『選ばれし黒衣の救世主』










「で、なんでこんなことに?」
「知らん」
「あ、あはは」
「くぅ! 未亜さんの手料理が食べられるなんて夢のようだ!」

食堂のテーブルに座る四人の男たちは、一人を抜かし、微妙な表情で前方の厨房を眺めていた。

「ナナシ殿! 材料を切るのはよいが、指が取れてるでござる!」
「って、これってナナシさんの指!? 揚げそうになっちゃったよ!」
「未亜ちゃん、ナナシの指は美味しくないですの!」
「ちょっと、ベリオ! それ、今から私が使う調味料!」
「リリィ、ちょっと待ちな……ください! この料理はこの瞬間にこれを入れるのがポイントなんだ……です!」
「今回はある意味、なのはちゃんが一番の強敵かな。でも、料理の腕は一朝一夕じゃどうにもならないんだよ……ふふふ」
「知佳さんの言うとおりかもしれません。でも、この中では私が一番おに〜ちゃんを理解しているんですよ……ふふふ」
「……マス……いえ、恭也さんと一番繋がりが深いのは私だというのに……そんなことよりもっと煮込まないと」

厨房はある意味、姦しい状況。
女性総勢八名が、騒がしく料理を作っている。というか一部、色々な意味で会話が恐ろしい。
正直、こういう状況になった理由は、恭也たちもよくわかっていなかった。
ナナシに食事を作ってもらうにしても、台所は借りなくてはいけない。そのため、最初は未亜の部屋を訪ねたのだが、留守。そして、恭也がなのはたちの部屋を借りればいいと言い、彼女たちの部屋にいけば、なのはと知佳だけでなく、なぜか救世主クラスのメンバーも全員おり、何やら……恭也と大河の主観ではあるが……黒い気配を振りまきながら会話をしていた。
それを見た瞬間、恭也と大河は逃亡しようとアイコンタクトで決定したのだが、彼女らの気配に気づかないナナシが脳天気に挨拶などかましたのだ。ちなみに、ナナシが大河のことをダーリンと呼んだ途端、ベリオとカエデの黒い気配が増した……未亜も少しだけ増した……さらに、恭也のことを恭ちゃんと親しげに読んだことで、リリィとリコ、未亜もさらに黒い気配が増した。なのはと知佳は、恭ちゃんと呼ぶ者をもう一人知っているのと、恭也を慕う女性たちを多く見てきたため、彼女は敵にはならないと本能的に悟ったのか、とくに変化はなかったが。
その後、何とか穏便に会話が進んだのだが、何がどう狂ったのか、恭也と大河の夕食を自分が作ると主張する全員。
さらに話は狂っていき、誰が一番料理が上手い……というか、恭也たちは理解していなかったが、料理が上手い=相手を想っているという話になっていた……のかの言い合いになり、それならば恭也たちに決めてもらおうということになった。
何か危険な気配を感じ、大河がセルを巻き込み、女性陣たちは凄まじい行動力で、料理長に食堂を借りた。食堂を借りる際に、さらに耕介も巻き込むことになってしまった。

「何か雰囲気が一部重たくないか?」
「恭也君の突っ込むところはそこかい? しかし、愛さんや美由希ちゃん並の味を出す娘はいない……と思いたいなあ」
「雰囲気とか味とかより、指がどうこうというのが気になるんだが」
「未亜さんの料理なら指だろうが、文字通り『手』料理だろうが俺は食う!」

一人を除き、顔を引きつらせる男性陣。
嫌な予感が止まらない。





第二十章 壮絶! 料理対決! 



 すったもんだがあったものの、料理は無事完成した。
目の前にはなぜか食堂の制服……メイド服を着た女性達(これに大河とセルは泣いて喜んだ)。
最初に運ばれてきたのは未亜の料理らしく、揚げ物を中心とした和食であった。

「和食か」

若干嬉しそうな顔をする恭也を見て、未亜は隠れてガッツポーズ。それに微かに舌打ちするリリィ。なのはと知佳、リコの三人はなぜか余裕ありげ。

「指、入ってないだろうな」

大河は睨み付けるようにして料理を見ながら、箸で確認している。

「へえ、なかなか」

耕介はその出来映えを見て感心しているようだ。
セルは何も言わず、両手を握りしめて感涙の涙である。
それぞれ食べ始める。
恭也は黙って食べているが、少しだけ嬉しそうだ。
耕介も何度も頷きながら、大河は妹の料理なのにどこか探るようにして、セルは涙を流しながら猛然と食べている。
次の人の料理もあるので一通り食べ終わるとセル以外は箸を置く。

「美味かった」

単純な言葉ではあるが、恭也は少しだけ笑って言った。

「俺はもう未亜の料理をずっと食べてるから目新しさはねえけど、まあ指が入ってなくてよかったわ」
「大河君、あくまで指にこだわるんだな……確かに気になるけど」

大河と耕介も満足そうではある。
セルは未だ猛然と食っている。

「よかった」

未亜は四人……というか恭也と大河の反応を見て、嬉しそうに笑っていた。
まだ食べ続けているセルが無視されて、続いてリリィの料理へ。

「というかお前、料理なんかできたのか」

大河はわざとらしく驚いた表情を作ってみせる。

「ふん、当たり前じゃない! この救世主候補主席のリリィ・シアフィールドにできないことなんてないのよ!」

と胸を張って言いながらも、恭也をチラチラと見る救世主候補主席。
リリィは恭也たちの世界の料理を耕介の料理からでしか知らない上、あまりそれも食べていないので作れない。さらに恭也の味の好みも甘いものが苦手ぐらいしか知らないので、間違いなく彼女には不利な勝負であったのだ。
しかし、そこは同じ土俵に立てないのなら、むしろ自分の得意分野で全力で攻め、恭也に美味いと言わせると決めた。
リリィが用意したのは、恭也たちの世界でいう洋食だった。
サンドイッチにパスタ、サラダに他諸々。
恭也たちが、それぞれ料理を口に運んでいく。セルも未亜の料理に満足したのか、今度は他の女の子の料理を、等と呟きながら食べ始める。

「ほう」

恭也は目を瞬かせた。

「これはうちの店にも出せそうだな」

少し驚いた表情をみせながらもそんなことを言う。

「確かに、このレベルなら翠屋にも並べられるかもね」

耕介も驚きながら頷く。
その二人の会話に、なのはと知佳を除いた全員が不思議そうな顔をみせる。

「うちの店ってどういうこと?」

未亜が代表して聞くと、恭也よりも早くなのはの方が先に口を開いた。

「うちはおかーさんが翠屋って言う喫茶店を経営してるんです」
「へー、そうなんだ」

未亜は頷いてから、はたと気づく。

「……お店に出せるくらい美味しいの?」
「ああ」

恭也の返答に、未亜はがっくりと肩を落とす。知佳となのはもこれには驚いているようだ。
 リリィは当然だとばかりに胸を張っているが、人に食べてもらう機会はほとんどなかったので、内心ではホッとしている。

「これはむしろ予想外だろ? つーかここまで優等生でいいのか? いくつ属性つける気だよ」
「食い慣れた料理だけど、確かに美味い。いや、だが未亜さんの料理は暖かみが……」

等と呟いている大河とセル。
とりあえず、またも全員が満足げになり、次の料理に移る。
続いてリコの料理だが。

「…………」

恭也たちの四人だけでなく、全員が沈黙してしまう。
出された料理は、決して見栄えが悪いわけではない。だが、ただの一品、しかも主食ではなかった。

「……肉じゃが?」
「はい」

そう、リコの料理は肉じゃがの一品のみ。他は何もない。

「まあ、一つ突っ込んでおくが……」

大河がとりあえずと言った感じで口を開く。

「これってアヴァターにはないだろう? なんでリコが作れるんだ?」
「私は召喚士ですから他の世界の知識もある程度手に入れられます。無論、料理に関しても」

と、リコは簡単に説明する。

「ま、まあ食べてみよう」

全員が恐る恐ると言った感じで肉じゃがに向かう。理由は簡単。リコはアヴァターの人間……少し違うが……のため、和食はほとんど食べたことがないはず。その上、耕介が増やしたメニューにも肉じゃがはない。つまり、ほとんど知識だけで作られた料理ということになる。
これに恐れているわけである。
そして、四人はそれぞれ戦友の顔を眺める。そのあとに、全員で頷いたあと、同時に肉じゃがを口の中に入れた。

「「「「なにっ!?」」」」

その瞬間、四人は同時に目を見開いた。しかもなぜか劇画風。

「こ、これは……!?」
「ま、まさか……!?」
「そ、そんな……!?」
「バ、バカな……!?」

まるで戦慄するかのように、四人はわなわなと震えている。

「この懐かしい感じはまさしく……」

耕介が料理人として最初に口を開く。

「「「「お袋の味!?」」」」

四人は同時に叫んでいた。
四人の男たちの叫びに、リコを抜かした女性陣は訳がわからないとばかりの表情をとっている。
 当人のリコは何度も頷いて、猛然と肉じゃがを食べ続けている男たち……いや、恭也を嬉しそうに見続けていた。

「かーさん、なのははちゃんと俺が守るから……」
「俺、ちゃんとやってるよ、今じゃ別の世界のコックだ……」
「お袋、未亜は絶対に幸せにするからな……」
「母さん、俺、破滅を倒すために頑張ってるよ……」

本来お袋の味というのは、その家庭によって違うもののはずだが、なぜか全員リコの肉じゃがを食べて母親を思いだしているらしい。
 セルなど肉じゃがは初めて食べたはずなのに涙まで流している。
異様な光景だった。
 これぞ生み出されて何万年と経つ精霊の経験によるものか。
ある意味、リコの料理は今までで一番インパクトがあったようだ。
とりあえず、いい感じにボルテージが上がっている男性陣の前に新たな料理が。
ベリオの料理である。
だが、

「…………」

先ほどまでの熱い想いも忘れて、四人は再び押し黙った。

「こ、これは……」

端的に言おう。
美味しそうだ。
四人の目の前に置かれた皿に盛られた料理は、確かに美味しそうではあるのだが、何かおかしい。
見た目的に統一性がなさすぎる。
ねばねばした感じの料理から、血の滴った何かのレバーっぽい肉、恭也たちの世界でいうスッポンっぽい生き物を鍋にしたもの、さらにうなぎっぽい生き物のかば焼き、他諸々。
見た目は美味しそうであるのだが、見ただけで下半身に血が溜まりそうだった。

「い、いくつかわからない料理があるけど、ほとんどアヴァターの精力料理だ……。たぶん、わからないのは委員長の世界の精力料理なんじゃないか?」

 顔を引きつらせながら説明するセル。それを聞き、やはり同じく顔を引きつらせる三人。
恐る恐るといった感じで、大河は顔を上げ、ベリオを見る。
笑った。
彼女はニヤリと笑ってみせた。

(パ、パピオンーーーーーーーーー!?)

 ベリオのいつもは見せない笑い方を見て、大河は何かを悟った。

(というか、いつのまに変わりやがった!? しかも、このとんでもないときに!)
 
 そんなことを考えながら、さらに顔を引きつらせる大河を見て、ベリオは邪悪な笑みを引っ込めて、手を胸の前で組み、そして少しだけ涙ぐむ。組まれた手の間に目薬が見えるのはなぜか?

「食べてくれないんですか、大河君?」
「ぐっ」

よくなのはにこうされて、恭也が断れないのを見ているが、その気持ちがよくわかった。
大河は勢いをつけながら箸を持つ。
それを見て恭也たちも、これから戦闘を始めるとでも言いたげな雰囲気で箸を取る。

「いくぞっ!」

そして、四人は同時に食べ始めた。




ベリオの料理を食べ終わったのだが、男性陣はとんでもないことになっていた。

「か、下半身があちぃ」
「お、俺は鼻血が出そう……」

上半身をテーブルに突っ伏させた大河と、鼻を押さえているセルが力無く呟く。
その隣では耕介と恭也も似たような状況になっている。

「け、血圧が上がりそう」
「うっ、油っぽいものとねばねばした感じが……」

確かに美味しくはあったのだが、食後の状態が最悪である。ベリオがなぜこんなな精力料理ばかりを用意したのか謎だ。
男性陣は全員顔を赤くさせ、やはり少しだけ汗をかきながらも、苦しげにちょっとばかり熱い何かに耐えている。
なぜかそんな彼らを見て、やはり顔を赤くさせている女性陣。

「な、なんか、絵になるんだけど」
「そ、そうですね」
「た、耐える男の人っていいかも」
「こ、このぐらい耐えられないで救世主候補は……くっ」
「少し、卑猥でござる」
「……ポッ」

救世主候補に腐女子が大量発生。
確かに彼らは全員、美男子と言っても差し支えはないのだが。
そんな彼女たちと、恭也たちを見て、ベリオはいつもは見せないニヤニヤとした感じで笑っていた。
とりあえず少しの休憩の後、再び次の料理が運ばれてくる。
今度は知佳の料理だ。
この食堂で働く彼女の料理ならば安心できる。
実際に運ばれてきたのは、焼き魚を中心としたシンプルな和食であったが、かなり美味しそうであった。

「さすがは知佳さん。これは期待大」
「にしても、大河たちの世界の料理ばっかだなぁ。まあ未亜さんたちの世界だから仕方ないといえば仕方ないけど」

 和食が多かったのはそれだけが理由ではなかったりするのだが。

「やはり腕を上げたな、知佳」

耕介は、日々料理の腕を上げる知佳に感動しているようだ。
恭也も知佳の料理の腕は知っていたが、感心したような顔で見つめている。

「では、さっそく」

恭也の言葉でそれぞれが食べ始める。

「うお! 美味い!」
「た、確かに!」
「くっ、これはヤバイかもしれない」

大河とセルは純粋にその美味しさに驚き、耕介はもしかしたら自分よりも上へいってしまうのではないかと戦慄している。
だが、恭也はなぜか首を捻っていた。
それを見て、知佳が怖々と声をかける。

「恭也君、美味しくなかった?」
「いえ、そんなことないです。すごく美味しいです……というか、全て俺の好みの味付けなのが逆に気になって」

知佳の料理は……恭也にしてみれば……なぜか全て恭也の好みの味付けであったのだ。
だが恭也は、知佳に和食が好きだとか、甘いのは苦手だとかは言ったことがあったが、細かい味の好みまで教えていなかった。偶然でここまで作れるものなのか、と逆に不思議に思い、首を捻っていたのだ。

「あ、それは晶ちゃんにね」
「晶に?」

確かに晶は和食を得意として、もう一人の高町家料理人と一緒で、恭也の味付けの好みも熟知している。

「そ、晶ちゃんに恭也君の味の好みを聞いてたんだ」

知佳は楽しそうに種明かしをしてみせる。
それに感心したように頷く恭也だが、また首を捻った。

「しかし、今日は俺だけでなく、みんながいるのに、なんで俺の好みの味付けにしたんですか?」

その恭也の問いに、痛い沈黙が食堂に流れる。

(恭也君! 俺でも! 俺でもわかるんだぞぉ!)

報われない妹のために、耕介は心で叫びながら滝涙を流す。
寮生たちに鈍感と言われていた耕介でも、恭也に好意を抱いている女性たちのことは理解している。
だが、耕介が知佳の想いを言うわけにはいかない。なぜなら命にかかわる。
知佳も羽を出して攻撃してきそうだし、もしそれでうまくいっちゃったりなんかしたら、元の世界に戻ったとき、恭也と同じく御神流の剣士やら、妹以外の羽持ちやら、他諸々の人外な方たちにボロクソに……というか殺される。

「ええと、まあ、ほら料理がうまくなるには色々な人の好みを覚えた方がいいでしょう?
お義兄ちゃんの好みの味はもう出せるようになったし、他の三人だと恭也君の好みしかわからなかったから」
「なるほど」

簡単に納得してしまう恭也。
耕介は元気づけるようにして知佳の肩を叩く。大河とセルも痛ましげな視線を向け、他にもベリオやカエデだけではなく、未亜やリコ、リリィまで気遣わしげな視線を向けている。
それに知佳は、

「いいの、もう慣れたから」

なんとも哀愁の漂う発言をしてくれた。
なのはもどこか似たような感じで頷いている。
 だが、これに慣れなければ恭也の相手はできない、というのが、彼の周りにいる女性陣たちの共通見解である。
周囲の反応が理解できない恭也は、やはり首を傾げていた。
 またも微妙な空気になってしまっていたが、とにかく次の料理へ。
次に出された料理はうどんであった。
それを作ったのはカエデである。

「カエデの世界って、忍者が存在するだけあって、俺たちの世界と似てるのかね? うどんなんか出てくるし」
「未亜殿や知佳殿たちの料理を見る限り、近いと思うでござる」

大河の言葉に、カエデは笑いながら答えた。

「ちなみに、このうどんは拙者の手打ちでござるよ」
「へえ、手打ちか」

耕介はまたも感心している。
ここまでずっと、どちらかといえば重たい料理が続いたので、うどんという軽めのものが出てきてくれたのは、男性陣にとって嬉しいことであった。

「それじゃあ、いただこう」

恭也の言葉を機に、それぞれが食べ始めようとする。
だが、言葉を発したはずの恭也が容器を持ち上げ、箸をつけようとしたところで、ピタリと動きが止まる。
それはどちらかというと、御神の剣士としての感に近いもの。
恭也は眉間に皺を寄せたあと、クンと鼻を動かす。

「みんな待て!」

突然恭也が慌てたように大河たちを止める。
だが、すでに全員がうどんを口の中に入れていた。
恭也の言葉に、大河たちは驚くものの、そのままうどんを喉に通してしまった。

「どうかしたのかい、恭也君?」
「恭也〜、いきなり大声だすなよ、鼻からうどんが出てきたらどうすんだよ。あれ、かなり辛いんだぞ」
「ぶふっ! 麺が鼻に!」

それぞれが恭也に言葉をかける。(セルは鼻を押さえているが)
だが、

「「「ぐっ!」」」

同時に呻き声をあげて、箸を落とし、そのまま床に転がってしまった。

「お、お義兄ちゃん!?」
「耕介さん!?」
「大河君!?」
「お兄ちゃん!」
「ダーリン!」

女性陣たちも慌てて彼らを呼ぶ。が、哀れセル、誰からも名前を呼ばれず。
とにかく、いきなり倒れた三人に驚く一同。

「やはりか」

その中で、恭也だけがため息をついた。

「カエデ、このうどん、何か入れただろう?」
「へ、何かって……ああ!」

恭也に問われ、カエデは大声を上げた。

「つ、つい癖で痺れ薬を入れてしまったでござる!」

その叫びに、

(((癖で痺れ薬なんぞ入れるな!)))

 痺れ薬のせいで喋れない三人は、心の中で叫び返す。
それがカエデにも伝わったのか、彼女は申し訳なさそうに指を絡ませた。

「うう、拙者、もともと料理を覚えたのは、対象の者を毒殺するためだったでござるよ。だから……」

そのため癖になったということか、なんというか忍者らしいというか……いや、だが対象者を毒殺するのに、自分で作ってどうする。普通は対象者が食べる料理に混ぜるだけでいいのではなかろうか?

「すぐに解毒薬を煎じるでござるから、少々お待ちを!」

 急いで食堂を出ていくカエデを見送る一同。
その中で、リリィが少しだけ首を傾げた。

「恭也はよく気づいたわね?」
「まあ、半分以上は勘だ」

恐るべし、御神の剣士の勘。さらに恭也の場合は、毒物並の料理に慣れたせいかもしれない。耕介の場合は御神の剣士の分の勘が足りなかったのだろう。

「それと、香港警防で毒なんかについても学んだしな」

恭也は、なぜか哀愁を漂わせてそんな言葉もつける。

(((暢気に話なぞしとらんで、助けてくれぇ)))

床に倒れた三人は、視線にそう意志を込めていたのだが、それに気づく者は誰もいなかった。
合掌。




「ひでぇ目にあった」

大河は天井を虚ろな表情で見つめながら呟く。

「も、申し訳ないでござるよ、師匠、お二方」
「あ〜、もういいんだけどな」
「本当に毒だったら俺たち死んでたけど、とりあえず生きてるし」
「お、俺はなんか、料理に関する毒なら大丈夫な気が」

とりあえずカエデの謝罪に、大河とセルは手を振って答える。耕介だけは顔を引きつらせて、過去の惨劇を思い出しているが。
恭也もとりあえず、声をかけるのが遅くなってすまない、とだけ謝っておいた。
まあ、男性陣がどこかげんなりとしているが、次はなのはの料理である。

「ぬっ」

出された料理に思わず唸る恭也。
そこにあったのは、見事な三角形の白いご飯に、海苔が巻かれたおにぎりである。
見栄えは本当に見事である。

「おにぎりか、なのはのおにぎりは美味いからな」

その恭也の一言に、なのはは顔をほころばせる。

「えへへ、ありがとう、おに〜ちゃん」

それに大河は感心したように恭也の方を向く。

「よく作ってもらってるのか?」
「ああ。鍛錬の後など差し入れに持ってきてくれる」

後は深夜の鍛錬を終えて、置き手紙とともによく台所のテーブルに置いてくれていたりもしていた。
前はそういった役割はレンや晶だったのだが、結構前からなのはが作ってくれるようになっていた。アヴァターに来てからは、機会がなくなってしまっていたが。

「へぇ、おにぎりねぇ」

あまり馴染みがないのか、セルはおにぎりを持ち上げて、興味深そうに色々な角度からそれを眺めている。
それからパクリと天辺からに噛みついた。

「こ、これは……!」

なぜか驚きの声を上げるセル。
それを見ながらも、まずいというリアクションではないとわかった大河と耕介も口に含んだ。

「おおっ! 適度な固さに、ご飯が口の中でいい感じにほぐれる!」
「握り方も具の量も、塩の加減も完璧だ!」

大河と耕介も驚きながら、評価を出す。

「うむ、うまい」

 恭也は頷きながらも、早いスピードでおにぎりを胃の中に運んでいった。
とくに塩加減や具などは恭也好みになっている。なのはにとっては一番恭也に喜ばれる食べ物と言えるだろう。

「えへへ、おにぎりだけはいつもおにーちゃんたちに作ってたから得意なんだ」

 本当は一番得意なケーキかシュークリームを作ろうかとも思ったのだが、桃子の息子である恭也はただでさえケーキ等の味に舌が肥えている上、甘いものが苦手だ。なのはも甘くないお菓子の作り方を率先して覚えたが、むしろこのおにぎりを出した方がいいだろうという結論になったのだ。
 とくにこのおにぎりは、恭也のために改良に改良を重ね、恭也の意見を聞き作り出された、まさに恭也専用のおにぎりである。
 大河たちもおいしそうに食べているところからして、他の人たちにとってもかなり美味しいものになっているのだろう。
今まで以上に満足げな笑みをみせる恭也を見て、なのははガッツポーズ。対して、知佳と未亜、リリィ、リコは顔を歪ませたり、舌打ちしたり……なかなか怖い。

そして、とうとうこの人?の料理である。

「死ん撃ち登場ですの!」
「おい、何か発言がおかしくなかったか?」

テーブルの前でポーズをとるナナシに、すかさず大河が突っ込む。

「気にしちゃダメですの、ダーリン」
「いや、だから……やっぱいいや」

大河は疲れたようにため息をつく。
とりあえずナナシの料理が運ばれてきたのだが……。

「確かに、死ん撃ち」
「死に撃たれる……か」
「まあ、一人はいるだろうとは思ってたけどよ」

 目の前の料理……いや、それは料理と言っていいものか。

「まあ、見た目はまだ美由希よりはましでしょう」
「愛さんよりも、かな」

ただましというだけ。
材料がちゃんと形状を留めているだけマシというものである。
とにかく焦げていたり、見た目的にまずいだろうというような草っぽい炒め物。さらになぜか花まで調理されている。
こういう料理……もっとひどいが……に見慣れている恭也たちはいいが、他の者たちは引いている。

「ダーリン、食べてくださいですの」
「ま、待て、お前これは……」

さすがに顔を引きつらせてナナシを見る大河だが、その子犬のような瞳に期待の色が見えて、それ以上は言えなくなった。

「大河、あきらめろ」
「そうだぞ、大河君。俺たちなんかこれ以上のものを食べてきた。それでも生きているんだ。だから、この程度は大丈夫だ」

 なぜか哀愁の漂う恭也と耕介の言葉。

「大河、まずはお前からだ」
「なっ、セル!? お前、今まで共に……料理と……戦ってきた戦友を裏切るつもりか!?」
「だがな大河、ナナシはまずお前に食べてほしいはずだ」
「恭也まで!?」
「大河君、君の男の甲斐性を見せつける時が来たんだよ」
「耕介さんまで、んな綺麗な笑顔を見せつけて!? というか、恭也たちはこれ以上のものを食べてきたなら、まず二人が!」
「だからナナシはまずお前に食べてほしがっていると言っただろう」

恭也の言葉に、大河がもう一度ナナシを見ると、やっぱり嬉しそうに、期待をこめて見つめてきている。
それに呻き、わなわなと震えながらも大河は箸を取った。

「救世主、当真大河、逝くぞ!」

 守護者を相手にしたときのような勢いと、真面目な表情をみせがら大河は逝った……いや、言った。
それに大きく頷く戦友の三人。
その三人とナナシ、さらにどこか引き気味の残りの女性陣に見つめられながら、大河は料理を口に運んだ。
そして、

「う、美味い……」

大河自身が信じられないかのように呟く。

「本当ですの、ダーリン!?」
「ああ。お前、もしかして生前は料理がうまかったのか?」
「よくわからないですの。でも、料理は勝手にできたんですの」
「身体が覚えてたってことか……まあ、見た目はやばいが」

未だに信じられないように、大河は料理を見ていた。
それは他の者たちも一緒であったが。

「と、とにかくお前らも食べてみろよ」
「おう」

と、セルが安心とわかったのか、早速食べ始める。

「た、確かに見た目と違って美味い。見た目とのギャップがなんとも」

セルも驚きながら呟くのだが、

「耕介さん、何か嫌な予感がしませんか?」
「そうだね。だけど、まさかまた痺れ薬が入ってるとも思えないし」
「食べるしかないですね」
「ああ」

恭也と耕介は、何か嫌な予感がするらしい。これぞ経験からくるものではあるのだが、それをふりきって食べる。

「た、確かに美味い。くっ、せめて美由希も見た目は悪くとも食べられれば」
「同感だよ、恭也君。愛さんも……」

 やはり哀愁の漂う二人。
しばらく食べていた四人だったが、

「「「「うっ……」」」」

 なぜか腹を押さえてうずくまった。

「は、腹が……」
「や、やばい……」
「ぐっ、こ、これは……美由希よりはマシだが……」
「ああ、懐かしい感じだよ……愛さんよりマシかな」

その様子に今までただ見ていた女性陣たちが慌てはじめた。

「だ、大丈夫、恭也君、お義兄ちゃん!?」
「おにーちゃん!?」
「師匠!?」
「お兄ちゃん、恭也さん!?」
「大河君!?」
「ちょっ、ナナシ、アンタ一体何入れたのよ!?」
「ほへ? えっと、頭が痛くなくなる薬草とお腹の痛みをとる薬草に、乾燥させた痛み止めの花に……」

 リリィの質問にで、次々と上がってくる本来は料理目的に使うものではなかろうと思われる材料たち。

「そ、それって……」
「色々な薬をまとめて飲んだようなものでは?」

皆さん、色々な種類の薬を複数まとめて飲むのは危険です。絶対にマネをしないでください。
と、言わせるようなものである。

「は、早く医務室に運びましょう!」
「なんでですの?」
「アンタのせいでしょうが!」

ナナシに叫びつつも、リリィは率先して恭也を運ぼうとする。
 だが、

「リリィさん、おにーちゃんは私が運ぶよ」
「いえ、恭也さんは私が運びます」
「なのはもリコも、その身長じゃ一人では運べないでしょう?」
「なら私が運ぶよ」
「知佳さんは耕介さんがいるじゃないですが」
「なのはちゃん、私の能力知ってるでしょ? 私なら二人とも運べるよ」

なにやら論戦が始まる。

「あん、ダーリンを持ち上げようとすると腕が取れちゃうんですの!」
「って、ナナシ殿! 手が師匠の口と鼻を塞いでるでこざる! 身体がピクピクしてるでござるよ!?」
「大丈夫、お兄ちゃん!? ああ、でも恭也さんの方にも行かないと抜け駆けされるし……」
「た、大河……君! しっかりしな……してください!」

こっちはこっちで阿鼻叫喚。
しかし、やっぱり哀れセル、誰にも心配されず。

((((は、早く、医務室へぇぇぇぇぇぇぇ!!))))

男たちは心の中で叫ぶのだが、女性陣たちに聞こえることはなかった。
二度目の合掌。

こうして救世主候補の女性たち(+二)は、男四人を医務室送りにしたことから、逸話を増やしたのであった。
後にこの話は、救世主戦争・食堂の戦いと呼ばれるようになる……たぶん。






 あとがき

幕間らしい話だったかどうか、相変わらずオチが弱いけど。
エリス「とりあえず後編終了だね」
やっとこさ。
エリス「けど、やっぱり一部が壊れてるような。しかも変な料理が出てきたのは大河組側だけだし、被害にあった男性陣は全員だけど」
は、はは、まあ気にしないで。とりあえず料理の腕なんかは、デュエルの方がほとんど情報なしだったので自分の偏見です。ついでに食材も。まあとらハの方も、時間が流れてるから似たようなものになってしまってますけど。
 とりあえず『手』料理も考えたんだけど、やっぱりベタすぎかな、と。
エリス「前回の引きを見たら、みんなそう思うしね」
 しかし、八人も書くと途中でしつこい感じになってしまった上に、書き込みが浅くなってしまった。というか、同時にこの人数を動かすのは難しすぎる。ついでに長すぎた。要精進。
エリス「精進は当たり前。それで、次は話が進むの?」
進みません!
エリス「胸を張って言うな! 滅却!」
グブッ! ま、まて、それでも一応、必要な話ではある……はず。
エリス「はずってなに?」
ま、まあ、なるべく速く書き上げる、と言いたいが、今は色々と忙しくて。新しいパソは手に入ったけど、結局データの復元はできなかったし。ただ次回の話はもうほとんどできてる状況だから、問題はないと思うけど。
エリス「む、それじゃ早く書くんだよ」
 了解です。
エリス「それでは、また次回の話で」
ありがとうございました。





いやいや、今回は楽しい日常(?)のお話だね。
美姫 「本当よね。なのはまでお料理が出来るって事は、ますます美由希の立場が…」
あははは。まあ、ともあれ全員料理は出来るみたいだな。
美姫 「そうみたいね」
まあ、最後はああなったけれど。
美姫 「ナナシの事だから、自分の手でだしを取ったりとかってのはなかったわね」
いや、その光景を普通に浮かべると、かなり怖いぞ。
美姫 「冗談よ、冗談」
料理対決(?)も一応は決着〜。
美姫 「男性陣ノックアウトという結果でね」
さて、次はどんなお話が待っているのかな。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
ではでは。



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