『選ばれし黒衣の救世主』




気に入らなかった。
例えば、初の男性救世主候補となったあのバカ。
救世主の使命の重さも知らないくせに、いつも女ばかり追いかけてバカばっかりやっている。
私は破滅を滅ぼすために、いつも努力をしているつもりだ……まあ、それを誰かに悟らせるつもりはないけど。
 だからこそ、平和な世界から来て、戦うということも知らない……戦うための努力もしないあいつが気に入らない。
そして、また気に入らないヤツがやってきた。
そいつもバカと一緒で、平和な世界から来た男。
正直、またかと思った。
なんでこんな男たちばかり、と。
そいつは召喚器もなしに、救世主候補も苦戦するモンスターを、いとも簡単に屠ってみせた。
そんなあいつは、召喚器もないのに救世主クラスに入ってきた。
 いくらお義母様が決めたこととはいえ気に入らない。
だけど、級友の質問の答えを聞いて、私としても色々と考えさせられ、少しはバカよりもマシかなと思った。
そして、あの戦闘。
 ほとんど防御だけだったが、召喚器もなしに、私たちと同等……いえ、それ以上の戦闘能力を見て、私の彼への感情は、気に入らないではなく、気になるものに変わっていた。
もちろん平和だという世界で、あれほどの力を手に入れられたことに嫉妬もあると思う。
だけど、それよりも私は知りたい。
彼がどうしてそこまでの高みにまでいけたのか。
平和な世界で、どうやってそこまでの力を手に入れたのか。
 どんな努力をしたのか。
どんな理由があったのか。
私はあの男が気になりだしている。





第六章 初対面





「まったく、いきなりサボりなんてね。少しは見直してやったのに」

リリィは鼻を鳴らして、苛立たしげに椅子から立ち上がりながら、まるで愚痴るように呟く。
そんなリリィの言葉を隣に座っていたベリオはしっかりと聞いていた。

「見直したって大河君のこと?」
「なんであんなバカを見直さなきゃいけないのよ。だいたい、あいつは寝てるけど授業受けてるじゃない」
「ということは……ああ、恭也さん?」
「そうよ。まだ授業二日目なのに、いきなりサボりだなんて」

リリィの愚痴のような言葉を聞きながらも、ベリオは少しだけ考える。

「でも、恭也さんって授業をサボるような人には見えないし、何か理由があったんじゃないかしら」

恭也の普段の態度は、委員長であるベリオの目から見ても真面目に見られているらしい。

「お兄ちゃん、もう授業終わったよ」

そんな二人の会話の横では、未亜が机の上で眠り込んでいる大河を必死に起こそうとしている。

「ふあぁ、眠い」

大河は豪快に目をこすりつつも起きあがる。
それをベリオはため息をついて見つめているし、リリィは怒りの視線を向けている。
二人は知らない。
実は恭也も、大河ほど露骨ではないものの、ほとんどの授業をまともに受けないことを。
 それを知る日は近いのだが。




恭也たちは学園長室から出てしばらく歩いたあと、全員が同時に立ち止まって、やはり同時にため息をついた。

「はや〜。いっきに疲れたよ〜」

なのはは恭也の腰に縋り付きつつ、そんなことを言う。

「まさか、ここまでうまくいくとは思わなかった」

耕介も緊張で冷や汗でも流していたのか、服の袖で額を拭う仕草をとっていた。

「実際、突っ込まれたら、色々とボロが出たもんね。十六夜さんが学園長さんの性格を見抜いてなかったら危なかったかも。それでも疑われてはいるだろうけど」

知佳も疲れた表情で苦笑している。
実際の所、知佳、なのは、十六夜の策は大成功と言える。まあ、ミュリエルがどこまで信じたかはわからないが。

「それに耕介さんまでスカウトされなくてよかった」

恭也も安堵したように呟く。
もともと耕介の戦闘能力を考えれば、この学園にスカウトされることは目にみえている。ただ、彼を学園の生徒として入れるわけにはいかなかったのだ。

「だね。お義兄ちゃんには私たちのボディーガードをしてもらわないといけないし」

そう、なのはは絶対に学園に入学させるわけにはいかなかった。とはいえ、恭也は学園に入学しているために、彼女のそばにいられる時間は限られている。
危険な世界であるし、何より自分たち全員が疑われている可能性がある。それが理由で狙われるかもしれない。そんな中で、身を守る力がないなのはは危険すぎた。
ならばその間、なのはのそばにいてくれる……それも、実力がある人が欲しかったのだ。無論、知佳のそばにもだが。
そのへん耕介は打って付けだったのである。

「すいません、私のせいで」
「はは、別になのはちゃんのせいじゃないよ」
「そうだよ。私だって戦いは苦手だもん」
「なのは、気にするな」

頭を下げるなのはに次々と皆が口を開く。
そして、なのはの腕の中にいた久遠が地面に降りると、人型……子供バージョンに変化する。

「だいじょうぶ……なのははくおんがまもる」
「うん。ありがとう、く〜ちゃん」

久遠の言葉になのはもニッコリと笑う。それを見て、やはり久遠も嬉しそうに笑い、尻尾まで振っている。
そんな微笑ましいやり取りを見ていた恭也が口を開く。

「久遠、なのはを頼む。それと、あまり人の前では人型にならないようにな」
「うん」

恭也は、素直に頷く久遠の頭を撫でてやる。

「♪」

さらに嬉しそうにな顔をする久遠。
やはり、そんな久遠を見て、羨ましそうな顔を見せる二人に苦笑する男が一人。それに気づかない恭也と久遠だった。




救世主クラスの面々は、全員で食堂に向かうことになった。これは今現在では非常に珍しいことだったりする。
とくに、大河とリリィは火と油の関係である。下手に同じ場所で食事をしようものなら、食堂が火の海となる可能性がある。
とはいえ、今は二人とも大人しい。
それもそのはず、先ほどの授業のあと、またも罵り合いに発展し、さらに召喚器を呼び出す騒ぎになったあとに、ダウニーにこってりと絞られたのだ。
とりあえず、そういうこともあり、誰も全員での食事に反対の者はいなかった。
珍しくリコもきっちりとついてきている。
他の者たちからすると、彼女の食事を見るのは少々きついのだが。

「あ、恭也さん?」

その中で彼を見つけたのは未亜だった。
未亜の言葉に、全員が彼女が向いているほうを見ると、確かに恭也が歩いていた。
 ただ、その周りには三人の男女がいる。

「うお、美人! さらに、将来有望そうな娘まで!」

大河がすぐにそう評した。
その言葉に、未亜がおもしろくなさそうな顔をするのだが、なぜか顔は恭也に向けられている。
すると恭也も大河たちに気づいたようで、顔を彼らに向けた。
 恭也の周りにいる者たちも、彼の知り合いだと思ったのか何か聞いている。
恭也が彼女たちに何か説明したあと、大河たちの方へ近づいて来たときだった。

「ずっと前から愛してました!」

大河がそう叫びながら、恭也の隣にいる女性に飛びかからんばかりの勢い……いや、飛びかかろうとする。

「ジャスティ!」
「ユーフォニア!」

 しかし、すぐに未亜とベリオの召喚器によってシバかれた。こんなことに召喚器を使っていいのだろうか?

「お兄ちゃん! 初対面の人に何しようとしてるの!?」
「い、いや、第一印象をだな……」
「大河君どころか、救世主候補たち全員の第一印象を最悪にしてどうするんですか!?」

大河を相手に説教をはじめてしまう未亜とベリオ。

「な、なんか楽しそうな人たちだね」

少女……なのはは、そんな三人を見て、苦笑……というか顔を引きつらせた笑顔を見せている。

「お、俺たちの周りにはいなかったタイプの人たちだな」

大柄の男……耕介もどこか引いている。

「特に、あの男の子が……」

女性……知佳の大河への第一印象は最悪ではないようだが、微妙なものであるらしい。
 恭也は、それらに肯定も否定もせずに、ただ深々とため息をついた。
救世主候補側のリリィも、恭也と同じようにため息をつき、リコはいつも通りの無表情にも見えるが、心なしか脱力しているようにも見えた。




ようやく、未亜たちの説教が終わった。

「で、恭也、その人たちは誰なんだよ? とくにそちらの美女の名前と電話番号を……」
「お兄ちゃん」
「なんでもありません、はい」

未亜の棘の含まれた言葉に、大河はすぐさま下手に出た。

「ああ、この人たちは……」

恭也が説明しようとするのだが、どう話していいかわからずに途中で止まってしまう。
 そこで耕介が一歩前に出る。

「俺は槙原耕介って言うんだ。まあ、俺は恭也君を歳の離れた弟みたいに思ってるけど」

恭也を見ながら言う耕介。彼も笑って頷く。
恭也にしても、耕介は兄のような存在として見ていた。今回に限らず、今まで色々なことで助けてもらっていた。

「私は仁村知佳って言います。恭也君の……恋人候補、かな?」
「知佳さん!?」

知佳のいきなりの爆弾発言に恭也は驚いた顔をみせる。
その一瞬で、なのはと未亜が少しおもしろくなさそうな顔をする。

「そんなバカなぁ!」

大河は信じられないとばかりに叫んでいる。

「あはは、冗談だよ、恭也君」

からかうような笑顔で、恭也の肩を叩く知佳。
それに安心したような顔を見せる恭也と大河。
しかし、

「……反応したのは一人か……まだ、無意識っていうレベルみたいだけど……う〜、恭也君、これ以上ライバル増やさないでよぉ」

などということを小声で呟いていたりする。
そんな知佳に恭也は気づいていないのだが、なのははきっちりと気づいているらしく、少し頬を膨らませている。
 だが、なのははすぐに恭也の隣に立ち、彼の手を握った。
 それに恭也も驚いているが、とくに何も言わなかった。
 どうやら先制攻撃のようだ。


「私は高町なのはと言います。
 それと、この子は久遠ちゃんっていいます」

なのはは小さく頭を下げる。
 きっちり腕の中の久遠も頭を下げていた。

「かわいい♪」

ベリオが久遠を見て微笑んでいる。
 人見知りする久遠はちょっと怯えていたりする。

「あれ、高町って……」

いつもなら久遠に夢中になっていそうな未亜は、なのはと恭也の繋がれた手をどこか不機嫌そうに見つめていたのだが、なのはの自己紹介に疑問を感じ、すぐに顔を上げた。

「ああ。なのはは俺の妹だ」

恭也がすぐに答える。
妹と聞いても、未亜の顔に安心という色はない。むしろ、余計に不機嫌になっているように見えた。

「ちょっと待ってよ。何で恭也の妹とか知り合いが、このアヴァターにいるのよ?」
「あ」

リリィの言葉で救世主候補たちがその事実に気づく。
 ちなみに、リリィが初めて恭也の名前をまともに呼んだことに気づいている者はいない。
まあ、それはそれとして、恭也はイレギュラーでこの世界に来たのだ。ならば、その妹だろうが、知り合いだろうがここにいるわけがないのだ。
恭也たち四人は、顔を見合わせた後、先ほど学園長に説明したことを、HGSなどというのを濁しながら説明した。
それが終わった後に、恭也は気づかれないようリコの顔を窺う。
 リコは疑いの視線は向けているが、何かを言う気配はなかったので心の中で安堵していた。

「へえ、不思議なこともあるもんだ」

本当はほとんど嘘であるとは言えない。

「その説明のために、授業に出れなかったんですか?」
「ああ」

ベリオの質問にとりあえず頷く。

「それで、キミたちはどこに行こうとしてたんだい?」

とりあえずボロが出ないうちにということなのか、耕介が口を開いて、それ以上の質問をうち切った。

「これからみんなでご飯を食べようと」

未亜が、今思い出したように言う。

「そうなんだ。私たちも明日からだけど、職場なんだから見ておいた方がいいかな?」
「あ、それもそうですね」

大河が、知佳となのはの会話に反応する。

「え!? 二人とも、食堂で働くのか!?」
「そうだよ。救世主クラスの恭也君はそれほどお金は必要ないけど、私たちには必要だから」
「それと、私たちは救世主候補の人たちの寮で暮らすことになりました」
「俺は恭也君と同じ部屋だけどね」

最後の耕介の言葉に、未亜が驚いた顔になる。

「二人って……あの部屋に二人は狭いんじゃないですか?」
「まあ、そうだが。とりあえずベットは交互に使うことにする。
 それに俺は寝る以外にはほとんど部屋は使わないしな」
「俺もとくにすることはないし、狭くても構わないよ」

二人とも苦笑しながら答えている。

「俺なら耐えられんな。あんな部屋に二人だなんて。相手が女の子ならともかく」

大河は顔を顰めている。
恭也はリリィあたりから、彼女たちが救世主候補の寮で暮らすことに、何か言われるのではないかとも考えていたのだが何も言われない。ミュリエルの許可を得ているはずだから、とでも思っているのかもしれない。
ベリオの方は久遠に夢中のようだ。

「そろそろ……行きませんか?」

今まで沈黙していたリコが口を開く。

「あ、ああ。そうだな。ここで長話していても仕方ないしな」

恭也も頷いて歩き出そうとするのだが。

「あ、そういえば、く〜ちゃんを食堂に連れていっていいのかな?」

なのはの疑問に、またも足が止まってしまった。

「ああ、そういえばそうだったね」

知佳も久遠のことを忘れていたらしい。

「さすがに食堂に、この子を連れてくのはまずいわよ」

リリィの言葉に、ベリオもすまなそうに頷いている。
そこで、いきなり久遠がなのはの手から飛び降りた。

「あ、く〜ちゃん!?」

そして、そのまま廊下の影にまで走って行ってしまった。

「機嫌を損ねててしまったか?」

恭也たちの母が喫茶店を経営しているので、こういうこともよくあるのだが、今の状況では寂しがってしまっても仕方がない。
だが、

「きょうや〜♪」

いきなり、恭也を呼ぶ幼い声。

「「「「んなっ!」」」」

その声の持ち主は、少女に変化した久遠だ。なるべく人型にはなるなと言ったばかりなので、その正体を知る四人は驚いてしまった。
だが、驚いているのは救世主候補たちも同じだ。

「こ、今度はコスプレ少女!?」

まあ、確かに大河の言うことももっともだ。だが、ベリオやリリィとて、大河たちの世界の人間から見れば似たようなものである。
 しかし、久遠は狐の耳に尻尾まで生やしているのだから、それ以上と言えるかもしれない。
久遠はそのまま恭也の腰に張り付いた。

「これなら、くおんがいっしょでもだいじょうぶ」
「あ、ああ。確かにそうなんだが」

どう言ったものかと悩む恭也。

「おい、恭也、その娘は?」
「いや、この子は久遠で……」
「え、さっきの狐と一緒の名前?」

まずい、どうやって誤魔化すか。
 一瞬だけ、四人は目を合わせる。

「い、いやいや、この娘とさっきの狐はまったく関係ないよ。なあ、恭也君!」
「ええ。まったく」

恭也は耕介の言葉に即座に頷いてみせる。耕介と違ってポーカーフェイスだ。

「あ、あはは、同名なだけだよ! それで、さっきはぐれちゃったんだよぉ!」
「そ、そうです! ああ、そういえば学園長に説明するのを忘れてましたね!?」

知佳となのはは慌て気味だ。先ほどまで学園長を相手取っていたとは思えないほどに挙動不審である。
だが、とうの久遠は恭也に頬ずりしているだけ。
その後、なんとか大河たちを言いくるめて、食堂で昼食を食べる一同であった。




その日の夜。
 耕介と恭也はお互いの剣を収めた。

「ふう、今日はここまでだね、恭也君」
「そうですね、ありがとうございます。正直、耕介さんがいなかったら、霊力なんて使えそうにありませんでした」

恭也は一礼するが、耕介は苦笑して気にするなとばかりに手を振った。
今日初めて、耕介は恭也に霊力に関することを教え始めていた。

「恭也君、筋がいいしね。すぐに扱えるようになるよ」
「そうだといいんですが」

霊力という、普通の人間にはあやふやなものを操るという感覚が、まだ恭也にはよくわかっていないようだった。
だが、それでも恭也は、その霊力を剣に集めるところまでできるようになっていた。たった一日で。
これには普段の精神統一などが役だっていたのだろう。盆栽も関係あるのかないのか……。

「恭也君、先に帰っててもらえるかな」
「耕介さんはまだ帰らないんですか?」
「ああ。俺は明日からのメニューを考えてから帰るから」
「いえ、でしたら俺も……」

さすがに、自分の鍛錬メニューを考えるという耕介を一人残して帰るのは心苦しいらしい。

「いいから、いいから。俺だって恭也君に剣を教わってたし、そのとき迷惑をかけたからね」
「いえ、そんなことは」
「ほらほら、気にしないで」
「わかりました。すいません」

恭也は、最後にまた一礼して、森から出ていった。
それを見届けたあとに、耕介はその場に座り込んだ。

「筋がいい、か」

耕介は深々とため息をつく。

「十六夜さん」
「はい」

耕介が呼びかけると、すぐに彼女は現れた。

「どう思います?」
「凄いとしか言いようがありませんね」
「ですよね」

正直、恭也の霊力は異常とも言えた。
神咲始まって以来の天才とか、化け物とか言われている耕介すら抜いてしまう霊力量。

「レティア様は契約と仰っておりましたが、あそこまでになるとは」
「そうですね」

レティアの話はよくわからない部分が多かったが、彼女が恭也と何らかの契約を行い、霊力が目覚めたと聞いていた。
まあ、これは別段不思議には思わない。今までほとんど霊力がなかったものが、突然大きくなるというのはたまにある。例えば死ぬような体験をしたりなどである。
逆に事故などによって霊力が著しく小さくなるという例もあるのだから、恭也が霊力に目覚めたと聞いても、それほど驚くことではなかったのである。
ただ、その霊力の大きさは二人の予想を大きく超えていた。
そして、耕介にはそれよりも気になることがある。

「十六夜さん、黒い霊力って見たことあります?」
「いえ、私も初めてです」

恭也が先ほど自らの剣……紅月に纏わせた霊力。
 それは黒。
まるで黒い炎のようにも見えた。
耕介や薫たち、神咲の者たちが操る霊力……金色の炎とはまるで正反対ともいえる色。

「霊力とは、魂の色とも言えます」
「恭也君の魂の色は黒だということですか?」

にわかには信じがたいのだが、黒好きの恭也だからこそありえるとも思えてしまう。

「黒が悪と同列というわけではありません。だから心配はないと思います」
「まあ、そのへんは心配してないですけど」

恭也が悪だなんて思いはしない。

「ええ。恭也様の霊力は、黒くとも禍々しさはありませんでした」

そう、黒とは人の概念的に、悪とか、闇などと直結しまいがちだ。
だいたいにして、この二人が相対する霊障と呼ばれるモノたちは、一般に存在しないと言われるモノだ。だからこそ、そんな一般の概念が当てにならないことをよく知っている。
 それに、恭也の操るあの黒い霊力からは、悪意と言ったものが感じ取れなかった。

「優しく、力強いという感じでしたね」
「はい」

だから心配はない。
きっと大丈夫。
恭也だからこそ、そう思える。

「しかし、元の世界に戻って恭也君のことが神咲に知られたら、みんながほしがりそうですねぇ」
「そうですね。和音などは、もともと恭也様を気に入っておりましたし、薫や那美の婿として申し分ありませんからね。
 それに私も……」

 十六夜は、本気なのか冗談なのかわからないことまで混ぜる。

「あ、ダメですよ。恭也君には知佳を嫁にしてもらわないといけないんですから」
「あらあら、まあまあ」

 耕介も十六夜は、もはや何の心配もなく笑い合っていた。




 次の日、座学の授業が終わると、すぐに恭也と大河は食堂に続く廊下へと向かい、歩き始めていた。
やはりなのはが心配なのだろうか、食堂に向かう恭也の足は速い。
さらに、大河も美女……知佳に会いたいのか同じである。
その途中で、セルも食堂に向かう途中だったようで、一緒に行くことになった。

「なあ、今日から食堂のスタイルが変わるらしいぜ」
「スタイル?」

いきなりのセルの言葉に、大河と恭也が不思議そうな顔を見せた。

「ああ。昨日、新しい従業員が入ったらしいんだ。それで、今までのセルフサービスを廃止して、ウェイトレスさんが注文を聞きに来てくれて、さらに料理を運んで来てくれるらしい。
あと今までになかった料理もおくらしいし」

間違いなく、新しい従業員というのは、耕介と知佳、なのはの三人だろう。ウェイトレスというのは、知佳となのは。それに料理が増えたというのは、耕介あたりのレパートリーだと恭也は思った。

「それもウェイトレスは、かなりの美人にかわいい娘だという噂だ」

セルの言葉で決定。ウェイトレスが誰であるのかが、恭也と大河には分かった。
 それにより、さらに二人の足は速くなったという。




食堂に来た恭也は何と言っていいかわからずに、ただ額を押さえていた。
だが、大河とセルは恭也と違い、顔をだらしなく緩めて、その光景を眺めつつ口を開いた。

「メイドさん、最高!」
「メイド、グッジョブ!」

本当に感涙しながら叫ぶ。
そう確かに、知佳となのははウェイトレスをしていた。だが、その制服はなぜかメイド服だった。
二人は、食堂に入って来た恭也たちに気づき近づいて来た。

「いらっしゃませ! ご主人様方!」
「ご主人様、いらっしゃいませ!」

知佳となのはが、ほぼ同時に来店の挨拶をした。

「「ぐはっ!」」

大河とセルにはクリーンヒットだったらしく、胸を押さえながらも、さらにだらしなく笑い始めていた。

「な、なのは、知佳さん。その格好は一体……?」

とりあえず一人冷静な……いや、大河たちとは違って、別の意味で冷静ではないのだが……恭也が聞く。
すると、二人はその場でターンをしてみせた。

「えへへ、似合う、恭也君?」
「ノエルさんみたいだよね。なのはに似合ってるかな、おに〜ちゃん?」

二人は笑いながらも恭也に聞いてくる。

「い、いや、似合ってはいるのだが、なんでそんな格好を?」

恭也が答えつつも、もう一度聞く。

「制服だからって渡されたんだけど、おかしいのかな?」

これは食堂の責任者の差し金なのか、学園長であるミュリエルの差し金なのか迷うところである。

「いえいえ、最高っス!」
「むしろ、いつまでもその格好で!」

胸を押さえていたセルと大河が復活。

「というか、恭也! この二人知り合いなのか!?」

昨日、セルはいなかったので、紹介していなかったことを思い出し、二人を紹介したのだが、その反応は昨日の大河と似たようものだった。
大河と違うのは、知佳だけでなく、なのはにまで迫ろうとしていたことだが。
とりあえず、二人に案内され、席に座り、増えたレパートリーにあった日本食を一も二もなく恭也は頼んだ。
そして、恭也は辺りを見回したあと、深々とため息をついた。
周りの男のほとんどが、二人の働く姿をどこか夢見がちに見ているという、正気を保っている恭也には、何とも言えない光景であったのだ。
こうして、恭也の仲間たちは、救世主候補たちとの対面をすませ、他の学生たちにも妙な方向で受け入れられたのであった。






あとがき

終わった。意外に難産だった、この話。
エリス「そうなの?」
救世主候補たちとどう会わせるかってことだったからなあ。
エリス「で、完全に前回から引っ張ったわけか」
そういうこと。
さて、次回は……デュエル側の彼女が登場。さて、どちらでしょう?
エリス「まさか、登場の順番逆にする気?」
はてさて、どうなることやら。
エリス「あんた、このごろおとなくしてたら、私のこと舐め始めてる?」
いえ! そんなことはございませんです!
エリス「とりあえずとっとと次を書きなさい! じゃないと滅却するよ!」
了解です!



グッジョブ!
美姫 「いや、アンタも良いからさ。メイドが出てくる度に…」
うんうん。なのはと知佳のメイドとは。
しかも、ご主人様だぞ。
このまま、アヴァターにメイドレストランを開業か!?
美姫 「いや、何でよ」
目指せ、売上アヴァター1!
君も明日からオーナーに!
美姫 「って、違うゲームになりそうだから、止めて」
いやはや、メイドさんは最高という今回の話だけれど。
美姫 「いやいやいや。絶対に違うから!」
もう、メイドってだけで何でアヴァターに来たのかと言う疑問も銀河の果てだな。
美姫 「何でよ! って言うか、いい加減黙れ! このバカ、ボケ!」
ぐげぅぅるるぅぅぅ、がっ、はっ、ちょ、ま、まて……。
がっとひせぐんけぇさばっどがぁっじゃひゃっお、ぴゃにょみょぶべっ!
美姫 「ふー、ふー。殲滅完了!」
……………………。
美姫 「霊力の鍛錬も出来るようになり、更なる恭也のパワーアップも楽しみよね。
     そして、次回登場するのは誰なのかしら。
     次回も待ち遠しいわ。楽しみにして待ってるわね♪
     それじゃ〜ね〜」



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