俺……高町恭也は、しばしば家業の洋菓子店兼喫茶店『翠屋』を手伝って、ウェイターをしている。

我が家の大黒柱……高町桃子(母)が営業しているこの店は、店の雰囲気良し、出される料理の味良しで、地方からの来客もあるほど繁盛している。

その日もまた、忙しいランチタイムをなんとか乗り切った俺達従業員一同は、交代で休憩を取り、少し遅い昼食を摂っていた。

俺に休憩の晩が回ってきたのは、ランチタイムを過ぎて30分ほど経った後のことだった。

日替わりのランチなどを堪能していた、そんなときに、槙原耕介は俺を訪ねてやって来た。

身長190センチを超える堂々たる体躯に、精悍な顔立ち。見方によっては粗暴ともとれるが、そんなことは決してなく、誰にでも優しい、けれどちゃんとした分別をわきまえた、真の強さを持った、大人の男性。

歳の離れたこの男性のことを、俺は尊敬していた。俺もいつかは、耕介さんのような器の大きな人間になりたいとすら、思っている。

……まぁ、自分の性格を省みるに、無理だとは思うが。

俺と耕介さんは、向かい合わせに座っていた。テーブルにはコーヒーカップとソーサーが2つずつと、残り半分ほどになった日替わりランチがある。

耕介さんは、深刻そうな面持ちで切り出した。

 

「もう我慢出来ないんだ……」

 

我慢……出来ない?

 

「もう耐えられないんだ……」

 

耐えられない……だって? まさか、耕介さんほどの人が? 一体何を……?

 

「今日までずっと、長い間我慢してきた。苦痛だった。けど、その先に待っている未来を想うって、ずっと耐えてきた……」

「耕介さん……」

 

曰く『耐えてきた苦痛の日々』を思い返しているのか、目尻に涙すら浮かべて、耕介さんはそれっきり沈黙する。俺はこの人が泣くところを、初めて見た。

――ああ、そうなのかと、俺はひとりで納得した。

耕介さんはさざなみ寮の管理人だ。さざなみ寮は女子寮で、当然のことだが耕介さん以外は全員――それも大半が年頃の――女性である。色々と苦労は多いだろうし、男であるがゆえに、色々と辛い事もあるのだろう。

ストレスとフラストレーションが溜まっていく日々……。しかし、優しい耕介さんはその鬱憤を寮生や、知り合いにぶつけようとはしない。苦しみを誰にもぶつけようとしないから、辛さはますます募っていくばかり。

俺の家も女所帯ばかりだが、耕介さんと俺とでは置かれている状況が違う。耕介さんの場合は、そこに“仕事”が絡んでくる。

本当に凄い人だと思う。逆の立場だったら、きっと1年ともたないだろう。そんな生活を耕介さんは、もう数年も続けているのだ。

しかし、その耕介さんですら限界がきてしまった。おそらくもう、耕介さんは自分を制御することが出来なくなりつつあるのだ。

だからこそ、耕介さんは俺のところに来たのだろう。

――このままじゃ大切な寮生の皆を傷つけてしまうかもしれない。

そんな思いに駆られた耕介さんは、きっと、俺にそれら鬱憤をぶつけに来たのだ。

そう考えれば、すべてに納得がいく。

耕介さんの涙は、これから全てをぶちまけられる俺の身を想ってのこと。馬鹿な人だ。俺のことなんて、気にしなくてもいいのに…………本当に、なんてこの人は――

 

「耕介さん……」

 

言葉を詰まらせる耕介さんに、俺はゆっくりと声をかける。

俺は今、心から、この年上の男性を助けてやりたいと……力になりたいと、思った。

 

「……言ってください、耕介さん」

「……恭也、くん?」

「今日、俺のところに来たのは、俺に話したいことがあったからなんでしょう? …大丈夫です。俺は何があっても、耕介さんが何を話しても、あなたの味方です。……だから、話してください」

「恭也くん……ありがとう……」

 

耕介さんは、感極まったように頭を下げた。

次に顔を上げたとき、耕介さんの表情は、まだ目尻に涙を溜めてはいたが、いつもの笑顔を浮かべていた。

 

「……じゃあ、言うよ、俺――――――」

「はい。言ってください」

 

耕介さんは、ゆっくりと深呼吸をした。

長い…長い……沈黙の後、耕介さんは俺に言った。

 

 

 

 

 

 

「お義兄さん! なのはちゃんを僕にください!」

「スイマセン! もう一度言ってもらえますか!?」

 

……前言撤回。やっぱりこんな大人には、なりたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「耕介、咆える」

〜百獣戦隊ガオレンジャー、第1話より〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店内は。水を打ったように静まり返っていた。

ランチタイムが過ぎ、店内にいる客の数が少ないというのもある。

しかし、それ以上に、今、喫茶翠屋はボックス席に座る身長190センチを超える巨漢の青年の発言により、極寒の、シベリアの大自然の如き静寂をたたえていた。

……やがてその静寂を破ったのは、またも耕介の声だった。

 

「じゃあ、もう1回言うよ……。

お義兄さん! 妹さんを僕にください!」

 

“ガシャーンッ!”

 

2度目の衝撃発言に、ウェイトレスとして店内を駆け回っていた美由希が両手から伝票を滑り落とす。

プラスチックにしては妙に甲高いその響きは、それだけ店内が静まり返っているということなのか……。

ともかく、耕介の発言に思考をフリーズ状態に陥らせたのは、恭也だけではないらしい。

 

「そ、そんな、いきなり……で、でも、耕介さんがよければ……」

 

訂正。

何か勘違いをしているようである、この娘は。

妙に頬を赤らめ、体をクネクネさせる愛弟子の奇行が目に余ったのか、恭也はゆっくりと席を立つや落ちていた伝票を拾い上げ、そのままプラスチック板で延髄を殴打。

美由希はあっさりと気を失った。

 

「……で、何の話でしたっけ?」

 

店の床に崩れ落ちる弟子はほっといて、恭也は何事もなかったかのように爽やかな笑顔を浮かべた。

その背後で、忍がせっせと遺体を片付けている。

 

「ま、まだ死んでない……」

「…それで、何の話でしたっけ?」

 

あくまで美由希の存在はスルーである。

耕介の頭の中でも、美由希の存在はわりとどうでもよかったのか、彼もまた爽やかな笑顔を浮かべ、

 

「ああ、なのはちゃんとの結婚のことなんだけど……」

 

……いけしゃあしゃあと、とんでもない事をほざいた。

 

“ダンッ!!”

 

再び妙に余韻をもって響く、テーブルを叩く音。今度の発生源は、高町恭也その人である。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! け、結婚って……歳の差とか倫理とかそれ以前の問題に、なのははまだ小○生ですよ!?」

 

ゲーム本編では中○生に手を出している自分のことは棚に上げ、恭也は当然の倫理を持ち出した。

そんな恭也に、耕介はさも当然の如く、あっさりと、

 

「小○生だからじゃないか」

 

――と、駄目人間の台詞を吐いた。

そんな駄目人間の台詞に愕然とする恭也。

 

(――違う! この人は耕介さんじゃない! 俺の知っている耕介さんはもっと誠実で、男らしくて……少なくとも、小○生と本気で結婚を考えたりするような駄目人間なんかじゃない!!!)

 

よって恭也の中でこの瞬間、目の前の男は耕介(偽)となった。

 

「いいかい恭也くん、よく考えてみなよ。……そもそも小○生とは一体何なんだい?」

「……義務教育全9年のうち、前期6年の課程を修学している学生のことではないのですか?」

 

恭也の至極当然な解答に、しかし、耕介(偽)は、“フンッ”と鼻で笑った。

 

「ふふふふふふ……恭也くん、それは素人の解答だよ」

 

どうやら耕介(偽)は小○生の玄人であるらしい。

自信満々のその態度に、恭也は少し引きながら、

 

「じゃ、じゃあ何なんですか?」

 

――と、よせばいいのに、律儀にも聞き返してしまった。

 

「……恭也くん、なんで小○生という言葉は、“小”○生って、いうんだろうねぇ……」

 

妙に“小”の部分を強調して言う、駄目人間・槙原耕介(偽)。

 

「小○生の“小”……それは、小さくて(身長が)、その上小さくて(胸が)、さらに言えば小さい(尻が)という意味なんだよ!!」

「それは絶対に違います!!!」

 

思わず大声を張り上げる恭也。

タハ乱暴的には耕介(偽)の意見に大賛成したいものだが、人間としての人格を疑われるので、とりあえず恭也の方に賛成しておこう。

一方の耕介(偽)であるが、彼はにべもなく自分の意見を否定した恭也に向かって、『信じられない……』と、いった感じの視線を向け、愕然としていた。

 

「そ、そんな……ゲーム本編では晶ちゃんやレンちゃん達中○生に手を出して、プレイヤーの選択肢によってはロボット・メイドさんにまでなびき、あまつさえ二次創作の世界では作家さんによっては近親相姦まで辞さないあの恭也くんが俺の考えを否定するなんて!?」

「なんて事を言うんですかあなたは!!」

 

まったくである。このままではこの話を書いているタハ乱暴は、他の作家の方々から刺されてしまうではないか!

 

「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません…………」

「……何をそんなに必死に謝っているんだい?」

「あんたが不穏当な発言をするからだ!!」

「…けれどあの恭也くんが俺達の考えを否定するなんて……」

「……無理矢理話を戻しましたね?」

 

しかも『俺達の考え……』と、いつの間にやら複数人の考えになっている。一体、小○生のことをあんな風に定義する人間が他にいるというのだろうか?

 

「そりゃタハ乱暴だろ?」

「誰と話してるんですかあなたは?」

「…気にしないでくれ。それよりあの恭也くんが俺達の考えを否定するなんて……さてはお前は偽者だな!?」

「なんでそんな考えになるんですか!?」

「言え! 本当の恭也くんを何処にやった!?」

「だから人の話を聞け〜〜〜〜〜!!!」

 

必死に叫ぶ恭也だが、あくまで耕介(偽)は聞く耳を持たない。

……こうして彼は恭也(偽)となった。

 

「誰が偽者だ!!!」

 

んじゃ、恭也(笑)

 

「アホか〜〜〜〜〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、なのはちゃんを是非、僕に!」

「……いえ、話全く繋がってませんから」

 

相も変わらずなのはとの結婚を求める耕介(偽)に、恭也(笑)は疲れた表情を浮かべる。

ちなみに彼らの居場所は翠屋から高町家に移動していた。さすがにこれ以上、店内で店のイメージを悪くするような発言は控えさせるべきと、店長・桃子の裁量であった。

 

(――マテ。そもそもかーさんはこの件に関してはどう思っているんだ?)

 

今更ながら重要なことを聞き忘れていたことに後悔する恭也。しかし、後の祭りである。

しかし次の瞬間、恭也は母の意志よりも、もっと大切な事に気が付いた。

 

(――マテ。いちばん肝心なのは、なのはの意志じゃないか?)

 

どうして今までそのことに思い至らなかったのだろう。答えは簡単である。それは恭也が恋愛沙汰に関してはとことん鈍感だから。

 

「――っていうか耕介さん、そもそもなのははこの事を知っているんですか?」

「うん、知っているよ」

 

本日何度目かの衝撃発言。

 

「――っていうか、俺となのはちゃんが付き合っている事は、みんな知っているよ?」

 

本日一番の衝撃発言。何も知らなかったのは自分だけだった!!

一瞬ぽかんと口を半開きにし、目を点にさせる恭也(笑)。たっぷり5秒は硬直していただろうか。彼ははたと目を見開くや、

 

「み、みんな知っているって……い、いつからです!?」

「え〜っと、俺となのはちゃんが付き合い始めてからだから……うん。かれこれもう4年になるかな」

「ちょっとマテェッ!!」

 

耕介(偽)の発言に思わず大声を張り上げる恭也(笑)。……というより、今回の彼は叫んでばっかりである。

 

「4年前って……一体なのはがいくつの時ですか!?」

「いくつの時って……少なくとも18歳以上のときだけど?」

 

たしかに、ゲームのパッケージには『この作品に登場するキャラクターは全員18歳以上です』と、書かれている。……なので、少なくとも犯罪ではない。しかし、それとこれとは話が別だろう。

もっとも、実際はこの業界、どう見ても18歳には見えぬキャラの方が多いのだが。

 

「“さおり”ちゃんとか“しおり”ちゃんとかね」

「あなた、あのゲームやったんですか?」

 

どこか冷たい視線で耕介(偽)を見つめる恭也(笑)。しかし、何故彼はあのゲームを知っているのだろうか? 

 

「そんなことはどうでもいい! ……と、とにかく、年齢についての問題はこの際置いておきましょう。これ以上この問題について語っていると、俺達の存在自体を疑わなきゃならないですし」

「……そうだね。俺なんてルートによっては思いっきり犯罪者だしね」

 

恭也(笑)の言葉に神妙に頷く耕介(偽)。ルートによってはマジモンの小○生に手を出しているこの犯罪者は、これ以上の言及は自分にとって危険だと悟ったらしい。

そういえばとらハ3版のリスティは耕介の養女という設定であるが、ちゃんと籍は入れているらしく名字は槙原である。身内に犯罪者がいるというのに、よく警察関係の仕事に就けたものである。

 

「人それをご都合主義という」

「わー! わー!

な、なんてこと言うんですか!? せめて永遠の謎! 永遠の謎ってことに……!!」

「オブラートに包んだってご都合主義には変わりないのに」

「わー! わー!」

 

普段のクールな印象はどこへやら、喉の奥から大声を張り上げ、必死に耕介の声が聞こえないよう尽力する高町恭也(笑)御神流師範代。しかし、これはあくまでSS。音声で語るdramaではなく、文字で綴るStoryだ。恭也がどんなに声を張り上げようと、当然、読者諸氏皆々様に、耕介(偽)の言葉は届いてしまっている。

 

「だから少なくともとらハ3は美緒エンドじゃないんだよ。俺が犯罪者だったらリスティは警察試験なんて受けられないんだから」

わー! わー!

あんた何考えてるんだ!? 健全にとらハを愛している人達から夢を奪う気か!?

とらハ3のファンブックを読め! ○築の父さんの言葉を読め!!」

 

とらいあんぐるハートを、無限の可能性を秘めたマルチエンディングストーリーとする原作者の意向もなんのその、本日の耕介(偽)の暴走は止まらない。でも大丈夫、彼が都○のお父さんから怒られる心配は絶対にない。だって、この耕介は(偽)だから。

……とはいえ、このまま話を続けていても先に進みそうにない。――なので、ここいらで耕介にはちょっとクールダウンしてもらわねばならないだろう。うん。作者の都合上。

 

「喰らえッ! タハ乱暴キック!!」

「ぐはぁッ!!?」

 

説明しよう。タハ乱暴キックとは作者タハ乱暴の必殺技のことで、ライダーキックが15.3メートルの高さから蹴るのに対し、タハ乱暴キックは最大で1.5メートルの高さから蹴るという、恐るべき技である。なお、この技を受けた相手は溶解も爆発もしないが、逆上し、放ったタハ乱暴を必ずやズタボロにするという特殊効果が付属している。

ともかく、作者の必殺タハ乱暴キックが炸裂し、血反吐を吐いて畳の上に崩れ落ちる耕介(偽)。べっとりと畳に血が付いて、後の掃除が大変そうだがそんな事は気にしない。

ぐったりと床に倒れ伏す大男は、しかし、きっかり5秒後に目覚めた。

 

「……はッ! ここは一体……俺は一体何を……?」

「……気にしないでください。耕介(偽)さんは悪い夢を見ていたんです、きっと。お願いだからそういうことにしておいてください」

「あ、ああ……って、それよりも! なのはちゃんとの結婚のことだけど……」

「ちッ! 憶えてやがったか」

 

タハ乱暴キックに記憶を消す特殊効果は付属していない。なんだかんだでセーブスロット20個のエロゲー主人公の記憶力は良いのだ。

 

(……とはいえ、これでようやく話を進められる)

 

人として、そして兄としてはあまり進行させたい話題ではないが、いつかは避けては通れぬ話題である。義理とはいえ、妹の結婚……すでに父はなく、唯一の男が自分だけという環境では、絶対に避けられぬ話だ。ちゃんと真剣に話さなければならないだろう。……ただ、想定していたよりも舞い込んでくるのが十数年ばかり早かったが。

 

「……年齢の問題はこの際置いておきましょう。なのはと耕介さん(偽)が付き合っている。それも4年前から。かーさん達公認で。無茶苦茶な設定ですが、一応、納得しておきましょう。言いたい事もたくさんありますけど、それもあえて言及しないでおきます。

……それで? かーさん達は耕介さん(偽)となのはがお付き合いしていることは認めている。俺に何の説明もなかったことはこの際不問にしておくとして、結婚に関してはどうなんです?」

「うん。実はそれも知ってる。ちゃんと話したよ。……一応、理解も示してくれた」

「小○生と三十路直前の男の結婚について理解を示す母親って……」

 

聞いただけで頭が痛くなってくる。母親の性格を考えるに、おそらく本人はちゃんと真剣に考えた末の結論なのだろうが、それだけに性質が悪い。

 

「うぅ…頭痛が……」

「正○丸ならあるよ?」

「腹の薬でしょうがそれは」

 

差し出された黒い豆粒で満たされた薬瓶をありがたく返上する恭也(笑)。

 

「――話を戻すよ。桃子さん……いや、お母さんはちゃんと理解を示してくれた。けど、同時に結婚の条件も出してきたんだ」

「さりげなくかーさんの呼び方を変えたことに関してはあえてツッコミません。……それにしても、条件?」

「ああ。2つほどね。

1つは、これは当然のことなんだけど、なのはちゃんはまだ結婚できる歳じゃないだろう?」

「だから年齢の話は置いておきましょうって……でも、まぁ、そうですね」

「だろ? だから、1つ目の条件はなのはちゃんが結婚できるようになるまで成長するのをちゃんと待つこと。まぁ、別にこれはいいんだ。ちゃんと待つつもりだよ、俺は。

問題は2つ目の条件でね。これがズバリ厄介なものだったんだ。つまり、恭也くんを含めた家族全員から結婚の許可をとれって言うんだ。お母さん、恭也くん、美由希ちゃん、レンちゃん、晶ちゃん、フィアッセちゃんの、6人からね。

お母さんとレンちゃん、それから晶ちゃんの許可はとった。フィアッセさんには手紙を送ったよ。……あとは、恭也くんと美由希ちゃんだけなんだ」

「なるほど。だから今日、俺にあんな話を切り出したんですね」

「……本人を目の前にして言うのもなんだけど、恭也くんがいちばんの難関だったからね」

「いちばんの難関?」

 

はて…と、小首を傾げる恭也(笑)。たしかに耕介(偽)となのはが結婚なんて考えたくもない事だが、自分がそんな大きな障害になりえるだろうか? むしろ、今は日本にいないフィアッセから了解をとることの方が難しいのでは?

 

「だって恭也くんはシスコンだからね」

「誰がシスコンだ!!」

 

これまでになく声を張り上げ、シスコンのレッテルを貼られることを必死に拒絶する恭也(笑)。

一方の耕介(偽)であるが、彼はコンマ1秒とないタイムラグで、その称号を否定した恭也(笑)に向かって、『信じられない……』と、いった感じの視線を向け、愕然としていた。

 

「そ、そんな……ゲーム本編では攻略キャラの約半数がどちらかといえば妹系のキャラ。そればかりかフィアッセさんは別の意味でのシスターキャラだから、攻略ヒロイン7人中のゆうに4人がシスター・キャラクターという、ある意味美味しい、ある意味では羨ましい家庭環境にあり、なおかつ、作家さんによっては実妹であるなのはちゃんにまで手を出す恭也くん(笑)が、自分がシスコンであることを否定するなんて!?」

「なんて事を言うんですかあなたは!!」

 

まったくである。このままではこの話を書いているタハ乱暴は、他の作家の方々から刺されてしまうではないか!

 

「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません…………」

「……何をそんなに必死に謝っているんだい?」

「あんたが不穏当な発言をするからだ!!」

「…けれどあの男らしく潔い恭也くん(笑)が、自分がシスコンであることを認めないなんて……」

「……無理矢理話を戻しましたね?」

 

しかもさり気なく「男らしい」とか、「潔い」とか、褒め称えることで、恭也に無意識下の刷り込みを行おうとしている。これでは某宗教団体と同じ手口ではないか! 一体誰だ!? こんな手口を彼に使わせたのは!?

 

「そりゃタハ乱暴だろ?」

「誰と話してるんですかあなたは?」

「…気にしないでくれ。それよりあの恭也くん(笑)がシスコンであることを否定するなんて……さてはお前は偽者だな!?」

「なんでそんな考えになるんですか!?」

「言え! 本当の恭也くん(笑)を何処にやった!?」

「だから人の話を聞け〜〜〜〜〜!!!」

 

必死に叫ぶ恭也だが、あくまで耕介(偽)は聞く耳を持たない。

……こうして再び彼は恭也(偽)となった。

 

「誰が偽者だ!!!」

 

んじゃ、恭也(仮)

 

「仮ってなんだ〜〜〜〜〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な事があった。

あの後、アメリカ・ロースカロライナ在住のジェームズさんがお茶の間にやってきたり、イギリス・ロンドン在住のアンダーソンさんが夕飯を食べにきたり……

賑やかに、そして楽しく午後の一時を過ごし、恭也と耕介は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはを嫁に欲しければ、まずはこの俺を倒していけッ!!」

 

――――――こんな展開になっていた。

なんというかまぁ、ありがちな話である。

 

「ハイッ! …では、お義兄さん、いかせてもらいます!!」

 

そして、やってる当人達のノリは絶好調である。

 

「……ということで審判お願いね、美由希ちゃん」

「何が『……ということで』!? ……ていうか何であたしなの!?」

「つべこべ言わずにさっさとゴングを鳴らせ、弟子」

 

いつになく殺気を滲ませた兄にして師の物言いに引きつった笑みを浮かべながら、美由希は「は、はい……」と、なんでこんな場所にあるのか、プロレスやボクシングで使うようなゴングを鳴らした。素直である。

 

“カーンッ!”

 

「小太刀二刀御神流、高町恭也……参る!」

「神咲一灯流末席、槙原耕介……いくよ!」

 

はたして、御神流も神咲流もまったく関係ないこの私闘に、互いの流派を引き合いに出されて、両流派の偉大なる先達はどう思っているだろうか?

それはともかくとして、2人の戦いは今、始まった……

 

 

 

 

 

「喰らえッ! シスコンパ――――ンチ!!」

「恭ちゃん、自分がシスコンだって認めちゃった!?」

 

 

 

 

 

彼らは戦った……

 

 

 

 

 

「なんのっ! ロリコンキ――――ック!!」

「何!? 何なのッ、この駄目人間同士の戦いは!?」

 

 

 

 

 

己のすべてをかけ、全身全霊をもって戦った……

 

 

 

 

 

「これならどうだッ! 留年間近だぜ斬り!!」

「恭ちゃん、ちゃんと学校行こッ! ちゃんと勉強しようよッ!」

 

 

 

 

 

戦って……

 

 

 

 

 

「ええいそんなものッ! ネビ○ラ・チェーン!!」

「耕介さん駄目――――――!! 小宇宙なんて燃やしちゃ駄目――――――!!」

 

 

 

 

 

戦って……

 

 

 

 

 

「鬼畜ビ――――――ムッ!!!」

「ビームッ!? ねぇ恭ちゃんビームって!?」

 

 

 

 

 

戦って戦って戦い抜いて……

 

 

 

 

 

「800cc轢き逃げアタ――――――ック!!!」

「耕介さんソレ犯罪ッ!!!」

 

 

 

 

激しい死闘の、その果てに………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……耕介さん、強いですね」

「はぁ…はぁ……きょ、恭也くんこそ」

「ふっ……こんなに強いんじゃ、認めないわけにはいかないな」

「え? そ、それじゃあ……」

「父として、そして兄として、なのはのこと……よろしくお願いします」

「恭也くん―――いや、お義兄さんッ――――――!!!」

 

耕介は感極まって樹木を背に動かぬ恭也を抱き締めた。その眼にはキラリと何か光るものがある。男泣きだ。

背後では倒壊した道場の後始末を押し付け……もとい、任された美由希が、色々な意味で涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、月日は流れ、数年後。

 

“ゴーンッ! ゴーンッ!”

 

高らかに鳴り響くウェディングベルの音。

空は蒼く、瑞々しい春の陽気が、下界の人々を照らしている。

 

「おめでとー!」

「おめでとー!」

 

ふとベルから視線を下にやれば、そこには盛大な花吹雪を撒き散らす人の群れ。口々に発する祝いの言葉は、2本に分かれた人の列の、ちょうど真ん中を通る2人の男女に向けられている。

片や神々しいまでに輝く純白のドレスを着た美貌の女性。片や、ダークグレイを基調としたスーツを着こなす好漢。

彼らは今日、幾多の困難と道のりを経て、互いに好き合い、愛し合った末に、ひとつの世界を築こうとしていた。

 

「おめでとー!」

「おめでとー!」

 

式が終わってから大分経つが、祝いの言葉は止む気配を見せない。

ふと視線を巡らせれば、花嫁の眩い姿に目元を覆い、涙を流す男の姿があった。列を進む2人は、揃って男の前で足を止めた。

 

「お兄ちゃん……」

 

そっと、優しく兄を呼ぶ妹の声は、鳴き咽びく兄を心配してか、慈愛に満ちている。

 

「なのはぁ……」

 

一方の兄の声は、父のいない家庭で青春を過ごした男の性なのか、まるで愛娘を見送る父親のように、幸せと寂しさ、そして悲しみで顔をクシャクシャにしている。

兄の泣く姿は見たくないと思う半面、本当に兄が自分のことを思ってくれているからこそ流す涙に、花嫁は……なのはは、幸せで胸がいっぱいなる。

彼女はそっと、目元を隠す兄の手をとった。

 

「お兄ちゃん……」

「なのはぁ……」

「泣かないで、お兄ちゃん。なのはは、大丈夫だから。きっと幸せになるから」

 

にっこりと、笑顔で言うなのはに、兄は何も言うことができない。元々口下手な彼は、自分の本当の思いを自由に言葉にすることができない。もう20年以上付き合ってきたそんな自分の性格だが、この時ばかりはそれが恨めしかった。

ゆえに彼は、自分の思いを言葉にすることを諦めた。彼は、一度だけぎゅっとなのはを抱擁することで、自分の気持ちを、愛する妹に伝えようとした。

 

「なのはぁ……」

「……うん。分かってるよ。お兄ちゃんの気持ちは、ちゃんと伝わってるから」

 

長く熱い抱擁を振りほどき、整った顔を真っ赤にしながら兄は、妹の後ろに控える新郎へと顔を向ける。

様々な感情で複雑に歪んだ表情で、しかし眼だけは真剣に、彼は、新郎に向かって言葉をやった。

 

「なのはのことを、頼むよ」

「……はい」

 

新郎は、静かに、しかし力強く頷いた。

 

「おめでとー!」

「おめでとー!」

 

祝いの歓声が、また上がる。

 

「なのちゃん、おめでとー!」

「なのはー! 綺麗だよー!」

 

知り合いの声が、一度は同じ屋根の下で暮らした人々の顔が、なのはの視界を埋めていく。

それは隣にいる新郎の方も同じだった。彼もまた、人の波の中に自分の知り合いの姿を見つけ、軽く手など振っている。

 

「おめでとー!」

「おめでとー!」

 

新郎を祝う声は少ないけれど、少ないからこそ貴重なものだ。

 

「クロノくーん!」

「クロノくん! なのはをしっかりねー!」

 

そう、異世界出身の彼に、この星での知り合いは少ない。それでも知りあえた人達とのふれあいは、彼にとって人生で2番目に貴重なものだった。

え? じゃあ、1番は何かって?

それは勿論、自分の隣にいる………………

 

「……なのは、これから2人で頑張っていこう」

「うん。クロノくん……ううん、あなた」

 

見つめあう2人の表情は、どこまでも幸せそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、ちょっとマテ――――!!!」

 

その時、2人の幸せをぶち壊す奇声が轟いた。

 

「わ、出たな犯罪者」

「恭也くんが犯罪者とか言うな! そ、それよりあれだけ壮大な前フリをかましておきながらこんなオチって……」

 

耕介(偽)の登場で涙も枯れたのか、招待してもいないのに突然乱入してきた大男に対して、恭也がジト目で睨みつける。

 

「仕方ないでしょう? 耕介さんはあの後道場を壊した“器物破損”、家内でバイクを乗り回したことによる“道路交通法違反”、それに加えて、昔、小○生だった美緒さんに手を出していたことがバレて“猥褻物陳列罪”及び“児童性犯罪”に触れてずっと刑務所にいたんですから。……さすがに正真正銘の犯罪者となった人と結婚させるほど、かーさんもお人良しじゃないですよ」

「……素晴らしく潔い説明口調ありがとう。け、けど、それにしたってこんなオチは酷くないかい!?」

「酷いですね」

「そうだろう! 酷いだろう!」

「だから諦めてください」

「なんでだ〜〜〜〜〜〜!!!」

 

理不尽なオチと話の展開に対する怒りと憤りのあまり、耕介は咆えた。

今回の話中、いちばん大きな絶叫だった。なんとフォントサイズ36である。

 

「なんでだ〜〜〜〜〜〜!!!」

 

……フォントサイズ48に増加。

耕介の絶叫は、いつまでも式会場に響いた。




〜あとがき〜

 

ども、タハ乱暴です。

 

久々のギャグオンリーな話です。

 

っていうか、短編を書いたこと自体久しぶりです。

 

一応平行していくつか書いてはいるんですが、なかなか進みません。




というわけで、今回は壊れギャグSSを送って頂きました。
美姫 「危ない発言の数々ね」
果たして、大丈夫なのだろうか。
美姫 「大丈夫よ、大丈夫」
その根拠は?
美姫 「このお話は全てフィクションです。登場する人物やそれらしい発言は全て架空の…」
あーはいはい、分かった。
美姫 「いやー、便利な言葉よね、フィクションって」
いや、お前それで全てが許されると思ってないだろうな。
美姫 「例えば、ここで私がアンタを刺しても、その後にフィクションと言えば…」
違う! 間違ってる! 使い方、絶対に違う!
美姫 「えっ!?」
いやいやいや、心底驚く事でもないし。
はぁー。何か疲れたや。
美姫 「それじゃあ、ここまでにしておいてあげるわ」
ああ、ありがと…って、お前の所為で疲れたんだが。
美姫 「それじゃあ、まったね〜」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。



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