『選ばれし黒衣の救世主』










 最悪の敵はそこにいた。
今後どんな敵と戦っても、この敵に比べれば小さなものでしかないとさえ思わせる程の最悪の敵。
全身を黒に染めた男。
その左手には黒い小太刀……そして右手に灰色の剣を握る男。
少し前までは、全員がその姿に多大な信頼と暖かさを感じていた。
 だが今の救世主候補たちには、その姿がまるで死神のように見える。
彼らを見つめる、その瞳。
その瞳には、今まで彼が見せてきた暖かみなど微塵も残っていない。
そこには殺意が、悪意が、憎悪が、怒りがあった。
その視線はまるで刃物のようで、見つめられていた全員が身体を震わせていた。

「あっ……」

その恐怖の混じった呟きは誰が漏らしたのか、それともその場にいた全員だったのか……。
 最悪にして最恐の死神は目の前にいる。
死神の名は……高町恭也。
救世主クラスにおいて、その中心に立っていた男。
 その男が今、救世主候補たちの最強の敵として、目の前に立っていた。

 



 第二十九章 最悪の始まり





「ふう……」

 クレアは椅子に深く座り込んで、深々とため息をつく。その目の前の机には、まるで山のように積み重なった紙の束。
紙には、ここ最近に起こった事件などが記されている。
 騎士団や学園の生徒たちを派遣して、事件の解決に努めているが、それ以上の早さで次の事件が起こる。

「やはり、すでに破滅は動きだしておるのか」

 救世主候補たちの報告により、すでに破滅が動きだしているかもしれないということがわかったが、その解決方はまるで検討がつかない。
 彼女の肩にはアヴァター全ての住民の命がかかっている。
 クレアは頭を振ったあと、新たな書類に目を通した。

「……なん……だと……?」

 その新たな書類を見て、クレアは目を見開いた。
 そこに書かれていたのは、他の事件と違って、それほど大きなものではない。
 ただある村の周囲のマナが異常に消失している、というだけだった。
村人の体調が多少悪くなっているのと、作物の実りが悪くなっているということぐらいだ。
死人や怪我人がでている訳ではないし、原因不明で作物の実りが悪くなっている訳でもない。
 被害は他の事件に比べれば軽微と言っていいだろう。
何より、他の事件と違って、原因がはっきりしている。
だが気になるのは、そのはっきりとしている原因のせいなのだ。

「マナの消失」

そう、マナの消失。
 本来、マナはそう簡単に失われるようなものではない。それがそこに住む者たちに影響与えるほどに消失する。
だがクレアには、そのマナが急激に失われる要因の一つに覚えがあった。

「まさか……いや、しかし……」

 クレアは暫し黙考したあと、椅子から下り、お付きの者を呼び出した。

「すぐに学園へと行く。用意を頼む」

 そして、その者にそう告げたのであった。




「つーかまたかよ」

 大河はぼやきながらも学園の廊下を歩く。

「ふむ、また何かあったのかもしれんな」

その隣を歩いていた恭也が、頷いて言った。
それに大河がため息をつく。

「また任務か?」
「かもしれん」

恭也たちは、先程ダリアに学園長室に行くようにと言われたのである。
 そう、また学園長室である。
 つまり学園長に呼ばれたということである。
 そうなると何かしらあった可能性が高い。召喚の塔爆破……恭也はいなかったが……の時、あの村での事件の時、共に学園長室へと救世主候補たちが集められた。
 ある意味学園長室に来るようにと言われた場合は、何かしらあったということの証明だ。

「面倒くさいことにならなきゃいいんだがなぁ」
「まあ、確かにその通りだが」

 少なくとも、この前の時のようなことは避けたい。
 そんな会話をなしている間に、二人は学園長室に辿り着いた。

「もうみんないるな」
「気配ってやつか?」
「ああ」
「俺も慣れたと思うけど、そういうのはまったくわからん」
「これは感覚的な所が大きいからな。お前もそのうちわかるようになる。そういう特訓も入れているだろう?」
「あ、あれか……」
「とにかく入るぞ」

恭也はそう答えてから、扉を開けて中へと入っていく。その後ろから大河も続く。

「遅いわよ、二人とも」

 中に入って早々、リリィに言われる。

「これでも急いで来た」

恭也はそう言いながら学園長室を見渡した。
 やはり救世主候補たち全員が揃っていた。さらにミュリエルの隣にはクレアまで立っている。
 それだけで、また何かしらあるというのを理解する。

「恭也、大河、すまぬな。またお前たちに動いてもらうことになる」

恭也が考えたことがわかったのだろう、クレアは少しだけ苦笑いながら告げた。

「あなたたちへの今回の任務は、調査です」
「調査……ですか?」

 ミュリエルの言葉に、未亜が首を傾げながら聞き返した。
しかし、未亜に限らず全員が不思議そうな顔だ。

「調査してもらう内容は、マナの消失の原因だ」

 そんな一同を見て、クレアがそう続けた。
 クレアの説明では、オーター州にある村の周辺のマナが異常な速度で失われていっているというもので、そのせいで様々な影響がでているとのことである。
 そこで、そのマナ消失の原因を調査してきてほしい、という話であった。
 
「マナの消失……魔導兵器?」

 説明を聞いたあと、リコの訝しげな声が響く。
 それにクレアが反応した。

「知っておったのか」
「書物で……少し」

 本当は書物での知識ではないのだが、リコはそう濁した。

「魔導兵器って何なんですか?」

 なのはが聞くと、ミュリエルが説明のために口を開く。

「魔導兵器とは、今よりもずっと文明が栄えていた時代に、古代超魔法によって作られた兵器です」
「超……魔法……」

そう説明を受けても、実際にそんなものを見たことがないリコ以外の一同は、それぞれ首を傾げていた。

「私たちの世界で言うミサイルみたいな感じなのかな?」
「どうだろうな。魔法の技術が使われているのなら、俺たちの世界の兵器とは違いそうではあるが」

 未亜の言葉に恭也が答えるが、やはり二人とも想像ができない。
 
「しかし、それと今回の件に何か関係があるのですか?」

 ベリオが聞くと、クレアは深々と頷く。

「まだもしかしたらの話ではあるがな。
 魔導兵器は凄まじい威力ではあるが、それと同じく凄まじい代償が必要なのだ」
「代償……もしかして、マナの枯渇?」
「そうだ。今回の件は枯渇とまでは至っておらんが、似ておるだろう?」

確かに似ている。
 魔導兵器ほど凄まじいというわけではないが、確かに人間の生活に弊害を及ぼす程のマナが減っているのだ。
 それぞれが難しい表情をする中で、恭也は首を傾げた。

「そもそもマナとは何なんだ?」
「それは老師と同じく、拙者も知りたかったでござるよ」
「あ、俺も」

 と、まるで場の雰囲気を壊すように、ボケボケ師弟トリオが漏らした。
それに他の救世主候補、さらにミュリエルとクレアまでガクリと肩を落とす。
しかし、さすがに今回はリリィすらも咎めなかった。
世界に満ちるマナに関しては、授業ですらもそれほど詳しくは説明されていない。
 魔法使いにとっては、一応重要なことではあるが、それを使えない三人には用のないことだろう。
未亜はちゃんと調べたのだろうが。

「マナっていうのはいわば世界の生命力のようなものよ」
「わかりやすく言うと、世界の生きるためのエネルギーみたいなものに近いんじゃないかな」
「ですが人や他の生物、植物などが持つ生命力も、大きな意味ではマナに近いものですね。そして、魔力にも近いもの」
「大規模な魔術も、大地とかのマナを吸い取ってしまうのもあったはずでしたよね」

それぞれ救世主候補たちが説明すると、恭也たちは感心したように何度も頷いた。
それからリコが最後に驚くべきことを言った。

「それと……召喚器もマナを僅かですが吸い取っています」
「え、そうなの!?」

 それはリリィたちも知らなかったらしく、驚きの表情を浮かべている。クレアやミュリエルたちも初耳だったようで、リリィたち程ではないが僅かに驚いているようだった。

「召喚器の力は世界の根元力を引き出すこと……マナもまた世界の根元的な力ですから。召喚器自体が持つ魔力の一部は、そうやって吸い取ったマナだと思います。
ただこれは魔導兵器などのように大量に、そして無差別に吸い取っている訳ではありません」
「ふむ、僅かずつ……そしてそのマナというのが溢れてるものから、と言ったところか?」
「はい、恭也さんの言うとおりです。魔導兵器などはマナを無理矢理奪うようなもので、召喚器はマナを貰うという感じです。ですから問題はありません」

リコの説明が終わり、全員が初めて聞くことに驚いていたものの話を戻す。

「つまり、俺たちがそのマナの消失の原因を探って来いってとなんだろ?」
「そうだ」
「けど、なんで俺たちなんだ?」

そう、大河の疑問こそが先ほど任務の内容を聞いたときに、全員が不思議そうな表情を見せた理由であった。
はっきり言って、救世主クラスの者たちの能力はそういった任務には向いていない。潜入、調査などに長けているのは、カエデぐらいのものだろう。恭也も似たようなことはできるが、それを専門としているわけではない。
 それを全員が理解している。
単純に調査するというのなら、王都に方にそれを専門とした者たちがいるはずなのだ。

「原因が魔導兵器だった場合、その魔導兵器を破壊してほしいからだ」
「破壊?」
「うむ。正直、古代魔導兵器は我々では制御しきれない。使用方が書かれている文献があるというのならば別だがな」

魔導兵器は凄まじい威力を誇る。そんなものを悪用されてはたまらないし、知識もない者に何かの拍子で作動されても厄介だ。
今は破滅が動いているかもしれないというのと、色々と事件が起こって王宮も忙しい。破滅にそれを奪われるのも避けたい。だが、それを手に入れても使用方がわからないのでは、下手をすれば爆弾になりかねない。
 ということで、破壊を優先させたいのだ。

「説明書がないのに複雑な……もしくは未知の機械を操れというのは、確かに難しい話だな」

恭也はそう言ってからなのはを見る。

「なのはでも無理か?」
「はにゃ? む、無理だよ。魔導兵器って言うぐらいなんだから、普通の機械とは違うだろうし、なのはが得意なのは機械全般ってわけじゃないもん」
「まあ確かに」
「忍さんなら分解して簡単に調べちゃうかもしれないけど」
「あいつだったら元に戻した時には別物になってる、それもさらに凶悪になってな。しかも俺に害があるようなものになってるだろうな、これは確実だ」
「あ、あはは」

 恭也は苦笑という反応で肯定するなのはを見ながらため息をついたあと、クレアの方を向いて先を促す。
何人かが、なのはの言う忍という人物が気になっているようだが、クレアは先を続けた。

「少なくとも、今回被害が出ている地域に魔導兵器が残っているなどということは聞いたこともないし、記録にも残っておらん。
無論、他の何かが原因の可能性もあるが、それがそなたたちでどうにかできるものである場合、それを排除してほしい」
「そのために私たちということですか」

 確かに破壊力という意味では、救世主クラスの者たちはかなりのものだ。恭也も他の救世主候補には劣るが、一応霊力攻撃がある。
的が動かない以上は、確実に破壊してこれるだろう。

「それほど危険な任務ってわけじゃないな」

 敵と呼べるモノはないため、大河が気楽そうに言うが、ミュリエルは真剣な表情で首を振った。

「油断してはいけません。破壊力という意味だけで救世主候補を頼ったわけではないのです」
「どういう意味ですか?」

 ミュリエルの真剣な表情を見て、リリィが不思議そうに聞く。
それにミュリエルに代わって、クレアが再び説明を始めた。

「魔導兵器には、殺人人形などというのもあったらしい」
「さ、殺人人形……」
「うむ。機械なのだが、形は本当に人間に近い人形で、過去に破滅が使っていた魔導兵器だったようだ。それもマナを原動力にして動いていたらしいからな」

その話を聞いて、恭也は自動人形の二人を思いだした。
もっともその片方は殺人などということは、主が危険にでもならなければ絶対にしないだろうが。
 だが、その戦闘能力は間違いなく高い。
 昔、その片方と命がけで戦った恭也だからこそわかる。
その殺人人形とやらがどんなものなのかはわからないが、あの二人並で……それも複数体出てきたりなどしたら、救世主候補たちでもかなり危ういだろう。

「確かに、そんなのが出てきたら救世主候補でもまずいな」

 恭也は思わず考えていた言葉を漏らす。

「何言ってるのよ、そんな人形なんて私たちなら……」

 リリィが反論するが、恭也は首を振った。

「昔、似たようなのと戦ったことがあるが、その力やスピードは救世主候補並だった。それと高圧電流が流れてる鞭なんていうのを武器に使っていた。後は自分と同型のオプションを数体統率して戦うなんていうこともしていたな。
あれの相手は救世主候補でも苦戦するはずだ。
 その殺人人形とやらが、イレイン……自動人形の最終機体と同じようなやつであった場合だがな。もしそれ以上のものだったらさらに厄介だ」

淡々と説明する恭也だったが、その話を聞いてまたも絶句する一同。
 それに気づいて、恭也は首を傾げていた。
それを見て、未亜が引きつらせ気味の顔で言った。

「え、えっと昔ってことは、元の世界で戦ったんだよね?」
「ああ」

恭也が軽く頷くと、カエデとベリオ、未亜と大河が次々に口を開く。

「ろ、老師や師匠の世界には機械の人形がいるのでござるか? しかもそれと戦ったと?」
「というか、大河君たちや恭也さんたちの世界は、平和な世界だったのでは?」
「霊力とかも信じられなかったのに……なんか私、恭也さんと出会ってから元の世界のイメージが壊れてく」
「お前はどんな人生送っとるんじゃあ!? ってか俺たちの世界にはそんな人間型ロボットがいたんかぁ!? 
 ああ、それなら甲斐甲斐しく世話してくれる美少女型メイド服ロボットを一体俺にくれぇぇぇぇぇ!! 夜のお供も可能ならなおオッケーーーー! 
 これぞ男の夢だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 とりあえず暴走した大河の頭に未亜のジャスティとベリオのユーフォリアが、カエデの拳とリリィの蹴りが腹へと突き刺さる。
それを見ながら恭也は、

(その言い方だとノエルは『美女』型メイド服ロボットになるのか?
 ……大河には会わせない方がいいな)

とまあ、ある意味場違いことを考えていた。
大河の暴走を止めても、まだどこか信じられないという感じで恭也を見ている救世主候補やクレア、ミュリエル。
リリィは前にただ平和なだけの世界ではないという話を聞いていたので、それほどでもないが、やはり驚いているようだ。
リコはマスターなら、などと誰にも聞こえないほどの小声で呟きながらも、何度も頷いている。
 そんな一同を見て、なのははやはり苦笑しながら言う。

「ええと、おにーちゃんは色々と波瀾万丈な人生を歩んでるんで、たぶん普通の人がおにーちゃんと同じ人生を歩んだなら百回ぐらい死んじゃうんじゃないでしょうか」
「妹よ、それはなかろう」

あんまりな言葉で締め括ろうとするなのはを、恭也は憮然とした表情で見つめる。
だがなのはは疲れたかのように肩を落として首を振った。

「普通の人ならおにーちゃんたちがやってる鍛錬で大怪我です。
 それにおにーちゃんだって、風芽丘の三年生だった年に、何度も大怪我を負って入院して、フィリス先生を怒らせたじゃないですか。もちろんなのはたちだって心配したんですよ」
「あ、あの年は色々ありすぎだったんだ。まあ、イレインと戦ったのはその時だが」

 言い訳になっていないような反論をする恭也に、なのはは頬を膨らませた。

「護衛の仕事から帰ってきた時だって、何度も大怪我してました!」
「それは仕事なのだから仕方ないだろう」
「ううー、なのはが言いたいのは、あんまり心配させないでってことなの!」

 少し涙を溜めて、下から睨み付ける……というか、ほとんど懇願するような感じで言うなのは。
 それに恭也は少しだけ呻く。

「なるべく心配させないようにはする」

 そう言って、恭也はなのはの頭を撫でた。
とりあえず撫でられて嬉しいのか、涙を消してふにゃりと笑うなのは。
そんな恭也となのはを一部の者たちが睨むように、そして羨ましそうに見ているのだが、当然のごとく恭也は気づかないし、なのはは気づいていないふりをしていた。
そこでミュリエルがわざとらしく咳をする。

「話を戻しますが、殺人人形というのは喩えの一つです。もっと厄介なものであるという可能性もありますが、逆にそれほどの脅威ではないという可能性も捨て切れません」
「そなたたちはとにかくそれを調べ、マナ消失の原因の根絶、もしくは破壊してきてもらいたいのだ」
「私たちでもどうしようもない原因であったならどうするんですか?」

 と、未亜が手を上げて聞く。

「その場合はできるだけ情報を集めつつ、原因となるものがある場所を突き止めてほしい。そのあとに我々が対策を練る」

クレアがそう言うと、恭也たちは同時に頷いた。
 知識という面でならリコは膨大に持っているし、魔法を得意とする者もいる。破壊することになっても、破壊力はこのアヴァターでも救世主クラスの者たちは随一だ。
殺人人形とやらが原因であるという確証はない。
 何とかなるだろう。
 と、救世主クラス者たちは、それほど今回の任務が危険であるとは思っていなかった。




そして次の日。
 件の州まで移動するため、救世主候補たちは寮の目の前まで来ていた馬車の前に集まっていた。

「それじゃ、そろそろ行きましょう」

 リリィの言葉にそれぞれが頷き、馬車に乗り込もうとする。

「あ、待って待って!」

突然背後から声が聞こえ、全員が振り返る。
そこには肩に久遠を乗せた耕介と、腕の中に大きな包みを持って走って来る知佳がいた。
 知佳は救世主クラスの者たちの前で止まると、その大きな包みを突き出す。

「はい、これ」
「これは?」
 
 恭也がその包みを受け取りながら聞く。

「お弁当だよ。お義兄ちゃんと一緒に作ったの。今回は少し遠いらしいし、馬車の中で食べてね」

知佳は微笑みながら言った。

「うお、知佳さんの手料理!」

 大河は感激したとばかりに叫び、恭也からその包みを奪い、すぐにでも食べようとする。

「さっき朝食を食べたばかりでしょ、お兄ちゃん!」

 そう言って、今度は未亜が包みを奪ってしまった。

「はは、俺も作ったんだけどな」

二人の様子を見ながら、耕介は苦笑しながら呟く。

「すみません、うちの兄が……」
「いや、いいんだけどね」

そんな耕介には、ベリオとカエデが礼を言った。
他の者たちも、二人に礼を言ってから、馬車へと乗り込んでいく。

「恭也君」

最後に乗り込もうとした恭也に、知佳が話かける。

「どうしたました?」
「ごめんね、私も行けたらよかったんだけど」

 知佳は申し訳なさそうな顔を見せて言う。
調査という意味では、彼女の能力や経験は役にたつものであったのだが、この学園で働く者にすぎないので、ついて行くことはできないのだ。

「大丈夫ですよ、今回はそれほど危険なものではないようですし」

 それは確証ではないのだが、知佳を安心させるために恭也は言った。

「でも恭也君、気をつけるんだよ」

 そんな恭也に、耕介は真剣な顔をみせた。

「十六夜さんも、何か嫌な感じがするって言っていたから」
「はい、わかりました」

恭也はそれに頷いてから、耕介の肩にいる久遠の頭を撫でた。

「久遠も、見送りありがとうな」
「くぅ〜ん」

 久遠は鳴きながら頭を振ってみせた。
それから恭也は、再び知佳と耕介に向き直る。

「十六夜さんにもよろしく言っておいてください」
「うん」

知佳が頷いたのを見てから恭也は頭を下げ、馬車の中に乗り込んだ。
 そして、しばらくして馬車はゆっくりと寮の前から動きでしていった。
 それを知佳たちは手を振って見送ったのだった。



 
 この時はまだ知らなかった。
 今回の任務が、どれだけ危険なものであるのか。
 救世主候補たちの最悪の敵が現れることを知らなかった。
 そして、恭也も最悪の敵と戦うことになることを……まだ知らなかった。





 あとがき

 ということで、オリジナルの話へレッツゴーです。今まで以上に捏造設定がいっぱいですが。
エリス「冒頭の話はいったい」
まだ秘密。エンジェルブレスをやったことがある人ならなんとなくわかるかも。まあ、話自体はエンジェルブレスが出る前には考えてあったんだけど。
エリス「そもそもエンジェルブレスをやったことがある人は、デュエルをやった人の中でどれだけいるのかわからないけど」
一応説明すると、エンジェルブレスはデュエルと同じ会社が出したゲームで、話の根幹がデュエルと繋がってます。
エリス「まあ、この作品とはそれほど関係ないんでしょ?」
 まあ直接的には。
エリス「なんか気になる答えだけど、まあいいや」
 とにかく、次回をお楽しみにしてもらえると。まあ同時投稿ですが。
エリス「それではまた次回でー」
 それではー。






ワクワク。どんな話になるのかな。
美姫 「冒頭部分がとっても気になるんだけれど」
ああ、どうなっているんだろか。
美姫 「今回はすぐに続きが読めるのよ!」
何と連続投稿。
ありがとうございます。
美姫 「それじゃあ、早速次のお話へ〜」



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