右腕は徐々に再生を始めている。

 

「…しかし、牙龍は我らの中でも最高位に位置する龍臣。戦闘体を取らなかったとはいえ、生身の人間にここまで傷付けられるとは……」

 

ひょろりとした、痩せ型の男が言う。

それはほんの囁き程度のものだったが、大祭司はそれを聞き逃さなかった。

 

「彼の龍をここまで痛めつけた男はただの人間ではない。その身は空を舞い、時を止め、あまつさえ牙龍をここまで痛めつけたのだ。なにより、男はネメシスと繋がっているという」

「そして、あの光の巨人とも」

 

今度は女性の声だ。否、女性というには少々若い。まだ、少女という表現が適切であろう。

大祭司は彼女の言葉にコクリと頷き、天を仰いだ。

 

「あの光の巨人は予想外だった。よもや、“光の国”の使者が動いていようとはな」

「加えて、その光を所持していたのは――」

「紛れもない。“人形”よ」

 

大祭司の言葉は、吹き抜ける風によって掻き消された。

プールを漂う牙龍の目覚めは、近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Heroes of Heart

~ハートの英雄達~

第七話「覚醒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――海鳴市・海鳴大学病院――

 

 

 

 

 

海鳴総合病院の個室で、耕介はテレビを見ながら険しい顔をしていた。

ニュースはもっぱら昨日のレッドキングの出現を放送している。

幸いにも国際空軍の対応が迅速だったことから人的被害は皆無だったものの、自然への被害は甚大であると、キャスターは語っている。

耕介は堪らずにテレビを消した。

ふと、傍らにかけられた一振りの太刀に視線を向ける。

御架月だ。

わざわざ愛に頼んで、病室まで持って来てもらった物である。

 

「御架月」

「はい。何でしょう?耕介様」

 

耕介の呼びかけに、和装の銀髪少年が御架月の刀身から飛び出してくる。

耕介は怪訝な顔で、

 

「俺はどこか変わったか?」

 

と、言った。

質問の意図が伝わらなかったのか、今度は御架月が怪訝な顔をする。

やがて彼の考えを悟ると、

 

「…はい。以前より、霊力が強くなって、“光”を感じます」

 

元来、人間の気質は陰と陽とに分かれる。女が陰。男が陽。

陽の気質とは文字通り光……太陽のことである。この太陽の光こそが、男の気質であり、耕介の霊力の根源でもあるのだ。

しかし御架月は、『霊力が強くなり、“光”を感じる』と言った。

耕介の中に、人間の持つ光とは別の何かを、感じたのである。

そしてそれは、御架月自身の中にも存在していた。

耕介は「そうか……」と答えて、自身の胸に手を当てた。

 

「…………」

 

自分の中に、確かに“光”を感じる。

そして同時に、自身の中に2人分の霊力を感じた。

霊力とは遺伝子情報中に書き込まれた情報のひとつだ。ゆえに、全ての生物は個々にそれぞれ別の情報を持っているから、個人差もあり、全てまちまちなのである。

よって、概ねの波長は称号したとしても、全ての霊力は同一のものではない。

退魔師とは、そういった個々の霊力の特徴に合わせて修練を積み、己を鍛えていくのだ。

2人分の霊力……ということは、まさに耕介の中にもう1人、別の誰かが居ることに他ならない。

だからといって耕介は多重人格者ではない。ジギル博士とハイド氏のような性癖は持ち合わせていないはずなのだ。

耕介は、自身の中の“光”に触れた。

光に触れるつもりで、胸元に手を当てた。

途端、視界が開け、白い、砂浜のような場所が頭の中に広がった。

目の前に映る広大な海は、穏かな潮の流れに、“さざなみ”をつくっていた。

それを眺めながら、耕介は呟く。

 

「小波……ripple…………。ウルトラマン…リプル……」

 

我ながら安直な発想であると、自分でも苦笑してしまう。

しかし、名前は必要だ。

なぜなら人類は、すでに数多くの『ウルトラマン』という巨人と出会っている。区別する名前は、必要だ。

 

 

 

 

 

1954年の“怪獣王”の出現以来、年に1回のペースで日本は怪獣に襲われるようになった。

それが週に1回のペースになったのが1966年。怯える人類を助けた巨人こそが、ウルトラマンであった。

光の国と呼ばれる、M78星雲から来た彼らは人類に味方し、様々な怪獣、宇宙人と戦い、時には和平を結び、地球のために戦ってくれた。

その数は現在、耕介がリプルと呼んだウルトラマンを含めて20人にも及ぶ。

先日アメリカに出現して以来、十数年にわたって姿を現さなかったウルトラマンだったが、今ここに、新たなるウルトラマンが誕生したのであった。

 

 

 

 

 

 

――海鳴市・翠屋――

 

 

 

 

 

今日も今日とて繁盛している翠屋の厨房は、まさに戦場だった。

店長である桃子も含めた6人のコックが、忙しなく働いている。

相川真一郎と野々村小鳥もまた、そういった者達だった。

就職した会社の上司によるセクハラに耐えられなくなり、退社した小鳥が翠屋でバイトを始めたのが去年の暮れ。

そしてつい最近までフランスでパティシエの勉強をしていた真一郎が帰国し、同じようにバイトを始めたのが今年の始め。

元々料理という分野への探究心が旺盛で、腕も悪くない(それどころかプロ並)2人が正社員になるまでには、そう時間はかからなかった。

 

「真一郎君! 6番テーブルのオーダー、お願いね」

「あ、はい!」

「野々村さんはこっち手伝って!!」

「あやや。は、はい! 今行きます!」

 

店長の桃子と、実質この店のナンバー2である松尾加奈子が2人を呼ぶ。

どこの飲食店も昼は戦場だ。

見れば、同じく商店街で飲食業を営んでいる『エブリモーニング』というファミレスも長蛇の列が出来ている。

彼女達の戦いは、あと1時間以上続いた。

そして2時間が経過して、真一郎と小鳥は少し遅めの昼食を摂っていた。

 

「しかし、今日も大変だったな~」

「ふふっ、そうだね」

「ま、この寒空の下、若い連中の世話してる唯子よかマシだろうけど」

「でも唯子はコタツで丸くなるタイプじゃないと思う」

「たしかに。あいつは雪が降ったら庭で駆け回りそうなタイプだ」

 

2人は、自分達の他にもう1人いる、教師となった幼馴染みのことを思い出す。

あの子供がそのまま大人になったような彼女は、今頃何をしているだろうか。

ふと、小鳥は真一郎を見た。

学生時代は美少女予備軍などとからかわれていた彼だが、今では身長も伸び、美少年という年齢でもなくなっていた。元々空手をしていただけあって、引き締まった筋肉はちょうどよいスマート体型を維持しており、10人のうち10人が振り向くくらいの美形となっていた。

ずいぶん変わったなと、小鳥は思う。

対照的に真一郎は、全然変わってないなと、小鳥を見ていた。

150センチにも満たない小柄な少女は、真一郎じゃなくてもからかいたい、守ってやりたいと思ってしまう。高校卒業とともに伸ばしてきた髪型は、ほんの少しだけ小鳥を大人びて見せているが、本質的に変わってないんだということを、真一郎に思わせた。

話題は最近の起きた出来事。昔の思い出。学生時代は話さなかったような、小難しい政治について。

少しだけ大人になって、あとは変わっていない。

時にからかい。時に苛めて。時に笑い合う。

人の関係は、出会った頃からあまり変わっていない。

これが、幼馴染というものなのだろう。

20代も半ばとなれば、大抵、こういう男女の関係は崩れてしまうものだ。

無論、小鳥も真一郎のことが好きだし、真一郎も小鳥には好意を抱いている。しかし、互いにそれは恋愛感情までは発展していない。

 

「さてと、ご馳走様」

「わ、もう食べたの? やっぱり男の子だね」

「もう、男の子って年齢でもないけどな」

 

そう言って、どこか寂しそうに笑ってみせる。

時に経過についてまだ悔やむような歳でもないのに、その表情は妙に大人びていた。

 

「……うん。そうだね」

 

小鳥はそれに気付かなかったふりをして、まだ皿に残っているパスタを丁寧にフォークで巻き取って口に運んだ。

過去に囚われているのは、耕介だけではないのかもしれない。

 

 

 

 

 

――海鳴市・さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

“ビー! ビー! ビー!”

 

突然鳴り響く警報。

その音に、シュミレーションルームに篭もっていたデルタハーツのメンバーは司令室へと向った。

司令室はすでにフル稼働状態にあり、戦士達の来訪を心待ちにしているようであった。

 

「どうしたんですか!? 愛さん!!」

Point 7-9-5k1地下より高エネルギー反応感知しました。おそらく、怪獣かと思われます」

 

愛の状況報告に、デルタハーツの全員が表情を強張らせる。

昨日の戦いでさざなみに存在する戦力は激減していた。

ジェットホーク・Mは修理中。『失われた技術』によって作られたデルタアクセルは月村邸で整備中。

残りの航空戦力も、ジェットホーク・Mを欠いている状態では威力は半減してしまうし、なにより、美由希はまだシュミュレーターをたった一度起動させただけで、まだ実機を動かすという段階にはいたっていない。

かといって、Point 7というのは、海鳴市の隣……生田市の、さらに隣の街である。

徒歩で行くにしては、かなり遠い距離だ。

 

「……ヘリチェンジャーMを使いましょう。あれなら、美由希ちゃんだって使えるよ」

 

舞の言葉に、愛が静かに頷く。

 

「――それで、耕介には連絡するの?」

「いえ。これ以上、耕介さんに心配をかけさせたくありませんから」

 

この判断が、のちに彼女達の運命を左右するとも知らず、愛は言った。

彼女達は、まだ知らない。

自分達の司令官が、もはやただの人ではないことを……。

 

 

 

 

 

――宇津木市・繁華街――

 

 

 

 

 

生田市の隣に位置する宇津木市の繁華街は、死人に満ち溢れていた。

突如地底から出現した怪獣によって、多くの人が恐慌を起こし、怪獣による直接の被害と相乗して、すでに100人近い人々がこの世から東の空へと旅立っていった。

 

“ガガガガガガガガッ!”

 

機関砲の一斉掃射が、黒い体躯の怪獣の皮膚を焼き焦がし、異臭を漂わせる。

 

『くっ、効果はないか……』

 

サンダーウイングの中から喋るのは火影だ。

怪獣の出現に、国際空軍は一部の例外を除いて、常時臨戦態勢にある蔡雅を動かしたのだ。

 

『各機散開。機銃一斉掃射ののち、サンダーウイングの超力砲で怪獣を攻撃する』

 

空也の冷静な声。

サンダーウイングには、超力砲と呼ばれる強力なビーム兵器が搭載されている。

その破壊力は度々地球を守ってきたスーパーロボットのそれには劣るものの、並大抵の怪獣には絶大な効果を発揮する。

現に蔡雅は、この超力砲の集中砲火で10体以上の怪獣を葬っていた。

空也、澪、剛の編隊と、火影、いづみ、尚護の編隊に別れ、攻撃を開始する。

――と、怪獣の動きに変化が見られた。

 

『兄様。怪獣の様子が変です』

『なに?』

 

そのとき、怪獣の咆哮とともにその顎から熱線が吐き出された!

 

『うわぁっ!』

 

剛のライトニングウイングの左翼を、熱線が掠める。

特殊合金製の翼はたちまちに融解し、ライトニングウイングを飛行を不可能なものにした。

 

『シノビ四号機、脱出する!』

 

“バシュッ!!”

 

射出されるパラシュート。

怪獣が突如吐き出した熱線攻撃に、空也達は震撼した。

 

『なんという破壊力だ……』

『怪獣頻出期の奴らと同クラスってわけか』

 

かつて、怪獣頻出期と呼ばれる時代があった。

1950年代から70年代後半にかけて、次々に強力な怪獣が出現し、地上を闊歩したのである。

当時、すでに地球規模の防衛体制が引かれていたにも関わらず、怪獣達は猛威を奮い、それこそウルトラマンなどの協力がなければ人類は乗り越えられないところまで追い詰められていたのである。

現在の怪獣と過去の怪獣。

どちらが強いかと聞かれれば万人が過去の怪獣と答えるだろう。

それは科学技術の進歩というわけではなく、怪獣の質とでも言うべきものが、過去の怪獣の方が強力だったのである。

蔡雅が今まで倒してきた怪獣は、昨日戦ったレッドキングを除いて、典型的な現代型怪獣ばかりであった。

 

『くっ!』

『ああっ!』

『火影!! 澪!!』

『す、すまない兄者。シノビ弐号機、脱出する』

『あとは任せましたよ、いづみ……』

 

火影と澪のサンダーウイングまでもが撃墜される。

軽快なフットワークと精度の高い熱線は、明らかに今まで戦ってきた怪獣と違っていた。

空也の脳裏に、『敗北』の2文字が浮かぶ。

対怪獣戦での敗北というのは、死を意味しているも同然だった。

――と、その時、

 

“ババババババババッ”

 

時代遅れなローターの音と同時に、バルカンによる一斉掃射が炸裂した!

そして直後、コンドルバルカン、スワニーパルサー、スワローシャワーと、いくつもの光弾が怪獣を背後から襲う。

 

『御剣さん! 三心戦隊デルタハーツ到着しました!!』

 

レッド――那美の声が、通信機越しに聞えてくる。

ジェットホーク・M同様、かつて“鳥人戦隊”の使っていたジェットコンドル、ジェットスワロー、ジェットスワンの量産型、そして、“鳥人戦隊”よりもさらに昔、巨大な敵と戦った“電撃戦隊”の使用していたヘリチェンジャー2の量産型。

計4機を率いて、デルタハーツが到着した。

 

『これよりデルタハーツは蔡雅の指揮下に入ります。命令を』

『……では、速力に優れた機体で怪獣を誘導。市外まで来たところで一網打尽にしましょう』

『了解! ……美由希ちゃん、大丈夫?』

『うん。ただ砲座をやるだけだったら出来るよ』

 

ヘリチェンジャーMに乗っているのはブルーとイエローだ。

ヘリチェンジャーは1人乗りのジェットマシンと違い、2人乗りの機体である。

ヘリというローテクな機体ながら、それゆえに操作も単純で、2人乗りのおかげでサポートもしやすいという利点がある。移動と攻撃のシステムが独立しているおかげで、不慣れな美由希でも操縦出来る機体だった。

 

『コンドルバルカン発射!』

 

“ドドドドドドドドドッ!”

 

オリジナルの性能には及ばないとはいえ、各ジェットマシンの性能はサンダーウイングやライトニングウイングの性能を大きく上回っていた。

ゆえに、サンダーウイングの機銃では効果のなかった怪獣でも、ダメージを与えることが出来る。

怪獣は呻き声を上げ、逃げるように市外へと向っていく。

 

『よし! このまま追い詰めれば……』

 

いづみのサンダーウイングが先行し、ミサイルで攻撃する。

 

“ドドドドドドドドドォォォォォォン!!”

 

ミサイルの弾頭に仕込まれた爆薬の連鎖反応により、怪獣はしばし動きを止める。

しかし、すぐに元の俊敏な動きを取り戻すと、口から熱線を吐いた!

 

『いづみ!!』

『!?』

 

すんでのところで回避する。

しかし、その後ろにいた那美のジェットスワローMは、間に合わない!

 

『きゃあああっ!?』

 

直撃!

一瞬の爆発の後、黒く焼け焦げたジェットスワローのボディが飛び出す。

自慢の装甲のおかげで、まだ戦闘は可能だ。

しかし、空也は内心で焦りを感じていた。

 

(器はあっても人材はまだか……)

 

この作戦に参加している人員のうち5人(那美、舞、美由希、美緒、尚護)はまだ10代だ。どれだけ才能があるかは知らないが、熟練の動きが出来るわけもない。

それはなにより、先刻の那美の動きで証明されたようなものだった。

 

『うわぁっ!!』

 

遠くから聞える剛の悲鳴。

ジェットマシンほどの機動力も、サンダーウイングほどの加速力もないライトニングウイングでは、よほど早く動かなければ躱しようがない。

パラシュートを射出して、たちまち降下していくライトニングウイング。

 

(……申し訳ありません、闇舞さん。この命、もしかしたらここで散らすことになるかもしれませぬ)

 

空也の脳裏に、十数年前、まだ少年だった空也を救ってくれた男の姿が甦る。

あの日、空也は修行の一貫として一週間のサバイバルを行なっていた。そんな時、突如山の奥から、冬眠しているはずの熊が出現したのだ。当然猟銃など持っていなかった空也は、その熊を前にして防戦一方だった。

動物だと思って侮っていたのだろう。野生の熊は予想以上に俊敏で力強く、動物園などでのうのうとしている熊などとは一線を隔した存在だと認識させられた。

そんな時、空也を助けてくれた男がいた。

彼は純白のバイクで颯爽と現われ、刃渡り1尺ほどの短刀一振りで、野生の熊の腹を切り裂き、戦闘不能にしたのだ。空也は、その強さに震撼した。

そしてなにより、その後の男の行動に震撼した。

彼は熊に駆け寄るなり、治療を始めたのだ。

「殺さないの?」と聞いた空也に、男は振り向いて空也の頬を殴った。

 

「力の意味を穿き違えるなよ、少年」

 

頬に残る鈍い痛みを感じながら、空也は彼が熊に治療を施すのを呆然と見ていた。

やがて治療を終えた彼は、空也を見た。

また殴られる! と、空也は身構えた。

しかし男は空也の元に寄ると、殴った頬の治療を始めた。

空也は男の行動の真意が分からず、唖然としていた。

やがて、男はとつとつと話し始めた。

この熊は冬眠から目覚めたわけではなく、いなくなった小熊を探しに来たこと。

その小熊は密猟者の仕掛けた罠にかかり、命を落としたこと。

それ以来、熊は人間に対して過剰なまでの反応を見せるようになったこと。

まだその密猟者達がこの山に潜んでいること。

地元警察、猟友会に頼まれ、その密猟者達を捕まえに来たこと。

自分の名前が、“闇舞北斗”だということ。

空也は彼の話を聞いて、自分もその密猟者を倒すのに協力したいと申し出た。

北斗は空也をバイクの後部座席に乗せると、密猟者達が潜伏しているらしい山小屋に向った。

密猟者の数は5人。しかも、みな銃で武装している。

この圧倒的不利な状況で、北斗は5人の密猟者を瞬く間に縛り上げた。

一緒にいた空也すらもが唖然としてしまうような手つきで、しかし、一切の暴力は使わずに。

 

『力の意味を穿き違えるなよ、少年』

 

その時、初めて北斗の言葉の意味が分かったような気がした。

力とは、それに見合うだけの心がなければ使えないということ。

現に銃を持っていた密猟者達は、動物は簡単に殺せても人間は殺せなかった。

どんなに強力な銃も、それに見合うだけの技術と、それを使う心がなければただの鉄屑だということを。

事件後、空也は北斗を里に持て成そうとした。

しかし、北斗は――

 

「遠慮しておく。今の俺に、そういった場はあってはならない」

 

そう寂しそうに笑って、バイクとともに去ってしまった……。

力を振るう理由は人それぞれだ。

それは、怪獣とて同じ。

人間ほどの知能がない彼らは、ただ『生きたい』というたったひとつの意志、生きたいという、全ての生物が持つ、最も根源的な本能の下に行動し、強力な力を生み出す。

 

(……だったら、俺も一緒だな)

 

この世の中にある力の本質は一緒なのだろう。

問題は、それをどういう意思で、どう使うか。

 

『悪いが、まだ、死ぬわけにはいかない!』

 

脳裏に浮かぶ北斗の姿が薄れ、その姿が1人の女性へと変わった瞬間、空也は強く『生きたい』と願った!

 

『ああっ!』

『くっ! 躱せない!?』

 

ブルーとイエローのヘリチェンジャーMを狙って、怪獣が熱線を放つ。

 

『いづみ! 超力砲だ!!』

『はい!』

 

2機のサンダーウイングから放たれた超力砲が、怪獣の熱線とぶつかり合う!

超力砲では怪獣の熱線には勝てない。だが、軌道を逸らすことは出来る。

軌道を逸らされた熱線は近くの川に命中し、そこの水を蒸発させるだけにいたった。

 

『人間を舐めるなぁっ!』

 

怪獣への集中砲火。

機銃、ミサイル、超力砲。サンダーウイングに搭載された、あらゆる武器の攻撃。

まだ戦いは、終わってはいない。

 

 

 

 

 

――海鳴市・翠屋――

 

 

 

 

 

「あああああああああ~~~!!」

 

ケーキの飾り付けをしていた桃子が、突然思い出したように声を上げた。

それを聞いたみなが、何事かと振り返る。

 

「ど、どうしたの? 桃子…」

「なのはの迎え……忘れてた」

 

なのはの通う聖祥大学付属小学校は、私立の学校で、通学にはスクールバスを要する。

生まれた環境のせいか、同年代よりも少しだけ精神年齢の高いなのはだが、やはりまだ小学2年生。危険だからということで、普段は晶かレン、美由希が、ランダムに迎えに行き、翠屋に連れてくることになっている。

しかし本日は晶も、レンも私用で、美由希などは今、出撃中だった。

今日は誰を迎えに行かせようかと今朝、悩んでいたのだが、結局今の今まで忘れていたらしい。

 

「ん……じゃあ、わたしが迎えに行くよ」

 

フィアッセが店内を見回したあとで言った。

幸いにも店内はそれほど混んでいない。車で行けば数分の距離だし、遅くても20分程度で帰ってこられるだろう。

フィアッセは高町家で唯一の免許持ちだった。

 

「あ、じゃあ俺も行きますよ。チーフ」

 

これは真一郎だ。

いくら車に乗っているからと言っても、最近は昼であろうと夜であろうと物騒の極み。

とくに、ここ数日で何度も出現している謎の破壊集団にでも合ったら大変である。

さすがにそういった輩との戦いはゴメンだったが、真一郎とて一介の空手家である。その辺りのチンピラ程度には負けない自信はあったし、ボディガード代わりにと着いていくことになった。

 

「じゃあよろしくね、フィアッセ、相川君」

「うん。任せといて」

「じゃ、行ってきます」

 

2人はフィアッセの愛車……S15シルビアに乗り込み、談笑しながら車を動かした。

その後ろ姿を、小鳥が寂しそうに見詰めていたことにも気付かずに。

 

 

 

 

 

――海鳴市・海鳴大学病院――

 

 

 

 

 

「おう、耕介!」

 

「よっ」なんて気軽な挨拶をして、真雪は耕介の病室にずかずかと入り込んできた。

その、あまりにも異質な光景に、耕介は一瞬動きを止めてしまう。

 

「ま、まま真雪さん!?」

「なんだよ。人が折角見舞いに来てやったつうのに。そんな幽霊を見るみたいな顔して」

「だ、だって……」

 

耕介の動揺も無理はない。

極度の疲労と苦痛、そして念のための検査という名目で入院している耕介と違い、真雪は腹部損傷内臓破裂という重症で担ぎ込まれたのである。

本来ならば、こんな風に動けるまであと1週間は必要なはずだった。

 

「あ~そう大きい声をだすな! フィリス達にぁ内緒なんだよ」

 

フィリス……というのは、リスティの妹で、この海鳴総合病院で働いている医者だ。

一応、専門はカウンセリングと内科、自身もそうであるHGSの特殊医療研究なのだが、人外ばかりのさざなみ寮と、ここ最近で知り合った何人も『困った患者』のせいで、今では何科の医者だったのか、本人すら分からなくなっている。

 

「怪我の具合はどうなんです?」

「順調だよ。あと2週間もすりゃ退院できるってさ。お前は?」

「俺は2日ですかね。ま、なんにしろ、お互い骨休めにはちょうどいいですよ」

「まったく無茶しやがって。そんなガタガタの体でジェットホークに乗るなんざ無茶しすぎだ」

「真雪さんだって旧武装でそこまで戦いますか?」

「……まぁな」

 

結局、2人は似たもの同士なのだろう。

大切なもののためならば、命を賭けてでも守ろうとする。

そんな2人だからこそ未だに親友同然の付き合いが出来るし、耕介の場合、それが恋愛へと発展することはなかったわけだ。

 

「歳ですかね、俺らも」

「ま、今年でお互い三十路過ぎだからな」

 

軍人としてはまだ若く、体力と経験が程よく混在し、バランスの取れた時期である。

しかし、通常の戦いとは消耗が桁違いの、異形との戦闘に2人の肉体は確実に蝕まれていた。

ふと、真雪がテレビのリモコンを取った。

 

「ま、気晴らしにな」

 

と、言って、テレビの電源を入れる。

 

『――現在怪獣は、国際空軍の戦闘部隊と交戦中で、付近住民の避難は――』

「え?」

 

テレビを点けるなり流れてきたのはニュース速報。

生田市の隣……宇津木市に、怪獣が現われたという速報だった。

宇津木市は……さざなみの管轄だ!

 

「こ、耕介!!」

 

軋む体を耕介は起こすと、傍らの御架月を持って駆け出した。

そのまま、全力疾走で屋上へと向う。

 

(まさか、昨日のレッドキングは前兆だったていうのか!?)

 

階段を駆け上がり、立入禁止のプレートの張られたドアを蹴破る!

元々高い身体能力と霊力による強化、そしてウルトラマンの光を得たことによる加護のせいか、鉄製のドアはすんなりと留め金から外れた。

耕介はフェンスの傍まで駆け寄ると、精神を統一し、御架月を構える。

 

「俺はもう……ウルトラマンなんだ!」

 

御架月の鯉口を切った瞬間、耕介の体は光に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

――海鳴市・上代町――

 

 

 

 

 

「あ! フィアッセさんに真一郎さん!!」

 

スクールバスから下車したなのはは、2人の姿を見るとぱぁっと顔を明るくする。

2人の元に駆け寄ると、笑顔で真一郎に挨拶した。

 

「迎えに来てくれたんですか?」

「うん。晶達の代わり」

「ありがとうございます」

「じゃ、行こっか」

 

フィアッセがなのはの手を握り、シルビアの車内へと促がす。

――と、そこで彼女はある事に気付いた。

隣にいる真一郎が、険しい表情を浮かべている。

 

「……チーフ、俺達、どうやら囲まれてるみたいです」

「え!?」

 

言われて、辺りを見回すフィアッセ。

しかし、彼女には誰の姿も見えない。

誰の姿……も?

おかしい。ここには、つい先刻までなのはと同じようにスクールバスを降りた者、そして彼女達を迎えに来た人々で溢れていたはずだ。

一方の真一郎は、常人には分かりづらい、鍛えられた戦闘者としての鋭敏な感覚で、その気配を感じ取っていた。

真一郎は動き出した。

 

「はっ!」

 

足元に落ちていた木の棒を拾い、投擲する。

そしてそのまま走り、茂みの中へと拳を突っ込んだ!

 

“ゴスッ”

 

手応えがあった。

しかし、相手はまだ動いている。

二度、三度と蹴り飛ばす。

すると、周囲から異形の姿をした怪物が、それも十数体も現われた。

その姿を見て、真一郎は驚愕する。

 

「お、お前達は!?」

 

信じられないといった感じの真一郎。

一方、何が起きたか分からないフィアッセは唖然と、周囲を取り囲む異形を見詰めた。

――と、その異形の中にあって、さらに異質な存在を、3人は見つけた。

なのはが、その、あまりの異容に怯え、フィアッセにしがみつく。

 

「ほぅ……その娘、良質の魂ですね」

 

――人と龍と電気ウナギのキメラ……“雷龍(らいりゅう)”だ!

雷龍が右手を掲げると、異形……龍魔達の動きに、変化が起きた。

たちまちその動きが統制の取れたものとなり、3人から逃げ場を奪う。

 

「…くそっ」

「な、なんなの!? こいつら……」

「フィアッセさん……」

「怯えることはありません。考えることすらしなくてよろしい。苦痛も味わうことなく、すぐに、楽にしてさしあげましょう」

 

言い終えて、雷龍は掲げた右手を振り下ろした。

咄嗟に真一郎は2人を突き飛ばし、自身もその場から離れる。

閃光が、弾けた!

 

“バシュッ!”

 

閃光の後にそんな音が聞えて、3人はその場を見た。

アスファルトの地面が黒焦げになり、コールタールの異臭が漂う。

 

――雷光。

 

真一郎は震撼した。

 

「……ふむ。中々の判断力ですね。もしや、あなたも例の戦士なのですか?」

「例の戦士?」

「デルタハーツとかいう、有象無象の衆ですよ」

 

直後、真一郎が息を呑み、微妙に表情を変化させたのを、フィアッセは見逃さなかった。

 

「…相川さん?」

「お前達……『龍』か!?」

「我々のことを知っているところを見ると、やはり……」

 

再び雷龍が右手を掲げる。

 

「その魂、我らが神の復活のために、東の空へと運ばせてもらいます」

 

雷龍は右手を振り下ろそうとして、その動きを止めた。

 

“ブォォォォォオオオンンッ!!”

 

接近するバイクのエンジン音。

漆黒のボディをした、XR250がその場に突如として現れた。

そしてバイクに跨っているのは……不破だ!

 

『…………恭也(お兄ちゃん)?』

 

不破の姿を見たフィアッセとなのはの声が、奇しくも重なった。

サングラスをかけているとはいえ、正面から見た不破は、あまりにも彼女達が知る高町恭也に似ていた。

背格好。口元。顔立ち。髪型。体格。

あらゆる要素が、彼を高町恭也だと告げている。

しかし、不破はそれをいつものように否定した。

 

「……知らんな。そんな男は…」

 

それだけ言うと、不破は精神を統一し、叫んだ。

 

「……変身!」

 

胸の紋章は紅蓮の紅。

大きな複眼は悲哀の蒼。

全身を覆う装甲は絶望の闇。

仮面に走った2本のラインだけが、申し訳程度に彼の心中を映し出す。

そして、腰に携えた二振りの小太刀!

その姿はまさしく――――

 

「鬼……?」

「グォォォォォォォォォォオオオオオオッッ!!」

 

漆黒の復讐鬼は咆哮する。

 

「仮面…ライダー……?」

 

真一郎が、伝説の、疾風の戦士の名を呟いた。

そう、彼の者の名は――

 

「仮面ライダー……ネメシス!」

 

海神オケアノスの娘にして復讐の女神……ネメシス。

復讐の剣鬼は、黒光る鞘から一刀を抜き放ち、構え、血を吐いた。

 

「…ぐっ…はぁ……」

「……手負いですか。舐められたものです」

 

痛みを堪えるように息を吐き出して、ネメシスは雷龍に向って駆け出した!

 

 

 

 

 

――宇津木市・市外地――

 

 

 

 

 

いかに戦況が有利であり、攻勢を保っていたとしても、機械という性質上、燃料切れ、弾切れが起こるのは至極当然のことだ。

空也といづみの乗るサンダーウイングは、ミサイルも機関銃も弾切れを起こし、超力砲のエネルギー残量も心許なくなっていた。

 

『ヘリチェンジャーM! 残弾なくなりました!!』

『ちょっと、ヤバイかな?』

 

ちょっとどころではない。

こちらは飛んでいるだけですらエネルギーを食うのだ。

対して、敵怪獣のエネルギー源は底無しかと思うほど大きい。

 

『ジェットコンドルM! こっちも弾切れなのだ!!』

『ジェットスワンM! ボクのもエネルギー切れで攻撃できない!!』

『ジェットスワローM! 残りエネルギー30秒射しかありません!!』

 

全機これ以上の攻撃は無理な、まさしく満身創痍の状態だった。

あの後、空也達のサンダーウイングは怪獣の攻撃を躱し続けたものの、デルタハーツの機体は何度か攻撃を受け、あと1発でも受けては危険な状況だった。

 

『ヘリチェンジャーMは着陸して地上から攻撃してくれ! ジェットスワローM、これよりこちらも全エネルギーを超力砲に回す。一点集中で突破するぞ!!』

『り、了解!!』

『いくぞいづみ!』

『はい! 兄様!!』

 

即席でフォーメーションを組み、接近する。

やがて、超力砲、スワローシャワーの射程圏内に入ったところで、空也は叫んだ。

 

『攻撃開始!』

『超力砲! 発射!!』

『スワローシャワー! 発射!!』

 

“ズバババババババッ!!”

 

3本の光の帯が、怪獣の腹一点に集中する!

 

『エネルギーの続く限り撃ち込むんだ!!』

 

怪獣の絶叫。

しかし、まだ彼の怪獣を破壊するにはいたっていない。

怪獣もまた、熱線を吐くことで応戦しているのだ。

やがて、いづみのサンダーウイングのエネルギーが切れた。

続いて空也のサンダーウイングのエネルギーも切れる。

光の帯が1本になったところで、怪獣の熱線はスワローシャワーを押し、いづみのサンダーウイングを融解させた!

 

“バァァァァァンンッ!”

 

『シノビ伍号機、これ以上は限界です!!』

 

脱出するいづみ。

それを見て、ほっと一息つくかたわら、空也は、この劣勢をどうするか考えていた。

すでに全機攻撃は不可能。デルタハーツの武装が、怪獣相手にそれほど機能していないことは前回の戦いで周知の事実だ。

まさに、万策尽きた状況だった。

――その時、光が弾けた!

光は徐々に人の姿を形成し、地上に降り立つ!

 

『デュアッ!』

『来てくれたのか……』

 

空也は、その姿を確認するなり、ほっと安堵の息を洩らす。

そして、畏敬の念を篭めてかの戦士の名前を呼んだ。

その……伝説の巨人の名を。

 

『ウルトラマン!!』

 

巨人……ウルトラマンリプルは、怪獣を真っ直ぐ見据え、構えをとる。

相変わらずの喧嘩殺法。しかし、実戦ではこれがいい。

 

『ダァッ!』

 

リプルが音速の拳で怪獣の頭部より生えた角を砕く!

その破壊力の凄さに、その場に居る全員が息を呑んだ。

リプル――耕介は、怪獣の姿をじっと見ると、驚いたような仕草をする。

 

(こいつは……資料で呼んだことがある! …怪獣アーストロン)

 

耕介の脳裏に、数年前に呼んだある資料の内容が甦った。

 

 

―――――アーストロン―――――

 

身長:60m

体重:2万5千t

初出現:1971年4月2日

出現地:朝霧山火口付近

現確認個体数:1体

備考:強靭な皮膚と爪、角をもつ。また、体内のマグマ精製期間からマグマ熱線を吐く。

 

 

(レッドキングに続いてアーストロンまで……一体、何が起きようとしているんだ?)

 

…そう、何かが起こっているのは間違いなかった。

しかし、その起こっている得体の知れない何かについて考えを巡らすより、今は目の前の敵を倒す方が先決だ。

リプルはアーストロンに再び接近すると、拳を、蹴りを、次々に叩き込む!

胸。

腹。

頭。

眼。

肩。

わざと狙いを散乱させ、ダメージを蓄積させていく。

しかし、長期戦に持ち込むほどリプルの体力は持たない。

 

“ピコーンッピコーンッ”

 

リプルの胸の宝石が、赤く点滅し始める。

 

『……そうか。あれはライフゲージなんだ』

 

リスティが納得といった感じで頷く。

かつてのウルトラマン達がそうであったように、太陽系第3番惑星地球は、ウルトラマンが住むにはあまりにも不都合な惑星だった。

ウルトラマンのエネルギー源……太陽エネルギーが、充分に吸収できないのである。

ゆえに、ウルトラマンは1度の変身で3分間しかその姿を具現化させることが出来ない。

中には10分も20分も戦い続けたという例外もいるようだが、リプルはその、3分間しか戦えないタイプの巨人だった。

自身もエネルギーの問題を悟ったのだろう。

リプルは、アーストロンから離れると、両手をクロスし、構えた。

精神を統一して、頭に光線を発射するイメージを思い浮かべる。

 

『ジェアッ!』

 

リプルの両手から、光の奔流が放たれた!

光の渦はアーストロンを直撃し、その体内へと吸い込まれていく。

 

“ドジュウウウウウウ!!!”

 

そんな音と同時に、アーストロンの中で何かが起きた!

悶え苦しむアーストロン。

――と、その動きが止まった瞬間、アーストロンは、たちまち爆発、炎上した。

 

“ドッ…ドガガガガガ……ドッガアアアアアアアアアン!!!!”

 

爆光を残して、アーストロンは消え去った。

そしてリプルも、アーストロンを倒したことに頷くと、空を見上げ、両手を掲げ飛翔した。

 

『デュアッ!』

 

空の彼方へと消え去るリプル。

それを見て、蔡雅、デルタハーツ、それぞれの隊長は本部へと連絡を取る。

 

『“三浦参謀長官”、戦闘終了しました。これより帰還します』

『愛、戦闘は終わったよ。今からみんな帰るから、晩ご飯は寿司でも用意しといて』

『はい♪ 腕を奮って作ります♪』

 

帰還するジェットマシン、ヘリチェンジャーM。

その中で戦いの汗を流す5人の表情が蒼白だったのは、言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

――稲神山・渓流――

 

 

 

 

 

「これは……」

 

テントに戻ってきた北斗は愕然とし、思わず買い物袋を落としてしまった。

散乱する痛み止めや傷薬の山。しかし、それを本来使うべき人間の姿が、ここにない。

北斗は踵を返すと、すぐに愛機である純白のバイクに跨った。

エンジンをキックし、最初からフルスロットルで飛ばす。

 

「馬鹿が…お前はあと、3ヶ月の命なんだぞ!?」

 

不破を戦いに引き込んだのは北斗だった。

ゆえに、本来ならばこのような台詞を言うのはお門違いなのだろう。

だが、北斗はそう言わざるをえなかった。

 

「馬鹿、野郎!!」

 

 

 

 

 

――海鳴市・上代町――

 

 

 

 

 

“バキィッ!”

 

胸部装甲に亀裂が入り、ネメシスは後方へと吹っ飛ばされた。

 

「どうしたのです? もっと私を楽しませてください」

 

嘲笑うかのような雷龍の表情。

右手を掲げ、また雷を落とす!

 

「くっ」

 

ネメシスが怯えるフィアッセとなのはの元へ駆け寄る。

 

“ババババババババッ!!”

 

「ぐぁぁぁぁぁあああっ!!」

 

2人の盾となり、自ら落雷を受けるネメシス。

もう何度目だろうか。10回を越えたところで、真一郎は数えるのを止めた。

 

「……なんでだよ」

 

またも立ち上がるネメシス。

 

「なんでそんなにまでなっても立ち上がるんだよ!?」

 

全身を覆う装甲には亀裂が入り、青い複眼は大きな穴が穿たれている。

流れる真っ赤な血は、滝のように流出し、泉の如く湧き出てくる。

誰が見ても危険な状態。

フィアッセもなのはも、涙を浮かべてネメシスを見ていた。

 

「…もう……もう! 止めてよ!!」

「あ…ああ……」

 

今度は真一郎に向って雷が落とされる。

ネメシスはやはり盾となり、彼を守った。

真一郎も、フィアッセもなのはも、龍魔の豪腕によって身動きがとれない状態なのだ。

 

「…もう、止めろよ……」

 

また立ち上がる。

 

「お願いだから止めてよ……」

 

また雷を食らう。

 

「止めてよ! お兄ちゃん!!」

 

また立ち上がる。

真一郎が、フィアッセが、なのはが、3人が全員で叫んでも、ネメシスは立ち上がることを止めない。

真一郎は知らなかったが、その無謀とも言える行動はフィアッセとなのはの脳裏に、ひとりの男の姿を連想させた。

殺しの剣を守るために使い、何度傷ついても、立ち上がった剣士の姿。

ネメシスは何度でも立ち上がる。

龍魔に殴られ。

雷龍の雷を受けても。

ネメシスは、何度でも立ち上がる。

 

「いい加減不愉快になってきましたね。これで、終わりにしましょう」

 

雷龍が掲げた右手に雷光が落ち、その拳に雷の力が宿る!

 

「“雷光衝拳(らいこうしょうけん)”……いきますよっ!」

 

雷龍は突き進む。

ネメシスは動かない。

否、動けない。

絶体絶命の危機だった。

 

「!?」

 

それでも回避しようとして軋む体を動かそうとして、彼を激痛が襲った!

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっっ!!!」

 

右膝から全身へと広がる痛み。

その激痛に、今度こそネメシスは動けなくなってしまう。

 

「終わりです!」

 

やがて、雷龍の拳が、ネメシスの胸を貫いた……。

 

「いやあああああああああああ!!!」

 

フィアッセの、絶望の声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

光の歌姫の叫びも虚しく、復讐鬼は傷つき、ついに倒れた。

赤き流星は主を乗せ、何処へと去っていく。

男は、彼の敵を倒すため、時空を操る力を行使する。

男の姿は変貌し、黒き、破壊の代行者へと変貌した。

 

「この世の総てを破壊する者……それが、俺だ」

 

次回

Heroes of Heart

第八話「冥王」

 

 

 

 

 

 

設定説明

 

“ウルトラマンリプル”

 

身長:49m 体重:4万7000t

槙原耕介が闇舞北斗から授かった光を受けて変身。

初代ウルトラマン同様カラータイマーを持ち、その潜在能力はまだ未知数。

戦闘スタイルは喧嘩殺法で、時には急所攻撃も行なう。

最大飛行速度はマッハ11.5だが、まだまだ伸びる可能性はある。

北斗がどこでこの光を手に入れ、また何故耕介に授けたかは不明。

 

 

“アーストロン”

 

身長:60m 体重:2万5千t

第七話に登場。レッドキングの目覚めに呼応するかのように覚醒した。

帰ってきたウルトラマン第一話に登場したが、タッコングのインパクトによって影が薄い。

頭部の角が特徴で、口から熱線を吐く。

今回、かなり強い怪獣として登場したが、映像を見るとそれほどでもなく、今回出現したアーストロンはアーストロン界(?)のエリートだったのだろう。

 

 

移動手段

 

フィアッセ……NISSAN S15シルビア

真一郎……YAMAHA マジェスティ400シルバー(彼はバイクと車の両方の免許を取得している)

 

 

 

 

 

 

~あとがき~

 

どうも、タハ乱暴です。

Heroes of Heart第七話、お読みいただきありがとうございます。

あれ? 前回とあんま文量変わらないないな。ということで長く稚拙な文章、お付き合いありがとうございます。

安直ですがやっとウルトラマンの名前が明かされましたね。そして真雪さん、久々の登場です。そしてなのは初台詞!! ……ですが、いきなり凄いことに巻き込まれています(オイ)。

さて、ボロボロのネメシスですが、ついに、次回北斗の正体が少しだけ明らかになります!!オリキャラなので興味のない方も多いかと思いますが、彼はこの物語の重要なキーパーソンなので、嫌々でもお付き合い願います。いえ、してもらいます!!!

というか次回は北斗オンリーなんでとらハから一時的に思考を変えないと着いてこられない可能性が……。

最後に、真一郎とフィアッセの移動手段についての選考理由を書かせていただきます。

 

 

フィアッセのS15シルビアは作者の知り会いが丁度所有していたんでコイツにしました。結構手軽な値段なのでということもありますけど。S15にしたのはデザインが好きだったからです。あと、別にフィアッセは走り屋じゃないんでカスタマイズはまったくしてません。

 

 

真一郎のマジェスティも知り会いが持っていたから。身内ネタですみませんが、その知り会いというのは作者の友人T氏という男の弟で、高校生なんですが、校則で禁止されているにも関わらず、高山くんだりまで合宿に行って免許を取得。マジェスティを購入して走らせていたのですが、半年ぐらい経って、街中を“制服姿”で失踪していたところを数名の教職員と生徒、住民の方々に見付かり、免許取り上げ、停学処分となりました。そのバイクというのがマジェスティの400で白。銀にしたのは最新モデルだったからです。

 

ちなみに、そのマジェスティは先生の1人が乗って家まで届けてくれたそうですが、曰く「今度捕まる時は原付にしてくれ」と、えらい苦労していたそうです(笑)。

素晴らしいネタをありがとう。そして身内の恥の公開の許可をくれてありがとう、T氏!!!






ฃ’ธ‚ซ‚เ‚ฬ‚ฬ•”‰ฎ‚ึ

ฃ‚r‚r‚ฬƒgƒbƒv‚ึ



ฃ‚g‚‚‚…@@@@@@@@@@ฃ–฿‚้